Fate/ONLINE   作:遮那王

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1か月も更新できなくてごめんなさい。

6月入って初めての投稿です。




第十三話 自分の道

黒猫団が壊滅してもう6ヶ月経とうとしていた。

 

俺とサチはあれ以来、一度も会っていない。

 

俺はあれ以来、レベル上げととある情報の収集に没頭していた。

アイテムの名前は“還魂の聖晶石”。

この世界において、唯一とも言っていい死者蘇生のアイテムだ。

 

俺はあの日を境に何かに囚われていた。

それが何なのかは分からない。

 

罪滅ぼしのつもりか、それとも敵打ちのためか。

もしかしたら、サチに許しを乞うためにそのアイテムを欲しているのかもしれない。

 

俺は何のためかも分からずにレベルを上げ、そしてそのアイテムを求めた。

 

「……」

 

いつも俺の側にいるセイバーも俺の行動には口を挟まない。

いつもであれば口喧しく、休めとか、無茶し過ぎだとか、小言を挟んでくる。

だが、そんなセイバーも俺の行動を黙って見ているだけだ。

 

そして、12月24日その日は訪れた。

 

アルゴからもらった情報によると、クリスマスイヴの“迷いの森”のとある木の麓で、“背教者ニコラス”というボスがそのアイテムを落とすらしい。

 

俺はその日、“迷いの森”へ足を踏み入れた。

 

セイバーも俺の後ろに付いてくるが、何も発しない。

ただ付いて来るだけだ。

 

途中、クライン達、“風林火山”の面々と会ったが、それもどうでもいい。

後を“聖龍連合”連中を付けてきたがそれもどうだっていい。

 

ただ、今はあのアイテムを手に入れるだけでいい。

それで、救われるのなら……

 

------------------------

 

結果から言おう。

 

確かにアイテムはあった。

 

“還魂の聖晶石”は確かに存在していた。

 

だが、所詮ゲーム内のアイテムだった。

 

効果は、

 

<対象プレイヤーのHPがゼロになってからアバターが消滅するまでの“約十秒”の間のみ蘇生が可能になる>

 

というもの。

 

つまり、過去に死亡したプレイヤーに対してはその効果は発揮されない。

 

絶望した。

 

俺はしばらく何を考える事も出来なく、ただその文面を反復し読む事しかできない。

 

俺の罪が消えることはなかった。

許されることのない罪は、どう抗っても償えない。

 

俺はこの時、自分の行動の何もかもが無意味だったと知った。

 

償えなかった。

 

それだけで俺の心は半ば崩壊しかけていた。

 

ただ、俺は力ない足取りで宿へと歩を進めた。

 

「……」

 

あの時、セイバーは何も口出しせずに、黙って俺の戦いを見ていた。

思えば、随分前からその事に気付いていたのだろう。

 

死者は決して蘇らないという事を。

 

だからこそ俺一人でやらせたのだ。

無論、俺一人でやるつもりだったので問題はなかった。

 

死というものと向き合うために、彼女は何も口を挟まなかったのだ。

 

だけど、今の俺では何も考えられなかった。

俺はそんなに大人じゃない。

 

---------------

 

宿に戻っても、俺の心は晴れないままだった。

 

何も救えなかった。

無意味だった。

すべてが無駄だったのだ。

 

まるで雪崩のように俺の心は崩れ始めている。

 

今この部屋には俺だけしかいない。

セイバーは、俺を一人にするために別の部屋で待機している。

 

そう、俺一人なのだ。

 

もう……俺の心は一人ぼっちだ。

 

---------------------

 

気が付くと、俺はフィールドに出ていた。

 

俺の周りには、無数の白色の虎達が取り囲んでいる。

 

いつもなら隣にいるはずのセイバーは、今はいない。

俺が制したのか、気付かれずに出て行っただけなのかは分からない。

 

ただ、俺は知らず知らずのうちに行動していたらしい。

 

ふと、意識を戻すと虎達は一斉に俺に跳びかかってきた。

俺は奴らに対し、滅茶苦茶にスキルを発動させ、切り捨てていった。

 

虎達は呆気なく断末魔を轟かせて消えて行った。

 

だが、数が多い。

 

奴らは群れで行動するのか、その数はどんどん増えていく。

体力が持たない。

 

 

もうこれで、お仕舞にしてもいいじゃないか。

 

 

俺の心の中でそんな声が反響する。

 

 

もうみんなは生き返らない。

もう俺は一人ぼっちだ。

 

 

