魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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お久しぶりです。
何とか8月中に投稿することができました。久しぶりでちょっと変な書き方になってるかもしれません。




九校戦編Ⅶ

 

 

 

大会四日目。

ついに今日から新人戦が始まることになる。ここまでの成績は一校が一位で三百二十ポイント、二位に三校で二百二十五ポイントとなっている。一校と三校のポイントは百ポイント近く差があるが、新人戦の結果によっては大きく変わる可能性がある。本来の予定ならもっとポイントに差がある予定だったのだが、摩利の怪我によって予定が大きく崩れてしまった。つまり、一校の優勝は新人戦の結果次第と言っても過言ではない。

そんな新人戦だが、競技の順番は本戦と同じだ。

今日行われる競技はバトルボードの予選、さらに午前中には女子スピードシューティングの予選と決勝。そして午後には男子スピードシューティングとなっている。バトルボードはほのかが出場していて女子スピードシューティングには雫が、そして男子スピードシューティングは俺が出場する。

俺は自分でCADを調整できるのでエンジニアは付いていない。一応、手の空いているエンジニアがフォローに入れるようにはなっているが、試合について来たりはしないので本当に念の為のものだ。CADの調整は既に終わっているし、体調も十全。

とは言っても俺の試合は午後から、先ずは雫のスピードシューティングを応援するとしよう。

 

 

 

 

会場に着いた俺と深雪はエリカたちが空けてくれていた席に座ると既に入場していた雫に視線を向ける。試合開始の時間になり雫が構えを取った。スタートのランプがともり始め全てが点灯すると同時にクレーが空中に飛び出した。

クレーが有効エリア内に入った瞬間、それは粉々に粉砕された。それに続いて飛んでくるクレーも有効エリア内で粉々に砕け散る。

大勢の観客席から感嘆の声が漏れ、俺たちも感嘆と安堵を含めた息を吐き出す。

雫の視線にブレはなく、真っ直ぐ正面だけを見ていてクレーを見てもいない様子だ。

 

「うわ、豪快」

「……もしかして有効エリア全域を魔法の作用領域に設定しているんですか?」

 

エリカがシンプルな感想を述べ、反対では美月が自信なさそうに質問をする。

 

「そうですよ。雫は領域内に存在する固形物に振動波を与える魔法で標的を砕いているんです」

「より正確には有効エリア内にいくつか震源を設定して固形物に振動を与える仮想的な波動を発生させているのよ。魔法で直接に標的そのものに振動させているのではなく、標的に振動波を与える事象改変の領域を作り出しているの」

 

ほのかと深雪の解説に美月は感心したように頻りに頷いていた。

 

「知ってると思うけど、この競技の有効エリアの範囲は一辺十五メートルの立方体だ。雫の魔法はこの内部に一辺十メートルの立方体を設定し、その各頂点と中心の合計九つの場所に震源を配置するものだ。欠点として効果範囲外にクレーが通った場合に対応ができないということが上げられるが、さすがに学生の競技で死角を突くような意地の悪い軌道は設定されていないだろうと踏んだわけで……どうやらアタリだったようだな」

 

さらに俺が付け加えると、今度は美月だけでなくエリカやレオたちも兄さんの作った魔法に感嘆の声を漏らしていた。

そんな俺たちの視線の先で雫は最後のクレーを破壊し、準々決勝進出を確実なものとした。

 

 

 

 

 

《まもなく女子スピードシューティングBグループ予選が開始されます》

 

試合終了後、雫と合流して皆で一息抜いていたところに会場案内の放送が流れる。その放送内容に雫が興味を示す。

 

「見に行ってもいいかな。気になる選手がいて」

「それって三校の?」

「うん。そのうち当たるかもしれないし」

 

雫とほのかの会話に少し興味が湧く。三校の女子は原作では登場しない人物だ。いや、これは小説ではなく現実のことだというのは分かっているが、原作を知っていると原作に登場しない実力者に猶更興味が湧いてくる。

誰も知らない叡智というのはとても便利で有効なものだが、逆に楽しみを奪ってしまうという欠点もある。これが贅沢な悩みだというのは分かっているが、それでも望んでしまうのが人間だ。だから原作が崩れてしまうことを恐れていると同時に楽しみにもしている自分がいるのを理解していた。今回は、その悪い癖みたいなものが出てしまっただけだ。

一応事前調査で名前だけは知っている。確か、十七夜(かのう)栞という名前だったはず。俺の知らない未知の実力者、とても楽しみだ。

 

 

