魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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実はこの作品の題名とあらすじは、30秒で考えた適当なものだったり……




追憶編Ⅱ

 

 

 

 

 

三日目は朝から荒れ模様。

強い風が吹き荒れ、まるでこれから起こることを予期しているような嫌な天気だ。

 

「今日の予定はどうなさいます?」

 

もはや通例と化しているのではと思う桜井さんの質問が母様に向けられる。

 

「こんな日にショッピングはちょっと、ねぇ……」

 

そう言って首をチョコンと傾げる母様は、本当に母親なのかと疑うほど可愛らしい。

 

「どうしようかしら?」

「そうですね……琉球舞踊の観覧なんて如何でしょうか?」

 

桜井さんの提案に母様と深雪も面白そうだということで、今日の予定が決まった……、かに思われた。

 

「ですが問題が……この公演は女性限定なんです」

「そう……」

 

母様は少し悩むと口を開いた。

 

「紅夜さん、達也。貴方達、今日は一日自由にして良いわ」

「はい」

「わかりました」

「確か昨日、達也が大尉さんから基地に誘われていたわよね?良い機会だから二人で見学してきたらどうかしら?」

「母様、俺は体調がイマイチなのでここでゆっくりしていたいと思います」

「そう? なら達也だけで行って頂戴」

「はい」

「あの、お母様! わたしも、兄さんと一緒に行っても良いですか?」

「深雪さん?」

 

深雪の突然の提案に母様は訝し気な目を向けると、深雪は必死に言い訳をしていた。

結局、母様はついていく許可を出したが、本当に深雪の言い訳を信じているとは思えなかった。

 

 

 

 

 

俺は自分の部屋に戻るとCADを弄る。

実は体調が悪いというのはこのための嘘だった。普段ならこんなことはしないが、ちゃんと理由がある。原作では大亜連合が攻めて来たとき兄さんが特化型CADを持っていたのだが、今の兄さんはCADを持っていないのだ。

原作で兄さんが持っていたCADはどうやって手に入れたか覚えていない。よって兄さんがCADを持っていないのは俺というイレギュラーのせいという可能性もあるのだ。

そのためにこうして兄さん専用のCADを作っているのである。

さて、もうちょい頑張りますか!

 

 

 

 

 

次の日の朝、朝食を食べた後またCADを弄っていると部屋のドアがノックされた。

 

「紅夜、居るか?」

「兄さん、どうしたの?」

 

入室の許可をだし入ってきた兄さんに問いかける。

 

「ああ、実はこれなんだが」

「へぇ、特化型CADか、見たことない機種だな。これどうしたの?」

「実は昨日軍の基地に行ったときに頂いたんだ。試作品らしいから見たことないのは当然だろう」

「成る程」

 

原作で持っていたCADはこれか。

 

「これの調整をしようと思ったんだが、お前の部屋の方が機材が揃っているからな。使わせてくれないか?」

「それならちょうどよかった。実は今兄さんの専用機を作ってたんだけど本体のスペックが今一でさ、試作品とはいえ軍のものなら問題ないだろ」

「なに? そんなことしてたのか」

「ああ、だからちょうどいいって言ったんだよ。端末につなぐからそのCADかして」

 

兄さんからCADを受け取ると立ち上げっぱなしだった端末に専用の機械を使って接続する。そして、もともと兄さん専用にしようと思っていたCADからデータを読み込むと画面を物凄いスピード流れ出した数字の羅列に修正を加える。

 

「とりあえずこんなところか、どうだ?」

「そうだな、もう少しここを……」

「だけど、そしたらここが……」

 

その日はずっと二人でCADを弄って終わった。

 

 

 

 

その後の3日間は特になにもなく普通の日々だった。

やったことといえば、魔法を作ったり、自分のCADを弄ったり、兄さんのCADを弄ったり、ショッピングをしたりすることだけのとても平和な時間だった。

 

そう、だった(・・・)のだ。

いつも通り朝食を食べ終わった時、緊急情報が流れた。

 

つまり、ついに大亜連合の侵略が始まった。

 

逸る気持ちを抑え、この後どうするかを黙考する。

もちろんこの状況をわかっていた俺は計画を立ててはいるが、それが上手くいくとは限らない。そもそも俺というイレギュラーが入った所為で原作通りとはいかないかもしれない。

