1.記憶を失った少年
……ここはどこだろう…
俺は………
…だめだ…何も思い出せない…
「…ト…くん…」
何か聞こえる。
……どこかで聞いたことがある声だ。どこだっただろう…
…やっぱりだめだ。思い出せない…
だけど何故だろう…なんかこう…怒り?
違う…悲しみ…憧れ…いろんなものがこみ上げてくる気がする
俺は…こいつを知っている?
「キリ……ん」
なんだ?なんて言ってるんだこの声は…
俺はかすかに聞こえる音に耳を傾けた。
「キリトくん」
…聞こえた。
キリト…何度も何度も聞いたことがある気がする。
なんだったろう?
……俺の名前?…
「目を覚ましたまえ。キリトくん。」
目を覚ます?
俺は眠っていたのか…
「そうであるともそうでないとも言える。」
…どういうことだ?
「それに私が答える必要はない。君が目を覚ませばおのずと意味はわかるだろう。キリトくん目を覚ましたまえ。そして行きたまえ。私はこの世界の終点で君を待っている。」
あんたは誰なんだ?
「私は…………………。」
……聞こえない…
…なんだろう意識が…
〜〜〜〜〜〜
目が眩しい、体全体に日が当たり体が暖かい。…いや暑いぐらいだ。
俺はゆっくりと目を開け、身体を起こした。
辺りを見回すと草が生い茂り所々綺麗な花が咲いていた。そして草原の真ん中を通るように草花が生えていない道があった。道といっても誰かに整備されているといったものではなく何度も同じ所を通ったためにできたような道だった。
ふと自分の横に目をやった。そこには剣が置いてあった。
俺はそれを手に持ち引き抜く。日差しに反射した刀身は白く輝いていた。
…重い…
この剣見たことがある気がする…
この手に馴染む感じ…俺の剣か?
その剣はとても重くとてもじゃないが振り回すことはできそうになかった。なぜ振り回せもしない剣を持っていたのかわからなかったが、俺はひとまずそれを鞘にしまい、両手で抱えるようにして持つとその場で立ち上がった。
改めて周りを見回したが見たことがあるような景色ではなかった。
だめだ…ここはどこで、俺は何をしていたのか何も思い出せない。
いや…それ以上に自分が何者なのかさえわからない…
自分の名前は…キリト…
あの声は俺をそう呼んでいた。そして、こうも言った。
この世界の終点で待つと…
どこだろうそれは?わからないな。俺はこの世界の事を知らない
…いや、覚えていないのかもしれない
とりあえず、わからないことを考えても仕方がないと思い俺は道に出た。
(右か左か…どちらに行こう?)
どちらに行くか迷っていると、何かが近ずいてくる音が聞こえた。
音のする方に目を向けると、馬車が近ずいてきた。
俺はそれを見てどうするか考える。普通に考えればこの馬車に乗っている人に話を聞くのがいいとは思う。しかし、俺は今両手に剣を抱えている。そうなれば誤解を招いて厄介ごとになってはしまわないかなどとネガティヴな思考を回転させた。
そうこうしているうちに馬車の人もこちらに気がついたようでこちらを見て馬車をキリトの手前で止めた。
「おう真っ黒なにいちゃん何してんだこんなとこで?道に迷ったんなら乗っけてってやろうか?」
キリトからしたら願ったりもない提案にすぐに飛びつく。すぐに馬車に乗っけてもらうと抱えていた剣を下ろす。
「ありがとうございます乗せていただいて。」
「気にすんな!ちょうど街に戻るところだったんだ。荷物が一つ増えたところで変わりゃしねぇよ!かっかっかっか」
大声で笑う馬車の持ち主はひとしきり笑うとこっちを見て再び話しかけてきた。
「俺はガラード!にいちゃん、名前は?」
「たぶんキリト…です。」
俺は未だに確信できていない答えを口から出す。
「たぶん⁇」
ガラードは不思議そうな顔をしながら聞き返してきた。
「えっと…その…気がついたら…あそこにいて…名前以外何も思い出せなくて….」
「あーそりゃあ災難だったなにいちゃん。たまにいるんだよこの辺じゃあ。モンスターに襲われてきた記憶を失う奴が…。まぁあれだ…記憶を失ったのは災難だったが命があったんだ。これから少しずつ思い出せるさ。」
ガラードは俺を見ながら優しく言った。
「そうですね。少しずつ思い出せるよう頑張ります。」
