魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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劣等生の最新刊を読みました。
読み終えてからの最初の感想、

設定に矛盾が出なくて安心した……。

――――初投稿をしようとしたその一週間前に、16巻を読んだ時の衝撃は未だに忘れません。




横浜騒乱編Ⅱ

 

 

 

兄さんが聖遺物(レリック)を無事に確保ししばらくが経った。昨日までは基本平穏な日々で、唯一目立ったことがあったとすれば、俺が自分の部屋のPCからネット小説を観覧していた時にホームサーバーにアタックがあったことくらいだ。

この時代、22世紀になろうとしている今でも、一次作、二次作関わらず、ネット小説のような日本が世界に誇るサブカルチャーは衰えを見せない。それでもSF作品やファンタジーといったジャンルは魔法の実現により少なからず影響は受けているが。

話が少し逸れたが、そんなわけで昨日までは特に何事もなく平穏が続いていたのだ。そう、昨日までは、だ。今日になり学校に来ると美月が視線を感じると言い出したのだ。さらに幹比古も精霊が騒いでいるという。詳しく聞くと余所の国の式が打たれているらしい。

どうやら本格的に横浜騒乱編の騒動が始まる頃になったようだ。俺はより一層気を引き締めようと決意する。いや、現在進行形で気を引き締めるどころか気を張っていた。今俺がいる場所は行きつけの喫茶店、そして何時ものメンバーでお茶を飲んでいるところだった。しかし場所が問題なわけではない。問題は俺たちを監視している人物がいること、そして――――

そんな思考を妨げるようにエリカがスッと立ち上がる。

 

「エリカちゃん?」

「ちょっとお花摘みに行ってくる」

「おっと。わりぃ、電話だわ」

 

エリカに続きポケットを抑えたレオも立ち上がった。

 

「……幹比古、何をやっているんだ?」

「ん、ちょっと忘れないうちにメモをとっておこうと思って」

 

兄さんの問いかけに幹比古は手元の小さいスケッチブックのようなものから視線を離さずに答える。

 

「派手にやりすぎると見つかるぞ。程々にしておけよ」

 

兄さんはそう言って一瞬だけ店の壁、そのさらに向こうに鋭い視線を向けると何事もなかったように内にカップを運んだ。

 

 

 

エリカたちが出て行って二分程経っただろうか。俺はちょうど飲み終わったカップを静かに置くと立ち上がる。

 

「ちょっとトイレに行ってくる」

「……ああ」

 

兄さんの返事を聞き、トイレの方向に足を進めた俺はそのままトイレには行かず裏口から外に出る。そして一度立ち止まると【叡智の眼(ソフィア・サイト)】を展開した。角を曲がった先でエリカとレオ、そして見知らぬ男の存在を確認した俺はCADを取り出すと【跳躍】の魔法式を行使した。重力を無視して軽々と跳び上がり喫茶店の屋上に着地する。その時、幹比古の張った結界が解かれた。どうやらタイミングは絶妙だったようだ。

 

煙玉と共にエリカたちから逃げ果せる男だが、一度【叡智の眼(ソフィア・サイト)】でエイドスを捕捉した以上、エイドスの補足をやめない限り、俺の知覚から逃げることはできない。男と約百メートルの距離を取りながら見つからないようにエイドスを追跡する。

屋根の上から追跡するということをしている為、魔法の使用は必須となり、街の監視システムに記録が残る可能性があるが、【跳躍】と自己加速術式程度ならさほど問題はないだろうし、問題ならば藤林が魔法使用の痕跡を削除してくれるだろう。俺たちを囮としているのだから、それぐらいの対価を払ってもらっても構わないはずだ。それに後で情報提供はするつもりだし別にいいだろう。

 

