最近諸事情によってリアルが忙しいので、次回からの更新が遅れる可能性が高いです。
――――ちなみに今日、上位ハンターになりました。双剣エリアル楽しい。……嗚呼忙しい。
会場に襲い掛かる振動と轟音。
聴衆は何が起きたか理解できず、ただざわめくばかり。そんな中、いち早く動き出したのは事が起こる前から予想し警戒をしていた紅夜と深雪だった。達也の元に向かっていた足を速め、舞台上に出てきた達也の下まで着く。
「深雪!」
「お兄様!」
深雪の声を聴き舞台上から飛び降りてきた達也が次に探したのは紅夜の姿。そして深雪のすぐ後から現れた紅夜が戦闘態勢に入っているのを見て警戒心をよりいっそう高める。
「正面出入り口付近でグレネードが爆発したようだな」
ほぼ直観的に紅夜がこの事態を予測していたことを理解した達也は、状況を紅夜に伝えることで情報の共有を図る。しかし達也の言葉に反応したのは深雪だった。
「グレネード!? 先輩方は大丈夫でしょうか」
「正面は協会が手配した正規の警備員が担当していたはずだ。実践経験のある魔法師も警備に加わっている。通常の犯罪組織レベルなら問題ないはずだが……」
「いや、そうもいかないようだ」
なに? と達也が問いかける前に複数の銃声が耳に飛び込む。その銃声から紅夜の言葉を理解すると同時に、使われた銃器が対魔法師用のハイパワーライフルだと分かったことで達也の頭の中から相手が並の犯罪組織だという可能性は消えた。
そんな達也の思考を肯定するように、ライフルを構えた集団が雪崩れ込んでくる。勇敢にもステージ上の三校生徒が魔法を発動しようとしたが、それより早く銃声が轟き、ステージ後方の壁に銃弾が食い込んむ。
「大人しくしろ!」
何処かたどたどしく感じる怒声は、相手が外国人であることを決定づけている。
「デバイスを外して床に置け」
慣れた様子で指示する侵入者に、三校生徒は悔しそうに従う。勇気と無謀は違うものだと三校生徒はしっかり理解しているようだと感心する紅夜と達也だったが、他人事でいられるのもそこまでだった。通路に立っているのが三人だけだったので目についたのだろう。
「おい、オマエたちもだ」
そういって銃口を向けられているのは達也と紅夜であることは疑いようがなかった。紅夜がさてどうしようかと考えていると焦れた相手が急かしてくる。原作知識からこの後の展開は覚えているが、自分にも銃が向けられている以上、少し違った対応が必要だ。
「早くしろっ!」
怒鳴られても紅夜は大して恐怖を感じるわけでもなく、ただ単に面倒だという気持ちが沸き上がってくる。武器を向けられ、戦闘に適して思考が醒めていくのと同時に、紅夜は先ほどまで警戒していた自分がバカに思えてきて仕方がなかった。よくよく考えれば兄さんと深雪さえ無事であればいいのに何故敵から他人を守ること前提で考えているのか、と。
しかし物語の完結を見たい紅夜としては他人が死ぬのも原作に大きな影響がありそうで、できれば見殺しにはしたくないのも確かだった。そんな自身の中の矛盾した気持ちや、その他諸々に辟易として大きくため息を吐く。
そんな紅夜の態度が癪に障ったのか、侵入者は銃口を紅夜に見せつけるように向けなおして脅してきた。
「おい、命が惜しければ早くCADを床に置け!」
それでも紅夜に動揺はなく、ただただ気だるげに銃を突き付けて来る男を眺める。言葉通り、何の感情も籠らない、観察しているのとも違う、まるで景色を見ているような、道端の小石を見ているような、ただの情報を視ているような、物語に登場するモブを見ているような、紅い色とは裏腹の、熱があるわけでも冷めてるわけでもない虚無の瞳。