と少し俯きながら言った。そんな俺を見てかガラードが
「まぁそう気を落とすなって。今向かってる街は世界で一番でかい街だから、きっとお前のこと知ってる奴に会えるさ。」
と励ましてくれた。
ガラードは優しく道中俺を励ましてくれていろんな事を教えてくれた。
ガラード曰く、この世界には神がいるのだそうだ。宗教とかで崇められる神ではなく。
大昔暇を持て余した神たちは子供たちのいるこの世界に降りてきた。そして、この世界での暮らしを気に入り神の力を封印してこの世界で生きることにしたのだそうだ。
神はこの世界で一つだけ力を使うことをができるらしい。それは恩恵といい子供たちにモンスターと戦う力を与えてくれるそうだ。
その力を使い神は神の恩恵を授けた子供たちに養ってもらっているらしい。その神と子共たちの関係をファミリアというそうだ。
そして、今向かってる街は世界で一番神が集まり多くのファミリアがあるのだそうだ。街の名前をオラリオ…世界で唯一のダンジョンがある街…
ガラードの教えてくれることに真剣に耳を傾けているとあっという間に街についた。
「ありがとうございました!ガラードさん」
「おう!元気でな!記憶戻るといいな」
「はい!頑張ります!」
「かっかっかっか!とりあえず、ここで生きて行くには働くかダンジョンに潜るかしかねぇからな。どちらにしてもどっかファミリアに入るこったぁ。とりあえずこのまま真っ直ぐ行ったとこにギルドがあるからそこで聞いてみな」
「わかりました!何から何までありがとうございます!いつかこのお礼はさせてもらいます。精神的に」
「おう、待ってるぜ!」
俺はガラードさんを見送りながらさっき言ったことに頭を回していた。
(…精神的に…か)
聞いたことがある気がする。あれは確か赤がトレードマークの…
何か思い出せそうな気がしたが、そこで頭に靄がかかったように思い出せない。
けどなんとなくガラードさんに似てる気がする。
数分道の真ん中で立ち往生しているとキリトはだんだん周りの目が自分に向いている気がしてきた。キリトは慌てて思考を遮ってギルドに向かうことにした。
〜〜〜〜〜〜
そこには石でできた大きな建物が建っており剣や斧様様な武器を持った様々な種族がカウンターの向こうの人とはなしたり紫色の結晶と何かを変えてもらったりしていた。
キリトはとりあえずカウンターに行き目についた人に話しかけてみた。
キリトが話しかけた女性は耳が真横にピンと立っていたのでガラードさんの教えからエルフだと一目でわかった。そのエルフの女性は端整な顔立ちで美人というに差し支えがなかった。
「どうされましたか?」
と問われたキリトは何から話していいか分からず今日あったことを全部エルフの女性に話した。
ひとしきり話しを聞いた彼女は少し間を置くいてから、
「とりあえずあなたの事情はわかりました。ギルドとしてできることはあなたにさせていただきます。」
「本当ですか⁉︎ありがとうございます!」
これからのことで不安だったキリトは思わず声を大きくして言った。
「はい。ではまず上を脱いで背中を見せてもらえますか?」
と言った彼女の言葉に聞き間違えかと思い、とっさに聞き直す。
「え?」
すると彼女は再び上を脱いで背を見せろと要求してきた。
キリトはこれがこの世界での初めましての儀式的なものかなどと検討違いなことを、考えながらも言われた通りにした。
「ん〜〜、見た所どこのファミリアにも所属してないようですね。」
その発言に思わず
「背中見ただけでそんなことわかるんですか⁉︎」
と言ったキリトに作り笑いを浮かべながら彼女はこいつかなりの重症だなどと思った。
〜〜〜〜〜〜
「では、これからのことですが…商業系のファミリアあるいは探索系ファミリアどちらを希望されますか?」
キリトは腕を組みながらどちらにするか迷っていた。
安全に生きて行くなら商業系だろう。だけど、俺が今すべきなのは安全に生きて行くことじゃない。いかにして記憶を戻すのかだ。
記憶を戻すヒントは今の所、剣と謎の声の言葉しかない。
剣を持っていたということは俺はモンスターと戦っていたのかもしれない。それにあの声は終点で待つと言っていた。
あれはダンジョンの終点で待つという意味ではなかろうか?
