魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

16 / 53

今までの話でちょくちょく修正を加えていたりしますが、話しの流れには然程影響はないので、気にしなくても結構です。




九校戦編Ⅳ

 

 

 

九島烈との話の後、賊との戦闘という思わぬ事態があったが、翌日、九校戦は何事もなく開催された。選手は皆、一流の魔法師とはいえ、まだ高校生だ。選手の不安を煽るのは好ましくないとの判断から、昨晩の出来事を知る者は当事者の俺たち以外はほとんどいない。

 

開会式はあっさりと終わり、早速競技に入った。一日目の競技はスピードシューティング決勝までとバトルボード予選。そして原作知識によればこのバトルボードで摩利が妨害を受けて怪我をするはずだ。

しかし原作知識を誰かに知られることは絶対にする気はないので、摩利の事故を止めるつもりはない。心苦しくはあるが死にはしないし魔法師生命にも関わらないことなので優先順位として原作知識の秘匿の方が上だ。

そもそも俺というイレギュラーで原作知識とは違った展開になる可能性が高いので迂闊に介入するわけにもいかない。そうなると摩利や他の選手の命に関わらない保証もなくなるが、そこは直感で大丈夫だと判断した。どちらにしろ原作知識は墓まで持っていくつもりなので一生話すことはないだろう。今の俺は二生目だけど。

冗談はともかく、俺は原作知識が疑われるようなことはする気はないので、九校戦での妨害の対応は流れに任せることにすることにした。こういう時は自分の性格に感謝する。もしも俺がこういったことを簡単に割り切れる性格じゃなかったら、二次創作の心優しい主人公のように悩みに悩んでいただろう。

 

そんなことを考えている間にそろそろ真由美の試合が始まりそうな時間になっていた。

兄さんたちと一緒に会場に移動し一般用の観客席に陣取る。これから始まる真由美の競技はスピードシューティングで、予選は飛んできたクレーをどれだけ多く壊せるかを競い、準々決勝からは対戦式で百枚の自分の色のクレーを多く壊した方が勝ちという競技だ。なので一般的には予選と準々決勝以降は戦術を変えるのだが、真由美は予選からずっと同じ魔法を使うことで有名だ。

という話を兄さんたちと話しているとエリカとレオ、幹比古に美月が話に入ってきた。

 

「ハイ、達也君」

「よっ」

「おはよう」

「おはようございます。達也さん、深雪さん、紅夜さん、ほのかさん、雫さん」

 

四人も加わり、いつものメンバーが揃ったところでとうとう真由美の試合が始まろうとしていた。観客席が静まり返り緊張感が満ちる。

そして開始のシグナルが点ると同時に軽快な射出音と共にクレーが発射された。

 

「速い……!」

 

雫の言葉に俺も声を発さずに内心で同意する。真由美の魔法は三秒に一個、時には約十秒間で五個というハイペースで打ち出されるクレーを一個ずつ確実に撃ち落していた。俺も【叡智の眼(ソフィア・サイト)】を使えば同じことができるだろうが、あそこまでの速度で使える自信はない。それほどまでに真由美の【魔弾の射手】は発動速度が速かった。

そしてあっと言う間に五分が経過し、真由美のパーフェクトで試合は終了した。

 

 

 

真由美のスピードシューティングが終わった後、俺たちは摩利の試合を見るためにバトルボードの会場に移動していた。長い整備時間も終わり、四人の選手たちがスタートラインに着いた。

 

『用意』

 

スピーカーから合図が流れ選手たちが態勢を整え終わると空砲が鳴らされ競技が始まった。

 

「自爆戦術?」

 

呆れた声で呟くエリカの言葉が全員の気持ちを代弁していた。違うのは声が出ないほどに呆れているか否かである。

スタート直後に四高の選手が後方の水面を爆破したのだ。大波によって自分は推進し他の選手は攪乱させるつもりだったのだろうが、自分が制御できないほどの荒波を作ってどうするつもりなのか。当然他の選手も含めて荒波で態勢を崩し、唯一スタートダッシュを決めた摩利だけが無事に進み、早くも摩利の独走状態となっていた。

水面を滑らかに進む摩利のボードは硬化魔法の応用と移動魔法のマルチキャストが使われている。そういえば兄さんはこれを見て小通連を製作したのだったか。確か硬化魔法で分離した刀身の相対位置を固定して刀身を飛ばす魔法だったはず。いや、正確には飛ばすではなくて伸ばす魔法だったか。あの魔法は使い方次第ではかなり面白いことに使えそうかもしれない。どうせだから小通連作成を手伝のも楽しそうだ。

そんなふうに考えごとをしながら見ていた試合は摩利の独走のまま終了した。

 

 

 

 

 

午前に見る試合は摩利のバトルボードで最後だったので午後まで時間ができたが、俺と兄さんは昨日、風間と昼頃に会う約束をしていたので一旦別れてホテルに戻り、高級士官用客室に向かった。風間の部下に案内されて辿り着いた部屋では、風間を含め大隊の幹部たちが一服しているところだった。

 

「来たか。まあ、掛けろ」

 

風間にそう椅子を勧められたが、俺たちの階級を考えると人前で上官に対して遠慮なくとはいかなかった。だが、風間たちに今日は俺たち個人を友人として招いたのだから遠慮はいらないと言われ、そういうことならと円卓の椅子に腰を下ろす。

余談だが、実はこの円卓は独立魔装大隊のティータイムのため、円卓の精神をモットーに風間がわざわざ運び込ませたものだったりする。

 