その瞳を向けられた男は得体なしれない恐怖を感じて、紅夜に銃口を向けた状態で引き金に掛けていた指を引いた。
止める者はいない。近くにいた仲間も同じような状況で、全く同時に引き金を引いたから。
二つの銃声が重なって轟き、悲鳴が上がる。
銃口から飛び出た明確な殺意がまさに達也と紅夜の身体に届こうとした途端、二人の右手がぶれた。
起こった変化はそれだけ。身体から血は一滴たりとも流れていないし、傷一つ見受けられなかった。そして放たれた弾丸の痕跡は何処にも残っていない。
「弾を、掴み取ったのか……?」
「一体、どうやって……?」
誰かが呟いた言葉が鎮まる会場にやけに響いた。
引き攣った表情を浮かべた男たちはさらに弾丸を撃ちこむ。しかし、またも手の位置が変化し、銃弾の痕跡はどこにも見当たらなかった。さらに一発、二発、と打ち込むが、その度に腕の位置がコマ送りのように変化し、一切の被害が出ない。
達也と紅夜のやったことは単純、達也は銃弾が接触する瞬間に分解を発動しているだけであり、紅夜は手をかざした位置に弾丸が一瞬で気化する温度に上げる仮想領域を展開しただけだ。
しかし、当然ながらそんなことが男たちに理解できるはずもなく、半ばパニックになりながらも銃を投げ捨てコンバットナイフを取り出して斬り掛かる。だが、男たちがいくら訓練をしてきた優秀な兵士だったとしても、二人の
襲い掛かって来た男たちに逆に詰め寄り間合いを潰した二人は、握り込んでいた拳を開き手刀の形に変えると、ナイフを持った腕に打ち込んだ。
達也と紅夜の手刀は何の抵抗もなく、男たちの腕を切り落とした。
男たちは驚愕と痛みから悲鳴を上げる前に拳を打ち付けられ意識を失う。達也が腕を切り落とした男から血が噴き出し服を汚すが本人は気にした様子もない。一方、紅夜がやった方の男は血を流していない。しかしその代わりに肉の焼ける嫌な臭いが漂っていた。その異臭に紅夜は思わず顔を顰める。慣れているとはいえ、わざわざ異臭を嗅ぎたいなどと思うわけもない。できれば一瞬で消し炭にしてやりたいところだったのだが、この大勢の前でそんな魔法を使うのは流石にまずいし、紅夜には達也の魔法を誤魔化す狙いもあった。
予想外の事態に敵も味方も関係なしに時が止まったように固まる。ただ一人を除いて。
「お兄様、血糊を落としますので、少しそのままでお願いします」
静まり返るホールに響いた深雪の声が合図になった。そして時は動き出す。
「取り押さえろ!」
警備隊から放たれる魔法に動揺していた侵入者は反応が遅れ、一人残らず抵抗を封じられた。
侵入者を片付けた紅夜と達也は深雪を連れて正面出入り口に向かおうと歩き出す。とそこで聞きなれた声が掛かり足を止めた。
「達也くん、紅夜くん!」
「達也、紅夜!」
そう言って駆け寄るエリカとレオに続き、幹比古、美月、ほのか、雫も三人を囲むように集まる。
「手は!? お怪我はありませんか!?」
後ろから駆け寄ってきたほのかが他の二人を押しのけるようにして達也に怪我はないかと焦った口調で聞いてきた。その時、紅夜のことが目に入っていなかったのは恋は盲目ということだろう。
二人が全く傷がないことをアピールすると、ほのかや美月がほっとした様子を見せるが、幹比古や雫は一体どうやったのかという疑問の眼差しを向ける。しかし、当然のこと言いたくないことで、聞かれてもいないのだから、答えるつもりはさらさらなく、二人は完全にスルーを決めた。
「それにしても随分と大事になってるけど……これからどうするの?」
「逃げ出すにしても追い返すにしても、先ずは正面出入り口の敵を片付けないとな」
「待ってろ、なんて言わないよね?」