それなら俺は探索系ファミリアに入るべきだ。
そこまでキリトが考えてキリトは答えを出した。
「……探索系でお願いします。」
そう言った俺の目を少し不安そうな目で見た彼女は
「ほんとにそれでいいの?」
と確認してきた。それもそうだろう今日モンスターに襲われたせいで記憶を失ったかもしれないキリトがダンジョンに潜ってモンスターと戦うことを選択したのだから。
「はい。ダンジョンでモンスターと戦ってみたら何か思い出せそうな気がするんです。」
「そう。……わかりました。では、その方向でファミリアを探してみますね。」
そう言って彼女は資料に目を通し初めた。
しばらくして彼女が顔を上げるて、
「今探索系ファミリアで募集があるのは一つだけです。特にこれといった問題点はないのですが…」
「ですが?」
「できたばかりのファミリアでして所属人数が1人で規模が最小なんです。」
「それだとまずいんですか?」
「いえ、まずくはないですし、神様もその所属している子もいい人なんですが…はっきり言うと貧乏です。」
なんかとてつもない裏があるのかと思っていた俺はそのなんというか家庭的な問題をあげられ思わずポカーンとしてしまった。
〜〜〜〜〜〜
なんだかんだで結局オラリオ最小ファミリアに決定したキリトは今ダンジョンの前に来ている。
ギルドでファミリアへの連絡はしてくれるそうなのだが明日にならないとその神とは会えないらしい。
なので今日キリトは街で一晩明かさないといけなくなったのだが、金がない。ギルドで初心者用の装備は貸してもらえたのだが金は貸してもらえなかった。ということで今日は街の中で野宿?である。
流石にかわいそうだったのか担当してくれたエルフの女性、エイナさんがご飯を恵んでくれた。思わず涙が出そうになった。
キリトの格好は先ほどまでと変わり黒い服装の上から銀色の鎧などを纏いその上から黒いコートを羽織り、背中には片手剣を背負っている。
キリトが初めから持ってた剣とは違う剣である。というか、あの剣は重すぎて持ち運ぶのもしんどい。なのでギルドに今日1日だけ置いてもらう事になったのだ。
この剣を受け取ったエイナさんは身体ごと地面に引っ張られて倒れてしまった。この後小一時間ほど女性の扱い方を説教されるとは夢にも思わなかったが…
まぁそんなこんなで格好だけは駆け出しの冒険者になったキリトだが今からどうしようか悩みに悩みまくっていた。なんせやることがないのだ。何か考えようにも考えるための材料が全く無い。金もないのでどこかお店に行くこともできない。
どうしようかと考えていると先ほど見た光景を思い出した。
それはエイナさんと話していた時に横で行われていた光景だった。
エイナさんは親切にキリトが知らないであろうことをいろいろ教えてくれた。その中にその光景の説明もあった。
あの光景はダンジョンから持ち帰った魔石やドロップをお金に換えていると言っていた。
(つまりダンジョンでモンスターを倒せば金になるってことだよな?)
そう考えてキリトはダンジョンにまで足を伸ばしたのだ。
ダンジョンと呼ばれるその場所にはバベルの塔と呼ばれる建物がそびえ建っている。バベルの塔は昔ダンジョンからモンスターが出てこないようにと蓋をしたのが始まりで今では塔にまで成長していた。
一番初めの蓋は神が下界にやって来た際に壊れてしまったようでその後に建て直したのが今のバベルの塔らしい。今に至るまでオラトリアにはバベルの塔より高い建物がないそうだ。その高さが人気なのか大規模ファミリアの神たちの家になっているらしい。まぁ何事にも例外は付き物で自分のファミリアの建物に住み続けている神もいるようだが…
(これがダンジョン…この奥に俺の求めるものがあるんだろうか?)
キリトは足を進めダンジョンに向けて進んで行く。周りを見てみれば夕方になってダンジョンから帰宅する人ばかりで、入って行こうとする者はキリトぐらいだった。
入り口に近ずいたところでものすごい勢いでかけてくる男の子がいた。その男の子は頭から上半身に至るまで真っ赤な血で染まっていた。
その後ろ姿を見て周りの人たちは笑ったりしていたが、キリトはぞっとしていた。ダンジョンというものが自分の考えていたよりも恐ろしいところなのではないかと…
キリトがダンジョンの入り口に立って前を見るとその光景に何か懐かしさを感じた。
(なんだろう、昔こんなことをしていた気がする)
そう感じて探索系ファミリアを選んだ自分は間違いじゃなかったと確信した。
中に入るとすぐ背中から剣を抜き進む。しばらく歩くと小さな緑色のモンスターがいた。数は一体エイナさんに教えられた情報によれば確かゴブリン。ダンジョン最弱モンスター、初心者入門編。
キリトが狙っていたのはまさにこのモンスターだった。逃げる準備は万端。恩恵を受けていないキリトは自分の力だけでこのモンスターと戦わなければならない。
だから勝てないと判断したらすぐさま逃げるつもりだった。
腰を低くし剣を後ろに構える。キリトはモンスターとあった瞬間自分の意識が切り替わるのを感じた。同時にこのような体制に無意識になっていた。
(やっぱり俺は剣を持って戦っていたんだ。おそらくあの剣で…)
ゴブリンはこちらに気ずくと襲い掛かってきた。そのスピードは速いが目で追えないほどではなく、身体を回して横に避けた。すれ違う瞬間に持っていた剣でゴブリンの背中に一撃を加える。
ゴブリンは背中から血を流していたが倒してはいなかった。ゴブリンは攻撃され怒ったのか振り向くとすぐさま突っ込んできた。それを今度は避けずに剣をまっすぐ突き出した。剣はゴブリンの腹を貫通しゴブリンは断末魔の悲鳴をあげチリとなって消えた。そのチリの上には紫色の結晶、魔石が落ちていた。
そこからはひたすらゴブリンを狩りまくった。4時間ぐらいすると魔石も結構集まったのでギルドに行って換金してもらいに行った。
コソコソとエイナさんにはばれないように換金していたが、帰り際に見つかってしまいこっ酷く叱られるハメになった。
間違いと読みにくい箇所があったので修正しました。