魔法科高校の劣等生 〜夜を照らす紅〜   作:天兎フウ

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すみません。
体調があまり良くなくて遅れました。

今回は短いです。




入学編Ⅴ

 

 

 

 

 

 

部屋の中央、全員が見守る中で、紅夜と服部は五メートルの間を開けると向かい合った。

 

「ルールはさっきと同じだ。破った場合は即敗北が決定するので、気を付けるように。それでは両者、準備はいいか?」

 

服部は腕に付けたCADに手をかざし、紅夜は携帯端末型のCADを持った手をだらりと下げて構え、摩利の問に頷く。

二人の間に緊迫した空気が張り詰め、部屋には自然と静寂が訪れる。

 

「それでは、始め!」

 

静寂を打ち破るように発せられた開始の合図と同時に、二人はCADに指を走らせる。

サイオンが流し込まれ、呼び出された起動式を魔法演算領域に読み込む。ここまでの速度は互角、しかし、ここからの工程が本番だ。

読み込んだ起動式に変数を設定すると魔法式を構築、そして構築された魔法式をイデアに転写、そしてイデアから魔法式がエイドスを改変する。

ここまでの工程に紅夜が要した時間は約0.2秒、人間の反射速度と同じ、つまり、通常の(・・・)魔法師が意識的に(・・・・)出せる最速だ。対して服部が要した時間は約0.3秒、紅夜に比べれば遅いが、これも十分に早い。そもそもプロの魔法師の魔法式の展開速度が大体0.3~0.4秒くらいなのだ。これを聞けば服部がどれだけ卓越した魔法師かが分かるだろう。

 

それでも、並の魔法師とは絶対に言えない紅夜には及ばない。服部よりも早く発動された魔法がエイドスを改変する。

発動された魔法は、紅夜が振動魔法に次いで得意である収束魔法。空気を圧縮して撃ち出すだけの単純な魔法だが、紅夜が使う収束魔法はレベルが違った。

 

風弾の数、なんと二十。

 

唖然とする生徒会の面々の中で、戦闘中ということもあって、いち早く我を取り戻した服部が慌てて障壁魔法を展開する。

前方から迫り来る風弾をなんとか防いでいると突然足元に魔法の兆候を感じた。

 

(ちっ、マルチ・キャストか!)

 

内心で悪態を吐きながら、領域干渉で魔法を凌ぎきり、中断していた魔法を発動させる―――つもりだった。

 

「なっ、消えた!?」

 

達也との戦闘と同じ展開、しかし当然ながら達也との戦闘を踏まえて服部は紅夜の動きに注意していたし、そもそも達也の時のように突然消えるのではなく、揺らぐようにして掻き消えたのだ。

 

「残像だ」

 

硬直した服部の耳元でそんな声が聞こえた瞬間、突然目の前の視界が歪み、そのまま服部の意識は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前で服部が倒れるのを確認すると、ふぅ、と一息を吐く。それと同時に摩利の勝者宣言がされた。

兄さんの試合がインパクトが強すぎたからなのか、生徒会の面々も先程よりは落ち着いていた。

それでも、一様に驚愕の表情をしていることに変わりはなかったが。

 

「驚いたな、まさか純粋な魔法技能だけで服部に勝ってしまうとは……」

「魔法技能だけ? 紅夜さんが服部副会長の後ろに回り込んだのは、体術じゃないんですか?」

 

摩利の言葉にあずさが疑問の声を上げる。

その疑問に答えたのは俺ではなく真由美だった。

 

「幻影ね、しかもマルチ・キャスト。あれは結構な高等技術なのだけれど……まさか紅夜くんが使えるなんてね」

「正解ですよ。会長、さすがですね」

 

今回、俺がしたことは単純だ。

まずは収束魔法による風弾を服部の前方に配置。本来なら風弾を全方位から打ち出すことができたが、敢えて前方から射出した。

服部が対応している内にマルチ・キャストで待機させていた魔法を足元に展開。当然の如く服部は対応してきたが、それは計算内。服部が足元に気をとられている隙に再びマルチ・キャストで光を屈折させて幻影を使い服部の後ろに回り込んだ。そして、最後に振動魔法で三半規管を乱してやれば終了だ。

 

以上のことを簡単に説明すると、全員が感心したように頷いていた。

 

「今の試合で収束魔法をたくさん使ってたけど紅夜くんの得意魔法って収束魔法なの?」

「いえ、違いますよ。収束魔法は二番目に得意な魔法です」

「じゃあ一番得意な魔法は?」

「振動加速系統ですよ。まあ、試合には使えない魔法ばかりなので今回は使えませんでしたけど」

 

真由美の質問に軽く答えていく。

あまり手の内を晒すのは良くないが、この程度ならすぐにバレることなので構わないだろう。

それにしても、本当にこういう試合や捕獲などには俺の魔法は向いてない。振動加速系統では相手を傷つけることなく戦闘不能にするのは難しいからな。深雪の振動減速系統なら可能だろうが。