そうだ、一人ぼっちだ。

 

 

ならここで終わってもいいじゃないか。

 

 

そうだ、ならここで終わりにしよう。

 

 

俺はそう考えると、ゆっくり構えていた剣を下した。

それと同時に虎達が俺目がけて飛びかかってくる。

 

すべてを委ね目を閉じた。

 

と、その時だった。

 

「何だ?」

 

いきなりの轟音が無音を破壊した。

突然の出来事に、虎達もその場に這いつくばる。

 

「AAAAAAAAAAALaLaLaLaei!!!」

 

轟音のつぎは、とてつもない大声が辺りに響き渡った。

俺はその声の方向へと目を向ける。

 

そこには、古風な戦車があった。

無論ただの戦車ではない。

 

そこには、巨大なたくましい筋肉を持った二頭の牛が戦車を走らせているのが見えた。

それが空中を駆けながら近づいてくる。

 

しかもただ浮いているわけではなく、牛の歩みと車輪に紫電を迸らせている。

 

空を翔る二頭の牛は戦車と共に居丈高に頭上を旋回しながら速度を緩め、地上に降りてきた。

 

車に乗っている騎手の姿が確認できる。

 

かなりの巨漢だ。

筋骨隆々の肉体が遠目にもわかる。

燃えるような赤髪の下にある赤い瞳で周囲を睥睨している。

その口元には不敵な笑いがあった。

 

「なんだぁ坊主、一人でこんな所でなぁにしとる?」

「……!」

 

思わず身構える。

この男は世間話をしているつもりだが、この男は、今信じられないことをしていた。

 

この男は今どうやって此処に来た。

空を飛ぶ戦車があってたまるか。

 

ならば考えられる事はただ一つ。

 

こいつもサーヴァントだ。

 

俺の警戒を見てか、男は顎鬚をなぞりながら笑みを浮かべた。

 

「まあ、そんなに警戒するな。余もちょいと気紛れで夜の風景を見ようと出ていただけであっての。そしたらお前さんを見つけたわけよ」

 

何のつもりだ。

 

するとこの男は、辺りを再度ぐるりと見渡す。

周りの虎達は先ほどの襲撃で、1/3ほど戦闘不能になっていた。

だが、生きている奴らは急に現われた巨漢の男に敵意をむき出しにし、牙を剥いている。

男はそれを見てなおにやりと笑い、俺に向き直った。

 

「まあ、見た所お前さんも死にかけてたみたいだからの。見捨てるにも後味が悪い。」

 

何を言っている!?

 

こいつは俺を助けようと言うのか?

それはこいつにとって何のメリットもないはずだ。

なのに何故?

 

「坊主、お前はそこで見ておれ。此処に余の力、お前にも見せ付けてやろう」

 

何なんだこいつ?

もう訳が分からない。

 

「さあ、蹂躙せよ」

 

男はそう言うと、手綱を強く振り二頭の牛を走らせる。

 

「AAAAAAAAALALALALALALALALAei!!」

 

戦車は虎の群れへと突っ込んでゆく。

虎達は突如突っ込んできた戦車をかわそうと、体を回転させるが、

 

戦車はその凄まじい突進力と、撒き散らせる紫電により、次々と虎達を結晶へと変えて行った。

 

まさに蹂躙。

 

俺は目の前の男のあまりの規格外さに思わず身を固めてしまった。

セイバーも、あの虎達を倒すのにそこまで苦戦はしないだろう。

だが、今のレベルでは数で押されてセイバーも大立ち回りはし辛い。

風の斬撃を使っても、いくらか時間を要するであろう。

 

けれど目の前の男は、その圧倒的な破壊力を使い、ものの数分で虎達を全滅させていた。

 

伝説的な英雄達、サーヴァント。

俺はその一端をまざまざと見せつけられた。

 

「まぁ、ざっとこんなもんか。とりあえず一丁上がりといったところかの」

 

男は、戦車を旋回させると俺の側へと降りてきた。

 

「坊主、今一度問うが、お主こんな所で何一人で立ち尽くしておった。まるで死人のようであったぞ」

 

目の前の男は戦車の上から見下ろし、先ほどと同じ質問を俺に投げかける。

その男の威圧感は、戦闘を終えた今でも衰えていない。

 

俺は不思議とその場に座り込んでしまった。

俯きながら歯を食いしばる。

 

こんなにも……俺達の間には差があったのだ。

 

人間とサーヴァントとの力量差。

改めて俺はその理不尽な差を目の前に叩きつけられた。

 

