魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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お待たせ致しました!
一週間以内に投稿したいと言っておきながらこんなに遅くなってしまい誠に申し訳ございません m(_ _)m

次回からもこんな感じの不定期更新となってしまいそうですが、何卒お許しください。




九校戦編Ⅱ

 

 

 

 

 

九校戦へ出発する日。

会場に向かう為、バスに乗り込み出発を待つ中、はぁ、とため息を吐きたくなるが、表には出さずに内心に留める。チラリと横を見るとそこには黒いオーラを発している深雪がいた。憂鬱な気分で何故こうなった、と少し現実逃避気味に過去を思い出す。

 

兄さんのエンジニア入りが決まった少し後、正式に九校戦のメンバーが発表され、その際に一科生のエンブレムが付いたブルゾンを着た兄さんを見てから、深雪はしばらくの間、いや、先ほどまではかなりご機嫌だった。それは間違いない。では何故、今はこんなに不機嫌なのかといえば――――

 

「……まったく、誰か遅れて来るのが分かってるんだから、わざわざ外で待つ必要なんてないはずなのに……。何故お兄様がそんなお辛い思いを……」

 

というわけだ。兄さんが遅れた誰か――――真由美なのだが――――の所為で炎天下の中待たされているのが我慢ならないらしい。もちろん遅れたのが真由美だと教えるつもりはない。真由美は家の事情で遅れたのでしょうがないともいえるのだが、今の深雪はそれを分かっていても真由美に文句を言いに行きそうな雰囲気を発していた。まあ、実際にそんなことをするとは思っていないが、わざわざ教えて深雪の機嫌を悪くするつもりはなかった。というか、そもそも機嫌の悪い深雪の隣には座りたくもなかったのだが、姉弟なんだから深雪の機嫌を直してこいと無茶を押し付けられたのだ。いくら姉弟とはいえ、こんなにも機嫌の悪い深雪を鎮める方法など兄さんに頼むことしか知らない。本当にどうしてこうなった、と今度は隠すこともなくため息を吐く。

どうにかして深雪の機嫌を直す方法はないかと必死に頭をひねっていると、ふと、天啓のように原作知識を思い出した。

 

「兄さんも変なところでお人よしだよな。バスの中で待ってても文句を言う人はいないだろうに、わざわざ『選手の乗車を確認する』なんて面倒なことをするなんて、俺にはとてもできないよ」

 

俺はそう言いながら雫に目くばせする。雫は俺の意図に気が付いてくれたようで、いつもの無口からは想像できないほど饒舌に言葉を発した。

 

「紅夜くんの言う通りだよ。確かに出席確認なんてどうでもいい雑用だけど、そんなつまらない仕事でも、手を抜かず、思いがけないトラブルにも拘わらず当たり前のようにやり遂げるなんて、なかなかできることじゃない。深雪のお兄さんって、本当に素敵な人だね」

 

俺と雫の言葉に気を良くした深雪からは、先ほどまでの威圧感が消し去った。そんな深雪を見て、俺と雫は顔を見合わせて大きく頷く。深雪の機嫌を良くしただけなのに何故か俺と雫の間には、妙な達成感が生まれた。

 

 

 

 

 

深雪の機嫌が直り、鬱陶しい男子から逃げる為にも自分の席に戻った俺は、うとうととしながらのんびりとした時間を過ごしていた。普段はこういった大勢の人がいる中で寝ることはしないのだが、九校戦本番まで残り僅かなのに寝不足気味なのでコンディションを少しでも整える為にもこうしてのんびりとしているのだ。何故寝不足なのかといえば、この前の真夜の話の所為である。

戦略級魔法師として、大々的に――――とまではいかないものの、十師族や各国の魔法関連の上役に発表された俺の存在は国のバランスを動かすには十分過ぎる存在であり、その為いろいろと動く必要があったのだ。

それに加えて九校戦の為の魔法式の開発などをしていたら寝不足になるのも当然というものだ。まあ、後半の理由は完全に自己責任だが。

とにかく、そんなわけで久しぶりにのんびりとした時間を味わっていたのだが、そんな時間は唐突に終わった。

 

「危ない!」

 

そんな声に夢現とした状態から一気に現実に引き戻された。他の人達に倣い窓の外を覗くとそこには空中を舞いながらこちらに向かって突っ込んで来る車だった。反射的に【叡智の眼(ソフィア・サイト)】を使うと、車内から発動された魔法によって改変されたエイドスを視ることができた。

