キリトインオラリオ   作:ドラゴナイト

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5.決意

(畜生、畜生、畜生っ…!)

 

ダンジョンの中をひたすら突き進む。理性なんて残っていなかった。ただ悔しくて悔しくて気がつけばダンジョンにいた。

「畜生ーーーっ‼︎」

情けなかった。

逃げることしかできなかった自分が

あの人に助けられた自分が

バカにされても何も言うことができなかった自分が

憧れるだけで何もしようとしなかった自分が

何より弱い自分が情けなかった。

「畜生畜生畜生畜生畜生畜生ーー‼︎」

次々に出てくる敵をただ全力で切りつける。防御や回避なんてしない。そんな余裕も必要もなかった。

「弱い弱い弱い弱い弱いーー‼︎」

ただ攻撃するだけ自分に倒されていく敵。イライラする。ミノタウルスに殺されかけた自分を見ているようで。

あの時アイズさんが来なかったら僕はこいつらと同じだった。何もできずに殺されていた。そんな自分がどうしてあの人の隣に立てるなどと思い上がったんだ。

あの獣人の男が言っていた通りだ。口調はあれだったけど的を得ていると思う。だって、こんなにも悔しくて自分が情けないんだから。僕は情けなくて惨めで弱い。こんな弱い自分はあの人にはふさわしくない。

下へ下へと降りていく。弱い自分から逃げるように。

 

甘えていた。

出会いがあったから…憧れていれば、いつかきっと…そう思ってた。

ダメなんだ憧れるだけじゃ…

何もかもやらなければあの人には追いつけない…

あの人の隣に立つことは許されない。

強く…強くならなきゃ

あの人に認めてもらえる、あの人の隣に立てって戦えるぐらい強く…

 

後ろの壁が割れる音がした。何度も聞いたダンジョンの壁からモンスターが生まれてくる音だ。モンスターを視界に収めようと振り向く。

「ウォーシャドウ…!」

初めて見る敵の姿をエイナに教えてもらった知識と照らし合わせる。今日キリトと来た時には出会うことがなかったモンスター。

ウォーシャドウは6階層から出現する『第一関門』の異名を持つモンスターだ。名前の通り影のような色と形をしている。攻撃は鋭利な三本の指で行い、それぞれの指がナイフのようになっている。合計6本。これまでの敵より攻撃してくる武器が多い。

しかし、これが『第一関門』と呼ばれる所以ではない。

ウォーシャドウの一番の武器は別にある。それは移動速度だ。

5階層までのモンスターは普通に冒険していれば大群に囲まれたりしない限りやられたりすることはない。それはあらゆる能力において冒険者が優っているからだ。しかし、6階層から出てくるウォーシャドウは違う。

敏捷値が確実に駆け出しの冒険者を上回るのだ。だから、冒険者にとって初めて自分より何かが優れた敵と戦うことになる。これを越えられなければこれ以上冒険者としての成長は望めない。ここから先の敵は自分よりも強い相手ばかりだ。今までのようにはいかない。だから、『第一関門』。

 

ナイフを構える。

先程まで熱くなりすぎていた頭の中は落ち着きを取り戻していた。冷静さがなければ命取りになる場面。

初見でウォーシャドウを倒さなければ一流にはなれない。

そんなことを誰かが言っていた。

本当のことだろうと思う。

最前線で戦い続ける第一級冒険者。彼らはみなこの関門を初見で越えてきたのだろう。そうでなければ何もかもが初めての階層で戦ってなんていられない。

ここは第一の関門。これをくぐり抜けなきゃあの人には一生追いつけなんてしない。

「……やれ…!あの人の…アイズさんの隣に立ちたいのならやれ‼︎」

思わず逃げそうになる自分に喝を入れる。

(やるんだ。これぐらいやれなきゃ、アイズさんになんか一生追いつけない…!)

ベルはウォーシャドウに駆け出す。その背中にはもう迷いはなかった。

(今が好機だ。ウォーシャドウは壁際にいる。そのまま追い込めばスピードを殺せるはずだ。その間に足に一撃入れれば勝てる!)

