魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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初登校をしてから約半年が過ぎました。
なんだか時間が短く感じます。

そろそろ自分で今まで書いた内容を忘れてきたので、少し読み返してみたのですが……、なにこれ読みにくっ!

安〇先生…!! 文才が欲しいです……




横浜騒乱編Ⅲ

 

 

 

今日は土曜日、しかし学校は休みではない。魔法科高校は週休二制を採用していないのだ。なので今日もしっかり授業があるのだが、俺たちは今朝も八雲の寺に来ていた。しかも今日は深雪も同行している。実は先生から遠当て用の練習場を改装したので試してみないか、と誘われたのだ。

魔法射撃を実弾でできる練習場は少ない。一応学校にもあるのだが、俺や特に兄さんは人前では見せられない魔法を使うので部外者がいる場所では練習できない。そんな訳で俺たちとしては、わざわざ土浦まで行かなくても身近な場所で射撃練習場が使えるのはとてもありがたいことだった。

寺の射撃練習場は地下にあった。

 

「――――きゃっ! この!」

 

流石に寺の射撃練習場の設備は学校のものとは一味違うもので、今まさに深雪は汗を滴らせ息を荒げる程には充実した、もしくは意地の悪いものだった。

正方形のフロア。その壁四面の内、三面と天井に開いた無数の穴から次々と標的が現れる。ちなみに四面全部でない理由は敵の真ん中に孤立するというシチュエーションが寧ろ非現実的な想定で、実践ではそうなる前に逃げるべきだ、ということらしい。

現れるターゲットは同時に数十と出現した上に、一秒以内に隠れる設定になっている。さらに撃ち漏らした的の数に応じて模擬弾が降って来るから始末に悪い。

むざむざと模擬弾を喰らう深雪ではなく、撃ち込まれた弾は全て魔法でブロックしているのだが、射撃と防御を同時にこなして足元が疎かになり転倒する、というのを先ほどから何度も繰り返していた。

 

「はいっ、止め!」

 

先生の合図と同時に深雪が思わずへたり込んでしまったことからも、この訓練施設のメニューがいかにハードなものかは分かってもらえるだろう。

 

「お疲れさま」

「あ、お兄様……申し訳ありません」

 

兄さんが深雪とイチャイチャしているのを傍目に俺もCADを取り出し深雪と入れ替わるように部屋の中央に立つ。身体を斜めに構え、何時でもCADのトリガーを引けるようにだらりと下げた右腕に神経を集中させる。

スタートは突然だった。

何の合図もなしに訓練メニューが開始され、三面の壁にボール状のターゲットが現れる。瞬時に一度引き金が引かれ、十二のターゲット全てが同時に灰と化した。

一息つく間もなく、今度は天井も含めた四面からターゲットが出現した。その数は二十四。俺は腕を下げたまま照準を付けずに、今度は二度、引き金を引く。

十六個と残り八個が少しの時間差で灰になり落ちて来る。俺は灰を無駄のない動きで避けるとさらにCADの引き金を絞る。さらに灰が降り注ぐが休む暇もなく現れる球体に俺が引き金を引く数は三度、四度、と増えて行く。そして五回連続でトリガーに指を掛けた時、ペナルティの模擬弾が降ってきた。

瞬時に防御の魔法を行使し模擬弾を防ぐ。しかしブロックに気を取られた分だけ、さらに模擬弾が降り注いだ。

 

「――――チィ!」

 