久しぶりの時間を台無しにしてくれたあの車を消し飛ばしてしまおうかと危ない考えが頭をよぎるが、小さく頭を振るとここは他の人達に任せることにする。実は俺が戦略級魔法師として発表されたので、そこまで行動を制限する必要はない。実際、この場に残る魔法式の残滓を吹き飛ばしたうえで魔法を使うことも可能なのだが、わざわざ公にする必要もないだろう。

俺は兄さんの【術式解散(グラム・ディスパージョン)】が魔法式の残滓を吹き飛ばしたのを確認すると俺たちと兄さんたちの乗っているバスに減速魔法をかけようとして、俺たちの乗っているバスには鈴音が減速魔法を使おうとしていることに気がつき、魔法を兄さんたちのバスだけにかける。それと同時にちゃっかり自分に収束系統の硬化魔法を使い座席との相対位置を固定しておく。

そして深雪たちの魔法が発動し、事態は無事に収束した。

 

「みんな、大丈夫?」

 

真由美の声に全員がハッと我を取り戻す。

 

「十文字くん、ありがとう。深雪さんも素晴らしい魔法だったわ」

「光栄です、会長。ですが、魔法式を選ぶ時間ができたのは市原先輩がバスを止めてくださったからで、そうでなければとっさにどんな無茶をしたことか、自分でも少し怖いです。市原先輩、ありがとうございました」

 

そう言ってお辞儀をした深雪に周囲は驚愕を露わにする。そんな中、鈴音は平然とした表情のまま会釈をすると口を開く。

 

「確かに私はこのバスに減速魔法を行使しましたが、それは紅夜さんも同じです。いえ、紅夜さんの方が発動速度は早かったうえに作業車にも魔法を行使していました」

 

鈴音の言葉に周囲の人たちは目を見張った。

 

「私がこのバスに魔法を行使したのに気がつき作業車の方にのみ減速魔法をかけていましたが、それがなかったら後ろの作業車と衝突していたかもしれません」

「……そうね。紅夜くん、本当にありがとうね」

 

真由美がそうお礼を言ってくるが、特に大したことはしていないので謙遜し過ぎないようにしながらも謙虚に真由美のお礼を受け取った。

…………イメージ戦略って大事だよな。

 

 

 

 

「では、先ほどのあれは事故ではなかったと……?」

 

あんな事があったりしたが、無事に宿泊予定のホテルに着き、自分たち荷物の運び出しをしながら兄さんと深雪と一緒に行動する。ただし内容は他人には聞かせられないことなので他の集団とは少し離れて歩いていた。

 

「あの自動車の跳び方は不自然だったからね。調べてみたら、案の定、魔法の痕跡があった」

「俺もあの時、車内から魔法が行使されたのを確認した」

「車内から? それはつまり……」

 

深雪の予想に兄さんが一つ頷き、その予想が当たっていることを肯定した。

 

「魔法が使われたのは三回。最初はタイヤをパンクさせる魔法。二回目が車体をスピンさせる魔法。そして三回目が車体に斜め上方の力を加えて、ガード壁をジャンプ台代わりに跳び上がらせる魔法。何れも車内から放たれている」

「恐らく魔法が使用されたことを隠す為だろうな。現に、兄さんと深雪も含めて優秀な魔法師がいたのにあの時は誰も気が付かなかった。俺も反射的に【叡智の眼(ソフィア・サイト)】で車を視ていなければ気が付かなかっただろうな」

「では、やはり魔法を使ったのは……」

「犯人の魔法師は運転手。つまり、自爆攻撃だよ」

「卑劣な……!」

 

深雪は肩を震わせ怒りを発露する。

人間としてはいいことだが、四葉の後継者候補としては一々反応していてはきりがないことだろう。

兄さんが深雪を慰めるようにポンポンと肩を叩くと再び歩き出した。

 

 

 

 

 

 

あの後エリカたちに会ったりしたが、用事があった俺は兄さんと共にすぐに別れてしまったので、殆ど話すことができなかった。そんなこんなであっという間に夕方になり、パーティーが始まる時間となっていた。

家の関係上、パーティーには何度も出たことがあるが、やはりあまり好きにはなれない。しかも、これから始まるパーティーは、プレ開会式の役割も含めているので和やかさよりも緊張感が目立ち楽しめるようなものではない。…………まあ、後継者問題やら何やらの関係で、笑顔のまま毒を吐き合う腹黒いパーティーよりも断然気が楽だが。

四葉関連のパーティーでは亜夜子と文弥は癒しに感じるくらいだしな。

 