「まずは久しぶりですね。ティーカップでは少し様になりませんが、乾杯と行きましょうか」

「藤林少尉。ありがとうございます」

「ありがとうございます。藤林さん」

 

藤林からカップを受け取ると、円卓に座った俺と兄さんを除いた風間、藤林、そして柳、真田、山中先生の五人と適当に挨拶を交わした後、ティーカップに口をつけながら話を始めた。

 

 

 

しばらくはたわいない話をしていたが話題は自然と現状報告になり、九校戦とそれに対する犯罪組織についてになっていた。

聞かされたのは昨日捕らえた賊が無頭竜(ノー・ヘッド・ドラゴン)だということ、しかし相手の狙いが何かは分からないということだった。捉えた賊に口を割らせることなどここにいるメンバーならば造作もないことなはずなのだが、どうやら今は積極的に関わるつもりはないらしい。

さらに話は移り変わり、九校戦についての話題になる。

 

「チームメイトはトーラス・シルバーのことは知っているのか?」

「いえ、それは一応秘密ですから」

「そもそも俺はエンジニアではありませんよ」

「それでも達也君はエンジニアで参加するだろう。それに君も立派な戦略級魔法師だ。レベルが違いすぎるんじゃないか?」

「真田大尉、二人ともれっきとした高校生ですよ?」

 

俺自身がもっともだと思う疑問を真田が言い、藤林が笑いながらそれをたしなめる。

 

「達也くんは選手として出場しないの? フラッシュキャストがあれば結構いい線いくと思うんだけど。いざとなれば【マテリアル・バースト】はともかく【雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)】もあるんだし」

「藤林君、物質を分子レベルまで分解する【雲散霧消(ミスト・ディスパージョン)】は、殺傷性Aランク相当。完全にレギュレーション違反だよ」

「あら、真田大尉、ご存じないんですか? 九校戦の殺傷力規制は対人の影響がある競技に掛けられたもので、スピードシューティングとピラーズブレイクは対象外なんですよ」

 

そこまで言ったところで藤林は突然何かを思い出したように俺の方向に身体を向けなおした。

 

「そういえば紅夜君の出場する競技って新人戦のスピードシューティングとピラーズブレイクじゃなかったかしら」

「そうですよ」

「……それってつまり、紅夜君は本気で魔法を使えるってことかい?」

 

俺が藤林の問に簡潔に答えると真田が微妙な苦笑いをしながら疑問を発する。しかしそれは本当に疑問を感じているのではなく、あまり信じたくないことを確認する為のようなものだった。

 

「ええ、ですから少し本気を出そうかと思ってます。一条の実力がどんなものか楽しみですよ」

 

俺がとてもイイ笑顔で答えると真田だけではなく藤林や柳たちも一緒に顔を引き攣らせた。本人たちは聞こえていないと思っているのだろうが、俺の耳には藤林たちが「一条、哀れ」と呟いているのをばっちりととらえていた。……失礼な、ちょっと一条で遊ぼうと思っただけだというのに。ただこういう機会以外に本気を出せることが殆どないから少しはしゃいでるだけだ。真夜に許可を貰っているというのが理由の大半を占めているが、わざわざ真夜の名前を出して面倒なことにするつもりはないので風間たちには教えていない。

まあ、九校戦で【灼熱劫火】のような魔法は使うつもりはないので一条とはかなりいい勝負になるかもしれないから、本当に一条と戦うのが楽しみだというのも偽らざる俺の本音だけどな。

 

 

 

 

 

「達也くん、紅夜くん、こっちこっち!」

 

風間たちとのティータイムを終えた俺と兄さんはスピードシューティング女子決勝トーナメントが行われる会場に来ていた。会場で待ち合わせをしているメンバーを探していると俺たちを先に見つけたエリカから声がかけられる。

人の波の間をすり抜けるように進みエリカたちが確保してくれていた席に座り、しばらく雑談をしていると、とうとう試合開始の時間になり、真由美がシューティングレンジに姿を現した。途端に観客たちから凄まじい歓声が沸き上がる。会場の大型ディスプレイに「お静かに願います」と文字が表示されて波が引いていくように静かになるが、会場の熱気は数段増したように感じられる。まさかここまで真由美が人気だとは思っていなかったので少しの驚きと共に対戦相手への哀れみが湧き上がってきた。哀れむだけだが。

真由美がCADを構えると対戦相手も構えをとると競技開始のシグナルのライトが一つ点る。そして一つずつ増えていったライトが五つ点った瞬間、クレーが射出され空中を飛び交い始めた。

決勝トーナメントからは対戦方式になっているので、赤と白のクレーが宙を舞う。真由美の撃ち落すべきクレーは赤。赤いクレーは有効エリア内に入るとほぼ同時に全て撃ち砕かれていく。

 

「えっ?」

 

驚愕の声がほのかから思わずといったようすで漏れた。ほのかのみならず声に出さずとも他のメンバーも驚いているのが感じられた。

 

「【魔弾の射手】……去年より更に早くなっています」

 

深雪の言葉に兄さんがうなずいて同意を示した。真由美の得意としている【魔弾の射手】は【ドライブリザード】を原型に七草が作り上げた魔法式でフレキシブルな威力設定と使用コストも安いことをセールスポイントとしているが、何よりもドライアイスの形成座標を遠隔ポイントに設置できることが最大の強みだ。これにより相手の魔法干渉領域の外からクレーを撃ち落し真由美がパーフェクトで圧倒的な勝利を決めた。

 

 

 

 

 





今まで並列で作っていたプロットに少し余裕ができました。
これで、これからは少し楽に書ける……。

……そもそもプロットを並列して書くってことが、おかしかったんですけどね。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。