魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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だんだんと寒くなってきましたね。
手がかじかんで文字が打ちにくい時があります。

寒さに関係あるのかないのか。最近身体の調子が悪く、全てにおいてやる気が起きません。
……ずっと布団を被って小説を読んでたいです。




横浜騒乱編Ⅳ

 

 

 

一週間という時間はあっという間に過ぎ去り、10月30日日曜日、全国高校生魔法論文コンペティション開催日当日。

この一週間の間に関本が兄さんによって捕らえられたり、その関本が収監される場所が呂剛虎(リュウカンフウ)に襲撃されたりと色々あったが、俺が関わることはなく基本原作通りに進んでいた。一度、摩利と千葉の次男が呂剛虎(リュウカンフウ)に襲撃されなかったが、それは俺の攻撃が原因だろう。寧ろ関本の襲撃時にほぼ回復していた方が驚きである。

まあ、そんなこんなで当然のように兄さんがトラブルに巻き込まれたりしていたのだが、論文コンペの会場に向かう間は特段何が起こることもなく無事予定通りに到着した。

 

開幕時間が間近になると、どの高校の控室も賑やかになる。そしてそれは一校の控室も例外ではなかった。

 

「深雪さん、お久しぶりね。直接お会いするのは半年以上ぶりかしら」

「ええ、二月にお目に掛かって以来です。ご無沙汰しておりました」

「九校戦は見に行っていたのよ。ホテルの部屋で達也くんと紅夜くんを招いてお茶会をしたんだから、深雪さんも一緒に来てくれればよかったのに」

 

そう言いながら藤林は「何で連れてこなかったの?」と俺と兄さんを睨み付けてきた。

 

「深雪と一緒だと目立ってしまったでしょうから」

 

人目に触れるのはまずかったでしょう、と兄さんが付け加えると深雪は恥ずかし気にし、藤林は仕方がないわね、といった顔で笑った。

しかし、このままでは一向に話が進まない。どうやら此方から聞かない限り疑問には答えてくれないようである。

 

「ところで藤林さん。一校の控室に来て大丈夫なんですか?」

「大丈夫よ。こういう肩書が一杯あると便利ね。防衛省技術本部兵器開発部署の技術士官である私が、九校戦で高度な技術を披露した君の元を尋ねても不自然じゃないからね」

「藤林家の人間としても然り、ですか?」

「そういうこと。だから達也くんも紅夜くんも、『藤林少尉』でも『藤林さん』でも『藤林のお姉様』でもどれでもいいのよ?」

「いえ、お姉様、という呼び方はなかったと思いますが」

 

意外とお茶目な藤林の冗談に兄さんと共に苦笑する。

 

「さて、前置きはこれくらいにして……。良いニュースと悪いニュース、両方持ってきたんだけど、どっちから先に聞きたい?」

 

どこかで聞いたようなセリフを藤林が口にする。未だにこういった定番が残っているのかと妙な関心の仕方をしながらフラグとかも残っているのだろうかと少し疑問に思う。この後の戦闘で死亡フラグでも立ててみようか、などと下らないことを考えたが、元が小説なだけに実現してしまいそうで怖い。

 

「では良いニュースで」

「……そこは『悪いニュースから』というのがパターンじゃないの?」

「だが断る」

 

定番、フラグ、テンプレ、そんなことを思い出したからか、前世のネタを使ってしまった。無駄にキリッとした表情で答えると藤林がため息を吐いた。残念ながらネタは通じなかったようである。というか、十六年近くも経って覚えているとか、どれだけ印象に残っているのか。

 

「……いいわ。じゃあ良いニュースから伝えるわね。例のムーバルスーツ、完成したわよ。夜にはこっちに持ってくるって真田大尉から伝言」

「そうですか、流石ですね。しかし、明日東京に戻ってからでも……」

「明日、こっちでデモがあるのよ。もっとも、その予定をねじ込んだのは大尉だから、一刻も早く貴方達に自慢したかったんでしょうけど。基幹部品はそっちに完全に依存の形になっちゃたから、せめて完成品は、なんて頑張っていたもの。昨日なんて、『これで面子が保てる』なんて情けないこと言ってたし」

「情けなくなんてないですよ。実際問題、こちらでは実戦に堪えるものを作れなかったんですから」

「その言葉、大尉に言ってあげてね」

 

ウィンクでそう言ってきた藤林にまたも苦笑する。すると藤林が完全に俺の方を向いて話しかけてきた。

 