足を動かしながら作戦を練る。

初めの攻撃がかわせなければこの作戦はそこでおしまいだ。こちらが体勢を立て直す前にウォーシャドウはスピードを活かして攻撃してくるはず。

ナイフを握る手に力が入る。

ベルはウォーシャドウの爪を身体を低くすることでかわす。足に一撃入れようとナイフを突き刺そうとするがもう一方の爪が攻撃してきたためにナイフ軌道を変え弾き、足でウォーシャドウの身体を吹き飛ばす。

壁に叩きつけれたウォーシャドウに間髪入れずにベルはナイフを突き刺しそのまま上に切り開いた。

 

「か、勝てた…」

ウォーシャドウが消えベルだけになったルーム。見ればあちこちにベルが倒したモンスターの魔石が散らばっていた。

身体を見てみれば傷だらけだった。けれど、あんな無茶な戦い方をして致命傷を負っていなかったのが不思議だった。

運が良かったのだろう。そうとしか考えられなかった。

(そろそろ帰らなきゃ…)

落ち着きを取り戻した頭で考える。今自分はどこにいるのかを。ウォーシャドウが出てきたということは6階層以下の階層だ。そんなところに一人で防具も付けずにいることに今更ながら恐怖を感じた。

(早く帰ろう)

 

壁が割れる音がした。一つじゃない。あちこちで壁の割れる音が聞こえた。

エイナさんに教えられたことを思い出した。6階層以下は稀にモンスターが一度にたくさん生まれることがあると。

気がつけば囲まれていた。その中にはウォーシャドウの姿もあった。

「ちょっとやばいかも…」

(運は使い果たしちゃったかな?……だけど…、あの人に追いつくにはこれでいい…!)

普通にやったってアイズ・ヴァレンシュタインにはきっと追いつけない。だからこれぐらいやれなきゃ…

「うおおおおおお!」

(やってやる!あの人の隣に行きたいのならやるんだ!)

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

「…やっとつい…た…」

6階層の敵を倒したベルはなんとか出口まで戻ってきた。身体のあちこちの切り傷が痛む。頭からも血が出て一目で満身創痍だとわかる。

(目が霞む…)

ベルは足を動かしダンジョンを出る。

「おいおい、お前は加減てものをしらねぇのかよ。」

「…キリト…」

満身創痍のベルを見て待ってたのは失敗だったと思った。さすがにこんなになるまで帰ってこないとは思っていなかった。

「…ごめんキリト…僕…」

「もういいさ。…帰ろうぜ。神様もきっと心配してる。」

「…うん。」

キリトは足元もおぼつかないベルに肩を貸す。

「キリト…僕決めた…」

「ああ。」

「僕どうしてもあの人に追いつきたい…だから…」

「ああ。一緒にそこまで行こうぜ。」

「ありがとうキリト…」

「そのためにはその怪我ささっと治さなないとな。あんまりダラダラしてたら置いて行っちまうぞ。」

「うん…」

二人はまだ暗い道を歩く。自分たちのホームを目指して。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

「ハァ、ハァ、いったいあの二人はどこに行ったんだ。」

明け方、協会の前で息を切らしすヘスティアの姿があった。

彼女がホームに帰ると二人の姿はなく、初めのうちはご飯でも食べに行ったのだろうと思っていたのだがいつまでたっても帰ってこない。酔いも冷めてきていよいよこれはおかしいと慌てて二人を探しに街へ出た。しかし、結局二人を見つけられずひょっとしたら帰って来てるのではと戻ってきたものの2人の姿はなかった。

「あと探していないのはあそことダンジョンだけだけど…」

その時、かすかに声が聞こえた。その声はだんだんと大きくなって次第に足音も聞こえてきた。音のする方に顔を向ける。

「神様…今帰りました。」

「ベルくん!いったい何があったんだい⁉︎」

キリトに支えられて立っているのがやっとのベルを見てヘスティアは慌てて二人に駆け寄る。

「いや、ベルが突然ダンジョンに突撃しまして…」

「な…?何をやってるんだキミは!防具も付けずにダンジョンに行くなんて…!」

「すいません、神様…でも、僕…強くなりたいです。…強くなってあの人に追いつきたい…。」

ベルの瞳は真っ直ぐにヘスティアを見つめていた。その目はまだまだ駆け出しの、だけど何かを求めてやまないそんな冒険者の目だった。

そんなベルの目を見てヘスティアはもう怒ることをやめた。

「キリトくん、ベルくんを早くベッドに…」

「はい。」

ベルをベッドに寝かし傷の手当をする。

初めてだった。怒ったのにベルが謝らなかったのは。

(こんなになるまでやるなんて…そんなにキミはあの女の事を…)

正直すごく悔しい。ベルくんが自分以外の女のことでこんなにまで必死になっているのは。これからもベルくんはきっと無茶をする。そんなことはやめさせたい。だけど、やめさていいのだろうか。

こんなにも純粋に強くなりたいと願う子供(ベル)の夢を諦めさせるのは神として失格じゃないのか?

