Fate/ONLINE   作:遮那王

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さて、十日ぶりぐらいの更新。
自分なりには結構早く更新できたかなと思ってます。

皆さんの感想、いつも読ませて頂いて、本当に励みになっています。
読んでいて思って事が一つ。

ランサーファン多いな(笑)。

そんなランサーファンの皆さん最初に言っておきます。

ごめんなさいm(__)m。

てな訳で、第二十九話 裏切りの刃。

どうぞ。




第二十九話 裏切りの刃

ランサーのマスター、サチは元々臆病な人間である。

 

それ故、彼女は接近してからの攻撃が出来なかった。

たとえ盾を持っていても同じ。

敵に…モンスターに近づくのが怖い。

その恐怖心がいつも勝る。

 

だからこそ、彼女のギルド内でのポジションは決まって遠くからの槍の攻撃であった。

 

だが、聖杯戦争のマスターとなったことで彼女は変わってしまった。

聖杯を自ら手に入れ、運命を変えるために彼女は自らを内に押し込めた。

 

彼女は偽った。

臆病な自分を隠すために。

聖杯を手に入れるために。

 

そして彼女は人との接触を断ち、ランサーを強くする事だけを考えた。

誰よりも強くなる。

そして、すべてのサーヴァントを倒す。

 

それは同時に、彼女が愛しく思っていた少年も敵に回すことを意味している。

 

彼女は自らの感情をすべて内に隠し、そして非常な決断をすることになる。

 

----------------------―

 

ランサーは、宿舎の屋根の上で一人、

しゃがみ込んで遠くをじっと見つめていた。

変わり映えのない地平線をのぞむ。

そもそも地平線が有るかどうかも疑問であるが。

 

彼はいつもこうやって屋根の上から遠くを眺めていた。

理由は単純、他のマスターやサーヴァントが近づいたり、嗅ぎ回ったりしていないかの見張りのため。

たとえ、それが圏内であっても油断はできない。

尾行されたり、見張られたりすることだってあるのだから。

 

ランサーは、一通り見まわし、異常のない事を確認すると、体を翻らせその宿の一室の窓へ飛び込んだ。

そこが彼女のマスターであるサチの借りている宿であるからだ。

 

部屋の主はすぐに見つかる。

 

一室の隅のベッドの上でサチは蹲る様に座っていた。

 

「―――――はぁ」

 

その姿を見た瞬間、ランサーは思わずため息をついた。

彼女のその様な姿は、今まで何度も見てきた。

夜になると必ず、彼女は眠ることなくその体制のまま夜を明かすのだ。

 

「……」

 

サチはその態勢のまま、ただじっとしているだけ。

何を話すわけでもなく、ただじっと――――――――。

 

ふだんなら、ランサーはそれに見かねてそのままほっておいて部屋から出て行くのだが、今回ばかりはそれをしなかった。

 

やがて彼女は、その重い唇を開いた。

 

「……ランサー、私最低だ」

 

湿った声がランサーの耳を打つ。

涙声ながらも必死で言葉を紡ごうと口を動かす。

 

「キリトに……あんな酷い事を……言って……こんなの……私の唯の我儘なのに……」

 

膝を抱え込む腕に更に力が入る。

そんなサチの姿にランサーは目つきを鋭くしながら、でも言葉を発せず黙って彼女の言葉を聞いていた。

 

「ズルイよね……私。キリトに…あんなに…助けて貰っておいて、勝手に…もう会わないでって……私…嫌な子だよね」

「そこまでだ、嬢ちゃん」

 

今まで黙っていたランサーが口を開いた。

相変わらず、ぶっきらぼうな口調だが、やや穏やかさも見えている。

 

「それ以上は話すな」

 

これ以上話すことはない。

話せば、彼女はまた自分自身を責めることになる。

 

これ以上、彼女が卑屈になっていけば、戻れるものも戻れなくなる。

ランサーはそう判断した。

 

「何でもかんでも自分のせいだと決め付けちまうのは、嬢ちゃんの悪い癖だ。もっと冷静になって、周りを見てみろ」

 

