窓付きが異世界から来るそうですよ?   作:一反目連

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4.夙夜夢寐(しゅくやむび)

暫く雑談を交えて歩くと、蒼い生地に互いが向かい合う二人の女神像が記された旗が見える。あれが"サウザンドアイズ"の旗なのだろう。日が暮れて看板を下げるけ割烹着の女性店員にわ黒ウサギは滑り込みでストップを、

 

「まっ」

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやってません」

 

………ストップをかける事も出来なかった。

窓付きは口喧嘩のように言い合い出した店員と黒ウサギ達を見て、考える。あの店員は黒ウサギだと分かった上で締め出した。―――否、黒ウサギだと分かったからこそ締め出したのだろう。そして、黒ウサギの現状を考えて―――結論を出した。

 

「黒ウサギ、日を改める―――いや、帰ろう」

「ま、窓付きさん!?」

「店員さん、"サウザンドアイズ"は『"ノーネーム"お断り』なんですよね?」

「―――ええ、そうですね」

 

窓付きの言葉に店員は肯定する。それを予想できたからこそ、此処で引くのが最善ではなくとも()いのだ。

 

「……では、失礼しま」

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

店内から飛び出してくる少女が突如、黒ウサギにタックルを仕掛けてきた。そのまま黒ウサギは少女と共に空中四回転半ひねりして街道の向こうにあった浅い水路まで吹き飛んだ。

 

「きゃあーーーーー…………!」

 

ボチャン。そしてドップラー効果の実験に最適そうな悲鳴。流石の窓付きも目を丸くした。

 

「……おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?なら俺も別バージョンで是非」

「ありません」

「なんなら有料でも」

「やりません」

 

十六夜と店員。二人は割とマジだった。

 

「これ、誰が収拾つけるんだろ……」

 

   *   *   *   *   *

 

「うう………まさか私まで濡れる事になるなんて」

「因果応報………かな」

「にゃあ」

 

悲しげに服を絞る黒ウサギを見て、窓付きは小さく呟く。

 

「―――『☆カンテラ☆』」

 

すると、窓付きの手にカンテラが現れる。

 

「黒ウサギ、こっちによって?少しは乾くの早くなると思うし」

「あ、ありがとうなのですよ窓付きさん……」

 

涙目になりながら黒ウサギは窓付きに近寄り、暖を取る。それを白夜叉は興味深そうに見ていた。

 

「ほう?お主随分と面白そうな恩恵(ギフト)を持っとるのじゃな。どれ、儂にも暖を―――」

「燃えろ」

 

窓付きの一言でカンテラの中で燃え盛っていた炎は、近付いてきた白夜叉に向かって急激に大きくなる。

 

「危なっ!?」

「黒ウサギは巻き込まれた、でも白夜叉さんは自業自得。近寄っていい理由は一つもない」

「お主結構酷いのぅ!」

 

―――窓付きは、警戒していた。鳥人間でも、ポニ子でも無い、絶対に勝てない存在に。

 

「―――ふむ、まあ良い。話があるなら店内で聞こう」

「よろしいのですか?彼らは旗も持たない"ノーネーム"のはず。規定では」

「"ノーネーム"だと分かっていながら名を尋ねる、性悪店員に対する詫びだ。―――それに、興味深い者もいるしの……」

 

白夜叉はじっ、と窓付きを見据える。暫く見た後、スッと目をそらして何事も無かったかのように話を続ける。

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

―――漸く、当初の目的が達成できそうである。

 

   *   *   *   *   *

 

その後、外門の話を受けたり、耀が鷲獅子(グリフォン)の試練を受けたりして、漸くギフトの鑑定をして貰える事になった。

 

「―――おんしらは自分のギフトの力をどの程度に把握している?」

「企業秘密」

「右に同じ」

「以下同文」

「うおおおおい?いやまあ、仮にも対戦相手だったものにギフトを教えるのが怖いのは分かるが、それじゃ話が進まんだろうに」

「別に鑑定なんていらねえよ。人に値札貼られるのは趣味じゃない」

 

ハッキリと拒絶するような声音の十六夜と、同意するように頷く二人。窓付きは一度溜息をついて、三人に顔を向ける。

 

「駄目だよ十六夜。今はあくまで、黒ウサギと白夜叉の好意に甘えさせてもらって、鑑定をしてもらう事になっているんだから。一方的に頼んで一方的に断るというのはいくらなんでもマナーがなってない」

