もう死んでしまったおじいちゃんが言ってた。
男ならダンジョンに出会いを求めろと
死にかけた女性を助けれるような英雄になれと
だから僕は冒険者になったんだ。おじいちゃんの言葉を信じ夢見て世界で唯一のダンジョンのある街オラリオに来た。
そして今、おじいちゃんの言葉通り出会いがあった。
だけど、それはおじいちゃんの言っていた言葉とは逆の意味でだった。
今日、僕は5階層まで降りて探索をしていた。ギルドの担当者、エイナさんにはまだ早いと言われていたけれど、下に降りる階段を見つけ我慢できずに来てしまった。
5階層のモンスターとはなんとか戦うことができ、自分の成長に自惚れていた時だった。あいつが現れたのは…
僕の倍はあろうかという大きな身体。毛に覆われていてもわかる隆起した筋肉。そして、ツノの生えた悪魔のような顔。
ミノタウルス
本来5階層にいるはずがないモンスターがそこにいた。なぜこんなところに?
そんな疑問は今は意味をなさない。
僕を見つけたミノタウルスは大きな叫び声を上げた。
僕はすぐさま背を向けて必死に逃げた。とにかく逃げた。脇目もふらずただひたすら足を回転させる。
しかし、追いかけてくる足音は一向に離れない。それどころか、近ずいてきている気がする。
僕はふいに後ろを見た。ミノタウルスはもう僕に触れられそうなところまできていた。そして、その右手は上にあげられていて今にも攻撃してきそうな様子だった。
僕はとっさに左に飛んだ。次の瞬間僕の真横をミノタウロスの腕が掠めた。ミノタウロスの攻撃はさっきまで僕のいた地面をえぐりその余波で僕は壁に叩きつけられた。
(強すぎる…このままだと僕は……)
その時、ミノタウルスの身体に光の線が走った。
その光の線から血が吹き出し僕の頭と上半身に大量に降りかかった。
何が起こったのかわからず目を見開いて固まっているとミノタウルスはチリとなって消えていった。
美しかった。
それ以外に表現ができそうにない。
ミノタウルスが消えその後ろに立っていた女性を見て僕はそう思った。
彼女のことは知っている。
ロキファミリア所属第一級冒険者「剣姫」アイズ・バレンシュタイン。
その美しい姿からは想像できないが、この街で数少ない第一級冒険者。つまり、とてつもなく強い。
けど、そんなことはどうでもよかった。
ただ、僕はこの女性に見惚れていた。お姫様が自分を助けに来てくれた英雄に見惚れていたように。
固まった僕を見てアイズさんは
「あの……大丈夫?」
と声を掛けてくれた。
(全然大丈夫じゃない)
今僕の心臓は激しく脈打ち今にも爆発しそうだ。こんな状態が大丈夫なはずがない。
僕はこの時生まれて初めて恋をした。おじいちゃんの言っていたこととは逆になってしまったけれど…ダンジョンに出会いを求めて来てよかったとそう思った。
〜〜〜〜〜〜
冒険者の街オラリオはダンジョンを中心として円状に広がっている。その街の中でも特に冒険者で溢れかえっている道があった。その大きく開けた道の真ん中を真っ赤に染まった少年が走っていた。
少年の名はベル・クラネル、新米も新米、街に来てまだ半月の彼はヘスティアファミリアに所属していた。ファミリアと言っても彼一人しか所属していない街最小のファミリアだ。
ベルはギルドに向かって全力疾走していた。すれ違う人からは馬鹿にするような笑いが飛んでいるがそんなことには気がついてもいなかった。
ただ、ひたすらギルドに向う。彼を助けてくれたアイズ・バレンシュタインのことを聞くために。
「エイナさああああああん‼︎」
その声に反応してエイナは仕事の手を止めて声のする方向に目をやる。
「あ、ベルく…きゃああああああ!」
振り向いた彼女の目に飛び込んできたのは真っ赤な血に染まったベルの姿だった。
「アイズ・バレンシュタインさんのことを教えてくださあああああい‼︎」
〜〜〜〜〜〜
「で?どうして5階層に行くようなことをしたのかなベルくん?」
優しそうに見える彼女の笑みに怒気が混ざっているとまだ半月の付き合いの彼には感じられた。
「いつも言ってるよね?冒険者は冒険しちゃいけないって。」
「は、はいぃ…」
「だいたいどう考えたら冒険者になって半月の君が5階層に行ってみようと考えるのか私にはさっぱり理解できないんだけどベルくん?君ダンジョンを舐めてない?」
「す、すみません…」
「それになんで血だるまのまま街中を突っ切って来ちゃうかなぁ。私ちょっとベル君の神経疑っちゃうよ。」
「ご、ごめんなさい…」
ただひたすらベルは彼女の説教を聞いていた。だんだんと縮こまっていくベルの姿を見てエイナはそろそろ許してやることにした。
「これにこりたらもう二度と冒険なんかしちゃダメだよ?」
「は、はい‼︎」
お許しが出て急に元気になったベルにエイナは頭を抱えたくなった。
(ほんとにわかってるのかなぁ?なんか全然わかってない気がする。)
そう思いながらも彼女は説教を切り上げ話を変えることにした。
「それで、ベルくんはアイズ・バレンシュタインさんのことをききたいんだよね?」
「は、はい‼︎」
顔を少し赤めながら言った彼にエイナは悪戯心を刺激された。
「あれあれベルくん、ひょっとして助けてもらったアイズさんのことすきになっちゃったの?」
先ほどまでの笑みと違い怒気など一切含まない彼女の笑顔にさらに顔を赤らめた彼は
「え、…いや、その…は、はい…」
と顔を隠したりと必死になりながら答えた。