だけど、彼に危険な真似はして欲しくないとも思う。いや、させたくない。

(……決めた…。ボクはキミを応援する。だけど、できる限り危険な真似はさせない。)

決めるも何も、結局神である自分には彼を支えることしかできないのだ。なら、全力で彼を応援するだけだ。

下界に降りてきた時、神の力を封印した神は恩恵を与える力以外は普通の人間いやそれ以下である。神の中にはそれでも技や知識を磨き普通の人間以上のことをできるものもいるが、自分はその限りではない。だから、直接彼を支えることはできないかもしれない。だけど、やれることは全部しようこの子のために。

(ボクは絶対キミを死なせない。)

ヘスティアは処置終えると立ち上がり、隣でベルを見ていたキリトに顔を向ける。

「キリトくん、ベルくんを頼めるかい?」

「え?あ、はい。どこか出かけるんですか?」

「うん?あーちょっとした野暮用だよ。しばらく帰って来れないかもしれないからベルくんをよろしくね。」

そう言うと彼女はさっさっと身支度を整え出かけて行った。

ヘスティアが出て行った後しばらくベルの様子を見ていたキリトだったが、だんだんと睡魔に襲われてきた。。なんだかかんだで昨日は一睡もしていなかったのでそろそろ限界とソファに横になるとすぐに意識を手放した。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

「ヘファイストス!久しぶり!」

「あら?ヘスティアじゃない。」

満面の笑みを浮かべる来客にこの部屋の持ち主、ヘファイストスが振り返る。右目を眼帯で隠している彼女はヘスティアの天界にいた頃からの神友で、下界に来たばかりの頃は居候させてもらっていた。

「いったいどうしたのよ。ひょっとして、まーた私に何かたかりにきたの?言っとくけどもう1ヴァリスもやらないわよ?」

「失敬な!ボクはそんな信用の懐を漁るような神じゃないぞ。」

「どの口が言ってんだか…」

ヘファイストスは頭に手をやり軽く振った。

居候していた彼女のあまりにもだらしない生活わ見かねて追い出した後も、やれ金がない、やれ住む場所も仕事もないと散々手を焼かされた。

「で?私にたかりに来たんじゃないんなら何しに来たのよアンタは。」

話を戻したヘファイストスにヘスティアはばっと右手を挙げて指を二本立てた。

「ふふふ、ボクにもとうとうファミリアができたんだ!」

「あら?そうなの。おめでとうヘスティア。これでやっとあんたにたかられる心配もなくなったわ。」

「むー、なんだいその言い方は。失礼しちゃうよ。」

「あんたが私の手を散々煩わせたからでしょうが。」

腕を組んでそっぽを向いたヘスティアにあんたが悪いと呆れ声で言う。

「ヘファイストス、覚えてる?ここを出るときに言ったこと。」

「さぁ?あんたを追い出すのに必死だったから覚えてないわ。」

ほんの少し前のことだが、思い出せるのは必死に自分にしがみつき離そうとしないヘスティアの姿だけだった。

「ボクのファミリアができたら初めて恩恵を与えた子に武器を作ってくれるって言ったじゃないか。」

「……」

言った気がする。あまりのしつこさについ条件を出した気が。

「…言ったかしらそんなこと。」

「言ったよ!このボクの耳が聞き間違えるわけがないじゃないか。」

それはどうだろうと思ったが口にはしない。ヘスティアの耳は少し自分に都合のいいようにできてる気がする。しかし、こういう状況になった時点で自分に勝ち目がないこと長い付き合いなのでわかっていた。

「…わかったわよ。あんたの子に武器打ってあげる。」

「やったー!ありがとうヘファイストス。」

諦めて武器を打つことにはした。だけど、タダで打つ気はなかった。

「その代わりお金はちゃんと払いなさいよ。」

「なぬ⁉︎」

「私、タダで打つ何て言ってないわよ?」

予想外のことに驚くヘスティアに悪い笑みを浮かべながら止めを刺しにかかる。

装備を販売しているファミリアは数多く存在する。その中でも一際繁盛しているのがヘファイストスファミリアである。腕のいい鍛冶師が数多く所属している。装備品の種類も多種にわたり数も他とは比べ物にならないほど多く扱っている。

