魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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ヒロインをリーナに決定したので、紅夜の原作知識を10巻までとしました。それに伴いプロローグを修正したのでご了承ください。
まあ、修正と言っても後半を三人称にしただけで、内容は全く変わってないんですけどね(笑)




九校戦編Ⅹ

 

 

 

女子アイスピラーズブレイク決勝。

決勝リーグを独占した一校に大会委員会から三人を同列優勝にしてはどうかという提案があったのだが、雫が深雪と戦いたいと言い、深雪がそれに受けて立って開催することになった。委員会は三人を同列優勝にしたいという意図があったようだが、今回は決勝を行って正解だっただろう。何せこの大会は全国放送しているのだ。もしも決勝を行わなかった場合、今まで最高の試合を見せてきた雫と深雪の試合が見れないことに批判が殺到したのではないだろうか。そうなったら、試合を行うよりもさらに大変なことになるのは簡単に想像できることだ。こんなことが想定できないことに加え、無頭竜の工作員が混じっているとなると大会委員は全く信用できなくなってくるな。

 

俺が満員の観客席で時間つぶしに意味もなく考えていると、ついに試合開始の時間になり、深雪と雫の二人が舞台上に現れた。途端に客席は水を打ったように静まり返る。二人の間にある戦意を感じ取ってか、会場にも緊張感が満ちる。

 

青いライトが点った。そして開始の合図となる赤い光に変わったり、同時に魔法が打ち出された。

 

雫のエリアに【氷炎地獄(インフェルノ)】が襲い掛かる。熱波が氷柱を溶かしに掛かるが氷柱は未だに形を保っていた。雫の情報強化がかけられているためだ。

深雪の氷柱を地鳴りが襲う。だがその振動は共振が起こる前に鎮圧された。【共振破壊】を抑える対抗魔法を深雪が発動しているからだ。

両者共に譲らぬ一進一退の攻防、と試合を見ている大半の観客たちは思っているのだろう。しかし一見互角に見える戦いは確実に優劣が決まっていた。雫の情報強化は氷柱に対する深雪の【氷炎地獄(インフェルノ)】の改変を防いでいたが、魔法によって生じた物理的なエネルギーの影響は避けられない。氷柱に対する加熱の改変は防げても、空気が熱せられたことによって氷が溶けるのは時間の問題だった。

このまま押し切られてしまうのか、そう思った時、雫の次の一手が打たれた。雫が袖口に手を突っ込み取り出したのは二つ目のCAD。拳銃型をした特化型CADは兄さんが授けた切り札だった。【フォノンメーザー】超音波の振動数を上げ熱線を起こす高等魔法。それにより、今まで一度たりとも傷つかなかった深雪の氷柱にダメージが入った。

しかし雫の攻勢もここまで、すぐさま立て直した深雪は新たな魔法を発動した。魔法名は【ニブルヘイム】振動減速系統魔法で、俺の得意とする振動加速系統の【ムスペルスヘイム】と対を成す魔法。威力は使用者によって前後するが、深雪が発動するとなればその威力は当然最大限に高められている。液体窒素すらも凍らせる冷気によってできた霧が雫の陣を覆い尽くす。

深雪は魔法を切り替えた。再度発動された【氷炎地獄(インフェルノ)】の熱が雫の陣を襲う。瞬間、起こるのは大爆発。【ニブルヘイム】によって付着した液体窒素が熱されたことにより一気に気化した。その膨張率は七百倍。当然氷柱が耐えられるはずもなく、雫の氷柱は轟音を立てて崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ、ヤバい。テンションが上がりすぎて胸が苦しい。

先ほどの深雪と雫の試合、そしてこれから始まる一条との対決を考えると笑みが抑えられない。まさか自分がここまで戦闘狂だとは思ってもみなかった。流石にここまで戦いが楽しみなのは初めてなので、恐らく命に関わりがないのが影響しているのだろう。命の危険がない状態で自分の全力を発揮できる、こんな機会はそうそうない。

衣服の最終チェックをして乱れなどを整える。この執事服も最初は四葉として発表したら着れる機会がなくなるという適当な理由で選んだのだが、こうして何度も着ていると少し愛着が湧いてくる。最後にCADの最終チェックをして終了。

そろそろ試合開始の時間だ。存分に楽しもうじゃないか。

 

 

 

舞台上に上がった俺は、いつも通りに一つお辞儀をする。湧き上がる歓声、これまでの試合では特に意識にも入らなかった歓声が、今の俺には戦闘開始が徐々に近づいて来ていることを実感させた。離れた距離で向かい合う俺と一条将輝、抑えられぬ興奮に思わず笑みが浮かぶ。それは向こうも同じようで若干の緊張の色を滲ませながらも挑発的な笑みを浮かべている。高まる緊張感に会場が静寂に包まれるが、今の俺にはそれが心地良く感じられた。