その彼の仕草に小動物のような可愛さを感じ思わず抱き抱えたくなったが、彼女は前の人物と違い常識を持っているので話を先に進めた。
「私がわかるのは所属はロキファミリア。LVEL5の第一級冒険者で通り名が剣姫ってことぐらいだね。たぶんベルくんが聞きたいような彼女のプライベートについては何もしらないなぁ」
「そうですか…」
「ねぇベルくん、こんなこと余り言いたくはないんだけど…違うファミリアの異性とそういう関係になるのはかなり難しいと思う。」
それぞれのファミリアには主神の方針などによって特色が見られる。例えば武器を作ったりなどと金を稼ぐ方法やファミリア同士の付き合いなども主神によってかわる。たまに意見が対立すると全面戦争になったりもすることもあるほどファミリア同士の付き合いには慎重にならなければいけない。
「だから…」
諦めた方がいいと彼女は言おうとしたがその前にベルがそれを遮って言った。
「頑張って努力してこの街の人に認めてもらえるようにならないとですね!そしたらきっと…‼︎」
ベルはなんというかすごく純粋だ。だけど危なくもある。それがこの半月の付き合いで得たベル・クラネルという少年の印象だ。
ある目的のためなら簡単に命を捨ててしまいそうな…そんな危なさが彼からは感じられた。
たぶん彼は明日からでも今言った通りこの街の人に認めてもらえるように頑張るだろう。ただ純粋に。この街で認められる存在、それは第一級冒険者だ。
この街の冒険者全員が一度は辿り着きたいと思う場所。しかし、たどり着くことは叶わない。あるものは死に、またあるものは挫折しそこにたどり着く者はほとんどない。
それに、たどり着いたものはみんな何かしらの危機を乗り越えてきている。
冒険者は冒険してはいけない。
これはエイナがベルに教えた教訓である。
彼女は何度も自分の担当した冒険者が帰ってこないという場面に遭遇してきた。
だから、彼女は死んでほしくないと思った冒険者には必ずこの言葉を送る。
無事に帰ってきてほしいという願いを込めて。
だけど、冒険しないものがその高みにいけないのもまた事実であった。だから、きっと彼は冒険するだろう。何度も。
(しないでほしい)
心からそう思う。半月の付き合いだが彼女はベルのことをとても気に入っていた。職場の仲間からは弟くんとまで言われるまでに彼女は彼のことを世話していた。
だから、死んでほしくない。
だけど、彼の純粋な想いを邪魔したくないとも思う。
どうするべきか迷う。たぶん、自分が彼に冒険するなと言っても彼はきっと冒険するだろう。
(結局、私には彼を全力でサポートする以外にできることはない)
自分はなんて無力なんだろうと思う。
そう思うのはいったい何度目だろうか?
冒険者が帰ってこないたびに私は無力感に苛まれてきた。
目の前の少年を見て今度こそはと思う。
(死なせない)
そう思い彼女はベルにダンジョンについて話をした。
彼は私が知らないところで冒険するだろう。だけど、そうなったとしても彼が無事に帰ってこれるように知識を伝える。
それしかできることがないから
そうすることでしか彼を助けられないから
彼女は真剣にベルに知識を伝える。ベルも話を真剣に聞いていた。
あらかた話終わり最後に彼女は願いを込めてこういった。
「冒険者は冒険してはいけないんだよ?」
〜〜〜〜〜〜
ひとしきり話を終えたところでベルが
「ありがとうございましたエイナさん!僕そろそろ神様が待っているので帰りますね。」
そこでふと時計を見る。針は7時を示していた。
ベルが来たのが5時前だったからかなり長いこと話してしまった。
(今日は残業か〜)
そんなことを考えているとふとベルに伝えないといけないことを思い出した。
帰ろうとするベルを呼び止める。
「待ってベルくん!ちょっと伝えないといけないことが…」
足を止めて振り向いたベルは
「なんですか」と目で語ってきた。
「実は……」
〜〜〜〜〜〜
「神さまぁああ‼︎」
「うわぁ⁉︎ど、どうしたんだいベルくん⁉︎そんなに慌てて!」
慌てて帰ってきたベルを出迎えたのは少し幼さが残るツインテイルの少女。その外見からは想像もつかないが彼女がベルのファミリアの主神の神ヘスティアである。
下界に降りてきた神は神の力を封印し側からみれば容姿はヒューマンと変わらない。ただ一つ違いをあげるとしたら神はみな容姿端麗である点である。ヘスティアの容姿もそれに違わず、顔はもちろん出るとこは出て締まるとこは締まっているその姿は神のそれであると言える。
「か、神様大変なんです‼︎このファミリアに入りたいって人が‼︎」
「なんだって⁉︎ベルくんそれは本当なのかい⁉︎」
「はい!さっきギルドで聞いてきました‼︎明日の昼ギルドで紹介してくれるそうです‼︎」
ベルの興奮がヘスティアへと伝わり、その日は二人でどんちゃん騒ぎを起こして朝を迎えた。いわゆる前祝いというやつである。
ちなみにベルに説教した後キリトにも説教をする羽目になったのでエイナも残業で朝を迎えていた。
あの二人を一緒にさせるのはいろいろ危険かもしれないと心の底から思った。あの二人にとっても私にとっても…
読んでいただきありがとうございます。
プロローグはほんとは一つにして二話目から本編を進めたかったのですが、主人公が二人いるとプロローグも二つ必要かなと思い分けて書きました。いきなりW主人公の弊害にぶち当たった感がします笑
ちなみにタイトルもプロローグ2ってどうなの?と思いタイトルをつけてみました。