目を輝かせるエリカに対して嬉しそうだな、と言ってやりたくなった紅夜だが、自分のこの状況で力を出せることを考えて嬉しく思っていることに気が付いてやめる。盛大なブーメランをかますことはギリギリで避けたのだった。
「いいんじゃないか? 別行動されるよりマシだろ」
「……仕方がない、か」
紅夜の進言に達也が消極的な同意を見せた途端、エリカやほのかだけではなく、美月や雫まで喜色を現したのを見て、達也は少し疲れたようにため息を吐いた。しかし、こんなことをしている間にも敵が攻めてきている為に、落ち込んでいる時間などない。達也が先頭に立ち、全員そろって歩き出そうとした。
「待って……チョッと待て、司波達也、紅夜!」
だが、そこへ混乱しながらも必死で呼び止める声があった。
「一体何だ、吉祥寺真紅郎」
この時間のない状況で足を止められたのが不満なのか、達也は愛想の欠片もない声で返す。
「今のは『分子ディバイダー』じゃないのか!? 分子間統合分割魔法は、アメリカ軍
これは吉祥寺の知識故の完全な誤解、そして紅夜の思惑通りの形だった。
もちろんのこと、紅夜と達也がアメリカ軍の機密術式を知っているはずはない。達也が使ったのは相対距離ゼロで使っただけの分解魔法。そして紅夜が使ったのは自身で開発したオリジナルの術式だった。だが、達也はともかく、紅夜の魔法は【分子ディバイダー】が全く関係ないというわけでもなかった。
そもそも、今回使った魔法は、紅夜の魔法オタクと言ってもいい魔法収集癖から、【分子ディバイダー】を自己流で再現しようとしたことが始まりだった。魔法の効果内容は知っているのだから、逆算的にその効果を及ぼす術式を作るのは【
しかし当然ながら本物よりも効率が悪く劣化版とも言うべきものになった。そこで紅夜は更に効率を上げて本物の【分子ディバイダー】に近づけようとしたのだが、そこでふと気が付いたのだ。
この魔法、完全に自分用に組み上げたら強そうじゃね? と。そうして完全に自分専用、もはや及ぼす結果が似ているだけで内容は【分子ディバイダー】からかけ離れ、術式内容に本来の魔法が影も形もなくなって完成した魔法。
振動加速系統仮想領域魔法【レヴァティーン】。
この魔法は展開した仮想領域内で一定以上の密度を持った物体を一瞬で気化するレベルまで加熱するという、完全に原型をなくしたものだった。唯一、元の魔法の形らしきものを残しているのが先ほどの使い方、薄板状の仮想領域を物体に挿入し一部だけ、切り裂いたような状態にさせるというものだ。
このように様々な形にできること、剣のように切り裂いたり、槍のように突き穿ったり、弓のように放ち穿ったり、そして魔法の杖のように広範囲を焼き払ったりできることから、様々な形で伝承されている炎の剣『レーヴァテイン』からとって【レヴァティーン】という魔法が完成したというわけだ。
しかし、こんなことを説明できるはずも、している時間もない。
「今はそんなことを話している時間はないだろ、ジョージ」
だから、紅夜は吉祥寺の質問に対して、どちらともとれる言い方でバッサリと切り捨てた。
「七草先輩。中条先輩も、この場を早く離れた方が良いですよ。そいつらの最終目的が何であれ、第一の目的は優れた魔法技能を持つ生徒の殺害または拉致でしょうから」
舞台袖から顔を出した真由美と審査員として最前列に座っていたあずさにそう言い残した達也に続き、紅夜たちも唖然とする周囲を置いてその場を後にした。
小説を書くのに飽きてきたこのころ。私の悪い癖が……。
せめて――――せめてヒロインだけでも出さなければ!
さて、横浜騒乱編もそろそろ大詰めに近づいてまいりました。多くても後五話くらいかな?
次回は人狩り行く予定。