その中でも特に質のいい装備品にはヘファイストスのマークが刻まれていて、冒険者の間ではそのマークを持つ装備を持つことが一種のステータスとなっている。

しかし、それが刻まれた装備品を持つ冒険者は思いの外少ない。なぜなら、恐ろしく高いからだ。冒険者の一生かかって稼げる額の平均と同等とまで言われいる。

まぁ冒険者の半分以上をレベル1が占めていることを考えればレベル2以上の冒険者なら頑張れば買えるかもしれないが高すぎることに変わりはない。

けれども、その需要は止まるどころか年々伸びていっている。それほどまでに武器の質がいいのだ。一度使ってしまえば今まで使ってきた装備品など使えないほどに。

だから、この話はなしになるだろうとヘファイストスは思ったがそうはならなかった。

「わ、わかったよ。つけといてくれ。後からちょっとずつ必ず払うから。」

「…仕方ないわね。その代わりあんたも手伝いなさいよ。」

「おうともさ!」

予想外の返答に一瞬戸惑ったがすぐにいつも調子に戻した。

(ヘスティアも少しはマシになったのかしらね。)

ヘファイストスは壁に掛けてあるハンマーに手をかける。

「え!君が打ってくれるのかい⁉︎」

「当たり前でしょ。私とあんたのプライベートにうちの団員たちを巻き込むわけにはいかないわ。」

「天界でも名の知れた君が売ってくれるなんてボクは感謝感激だよ!」

「忘れたの?ここじゃあ私たちは神の力は使えないのよ?」

「かまうもんか。ボクは君に打ってもらうのが一番うれしいんだ!それに君は神の力を使わなくてもすごくいい物を作るじゃないか!」

万歳しながら飛んで喜ぶヘスティアに思わずため息が出る。

ヘスティアと違いヘファイストスが下界に降りてきてからはかなりの時が経っていた。その間彼女は子供たちに養ってもらうだけでなく自らも鍛冶に携わり腕を磨いてきた。今やその腕前は超一流。

普通の人間以下の能力しかないにもかかわらず、長い時を過ごして得た経験と知識で恩恵を受けた子供たちと比べても遜色がないほどだ。

これ程までに何かを極めた神はそうはいない。それを知っていたからこそヘスティアはこれ程までに喜んだのだ。

ヘファイストスは本棚にある本に手を掛け少し動かした。するとさっきまではただの壁だった場所に入り口ができた。

「こっちよ。」

二人はその入り口の中にある工房へと入っていく。

「わぁー!何度見てもすごいね君の隠し工房は。」

「別に隠してなんかないわよ。単に普段使うことがないから入り口を閉めてるだけよ。ほら、いつまでもキョロキョロしてないでこっちに来なさい。」

「うん。」

ヘファイストスに言われ自分のポジションにつく。

「じゃあ始めるわよ。あんたの子の得物は?」

「ナイフだよ」

ヘファイストスは腕を組みどんなものにしようか考える。武器の作成を引き受けた以上、一職人として手は抜けない。

(駆け出しの冒険者に持たせる一級品の武器。どうしたものかしら。)

 

 

〜〜〜〜〜

「おし、15匹目」

倒したモンスターから魔石を拾いバックパックに入れる

けが人のベルを放ったらかしてキリトはダンジョンにいた。本当はけが人のベルの看病をしてやりたかったがどうしても行かないといけない理由があるのだ。

昼ごろベルの看病をしているとなぜかシルさんがやってきた。そして「ミアお母さんからです。」と手紙を笑顔で手渡して帰っていた。手紙にはこう書かれてあった。

『昨日のの騒ぎで壊した椅子と机の代金1万5000ヴァリス今日中に持ってきな。』

 

ということで、突如一刻を争う状況に追い込まれた俺。もし、持って行かなかった時を考えると知らん振りはできない。ミアさんなら確実に乗り込んできそうだ。

昨日の残りを引いても約8000ヴァリス。後10時間以内に稼がなければならない。

あー昨日の自分を殴ってやりたい。何してんだよ俺。

 

昨日の自分に文句を募らせながらもダンジョンを進み着実と敵を倒していく。今いる階層は5階層。昨日よりも一つ上の階層だ。

「慣れてきたな。そろそろやるか。」

昨日よりも上の階層で狩りをしていたのには目的があった。

金がとにかく必要な俺は手っ取り早く稼ぐ方法を考えた。そこでふと昨日のベルの言葉を思い出した。ベルは言っていた。5階層にはキラーアントしか出てこないと。そして瀕死のキラーアントは仲間を呼ぶと。