自分の手の中にある拳銃型のCADを確認するように強く握りしめる。今までは、どんな状況にも対応できる、オールマイティな汎用型を使っていたが、今回の試合はそうもいかない。一条の秘術魔法【爆裂】、この魔法はアイスピラーズブレイクにおいて無類の強さを発揮する。もしも一条に勝つとすれば【爆裂】を使う前に片付けるのが、一番確実な方法だ。しかし、【爆裂】の発動速度は、兄さんの【分解】の発動速度に匹敵するレベルだ。もしもこの方法で勝つなら、特異魔法を使うしかない。だがそれは俺のルールに反する。正直に言って、特異魔法を使えば一条に勝つのは容易だ。なにしろ俺の魔法発動速度は兄さんを少し上回るのだから。

だが、俺は人の命が関わる可能性があるときなどの例外以外では、できるだけ特異魔法は使いたくないし、使わないと決めている。これは自分で定めた、ルールで、掟で、戒めだ。俺はあの時そう決めたんだ。

とにかく、俺は特異魔法を使わずに一条に勝つ。その為には先ず一条の【爆裂】を耐えるしかない。そして、【爆裂】が途切れたところで一気に勝負を決める。

さあ、試合開始だ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新人戦男子アイスピラーズブレイク決勝戦。

午前の最後になるこの試合は多くの観客が集まっていた。午前の試合が終わった後にはしばらくの休憩時間が入ることから、毎日の午前最終は観客が大量に来る。しかし、今日は何時にも増して観客が集まっていた。その数は観客席が一杯になるだけではあきたらず、一般席通路の隙間さえ埋まる程だ。

そんな中、一般席よりはマシな関係者席に達也や真由美たちは座っていた。

 

「凄い人ね……」

「それだけこの試合は注目されているからな」

 

真由美の呟きに摩利が答える。

 

「それで、達也君は紅夜君が勝てると思うか?」

「ちょっと、摩利」

 

摩利が聞きにくい質問をズバッと切り込み、真由美が慌てて割り込む。流石に真由美は紅夜が一条に勝てるとは思っていなかったからだ。しかし、そんな真由美の気づかいを無駄にする驚愕の一言が達也から飛び出した。

 

「勝ちますよ」

「……へ?」

 

即答。これには摩利も目を見開き、真由美は間の抜けた声を出す。「勝てます」ではなく「勝ちます」という断定。この一言だけで、達也がどれだけ本気であるかが理解できる。

 

「……ほう、一条には【爆裂】があるが、それでもか?」

「ええ」

「達也くんが言うと本当に勝ちそうだから怖いわね」

 

もう一度頷いた達也に、真由美は震えながら腕をさすった。多少オーバーリアクションになってはいるが、これは間違いなく真由美の本心だった。それだけ達也のことを信用している証拠か、怖いというのもまた本心。十師族ではない者が一条に勝つとはそれだけ重大なことで、七草家の真由美としても無関係ではいられないのだ。

勘違いにもほどがあるのだが、真由美を含め紅夜たちの秘密を知る者など限られているのだから仕方がないだろう。

 

「達也君はブラコンでもあったのか」

 

だから、こう思われても当然かもしれなかった。

等の本人は相変わらず無表情。気持ちは別としてだが。

 

「違います。大体、その俺がブラコンどころかシスコンでもあるような発言は不愉快なんですが」

「ええ! 達也くんってシスコンじゃなかったの!?」

「驚いたな、てっきり君は妹のことが大好きだと思っていたのだが……」

「……先輩、下級生をイジメて楽しいですか?」

 

呆れを含ませた達也の声に、真由美たちは楽しそうに返答する。達也はもうやってられないとばかりに真由美たちの話を適当に流すことにした。

 

しかし、そんなお遊びもここまで。

 

「そろそろ時間ね」

「達也君の言葉が本当になるか楽しみにしておこう」

 

達也は二人の言葉に反応せずに無言で前を見ている。その視線の先では今まさに試合開始の合図が点り始めるところだった。

 

 

 

 

 

ポールに青い光が点る。

紅夜はCADの引き金に指を掛け、大きく息を吸った。

 

光がさらに黄色へと移り変わる。

吸った息を今度は大きく吐き出した。意識が切り替わり、周囲の音が消える。視界に映るのは氷柱のみ。

 

そして、赤い光が点った瞬間、紅夜と一条は同時に引き金を引いた。

 

刹那、爆発が起こる。

未だに両者の氷柱は健在だ。しかし、紅夜の陣にある最前列にある二本の氷柱が大きく形を崩していた。

流石は一条と言うべきか、紅夜が氷柱に掛けた情報強化を突破してきた。だが残り十本、このうち一本でも守り抜けば紅夜の勝ちは確定するようなものだ。

一条もそれは理解していた。恐らく【爆裂】が途切れた瞬間に形勢は一気に逆転するだろう。だからこそ、このまま一気にケリを付けなければならないということを。故に、一条は防御に力を割くことを一切せず、魔法演算領域を全て攻撃に回した。