俺だって攻略組にいるプレイヤーの一人だ。

実力もゲーム内ではトップクラスだと自負している。

加えてサーヴァントを連れているという最大のハンデ。

 

いつの間にか俺はあの時、大きな慢心を心に抱いていた。

セイバーが居るからといって俺は、自分が強いと勘違いしていた。

でもそれは違う。

 

サーヴァントはあくまでサーヴァント。

 

アサシンの強襲。

それは遅かれ早かれ起こると予想出来ていた事かも知れない。

 

だってこれは戦争なのだから。

 

俺の隙を狙う事は充分予測できていたのだ。

それを俺は……。

 

胡坐をかいたまま両手を強く握りしめる。

 

俺のせいだ。

全部俺の……。

 

「おいおい坊主。だんまりじゃ何も伝わらんぞ。なんか言わんか」

 

ふと気づけば男が戦車から降り、俺の目の前でしゃがみこんでいた。

俺は男の顔を見る事が出来ないが、おもむろに口が開く。

 

「全部……俺のせいなんだ。俺が…皆を殺したんだ……」

 

自分の意思に反してポツリポツリと言葉が出る。

 

何故だかは分からない。

この男の威圧感に押されたのか、それとも自分の気持ちを素直に誰かに聞いてほしかったのか。

だがそれ以上言葉は出なかった。

 

「お主、人を殺めた……という訳でも無さそうだわな。さしずめ仲間を見殺しにしたか、それとも巻き込んだかといったところかの」

 

男はそう言うと俺の目の前にドカリと腰をおろし、再び口を開いた。

 

「なるほどのぉ。どうりでお主、抜け殻のような表情をしてると思ったわ」

 

顎鬚をなぞりながら男は言った。

そして、男は先程までの思案顔から一転すると、途端に厳しい顔つきに変わった。

 

「それで、お主はあそこで何をしておった。まさか死に場所を探しておったか?」

「……俺には、生きる資格なんかない、もう消えるんだ。あんたもほっといてくれ」

「……」

 

男は厳しい表情で俺を見つめたままだ。

黙って俺の話を聞いている。

 

「意味なんて無かったんだ……全部……無意味だった……」

「戯け!!!!!!」

 

男の声が木霊した。

あまりの大声に俺も思わず顔を跳ね上げる。

 

「意味がなかった?この世に意味のない物など一つもない」

 

男は立ち上がると俺を見下ろしたまま話し始めた。

 

「いいか、この世に起こる出来事はすべて何かしらの意味がある。死した者たちの死にも何かしらの理由がある。そのすべてを知ろうともせずに自ら断ち切るなど、愚者のする事だ。それは死者に対する愚弄である!!」

「意味……だって。じゃあ…皆が殺されたのはなんでだよ!!奴、俺を直接狙えば良かったのに。何で殺されなくちゃいけなかったんだ!!」

 

感情的に思わず叫ぶ。

納得できなかった。

皆の死に意味があるという事に。

 

何で殺されなくちゃいけなかったんだ。

何で俺じゃなくて皆を狙ったんだ。

 

そんな言葉が頭の中をグルグル回り続けている。

 

「坊主、お前が此処で死んだとして何になる。それが死した者達への罪滅ぼしにでもなると思っているのか?それは死者に対する侮辱でしかない。生き残った者たちは、その者達が生きた証を築いていかなくてはならん。今は悼み、涙を流せ。だが、それを悔やむな。

前を見ろ。

死を受け入れ、それでも前に進む事が今のお主のする事だ」

「死を……受け入れる?」

 

頭の中が大きく揺さぶられる。

今まで直視できなかった物が、目の前に叩きつけられた。

 

「俺はどうすればいいんだ」

 

思わず口からそんな言葉が零れおちた。

目の前にいる男は強い。

俺なんかよりも、圧倒的に。

 

だからそんな事が言えるのだ。

 

俺には……。

 

俺のせいで死んだんだ。

皆の死を受け入れることなんてできない。

 

「坊主、お前がこれからどう生きようがそれはお主が決める事。誰が口をはさむ訳でもない。だが、それはお主の選ぶ道。自分で切り開くべき道なのだ」

「……俺が、切り開く道?」

「うむ。お前の進む道を決めるのは誰でもない、お主自身なのだ。これから死人同然に生きるも、此処で自害するも、お主の決める事。だがこれだけはいっておく。後悔だけはするな。自らの生きた道に誇りを持て。それはお主が自分自身で決めた道なのだからな」

「……俺は…」

 