そこで俺は閃いた。これを逆に利用しようと。本来なら避けるべきことなのだろうが、あいにく時間がない。ダンジョンを走り回っても目的の金に届くかわからない。なら、向こうからこっちに来てもらえばいい。幸いキラーアント攻撃パターンを覚えるぐらいの時間はあった。後は餌をぶら下げて金が向こうからやってくるのを待つだけだ。

適当なキラーアントを探す。幸いそいつはすぐに見つかった。

キリトはキラーアントを殺さないよう少しずつ追い詰めた。すると、足を切り落とした瞬間キラーアントがこれまでにない動きを見せ声を上げた。悲鳴にも似た声に思わず耳を塞ぐ。

しばらくするとキラーアント達の足音が聞こえてきた。

「きたか。じゃあお前は用済みだ。」

仲間が集まってきたのを確認してキラーアントにトドメを刺す。ちょうど、最初の一匹目がやってきた瞬間、キラーアントを魔石を残し消えた。

「さあ、たんまり稼がしてもらうぞ!」

キリトはキラーアントの大群に突っ込んだ。

 

 

〜〜〜〜〜〜

「2万3千ヴァリス……」

余りの大金に思わず唖然とする。昨日ベルと二人で稼いだ額の2倍以上。

さすがにここまで稼げるとは思ってはいなかった。

(なかなかこの手は使えるな。しばらくこれでいこう。)

換金した金を持ってさっさとギルドを後にする。エイナに見つかると絶対に何か言われる気がするからだ。この2日間は少しやり過ぎた。そろそろ彼女の逆鱗が止まらなくなるかもしれない。しばらく自然鎮火が必要だ。

 

ギルドを出ると街行く人々が騒がしかった。人々の視線の集まる先を見ると大きな箱のようなものがあり、時折大きく揺れていた。中で何かが暴れているような感じだった。

(なんだあれ?中に何かいる?)

中の物の正体の答えは周りから得られた。

「今年ももうそんな時期か。」

「あれが今年のモンスターか。」

「あ〜、明日のモンスターフィリア楽しみだなぁ〜」

「今年はどんなやつが出てくるんだ?」

 

どうやらモンスターフィリアという祭りで出てくるモンスターが運ばれているようだ。変わったことをするもんだと思いながらその場を後にする。

 

〜〜〜〜〜〜

「ただいま〜」

「あ、お帰りキリト。どこいってたの?」

「いや、ちょっとした野暮用に。」

ミアに金を払ってから帰宅したキリトにベルはどこに行っていたのか尋ねたが、わざわざ言うことではないと誤魔化して答える。

「もういいのか?」

「あ、うん。もう大丈夫だよ。そう言えば神様は?」

目が覚めた時に誰もいなかったため二人でどこかに出かけたのだと思っていたベルはヘスティアがいないことが気になった。

「神様も野暮用だってさ。しばらく帰らないかもしれないって。」

「そうなんだ。…キリト、ごめんね昨日は。」

昨日のことを思い出し謝る。

「別に気にしてないから謝るなよ。昨日も言っただろ?」

「けど…ううん、ありがとキリト。」

「ああ。明日からはあんなになるまでやるなよ?」

「ははは…善処するよ。」

キリトの冗談に苦笑いで答える。またしてしまいそうだとは思ったが口にはしなかった。

「そう言えば、明日モンスターフィリアって言う祭りがあるんだってさ。」

今日ギルドの近くで見かけたもののことを思い出し話題を変える。

「へー、どんな祭りなの?」

「モンスターを運んでたからモンスターと戦うとかそういう系じゃないかな。」

「それはいつもの僕たちと変わらないよね。」

「はは、だな。」

ベルの感想に思わず笑みをこぼした。

「明日ダンジョン行くついでにシルさんにでも聞こうぜ。明日行くって言ってたから。」

「え?行かないの?てっきり行くつもりで話してるのかと思ったよ。」

「いや逆に行くのか?俺はてっきりベルはダンジョンに行くものだと。」

「僕一言もそんなこと言ってないよ…。」

「だって昨日、『僕は愛しのアイズさんに追いつくために強くなるんだー。』って言ってたじゃないか。」

「愛しのはつけていなよ⁉︎」

顔を瞬時に赤らめながらも言う。

「愛しくないのか?」

「いや、それは、その…」

この後、キリトが飽きるまでベルは顔を赤くすることになった。

 

 




しばらく忙しくて更新が不定期になるかもしれないです…
できるだけ早く更新できるよう頑張ります。

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