そんなことを考えていると、とうとう会場に向かう時間となり移動をする。パーティー会場に入るとそこには既に大勢の競技関係者が集まっていた。

短い開会の後それぞれ好きな飲み物や料理をとって食べ始める。当然のことながら高校生のパーティーなのでアルコール類のものはない。ちなみにだが、俺は四葉の教育の一環としてかなり度数が高いアルコール類の飲み物も飲めたりする。個人的にはビールよりワインの方が好みだったりするが今は関係のないことだ。

俺も早速料理を取り終わった時、兄さんと深雪を見つけた。

 

「兄さん、深雪。料理はまだ食べてないのか?」

「紅夜か。実はさっきまでエリカと話していたからまだ料理は食べてないんだ」

 

二人に声を掛けると兄さんがそう返してきて驚く。

 

「エリカもこの中に来てるのか。でもどうやって?」

「エリカは給士としてここに来たそうよ」

「成る程、関係者ってそういうことだったのか」

 

そういえば原作でもそんな描写があった気がするな。

 

「深雪、紅夜くんも、ここにいたの」

「達也さんもご一緒だったんですね」

 

背後から声を掛けられて振り向くとそこには雫とほのかがいた。

 

「雫、わざわざ探しに来てくれたの?」

「ほのか、雫。……君たちはいつも一緒なんだな」

「友達だから別行動する理由もないし」

 

兄さんの質問に恥ずかし気もなく平然と返す雫にそりゃそうだと納得する。

兄さんが二人のことを名前で呼ぶようになったのはつい先月のことだ。ほのかの熱心なお願いもあったが、なによりも雫の無言の圧力に屈したようだった。正直、あの時の雫には俺も恐怖を覚えたほどだ。

 

「他のみんなは?」

 

あまり気乗りがしない様子で雫とほのかに尋ねる。

 

「あそこよ」

 

そう言われてほのかの指差す方向を見ると、そこには男女共に同じ場所で固まっていてこちらの様子をうかがっていた。

 

「深雪と紅夜くんの側に寄りたくても、達也さんがいるから近づけないんじゃないかな」

「何だそりゃ。俺は番犬か……?」

 

雫たちと普通に話しているので忘れがちかもしれないが、俺も深雪ほどとはいかなくてもかなりの美形だ。深雪が神の作った奇跡の造形とすれば俺は人間の作った最高の造形といったところか。そんなわけで俺のことを狙っている女子は結構多かったりする。なので慣れてるとはいえ、兄さんが女子避けになってくれるなら俺としては願ったり叶ったりだ。

 

「みなさんきっと、達也さんにどう接したらいいのか戸惑っているんですよ」

 

ほのかが慰めに言ったセリフだが、俺はあながち間違いではないと思っていた。

 

「バカバカしい。同じ一高生で、しかも今はチームメイトなのにね」

 

突然割って入った新な声に少し驚きながらその方向を見ると千代田花音と五十里啓がグラスを片手に会話に混じってきた。

 

「分かっていてもままならないのが人の心だよ、花音」

「それで許されるのは場合によりけりよ、啓」

「どちらも正論ですね。しかし、今はもっと簡単な解決な方法があります」

 

そう言って兄さんは俺と深雪に視線を向ける。その意味を理解した俺は面倒だと思いながらも一つ頷く。

 

「深雪、行こうか」

「だけれど……」

「後で部屋においで。俺のルームメイトは機材だ」

 

俺の言葉に深雪は渋るが兄さんの後押しもあって、渋々ではあるが頷いた。

 

「……分かりました。では、後ほど」

「俺も後で行くから、また」

 

雫とほのかの二人も兄さんに挨拶をすると、俺たちは一高生の集団に混ざる為に兄さんたちと別れた。

 

 

 

 

 





今更ですけどハーレムっていう選択肢もありですかね?
でもハーレムを書くのって難しそうですよね。ハーレムものの作品を書いてる作者さんは尊敬します。



以下本編の補足的な何か

【激おこ深雪さん】
雫とのコンビプレイ。ヒロイン有力候補とはとりあえず仲良くさせておくスタイル。

【影から支える俺、超cool!】
ちゃっかり硬化魔法。収束系統だから割と得意。

【腹黒パーティー】
イイ笑顔で毒を吐く。怖い、四葉家超怖い。

【ワインを嗜む紅夜】
成人前にお酒はダメ、絶対。

【イケメン紅夜】
分かる人には分かりそうな、ちょっとした伏線的なものを入れてみたり。

【番犬達也】
ワンワン!
……ギャプ萌え?


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