しばらく走っていると男が突然立ち止まる。そして現れたのは一人の青年、俺は距離を取っていて顔どころか気配すら感じ取れないが、恐らく今知覚している突然現れた青年が人喰い虎、呂剛虎(リュウカンフウ)だろう。その独特の存在感はただの知覚からでも強者であることが伝わる。この呂剛虎(リュウカンフウ)こそ今回俺が逃げてきた男の後をつけた理由だ。

呂剛虎(リュウカンフウ)を探しに来た理由は実は大したことはない、と言うかくだらない理由だ。俺は単に呂剛虎(リュウカンフウ)の実力が気になっただけだった。原作では真由美たちに倒されたが、それはガスという手段に対抗策を持っていなかっただけで、接近戦ともなれば俺でも勝つのが難しい相手だ。そんな奴の実力を見たいと思うのは当然のことだろう。

ついでにもう一つ、ここで呂剛虎(リュウカンフウ)を消してしまおうかとも考えていた。恐らく、呂剛虎(リュウカンフウ)を殺せば原作に大きな変化が生じるだろう。しかしそれは仕方がないことだと割り切った。もう既に原作との違いは出てきている。本来なら昨日、平川千秋からつけられるはずだった兄さんが何事もなかったのがいい例だ。これは俺が九校戦で電子金蚕の工作員を原作より早く捕えたことにより、平川小春が助かったことが原因だろう。多分、このまま俺が原作に関与しなかったとしても物語の流れは少しずつ変わっていくだろう。だからもういっそのこと原作を無視してしまうことにした。とは言っても流石に原作を完全に変えてしまうようなことはしない。あくまでも少しズレが生じる程度に収める。

 

そしてその記念すべき(?)第一回目の行動が呂剛虎(リュウカンフウ)の排除。原作から剥離した場合、かなりの危険分子になりえる人物だ。まあ、相手をしたところで兄さんと深雪に危害を加えることが可能だとは思えないが、原作ではすぐにいなくなる人物だし、消しておいて損はないだろう。

できれば周公瑾も消してしまいたいところだが、原作10巻まででは情報が少ない上に、その後の展開にも大きく関わってきそうな登場人物なので、迂闊に手を出すことができない。

 

そんなことを考えていると呂剛虎(リュウカンフウ)が動いた。一瞬で相手に接近し、喉に腕を突き立てた。そして男の力が尽きると埋まった手を引き抜く。その指は鮮血に染まっているが、量は驚くほどに少ない。ドシャりと重い音を立てて倒れ伏した男に黙祷を捧げる。助けようと思えば助けられたが、不用意に動いて俺の情報を教えるわけにはいかず、結局見捨てることにしたのだ。他人が死のうがどうでもいいのだが、流石に助けられる可能性があった人物が目の前で死ぬのは後味が悪い。それ故の黙祷だった。我ながら自分勝手だとは思うが、その分彼の死を役立てることにしよう。

血をふき取り男の死体に火をつける呂剛虎(リュウカンフウ)にCADの照準を向ける。距離は百メートル、これだけあれば気が付かれる心配はいらないだろう。流石に俺でも呂剛虎(リュウカンフウ)との正面戦闘は避けたい。特に接近戦は勝てる可能性が限りなく低くなる。だからこその奇襲。行使するのはエリア指定の魔法、【灼熱劫火(ゲヘナフレイム)】の下位変換魔法だ。忘れてはいけないのはここが住宅街だということ。故に周囲に被害を出すわけにはいかないので、温度は約五千度程度。人が燃え尽きるまで約二秒と時間は掛かるが、その分改変強度は高くなっている。

俺は一つ深呼吸をするとCADの引き金に指を掛け、そして、魔法を発動した。起動式を読み取り魔法式を構築、ゲートを通しイデアに投射された魔法式がエイドスを改変する。そして呂剛虎(リュウカンフウ)は燃え尽きる――――――はずだった。

 

「嘘だろ!?」

 

消滅するはずだった呂剛虎(リュウカンフウ)は全身に火傷を負いながらも生き残っていた。何故奴が生き残れたのか、それはしっかりと把握できていたが、そのあり得ない事態に思わず声を上げる。