会場に入ると既に観客が沢山いて席を見つけるのが大変だった。どうやら十七夜栞はかなりの注目選手らしい。俺の期待も高まる中、ついにシグナルが全て点り試合が開始された。

試合開始と同時にクレーが射出される音が鳴り響く。そしていくつものクレーが有効エリアに入ると全てのクレーが砕け散った。途端に会場がざわつく。俺自身もざわつく観客と同じような驚愕と興奮の入り混じった感情を感じていた。遠くから見ただけでは分かりにくかったが、念の為に展開しておいた【叡智の眼(ソフィア・サイト)】起こった現象を確実に捉えていた。

今回使用された魔法は単純なもので、振動系魔法と移動系魔法の二つだけだ。行使した魔法だけ聞けば単純なものだが、彼女がやったことはそんな単純で済まされることではない。クレーを破壊した振動系魔法は一度だけ、最初の一枚を破壊したときのみだ。ではその他のクレーはどのように破壊されたのか、答え自体は単純だ。破壊したクレーの破片に移動系魔法をかけて他のクレーにぶつけたのだ。

言葉にすると簡単だが実際の難易度はあり得ないほど高い。破壊されたクレーの破片の数など数えるのも大変だ。それを一瞬で把握した上に移動系魔法をかけるとなると、それこそスーパーコンピューターでもなければ不可能に近い。それを可能にしているのは恐らく栞の卓越した空間把握能力と演算能力だろう。見た限り確かに才能もあるだろうが何よりも本人の努力の成果の賜物のようだ。

やはり原作とはあくまでも知識であってまだまだしらないことが沢山あると改めて理解できた。そんなことを若干興奮した頭で考えながら見ていた先では栞が最後のクレーを砕き、パーフェクトを叩き出した。

 

 

 

 

 

女子スピードシューティングの試合予定は午前中に決勝まで全ての試合を終わらせるという中々に忙しいもので、準々決勝の出所者が全員決まると、一時間もしない内に準々決勝が開始された。一校の選手の内、雫を除いた二人は既に準決勝に勝ち上がりを決めている。そしていよいよ雫の出番、最後の準々決勝が開始されようとしていた。

 

「いよいよ雫さんの出番ですね」

「こらこら、美月が緊張してどうするの」

 

興奮した様子の美月をエリカがたしなめる。

 

「今度はどんな工夫を見せてくれるのかな」

「そうだよな。今度は何が飛び出してくるのか、予想がつかないぜ」

 

幹比古の弾んだ声にレオが応える。前に見た様子からすると幹比古はあまり魔法に積極的に興味を示すようには思えなかったのだが、どうやらこの前の話しが幹比古の中に何かしらの変化を与えたようだ。

 

「まるでビックリ箱だよ、彼の頭脳は」

「言えてる」

 

そんな会話を聞きながら俺は表情に出さず内心で細く笑う。ここまで期待されると、こちらとしても驚かせてやろうという気分になって来る。そして今回は間違いなく皆を驚かせることができるだろう。そして俺の予想は幹比古が驚愕の声を上げるという形で的中した。

 

「え、あれって……」

「どうしたんだよ?」

「あのCAD……?」

 

幹比古の視線の先には雫が抱えているCADに向けられている。その小銃型のCADは一見、他の競技用のCADと何も変わらないように見える。しかしよく見ると実弾銃の機関部分に当たる場所が少しだけ厚みがあった。

これだけで気が付くのは中々深い知識がなければ難しいはずなのだが、古式魔法を主にする幹比古が知っているということは幹比古がどれだけ試行錯誤し、努力をしたかがよく分かる。

 

「あれって……汎用型?」

「えっ、マジか?」

「えっ、でもあれは」

「小銃形態の汎用型ホウキなんて聞いたことがないよ? 第一、照準補助システムと汎用型の組み合わせなんて可能なの?」

 

次々に上がる、常識に基づく当然の疑問。しかし幹比古は既に確信を持っているようで、自信を持って頷いた。

 

「でもあのトリガー部分の上に配置されたCAD本体部分はFLTの車載用汎用型CAD『セントール』シリーズに間違いないよ」

「よくお分かりですね。あれは紅夜とお兄様のハンドメイド。汎用型CADで照準補助システムを利用する為に作ったものよ」

 

……深雪に台詞を取られてしまった。俺の言葉で驚く皆を見たかったのだが、まあ驚いた顔は見れたしいいだろう。

全員の視線が俺に集まっているのを感じながらそう考える。元から聞かれるだろうと予想はしていたので、別に説明をしても構わないのだが――――

 