思わず舌打ちをして、ここまでか、と内心でため息を吐く。

俺は立ち止まり、身体から無駄な力を全て抜いた。足は肩幅に開き、肩からストンと力を抜く。動かせるのは右手の人差し指のみ。そして瞳が紅く染まる。

叡智の眼(ソフィア・サイト)】、戦闘における俺の切り札の一枚を発動した。

目を閉じ無駄な情報を遮断する。脳裏に現れる情報によって構成されたTPS、つまり三人称視点。今の俺にはこの部屋の中で死角は存在しない。

壁から現れたターゲットに対して引き金を引き、一度で三十六の標的が灰となる。さらにもう一度引き金を引けば、全てのボールが灰色の粉塵となって降り注いだ。

俺の【叡智の眼(ソフィア・サイト)】は兄さんの【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】とは違いイデアにアクセスする眼ではなく、エイドスを直接見る眼だ。その為、一度イデアにアクセスしてから情報体を視る兄さんとは違い、直接情報を視る俺は大した集中力を使わない。だからこそ戦闘中での常時発動という無茶なことができるのだが、その分、必要な演算能力は莫大なものとなってくる。そもそも俺の知覚の本質とは違うのだから相応の負担があるのは当然なのだ。それ故に戦闘中の知覚範囲は半径50メートルと限定されたものになる。

しかし今回、この部屋の大きさは半径50メートルを超えている。だが、この程度なら俺にとっては大した問題はなかった。何時も瞬時に複数の魔法を使用できるように空けている魔法演算領域を少し削ればいいのだ。まあこれは俺の規格外の魔法演算領域に頼った完全な力技なのだが。

次々と重ねられていく射撃回数に応じて降り積もる灰の量も多くなる。そして訓練メニューが終了するまで二度と模擬弾が放たれることはなかった。

 

 

「いやぁ、これをクリアされるとはねぇ」

「凄いわ紅夜!」

 

先生からそんなことを言われ、深雪からも褒められたが、一度ミスをした上に、【叡智の眼(ソフィア・サイト)】という反則にも等しい魔法を使ってしまった為、素直に喜べない。

そしてこの後、兄さんがノーミスの完全クリアしたのを見て地味に落ち込んだ俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日が経過し今日は日曜日。俺としては特に用事も何もないのだが、兄さんが論文コンペまであと一週間と時間が迫る為、当然色々と準備が必要だった。そんなわけで学校に行っている兄さんに代わり俺が昨日先生に忠告された通り『瓊勾玉』をFLTに返却しに行くことになった。ちょうど開発中の完全思考操作型CADについて話したいこともあったので俺は兄さんに頼まれて二つ返事で了承したのだ。

 

念の為、再度の襲撃を警戒して公共交通機関ではなく、大型電動二輪で第三課に向かっていると、何かの視線を感じて速度を少し落とした。

叡智の眼(ソフィア・サイト)】で視線を感じた方向のエイドスを確認すると化生体である鴉の使い魔が此方を監視しているのを見つけた。原作知識から少し気を張っていたのだがどうやら正解だったようだ。さてどうしようかと対応について思案する。

別にこのまま監視を付けてFLTに向かってもいいのだが、その後も監視を続けて来る可能性がある。流石にそれは勘弁したい。常に視線を感じるなど鬱陶しいにも程がある。なのでさっさと排除してしまいたいところなのだが、【術式解体(グラム・デモリッション)】もこの距離では届かない。今日一日耐えて深雪に頼むという方法もあるのだが、この視線を耐え続ける程、俺は尊大な心を持っていない。

 

「仕方がない、か」

 

あまり気が進まないが、一瞬で消してしまえばバレないだろうし、少し化生体を消し飛ばす程度なら使っても問題ないだろう。

俺の特異魔法がCADを介さずに行使される。あの程度の使い魔一匹CADの補助がなくとも潰すことが可能だ。それも得意魔法ともなればなおさらのこと。しかし、CAD無しよりも有りの方が流石に楽だし発動速度も速いのは確かだ。

何時もより0.05秒程遅れて発動した魔法がエイドスに反映する。俺の『眼』は使い魔の鴉が術式の情報体ごと燃え尽き、サイオン粒子と共に散り散りになっていくのを捉えていた。

化生体が完全に焼滅したのを確信すると大型電動二輪に掛けた手を強く握り直し、遅れた時間を取り戻すようにスピードを上げた。

 

 

 

 

 

途中、少々の面倒ごとは有ったが無事FLTの開発第三課に到着したのだが、中に入った俺を迎えたのは早朝らしからぬ喧噪だった。

 