「それと、これは紅夜くんの話なんだけど、『ガンディーヴァ』が完成したそうよ」

「本当ですか!」

 

藤林の口から飛び出た予想外の言葉に、俺は思わず目を見開き立ち上がらんばかりの勢いで叫んだ。藤林は俺の反応を予想していたのか楽しそうに微笑む。

 

「ええ、明日一緒に持ってくるから性能確認をして欲しいって」

「了解しました。しかし、よくこんな短時間で完成できましたね」

「前例があったから、そこまで手間取ることはなかったって言ってたわよ」

「それでも十分早いですって」

 

話しながら、自分の声が興奮に少し上ずっていることが分かった。しかしそれでもなお興奮は収まらない。そんな俺の様子に微笑が苦笑に変わっていた藤林だが、俺が落ち着き次の話を切り出す時になると、スッと真面目な表情に変化した。

 

「じゃあ今度は……悪い方のニュース。例の件、どうもこのままじゃ終わらないみたい」

「何か問題が?」

「詳しいことはこれを見て」

 

そうして渡されたのはデータカード。どうやら無線で話すのも憚られることらしい。

 

「私の方もいくつか保険を掛けておいたけど……もしかしたらキナ臭いことになるかもしれない」

「分かりました。俺たちの方でも準備だけはしておきます」

「何も起きないのが一番だけど……もしもの時は、お願いします」

 

真剣な表情で頼み込む藤林は、やはり性格が良いのだろう。当然、イイ性格、ではなく、性格が良いだ。内心俺たちに対して頼むのに心苦しさを持っていることは表情に出ていなくても理解することができた。だから頑張る、というわけでもないが、その優しさに対しできるだけ報いようという思いは持つことができた。

藤林からの忠告もあるし、多分『ガンディーヴァ』を使うことになるだろうと、俺はより一層気を引き締めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は八時四十分を過ぎたところ。そろそろ観客席がうまってくるころだ。

兄さんと共に藤林が持ってきたデータに目を通していると花音を連れた五十里が入ってきた。

 

「司波君、交代しようか」

 

藤林からもらったデータを見ていたとはいえ、一応機材の監視をしていたのだ。

 

「お願いします」

 

その一言で引き継ぎを済ませた兄さんに続き、深雪と一緒に客席に向かった。

 

 

――のだが。俺たちはロビーで足を止めていた。

 

「司波さん、紅夜!」

「一条さん」

「将輝」

 

声を掛けてきたのは、一応、友人、もしくはライバルのような関係の一条将輝。それなのに深雪の名前が先に出たことを言ってやるべきか、それとも俺の名前を呼んだだけ褒めるべきか。微妙に判断に困るところだった。

 

「お久しぶりです、司波さん。ダンスパーティー以来ですね」

「……ええ、こちらこそご無沙汰しております」

 

そう言って丁寧に一礼する深雪。

 

「あっ、いえ、こちらこそ……」

 

その完璧な作法に上流階級のセレブな付き合いにも慣れているはずの将輝が棒立ちになった。

 

「会場の見回りですか?」

「ハ、ハイ、そうです」

 

ニッコリと笑って問いかけるだけでどもる将輝にそんなんで大丈夫かと思ってしまう。いや、この場合は特に何も感じない俺の方がおかしいのかもしれない。

しかし、それこそ二歳の頃からみている顔に見惚れるなど今更のことだろうし、自分の顔が深雪に似ているのだから、なおさら無理なことだ。

 

「一条さんが目を光らせてくださっているのであれば、私たちもいっそう安心できます。よろしくお願いしますね」

「ハイッ! 必ずやご期待に添えるよう全力を尽くします!」

「十三束くんも頑張ってください」

「あ……ありがとうございます」

 

少し調子に乗りすぎではないかと思える深雪の煽りに背筋を伸ばして答える二人を見て、本当に大丈夫だろうかと警備以外のことで心配になったのは仕方のないことだった。

 

 

空いている席に腰を下ろし雑談をして時間を潰す。そして時刻は午前九時。全国高校生魔法論文コンペティション厳粛な雰囲気の中で開幕を迎えた。格式重視の何の面白みのない、まるで校長の長い挨拶ののような眠くなる開会式が終了し、地味に精神的疲労を感じる中、ようやく最初の発表、二校の「収束魔法によるダークマターの計測と利用」という中々に俺の興味をそそる論文コンペが始まった。