しかし、起きた事実に変わりはなく、俺の【叡智の眼(ソフィア・サイト)】は確かに呂剛虎(リュウカンフウ)が生きていることを知覚していた。あり得ないこと、それは呂剛虎(リュウカンフウ)が俺の魔法が発動するよりも早く危険を察知し動き出したという理解不能なことだった。

魔法が発動してからならまだ分かる。イデアに投射した魔法式がエイドスを書き換えることを知覚できる魔法師など当たり前のことだからだ。しかし呂剛虎(リュウカンフウ)はその前、俺がCADの引き金を引いた時に危機を察知していたのだ。

 

俺が魔法を行使して実際にエイドスに効果が反映されるまで約0.2秒のラグがある。それに加え、CADの引き金を引くのに同じく0.2秒の時間が必要となる。そして約五千度の熱が呂剛虎(リュウカンフウ)消し炭にするまで約二秒。つまり呂剛虎(リュウカンフウ)が危機を察知してから俺の魔法で消滅するまで約2.4秒の短い猶予があった。

一応、俺は予め2秒のラグが生じることを予定して魔法有効エリアを50メートルまで設定していた。それだけあれば逃げ切れないだろうと予想していたからだ。

しかしそれに反して呂剛虎(リュウカンフウ)は0.4秒の間に自身の情報強化と物理障壁を張り、残りの二秒ギリギリで全身に火傷を負いながらも有効エリア内から抜け出していた。

 

思わず声を上げた俺は逃走を開始。百メートルも離れているので気が付かれる可能性は低いが、先ほどの事を考えると万が一もあり得るのだ。

ここで呂剛虎(リュウカンフウ)を追撃すれば殺すことは可能かもしれない。しかし、あの情報強化を抜くのは困難だし、もしも一撃を耐えられたら次は俺の居場所が見つかる可能性が高い。周囲の熱で焼き殺そうとしても周囲に被害が出ることは確実だ。できるだけ敵に情報を与えたくない俺としては深追いは禁物だった。特に周公瑾などに知られてしまったら厄介なことになる未来しか想像できない。

別に逃がしたとしても俺がやったということさえばれなければ問題ないし、向こうが警戒する分には俺たちにデメリットはない。もしも此方が攻める側なら警戒させるのは愚策だが、守備陣が敵を警戒させることにはほぼメリットしかないのだ。

 

一分ほど走り続けて呂剛虎(リュウカンフウ)が追ってこないのを確認すると一度立ち止まり大きく息を吐いた。

 

「あー、吃驚した」

 

まったく、どうやってあの距離から此方の魔法に気が付いたのか。予想としては殺気を感じたというところか。これでも一応、一流と言われる程度には武術にも長けているし殺気を感じるということは俺でもある。特に俺はとある事情によって他人よりも人一倍そういったものに敏感だ。しかしそれは、俺が特殊な能力を持っているからであって、それが無ければ気を抜いている状態で百メートルという離れた距離から殺気を感じ取るのは至難の業だ。そんなことは常日ごろから死闘を繰り返していなければ不可能に近い。

 

「怖い怖い」

 

思わず呟き腕をさすりながら、今度はゆっくり歩き始める。

戻ったら兄さんと深雪に怒られるだろうなぁ、と別の意味で割と本気(マジ)の恐怖を感じながら。

 

 

 





今回の話、別に入れなくてもよかったかなぁ、と書き終えてから考えました。
紅夜の行動に違和感を感じた人がいるかもしれませんが、こじつけっぽい理由は一応あります。……回収するかは分かりませんが。

劣等生の次の巻は来年の春頃らしいですね。待ち遠しいです。
今度も矛盾が出ないように祈っておきます。

――――投稿一週間前に設定を一から練り直した苦労を、私は絶対に忘れない……。


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