「――――ぐずぐず悩む前にさっさと回線を切れ! バックアップだ? そんなもん、できてるところまでで十分だろうが!」

「十番台、切断が完了しました。再接続に入ります」

「阿保! 侵入が続いているのに勝手に再接続するヤツがあるか!」

「よしっ、侵入経路、確定したぞ!」

「カウンタープログラムを起動します!」

 

怒号が飛び交うオペレーションルームに入ってすぐに大体状況の把握はできた。さて、これは待っていた方が良いのだろうかと考えていると牛山がこちらに気が付いた。

 

「あっ、紅夜の兄貴!」

 

牛山の声に思わず苦い笑いを零す。俺が第三課に入ったばかりのころ、牛山に自分の技術を色々と教えていたことがあったのだが、それがいつの間にか兄貴と呼ばれるようになっていた。独学だった俺も牛山から学ぶことは沢山あったので兄貴はやめてほしいと言ったこともあるのだが、何度お願いしても一向に呼び方を変える気がないようなので既に諦めている。

 

「スンマセン! おいでになっていることに気付きませんで……。おいっ! 兄貴がいらっしゃったのを知らせなかった間抜けは何処のどいつだ!」

 

細身の体格に似合わぬ牛山の大声に所員がすくみ上る。が、そこで手が止まってしまったのはまずい。

 

「皆、手を止めるな! モニターを続行しろ!」

「は、ハイ!」

 

牛山には及ばぬものの、不思議と響く声に所員が背筋を伸ばし返事をする。それを見て満足した俺は牛山に視線を戻した。

 

「牛山さん、お疲れ様です。随分と慌ただしいようですが、ハッキングですか?」

「はぁ、まあ……」

 

問いかけに対して牛山がやけに歯切れの悪い返答が帰ってきて思わず不審げに眉を顰める。その答えは然程待つこともなく説明された。

 

「ハッキングはハッキングなんでしょうが……どうも様子が変でして。侵入技術はかなりのものなんですが、何を知りたいのかがさっぱりなんでさあ。特に対象を絞り込んでいる様子もなくてですね、全くの手当たり次第、って感じなんですよ」

「完全に興味本位ってことでしょうか」

 

自分でも全く思ってもない言葉を口にする。タイミングと原作知識を照らし合わせると、確実に大亜連合のものだろうと断定できた。

 

「個人の仕業とは思えませんね。侵入の手口はかなりの人数を組織的に運用しなきゃあできないものです。相手が国家組織と言われても違和感はありませんな」

「それにしては目的がはっきりしない、と。……流出が予想されるデータの一覧はありますか?」

「いえ、今のところ流出したデータはありません」

「ハッキングはどれくらい続いているんですか」

「十分ほどです」

 

しかし大亜連合は何故こんなにも中途半端な干渉をしてくるのかと疑問に思う。本気で聖遺物(レリック)の確保を狙っているようには思えないのだ。原作知識をさらってみても全く思い出せない。既に原作を見てから十六年近くが経とうとしているし忘れていても仕方がないのだろうが、物語の重要な部分は毎日必ず思い出して忘れないようにしている。それを考えると大した理由でもないのだろうか。

 

「不正アクセス停止しました!」

「油断すんなよ! 今日は一日、監視体制を維持する! ……っと、失礼しました。それで、今日は一体どんな用件なんです?」

 

俺は聖遺物(レリック)に関するこれまでの経緯と会社の目的や兄さんの目的、そして俺が此処に来た理由を説明しながら、これからの大亜連合の対応についてとりとめもなく考えるのだった。

 

 

 




 
今回、【叡智の眼(ソフィア・サイト)】を情報によって構成された三人称視点と表現しましたが、実際のところどう見えているのか今一分かりません。
取り敢えずアニメのエレメンタル・サイトのイメージとしています。

もしも現実でソフィア・サイトやエレメンタル・サイトが使えても、情報を処理できずに確実に頭がパンクしそうですよね。


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