「どうせだから使用する魔法を含めて、試合を見ながら説明するか」

 

俺がそう言って視線を競技場に向けると六人が示し合わせたように息を呑み、前を向いた。俺たち全員が視線を向けた先では競技開始のシグナルが点り始めていた。

 

 

 

開始と同時に紅白のクレーが空を舞う。準々決勝からは対戦型で百枚出て来る自分の色のクレーをより多く壊した方の勝利が決まる。雫が狙うべきクレーの色は紅。そしてその紅に塗られたクレーは有効エリアに入った途端に軌道を曲げて有効エリアの中央に集まり、衝突してお互いに砕け散った。

 

「収束系魔法?」

「正解」

 

美月の声に視線を前方に向けたまま答える。チラリと横目で見てみると俺と深雪以外の六人は不思議そうな顔をしていた。どうして汎用型CADでそんな単純な魔法を使うのか疑問なのだろう。しかしその疑問も有効エリアの奥を飛び去ろうとしていた一枚の紅のクレーが中央に引き寄せられて壊れるのと同時に砕け散った。

 

「収束系魔法と振動系魔法の連続発動か!」

 

幹比古が見事に正解を言い当てた。よく分かっていないという顔をしている美月の為に詳しく説明する。

まず魔法の及ぼす効果だが、これは収束魔法により有効エリア内のマクロ的に認識したクレーを中央部分の密度を高めるという方法で集めて衝突させることにより破壊するというものだ。この時、中央に自分の色の紅いクレーを集める為に副次的な効果として白のクレーが中央から離れるようになり相手選手の妨害も同時に行うことができるので戦術としてとても効率が良い魔法となっている。では何故汎用型を使用する必要があるかといえば幹比古の言った通り収束と振動系統の魔法を連続発動する為だ。今回使っている魔法はクレーどうしを衝突させて破壊するのでクレーが一枚の場合、クレーを破壊することができない。そこでクレーが一枚の場合、振動魔法が発動するようにプログラムされているのだ。ここで問題になるのが特化型CADは同系統の組み合わせしか格納できないという制限だが、汎用型にすることでその問題を解決したというわけだ。

以上の説明をすると皆が感心や呆れを含んだ表情で口々に賞賛していた。

 

「それであのCADはどういうことなの?」

 

エリカからの質問にどう答えるかと少し考え込む。話せることと話せないことを頭の中でまとめて話の流れを構成してから皆にある程度の説明をする。

 

「そもそも照準補助と汎用型のデバイスを一体化したデバイスの実例自体は過去にあるんだ。確か発表されたのは去年の八月だったかな?」

「去年って最新技術じゃねぇか!?」

「前にも言ったけど知り合いに工房がいるし、情報自体は一般公開されてるはずだ。まあ公表された試作品は、到底実用では使えないようなただ繋げただけの実験品だったけど」

 

俺の言葉に皆は絶句する。そもそも去年発表された技術を取り入れたこともすごいが、何よりも実験品を完成品のレベルに引き上げたことが重要だった。普通、こんなことは高校生のレベルでできることじゃない。今回は調べれば気付かれることだから簡単に話したが、こんな話をしているとそのうちトーラス・シルバーのことが気づかれてしまうのであまり良いことではない。兄さんは自己評価が低すぎてそのことに気が付いていないのだから変な所で鈍感だ。

 

「その実験品を元に改造、と言うかほぼ一からだな。兄さんがソフトを、俺がハードを担当して作り上げたのが雫の使ってるCADというわけだ」

「それはなんというか……」

「……凄いですね」

「凄いっつうか、高校生のレベルじゃねーよ」

「ていうか、達也だけじゃなくて紅夜もデタラメだったんだね……」

 

俺が続けると皆は既に絶句を通り越して口々に呆れを出していた。それと同時に雫が最後のクレーを破壊し、またもパーフェクトで準決勝に駒を進めた。

 

 

 

 

 





今回は魔法科高校の優等生のキャラを出してみました。と言っても、予定に無かったことなので、優等生のキャラが出て来ることはもうないと思います。

本当は今回で紅夜を競技に出したかったのですが、スピードシューティングで使う魔法が思い付かず中々筆記が進まなかったことに加え、少し私の予定が伸びてしまいました。なので今回の話しは8月中に間に合わせる為に急いで作ったものなのです。

さらに申し訳ないことに、私の予定がまだ残っています。なので次回の更新も遅れてる可能性があります。本当に申し訳ありませんが、ご了承ください。
まあ、出来るだけ早く投稿できるように頑張ります!



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