とはいえ考えても何がわかる訳ではない、取り敢えず臨機応変に対応しよう。

 

その後、兄さんと深夜により軍の基地に避難させてもらえることになり、迎えのジョーにより避難する。

基地に着くと案内された部屋には俺達の他にも5人の民間人がいた。

こんな人達いたかなぁ、なんて考えながら外の気配を探っていると突然銃声が響いた。

それに気づいた兄さんと桜井さんが険しい顔をして立ち上がる。

 

「達也君、これは……」

「桜井さんにも聞こえましたか」

「銃声だな。しかもかなり近い」

「ええ、それも拳銃じゃなく、フルオートの、恐らくアサルトライフルです」

 

突然口を挟んだ俺に桜井さんは驚いているが、兄さんはそれをスルーして考察をする。桜井さんも驚きから立て直した。

 

「状況は分かる?」

「いえ、ここからでは……この壁には魔法を阻害する効果があるようです」

「そうね……どうやら、古式の結界術式が施されているようだわ。この部屋だけじゃなくて、この建物全体が魔法的な探査を阻害する術式に覆われているみたいね」

「部屋の中だけだったら魔法は使えそうだが……やはり中から外への干渉は無理そうだ」

「そのようですね」

 

俺の『眼』で視た結果に兄さんも同意する。

 

「おい、き、君たちは魔法師なのか」

 

いきなり先ほどまで怯えていた民間人の男が、声を掛けてきた。

 

「そうですが?」

 

訝しげに答える桜井さんに、男は何故か尊大な態度で続けた。

 

「だったら、何が起こっているのか見てきたまえ」

 

……何コイツ、超ウザいんだけど。

 

「私たちは基地関係者ではありませんが」

 

桜井さんも俺と似たような心境らしく、答える声はいつもよりも冷たかった。

 

「それがどうしたというのだ。君たちは魔法師なのだろう」

「ですから私たちは―――――」

「ならば人間に奉仕するのは当然の義務ではないか」

 

…………ないわぁ。

 

俺が感じたのは、苛立ちや怒りではなく呆れだった。

 

「本気で仰っているんですか?」

「そ、そもそも魔法師は、人間に奉仕する為に作られた『もの』だろう。だったら軍属かどうかなんて、関係ないはずだ」

 

アホだ、本物のアホがいる。

今更そんなことを言う人がいるとは思ってもみなかった。そもそも、今の時代に作られた魔法師なんて極少数だ。

まあ、桜井さんは作られた魔法師だけど。それに――――――

 

「なるほど、我々は作られた存在かもしれないですが」

 

思考の海の奥底に潜り込もうとしていた俺は、兄さんの言葉で我に返った。

 

「貴方に奉仕する義務などありませんね」

「なっ!?」

「魔法師は人類社会の公益と秩序に奉仕する存在なのであって、見も知らぬ一個人から奉仕を求められる謂れはありません」

「こっ、子供の癖に生意気な!」

 

今までのやり取りでこの男が下らない野郎だというのは分かっていたが、今の一言で俺の男に対する興味は完全に無くなった。

 

「その子供に言い負かされて、ムキになる貴方は何なんでしょうね」

 

突然口を挟んだ俺に男は顔を真っ赤にして言い返そうとするが、俺の絶対零度の視線を見た途端に固まった。

 

「先ほど達也が言ったように我々魔法師は国の為に奉仕する存在ですから、貴方のように国に害悪にしかならない害虫は消してしまってもいいと思うのですが、どうですかね?」

 

俺が首を傾げてイイ笑顔で尋ねると、男は顔を真っ青にして震えだした。そんなことできるわけがないのに、そのことに気が付かないほど動揺しているようだ。

 

「もちろん冗談ですが、それでも、いい大人が子供の前でそんなことをして恥ずかしくないんですか?」

 

冗談と言ったことで明らかにホッとした顔をした男だったが、子供と言われてハッとした様子で後ろを振り返った。振り返った先にいた男の家族は明らかな侮蔑をもって男を見ていた。

動揺する男に兄さんが追い打ちを掛ける。

 

「誤解されているようですが……この国では、魔法師の出自の八割以上が血統交配と潜在能力開発型です。部分的な処置を含めたとしても、生物学的に『作られた』魔法師は全体の二割にもなりません」

「達也」

 