そう言い、ランサーは光の結晶を撒き散らしながら姿を消した。

 

部屋に残されたのは、サチ一人。

 

体を抱えながら、なおも自分を責め続けていた。

 

「(――――――ランサー……無理だよ。私は、貴方みたいに強くないんだから。周りを見たって……キリトが許してくれるはずないじゃない)」

 

部屋の中にまた、嗚咽が響く。

もはや、彼女の精神は限界に近い。

相棒のランサーでさえ、その傷を癒すことはできない。

 

その傷は、自分自身で治すより他に無いのだから。

 

そんな中で、サチはおもむろに右手を動かした。

ウィンドウを表示させると、いくつかの工程を踏みあるウィンドウを開く。

 

フレンドリスト。

 

かつては何人ものプレイヤーが表示されていたが、今では一人も登録されていない。

否、登録はあるがもう意味を果たしてはいなかった。

 

グレーに表示されているプレイヤー名。

 

それを見て、サチは再び顔を俯かせた。

もう彼らとは会うことも出来ない。

この世界から……そして向こうの世界からも永久に消えてしまったのだから。

 

瞳から、大粒の涙が零れ落ちる。

 

背中を丸め、顔を下に落とす。

彼女は孤独に耐えるため、再び蹲ろうとする。

 

 

 

だが、その静寂の時間は唐突に破られた。

 

 

 

彼女のウィンドウに、新たなメッセージを受信したと知らせが届いたのだ。

 

「……え?」

 

困惑しつつも、彼女はメッセージを開くべく右手を動かした。

差出人の名前を確認する。

 

次の瞬間、彼女は大きく目を見開いて、そして焦ったようにメッセージの内容を確認した。

 

「――――――!」

 

もはや言葉にすることも出来ない。

先程まで、彼女の顔の中にあった絶望が、跡形もなく消えていた。

今の表情を言うならば、驚愕と希望。

 

サチはメッセージをものの数秒で読み終えると、焦ったかのように部屋を飛び出した。

ウィンドウを操作する時間もじれったいのか、装備を変更する事もなく、部屋着のまま。

 

宿の扉を乱暴に開くと、猛然と走りだした。

普段の彼女には見られない乱暴さだ。

 

そんな彼女に驚いたのは、他でもないランサーである。

 

今まで、こんな彼女を見たこともなかったので彼の驚きはもっともなことだ。

 

「(おい!嬢ちゃん、どうしたんだそんなに慌てて!何かあったのかよ!!)」

 

ランサーが霊体化しつつも、彼女に問いかける。

 

「……」

 

答えない。

 

彼女はランサーの問いを無視し、ただ走り続けた。

 

「(おいおい―――――――、一体なんだってんだ)」

 

愚痴りながらも、彼女を止めることはしない。

きっと何か彼女をそうさせる理由があるのだろう。

 

ランサーはそう思いながら、彼女についていく。

 

サチのメッセージにはこう書かれていた。

 

『今から会えない?場所は―――――――』

 

その場所は、彼女がよく知っている場所だった。

 

あの時以来、足を運んでいなかった。

彼女にとっては辛い思い出の場所。

 

それでも、行かないわけにはいかなかった。

 

なぜなら……

 

差出人―――――――From KEITA

 

そう記されたいたのだから。

 

----------------------

 

目的の場所には、十分足らずで到着した。

 

泊っている宿から、転移門まではそこまで離れていなかったし、その目的の場所も転移門からあまり遠くない場所であった。

 

彼女は、約束の場所周辺で足を止める。

あと少し歩けばその場所だ。

 

「ランサー……出てきて」

 

自らの相棒を呼ぶ。

 

「どうした、嬢ちゃん」

 

怪訝な顔をしながら姿を現すランサー。

その表情は、困惑が浮かんでいる。

 

「ここからは一人で行かせて」

 

その言葉に、ランサーは目を見開いた。

 

「馬鹿か嬢ちゃん。嬢ちゃんがなんであんなに焦っていたかは知らねぇが、付いてくるなとはどういう……」

「ランサー」

 

彼女はランサーの言葉を途中で止めると、真剣な表情で彼の目を見る。

 