男の言う事に俺は反論できなかった。

男の言っている事は強者の理論だ。

俺のような人間に真似が出来るようなことではない。

 

だけど…。

言い返せない。

 

男の言葉は何故か俺の胸に深々と突き刺さり、反論を口にする事が出来なかった。

 

「まぁ、坊主の歳でそこまでやれとは言わん。ただもう少し考えてみても良いのではないか?」

 

男はそう言うと、どっこらせと立ち上がり戦車へと再び乗り込んだ。

 

「ではな坊主。生きていたら再び合間見えようぞ」

 

男はそう言うと、二頭の巨牛に手綱を入れた。

牡牛は大きく轟くと、電気を放ちながら虚空へと駆け上がる。

 

「さらば!」

 

雷の音と共に、男と戦車は空の彼方へと駆け去っていた。

 

俺はその姿を見つめながらただしばらく、その場から動く事が出来なかった。

 

---------------------

 

あれから何時間経ったのかは分からない。

 

ただ、俺はいつの間にか宿の扉の前に立っていた。

 

幸運にもあのままフィールドには、モンスターの一匹も出ず、俺は無事に帰る事が出来たらしい。

 

俺は扉のドアノブに手を掛け、中に入ろうとする。

だが、なかなか扉を開く事は出来なかった。

 

中にはセイバーが居るはずだ。

 

彼女は何と言うだろうか。

 

彼女を置いたまま、フィールドへ出て行った事を責めるであろうか。

 

生真面目な彼女の事だ。

小言の一つは覚悟しておいた方が良いかもしれない。

 

俺はそんな場違いな事を考えつつ、扉の前に立ち尽くしていた。

 

「キリト!!」

 

後方から俺を呼ぶ声がした。

 

振り向くと、俺から10メートル程離れた場所に声の主を発見した。

そこには、いつもよりも表情を硬くし、眉根を寄せていた蒼い騎士姫がいた。

 

恐らく、黙って出て行った俺を探していたのであろう。

息は切らしていないがわずかに肩が揺れている気がした。

 

彼女はその表情のまま黙って俺の元へと歩いてくる。

 

思わず顔を逸らす。

 

様々な罪悪感が胸の中を駆け巡る。

 

彼女は俺の目の前に立つと、見上げるような形で俺の顔を見つめた。

 

俺は彼女の顔を見れない。

彼女のまっすぐな視線が痛かった。

 

「キリト、私の顔を見てください」

 

セイバーはゆっくりとした、それでも毅然とした声で言った。

 

「……」

 

ゆっくりと、そして恐る恐る視線を上に挙げる。

 

そこには、やはり眉根を寄せてはいるが先程よりは少し表情が柔らかくなっていた彼女の顔があった。

 

彼女は俺の眼をじっと見つめ、そしておもむろに口を開いた。

 

「キリト、何か私に言う事はありませんか?」

「うっ……」

 

思わず口から呻きが漏れる。

 

やはり彼女の威圧感は半端じゃない。

たった一言で俺は彼女から視線を外す事が出来なくなってしまった。

 

しばらく見つめ合う俺達。

状況が状況なら恋人同士のも見えなくはないが、そんな雰囲気でもない。

 

視線が痛い。

 

「……」

「あ……」

 

今まで俺は勝手な行動を起こし、そして彼女に目を向ける事も無かった。

彼女に言わなければいけないこと。

 

「ごめん、セイバー」

 

俺はその一言を呟いた。

 

何に対してなのか、そんなの分からない。

でも俺は色んな意味を込めて彼女に頭を下げた。

 

「……」

「……」

 

しばらくの沈黙。

彼女は黙ったまま。

俺は頭だけを下げ、彼女の顔は見れない。

 

俺は恐る恐る顔を上げる。

直視はできないが、チラリと彼女の顔を見た。

 

そこには、さっきまでの険しい表情から、穏やかに変わった彼女の顔があった。

 

「中へ入りましょう。疲れたでしょう?」

 

彼女はそう言うと、俺の横を通り後方へと歩き始めた。

 

「あ……あの、セイバー……」

「そう言えば……」

 

彼女は俺の言葉にかぶせるように口を開き、

 

「何やら、以前より表情が少し穏やかになった気がするのですが、何かあったのですか?」

 

セイバーは俺に背を向けたまま問いを投げた。

 

「……いや、なんでもない。なにも無かったよ」

 

俺はその問いにそう答えた。

 




色々と難しい話でした。

次はもう少し早く投稿したいです。

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