突然、母様が気怠げな声で兄さんを呼んだ。

 

「何でしょうか」

「外の様子を見てきて」

「……しかし状況が分からぬ以上、この場に危害が及ぶ可能性を無視できません。今の自分の技能では、離れた場所から深雪を護ることは」

「深雪? 達也、身分を弁えなさい?」

 

その優しい口調とは裏腹に、ゾッとするほど感情の籠らない冷たい声で兄さんに注意した。

 

「―――失礼しました」

 

兄さんは短く謝罪の言葉を口にして頭を下げる。

 

「達也君、この場は私が引き受けます」

 

空気を換える為に桜井さんが兄さんに声を掛けた。

 

「分かりました。様子を見てきます」

 

兄さんは一礼すると部屋を出ていく。

俺はこの後に起きることを予想して、腰の【ダークネス・ブラッド】をケースの上から抑えた。

 

 

 

 

 

外から聞こえる銃撃音が徐々に近づいて来ている。

俺はそれと同時に、この部屋に向かってくる複数の気配を捉えていた。やがて、その気配は足音が聞こえるまでに近づき、俺たちがいる部屋の前で止まった。

桜井さんも深雪も母様の前に立つ、俺もそれに続いて前に出る。

 

「失礼します!空挺第二中隊の金城一等兵であります!」

 

警戒をしながらも開かれた扉の先には四人の兵士がいた。

他の人たちは警戒を解いていたが、俺と多分、母様もこの人たちを警戒しているだろう。

 

「皆さんを地下シェルターにご案内します。ついてきてください」

「すみません、連れが一人、外の様子を見に行っておりまして」

 

桜井さんの言葉に金城一等兵は顔を顰めて難色の色を示した。

 

「しかし既に敵の一部が基地の奥深くに侵入しております。ここにいるのは危険です」

「では、あちらの方々をお連れくださいな。息子を見捨てて行くわけには参りませんので」

「しかし……」

「キミ、金城君と言ったか。あちらはああ仰っているのだ。私たちだけでも先に案内したまえ」

 

男にそう詰め寄られて兵士たちは険しい顔で相談をし始めた。

 

「……達也君でしたら、風間大尉に頼めば合流するのも難しくないと思いますが?」

「別に、達也のことを心配しているのではないわ。あれは建前よ」

 

小声で返された返答に分かっていたこととはいえ少し落胆する。

 

「では?」

「勘よ」

「勘、ですか?」

「ええ、この人たちを信用すべきではないという直観ね」

 

結果、この勘が当たるのだから母様はすごい。

その時、四人の相談が終わった。

 

「申し訳ありませんが、やはりこの部屋に皆さんを残しておくわけには参りません。お連れの方は責任を持って我々がご案内しますので、ご一緒について来てください」

 

先ほどよりも、威圧的に感じる言い方をされたように感じると思った、その時だった。

 

「ディック!」

 

駆け込んできたジョーに対して金城一等兵がいきなり発砲したのだ。

俺は腰から【ダークネス・ブラッド】を抜き、想子(サイオン)を流し込む。それと同時に桜井さんも起動式を展開していた。

その瞬間、四人の内の一人がキャスト・ジャミングを発動した。

 

頭の中で黒板を爪で引っ掻いたような酷い騒音がするが、俺はそれを気合で無視して魔法を発動する。それは、今日の為に作った対キャスト・ジャミング専用魔法。

 

俺のCADから発せられる特殊なサイオン波が敵から発せられるキャスト・ジャミングのサイオン波を相殺した。

 

「なっ!?」

 

相手が驚愕で固まっている隙に、起動式を展開して敵を無力化する魔法を発動する…………はずだった。

 

―――ドクンッ!

 

と、身体の中で何かが膨張したような感覚を感じた途端、俺の中の想子(サイオン)が突如として暴走した。

 

「ガァッ!?」

 

身体の内側から中身をかき回されているような激痛に思わずその場に膝をつく。

 

瞬間、相手のマシンガンが掃射され、走馬灯のようにゆっくりと流れる時間の中で、深雪と、桜井さんと、母様、そして俺の身体に銃弾が穴を穿った。

 

そして痛みをトリガーとして、俺の身体から抑えきれない膨大な量の想子(サイオン)が噴き出した。

 

 

 

 




 
次回から、かなり不定期更新になるかもです。



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