「お願い」

 

その表情は、今まで彼が見たこともない彼女の顔だった。

何かを決意したような真剣な表情。

 

「……ハァー」

 

本日二度目のため息。

彼女の真剣な表情にランサーは折れた。

 

「分かった――――――――嬢ちゃんがそこまで言うんだ、何か重要な事なんだろう」

 

だが、とランサーは付け加える。

 

「離れていても様子だけは見させてもらう。それが条件だ」

 

そう言うと、ランサーは霊体化し、その場から消えた。

 

「ありがとう」

 

サチはそう言い、暗くなったフィールドを歩き始めた。

真っ暗闇のフィールドは不気味な雰囲気を醸し出しているが、今の彼女は気にも留めない。

 

それほど、彼女の中で彼との再会は重要なものだった。

 

少し歩いたところで、彼女は不意に足を止めた。

その場所は、自分が初めてキリトとあった場所。

彼女にとっても、強く思い入れのある場所だった。

 

眼を大きく開く。

その視線の先に彼はいた。

 

見間違えようのない。

 

自分とずっとパーティを組んでいた人物なのだから。

 

「ケイタ……!」

「―――――サチ、久しぶり」

 

-----------------

 

「どうしたの!その顔、酷い事になってるよ――――――!?」

 

彼女の最初の感想はその様な言葉だった。

確かにケイタの現在の顔はサチの知っている優しそうな表情ではなかった。

 

髪は色素が抜け落ちたような真っ白に。

眼の下には大きなクマ。

頬は痩せこけ。

顔は青白い。

 

もはや、彼女の知っているようなケイタでは無かった。

 

「……まあ、あれから色々あってね」

 

ケイタは苦笑いしながらもそう答えた。

サチはそんな彼を見ながら、表情を引き締める。

 

「……心配したんだよ――――――あれから何度もメッセージ送ったのに、返事も返してくれない……。どこに居るかも分からない……。いったい…」

「サチ、あの時はすまないと思ってる――――――僕も軽率な行動をとって悪かった」

 

彼女の問いに、ケイタは素直に頭を下げた。

今までの事は、全部自分が悪かったと。

 

「あの時、傷ついたのは僕だけじゃないって事をやっと気づいたんだ。それなのに、僕だけがあの場から逃げ出して、サチを一人ぼっちにしてしまった。本当にすまない」

「……ケイタ」

 

素直にうれしかった。

 

彼女にとって、ケイタはギルドのリーダーであり、心から信頼できる人物であったから。

あの場では混乱していたが、自分だけが孤独を味わったのではない。

 

きっとケイタも苦しかったのだ。

 

そう思うと、自然と涙が流れてきた。

 

「……後で、キリトにも謝りに行こうと思ってるんだ。彼にも酷い事をしてしまった。きっと謝っても許してくれないかもしれないけど」

 

ケイタはそう言い、顔を上げる。

その表情は大変穏やかなものだった。

 

サチは彼にゆっくりと近づく。

そして彼の両手を握りしめた。

 

「―――――――きっと、キリトも許してくれるよ。キリトだって辛かったと思う。だから、ケイタが謝ってくれればきっとキリトだって……」

「……サチ」

 

ケイタがいきなり彼女を抱きしめた。

 

途端にサチの顔が真っ赤に染まる。

 

「…ッ!ケイタ!?一体―――――――!?」

 

彼女は気付いた、ケイタの肩が小刻みに震えている事を。

 

サチは、そんな彼をゆっくりと抱きしめ返す。

それは、恋人がするようなものではなく、母親が子をあやす様な手付きだ。

 

「……ケイタ」

 

ゆっくりと彼の背中を擦る。

 

「サチ……」

 

震える声が彼女の耳に届く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一振りのナイフが彼女の腹部に突き刺さった。

 

「……え?」

 

理解できない。

何が起こったのか……。

 

視線を下に落とす。

 

自らの腹に何が刺さっている。

 

固い何か。

 

それは、刃渡り30cm程のナイフ。

 

ナイフはすぐに引き抜かれる。

 