やはり、深雪とは違って、俺は止めることよりも壊すことの方が似合ってる。

 

「しかし、君もなかなか酷いことをする」

「何のことでしょう?」

 

考え込んでいたところで摩利に声を掛けられ、ハッと意識を取り戻す。

 

「達也くんの試合で軽いとは言えサイオンに酔ったところに、さらに三半規管を乱すなんてことをしたら、服部が目を覚ましても、しばらくは相当気持ちが悪いだろうな」

「……振動魔法を使ったのは、偶々ですよ」

「そういうことにしておいてやろう」

 

何が面白いのか、くつくつと笑う摩利を見て、俺は思わずため息を吐いた。

 

 

 

 

 

さて、あの後無事に生徒会入り次の日を迎えたわけだが、俺は早速生徒会に入ったことを後悔していた。

魔法科高校といえど、当然クラブというのは存在する。まあ、そのクラブの内半数近くは魔法関連のクラブだが。それでも、魔法が関わっていようがなかろうがクラブとして成立するには、ある程度の人員と実績が必要なのは当然だ。そのためクラブの新人勧誘活動の期間があるのは必然、期間中の生徒会が忙しいのも必然だ。そして、俺たちが生徒会または風紀委員に入った次の日、つまり今日から新人勧誘活動期間が始まるのもきっと必然なのだろう。

何が言いたいのかといえば、生徒会に入った次の日から殺人的な量の仕事をやらされているということだ。

幸いと言っていいのか、俺はデスクワークではなく巡回なので程よくサボることができるが、それでも言い争いに介入するのは精神的に疲れるし、偶に俺が一年生だということで取り締まろうとすると逆切れして一触即発の空気になることもある。

 

そんなわけで逆恨みでしかないことは分かっているが、脳裏で満面の笑みを浮かべた生徒会長に呪詛を送りまくる。

頭の中で下らないことを考えているとはいえ、ちゃんと巡回はしているので当然騒ぎがあれば気が付く。どうやら場所は体育館のようだ。

 

「そこの君たち、中で何が起きてるのか教えてはくれないかい?」

 

丁度体育館から出てきた女子生徒に、笑顔を浮かべながら普段は使わないような気障な口調を意識しながら問いかける。案の定頬を染めた女子生徒たちは中で何が起きてるかを一生懸命に教えてくれる。

どうやら体育館で騒ぎを起こしたクラブが、止めようとした二科生の風紀委員に逆上して乱闘になっているらしい。

 

……そういえば原作でそんなシーンがあったな。まあ兄さんなら問題ないだろうし、観戦にでも行くか。

情報を教えてくれた女子生徒にお礼を言うと体育館内に向かった。

 

 

中に入ると中央に人だかりができており、時々罵倒や怒声が響いてくる。

そんな人だかりの様子を一歩下がったところから見ていると、その人だかりの中にエリカを見つけた。

 

「よっ! エリカ」

「紅夜くん? なんでここに」

 

近づいて声を掛けると驚いた様子で振り返る。

 

「騒ぎを聞きつけてな、話を聞いたら兄さんだと思って観戦しに来たんだよ」

「観戦って、助けなくていいの?」

「アレ見て助ける必要があると思うか?」

「……それもそうね」

 

二人で視線を向けた先には兄さんが剣術部を相手に楽々と無双をしていた。

 

「でも、生徒会としては止めなきゃいけないんじゃない?」

「大丈夫だ、そこらへんの言い訳は考えてある。それに、あんな面白そうな状況を止めるなんて……じゃなかった。二科生だからって襲いかかるような奴は粛清されるべきだ」

 

おっといけない、本音が漏れかけてしまった。まったくこれっぽっちも、面白そうとか考えてないぞ? ちょっと返り討ちにされる一科生の表情が最高だなぁ、と思っただけだ。

そんなことを考えていると何かしらオーラを感じ取ったのかエリカが微妙に引いていた。

 

「紅夜くんってさ、性格悪いって言われない?」

「おいおい、酷いな。性格について文句を言われたことはないぞ。ドSとなら言われたことはあるが」

「同じじゃん! てか、そっちの方が酷いよ!」

「因みに俺をドSと言った女は、顔を赤くしてハアハア言ってたな」

「そんなこと知りたくもなかったよ!」

「ああ、魔王の再来と言われたこともある」

「もういいって!」

「随分疲れてるようだが、大丈夫か?」

「……紅夜くん、絶対、性格悪いって言われたことあるでしょ?」

「実はそうなんだ」

「今までの流れ全否定? っていうかデジャヴ」

「後は兄さんと一緒に、邪神と呼ばれたな」

「だからもういいって!」

 

その後も兄さんの乱闘が終わるまでエリカを弄り続けた。

 

 

 

 

 





ヒロインの意見を募集したことで運営から注意されてしまいました^^;
ご迷惑をかけてしまい、まことに申し訳ございませんでした。m(_ _)m
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