 

 

 

 

 

二校の発表、そして四高の「分子配列の並び替えによる魔法補助具の作成」、さらには五校の「地殻変動の制御とプレート歪曲エネルギーの緩やかな抽出」というかなり壮大な内容の発表が終了し、十一時になったころ、予定より一時間早く鈴音たちが到着した。鈴音と一緒に来た真由美と摩利から関本がマインドコントロールを受けていたという報告を聞き、さらに気をつけることにして午後のプレゼンテーションが始まった。

 

 

そして時刻は午後三時。原作知識からなのか、どこかピリピリとした空気を感じる中、一校のコンペティションは予定通りに開始する。

一校の発表テーマは加重系魔法の技術的三大難問の一つである「重力制御型熱核融合炉」。当然のことながらこのテーマは大きな注目を集めていた。

鈴音の落ち着いた声が会場に流れ出す。五十里が鈴音の隣でデモンストレーション機器を操作し、兄さんは舞台袖でCADのモニターと起動式の切り替えを行う。

鈴音の説明がしばらく続いたところで最初の演出、巨大ガラス球内での収束魔法による重水素ガスのプラズマ化が行われた。煌びやかな閃光が弾けると共に俺の感じる空気がさらにピリピリとした緊張感を持った気がした。一校の演出に観客たちが小さくどよめくが、この演出は過去に何度も行われているものである為にすぐにざわめきは収まる。

それを機に鈴音の説明は続き次の演出に入る。巨大な円筒形の電磁石二つをぶつけるように片方を大きく動かす。しかし当たり前のことだが、磁石はぶつかり合うことがなく、もう片方が逃げるように動き、またもう片方が離れるというのが何度も繰り返される。しかし、耳を保護するヘッドセットを着けた鈴音が支柱のアクセスパネルに手を置いた途端、それまでぶつかることのなかった二つの電磁石がぶつかり、轟音が鳴り響いた。たまらず耳を塞ぎ顔を顰める周囲だが、予め実験内容を知っていた俺と隣に座っている深雪は何事もない。しかし、どんどん強くなる嫌な空気に俺は思わず顔を顰める。

鈴音がパネルから手を離し、電磁石は再び無音の弾き合いに戻る。

 

「今回私たちは、限定された空間内における見かけ上のクーロン力を十万分の一に抑えることに成功しました」

 

鈴音の言葉に今度は会場が大きくどよめいた。それもメインのデモ機が舞台下から出てきたことによって収束する。鈴音による装置の説明が続く中、俺はその説明を半分聞き流していた。もはや原作知識など関係なしに感じるピリピリと緊張感を持った感覚に隣に座る深雪の顔を盗み見るが、深雪は兄さんが関わる発表にキラキラとした嬉しそうな表情で聞き入っている。俺の方が向いているとはいえ、ほぼ同じ素質を持ちながらコレを感じ取れないのは深雪が未だに未熟だからか。

とはいえ、別に発表を聞いていなかったなんてことはなく、鈴音が発表を締めくくったところで大きな拍手で惜しみない称賛を送った。

 

 

「――――さて」

 

小さく呟くと立ち上がる。論文コンペの交代時間は十分しかない。それはつまり、この十分以内に横浜騒乱が始まるということだった。

 

「深雪、CADを何時でも出せるようにして兄さんのところに行くぞ」

「……何かあるの?」

 

どうしてと聞かず、すぐ行動に移すのは俺を信用してくれているからか。こんな時だが少し嬉しくなる。

歩きながら左手をポケットに手を突っ込み、何時でも対応できる体制を整えた。ポケットに手を突っ込んだのは、情報端末型の汎用型CADが中にあるから。そして右手を自由にしているのは、上着の下に装備した【ダークネス・ブラット】をいつでも取り出せるようにするためだ。

 

「来るぞ!」

 

勘に任せて注意すると同時に、轟音と振動が会場を揺るがす。

これが、横浜事変の開幕の合図となった。

 

 

 

 

 




 
二校の「収束魔法によるダークマターの計測と利用」というテーマが個人的に気になるところ。
最近、宇宙に興味をもって「宇宙論」など、色々とネットで調べているのですが、内容が半分どころか三分の一も理解できません。物理や化学だけでもお手上げなのに、哲学とかさっぱりです。まあ、原作での鈴音の説明を理解できていない時点で、お察しですね。
……勉強しなくちゃなぁ。


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