ループ・キャストによって瞬時に発動した【爆裂】が再び紅夜の氷柱を襲う、残り八本。三度の衝撃、残り六本、ここに来て、紅夜の氷柱に掛かる情報強化が更に強くなった。氷柱が減ったことによって一本一本への干渉力が強化されたためである。一条が【爆裂】を発動するが、崩れたのは一本。もう一度【爆裂】が行使され、紅夜の氷柱は残り四本になる。三本、二本、そして――――

 

一条の【爆裂】は残り二本の内、一本に大きな亀裂を生じさせた。しかし、ここで一条の連続魔法使用にも限界が訪れる。一瞬の魔法の途切れ、だがその一瞬が、一条にとって致命的な結果を及ぼした。

 

紅夜の口元が三日月を描く。

CADのトリガーが引かれ、魔法が行使された。

出力された魔法式がイデアに投射され、エイドスに干渉する。

 

 

エリア内に、『夜』が舞い降りた。

 

 

やけに時間がゆっくりお流れる中、一条は何故かはっきりと感じることができた。

離れた距離にいる紅夜の三日月が割れたのを。

そして、形を崩した三日月から小さく囁かれるように発せられた【流星嵐(グリント・ライン)】と言う声を――――――

 

 

 

 

 

――――閃光が

 

      瞬いた――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流星嵐(グリント・ライン)】。

この魔法は紅夜が四葉真夜の『夜』と呼ばれる所以の【流星群(ミーティア・ライン)】を参考にして作り出した魔法だ。製作動機はカッコイイからと何とも適当なものだが、完成した魔法は元が元だからか、適当では済まない強力な魔法になった。

魔法系統は収束、そして加速。真夜の魔法は室内などの光が限定された空間でなければならないという制限があるが、紅夜の【流星嵐(グリント・ライン)】は正反対で、屋外などの光が強い場所でないと効果を発揮しない。先ず加速系統の魔法により、光を反射して通さない空間を作る。そしてその空間内の光りを収束、文字通り無数の光球と光条と闇に分ける魔法だ。残念ながら紅夜は光が100パーセント透過する状態に改変する魔法演算領域は持っていないが、光に対する収束魔法の干渉力は、()()()()()()()()()()()()()()かのように得意だった。

そうしてできた、直径一センチ程度にしか満たない光が氷の柱を切り裂いた場合、どのようになるか。結果は一目瞭然だ。

 

バラバラになり崩れ落ちた十二本の氷柱、エリア内に残っている氷柱は二本のみ、そのどちらも紅夜の陣に立っているもの。つまり、勝敗は決した。

一礼。一泊置いて、歓声が爆発した。

 

 

 

 

舞台上から降りた一条は未だ信じられない気持ちで茫然としていた。もちろん一条も紅夜は強敵だと分かっていた、それでも自分の実力に自信を持っていたし、十師族どころか数字付き(ナンバーズ)でない者に負けるとは考えてもいなかった。それが傲慢な考えだとは理解はしているが、それだけ十師族という肩書は大きいものだったのだ。

 

「将輝……」

「……ジョージか」

「ごめん将輝、僕の見通しが甘かった。もっとしっかり戦力分析ができていれば……」

「いや、ジョージの所為じゃない。今回の敗北は完全に俺の力不足だ」

 

吉祥寺も相棒とも呼べる一条がここまで消沈した姿を見たことがなかった。

 

「もっと、強くならきゃな」

「そうだね、僕も付き合うよ」

 

二人が今回の試合で至らなかった点や反省、これからに向けてなどいろいろと話しながら控室を出たところで自分たちを待ち構えている人物を見つけた。

 

「司波紅夜……」

「俺のことは紅夜で良いよ、一条将輝」

「俺も将輝でいい。それで、何の用だ?」

 

いつの間にか一校の制服に着替えていた紅夜は、一条の質問に心底楽しそうに笑いながら右手の拳を突き出した。

 

「楽しかったよ、また戦おうな。将輝!」

 

将輝の動きが一瞬固まった。だが、徐々に言葉の意味を理解するにつれ、将輝の顔にも思わず笑みが浮かぶ。

 

「ああ、次は負けないからな。紅夜!」

 

将輝は紅夜の拳に己の拳を力強くぶつけた。

 

 

 

 




 
もう九校戦編終了で良くないですか? やりきった感がハンパないですw

真面目に、これから紅夜の出番がほとんどないかもしれません。
モノリスコード出場させるとなんか相手が瞬殺で面白くなくなりそうなんですよ。それでもモノリスコードに出させた方がいいんですかね?
……正直に言うと、面倒なんです(笑)


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