赤いエフェクトを散らす自分の体。

他の色には染まらず、ただ赤色が体から流れ出る。

 

意識が遠のいていく。

 

瞼が重い。

 

もう……何も。

 

考えたくない。

 

-------------------

 

止まった時計の針が動き出したかのように、一つの蒼い疾風がケイタに向かって突進した。

 

「テメェェェェェェェェェェェェェェェ!!!」

 

憤怒の表情を浮かべたランサーが朱槍を手に、自らのマスターの敵である男へ槍を突き出した。

 

「Ahhhhhhhhhhhhh!!!」

「なっ!?」

 

だが、その槍の穂先はケイタを貫くことは出来なかった。

 

突如として出現した、黒い影によって遮られる。

 

「―――――――バーサーカー……」

 

鋭い目つきで睨みつける。

バーサーカーは、ちょうどケイタとランサーの中間で槍を受け止めていた。

此処から想定できる可能性……それはただ一つしかなかった。

 

「テメェがバーサーカーのマスターだったのか」

 

怒りの表情が消えることはない。

その怒りは、マスターを傷つけたケイタに対する怒り。

 

そしてもう一つ。

サチを守り切れなかった自らに対する怒りだ。

 

「ああ、そうだよランサー。僕がバーサーカーのマスターだ」

 

そう言い、左手に巻かれていた包帯をゆっくりと外す。

そこには、三画の未使用の令呪が浮かび上がっていた。

 

「最初からこれが目的だったのか――――――テメェ」

「そう殺気立たないでくれよ。サチはまだ死んでないのだから」

 

彼は、右手で抱えたサチをちらりと一瞥した。

確かに、HPは多少減ってはいるが、減少は止まっている。

 

だが、だからと言ってランサーの怒りは消えたりしない。

 

「……成程、じゃあ今からテメェを血祭りにあげてやる。動くんじゃねぇぞ」

「それはこっちのセリフだ、ランサー。もし君が一歩でも動いたら……」

 

ケイタはそう言うと、ナイフを左手に持ち…。

 

「彼女を殺す」

 

サチの首筋にそれを押しあてた。

 

「貴様……」

「おっと、その前に僕を殺そうったってそうはいかないよ。バーサーカーがその間、君を足止めする」

 

そう。

ケイタとランサーの間には、バーサーカーが塞ぐように立っている。

 

仮に、今ランサーが全力でケイタに向かおうとしても、バーサーカーに止められて、その間にサチは殺される。

 

「………………」

 

ランサーの表情が更に険しくなる。

食いしばられた歯からは、ギリリと音が聞こえてくる。

ギチギチと槍を握る手からは嫌な音が響く。

 

「ランサー、サチを返してほしいなら、僕の頼みを聞いてはくれないか?」

 

軽い調子でケイタがランサーへ問いかける。

ランサーはその声を聞きつつも、答えない。

ただ、ケイタを睨みつけているだけだ。

 

「…沈黙は肯定と受け取るよ」

 

そう言うと、彼はゆっくりとナイフを下し、アイテムストレージから転移結晶を取り出した。

 

「付いてきてくれないか?ここでは話しにくいしね」

 

彼はそう言うと、チラリと促すようにランサーを見た。

ランサーに、拒否する権利はないと言わんばかりに。

 

ランサーの表情は、怒りの中に悔しさも交じっていた。

 

拒否する権利はない。

ランサーはそう判断すると、ゆっくりと実体化を解き、光の粒子を撒き散らしながら霊体化した。

 

そのことを確認すると、ケイタは転移結晶を掲げて目的地を叫ぶ。

 

無数のガラスが砕け散るような音と共に、青い閃光が夜闇を染めた。

爆産するポリゴンのかけらとともに、彼らはその場から消え失せた。

 

残ったのは、青と金色の粒子のみ。

 

やがてそれらも消え失せ、辺りは静寂の身が包み込んだ。

 

 




急展開!!

とりあえず書いてて思ったのが、ヤベェなって事。

兄貴……。

次はキリト達の話を書いていこうと思います。

追伸:ユウキは何とか生き残らせたい。

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