「俺達は最初から頼んでない」

「それでも、だよ。そもそも三人は互いの恩恵(ギフト)を知らないでどうやって仲間として暮らすつもりだったの?」

 

むっ、と黙り込む十六夜。他の二人も難しい顔をして黙ってしまった。それを確認した私は、白夜叉に顔を向けて口を開く。

 

「こちらの方で話は付きましたので、すみませんが白夜叉さん。鑑定をお願いしますね」

「うむ……む、そうだ」

 

困ったように頭を傾けていた白夜叉は、突如妙案が浮かんだとばかりにニヤリと笑った。

 

「何にせよ"主催者(ホスト)"として、星霊のはしくれとして、試練をクリアしたおんしらには"恩恵(ギフト)"を与えねばならん。ちょいと贅沢な代物だが、コミュニティ復行の前祝いとしては丁度良かろう」

 

白夜叉が柏手を打つと、私達の眼前に光り輝く4枚のカードが現れた。カードにはそれぞれの名前と、おそらくそれぞれの持つギフトを表す名前(ネーム)が記されていた。

 

コバルトブルーのカードに逆廻十六夜

  ギフトネーム"正体不明(コード・アンノウン)"

ワインレッドのカードに久遠飛鳥

  ギフトネーム"威光"

パールエメラルドのカードに春日部耀

  ギフトネーム"生命の目録(ゲノム・ツリー)" "ノーフォーマー"

マゼンタのカードに窓付き

  ギフトネーム"夢の器(ゆめにっき)" "窓付" "彷徨"

        "錆付" "嘘吐" "彩/藍音"

 

それぞれの名とギフトが記されたカードを受け取る。黒ウサギは驚いたような、興奮したような顔で四人のカードを覗きこんだ。

 

「ギフトカード!」

「お中元?」

「お歳暮?」

「お年玉?」

「ああ、『恩恵(ギフト)』を記す『(カード)』で『ギフトカード』……まんまだね」

「お三方は違います!というかなんでお三方はそんなに息が合っているのです!?このギフトカードは顕現しているギフトを収納できる超高価なカードですよ!耀さんの"生命の目録"だって収納可能で、それも好きな時に顕現できるのですよ!」

「つまり素敵アイテムってことでオッケーか?」

「だからなんで適当に聞き流すんですか!あーもうそうです、超素敵アイテムなんです!」

 

黒ウサギに叱られながら三人はそれぞれのカードを物珍しそうにみつめる。私も自分のカードに視線を落とし……すぐに見るのをやめた。

 

「そのギフトカードは、正式名称を"ラプラスの紙片"、即ち全知の一端だ。そこに刻まれるギフトカードとはおんしらの魂と繋がった"恩恵(ギフト)"の名称。鑑定は出来ずともそれを見れば大体のギフトの正体が分かるというもの」

 

成程、私のギフトは―――私と、その娘達のギフトは、確かにギフトカードに刻まれている。ギフトの名称は私や娘達の名前になっているらしい。

 

「で、窓付きのギフトはどうなってるんだ?お前のエフェクトが全部記されるなら幾つになるかは分からないが、結構な数になると思うんだが……」

「む?そこの娘はそんなにエフェクトを持っておるのか?」

「結構な数持っている事を仄めかしていたぜ。少なくとも今までで5つのエフェクトを使用している」

「あ、ある程度纏められているから大丈夫だよ」

 

そうなのか見せろ、と言って十六夜は私からギフトカードを取る。それを見て、疑問符を浮かべていた。

 

「なんだこりゃ、名前からじゃ効果がまるでわからねぇぞ」

「私や娘達の名前がギフトとして載ってるみたいだからね。仕方が無いと言えば仕方が無いかな」

「む?ふむふむ……この"夢の器(ゆめにっき)"というのは他と毛色が違うようじゃが?」

 

白夜叉が覗きこみ、問い掛けてくる。

 

「多分だけど―――私の現在の身体の事を指してるんだと思う。私の今の体って、肉体じゃないの」

「―――は?」

「この身体は私の夢の中の身体。私の全盛期の時の身体。私のギフトの本質、かな?」

「……お前の身体は、実体じゃない、霊的物質(エクトプラズム)に近い物だってことか?」

「大体あってると思う」

「思うって、随分と曖昧だな」

 

十六夜の突っ込みに私は苦笑いするしかない。何せ―――

 

「この身体を用意したのは、私じゃなくて先生だから……」

「先生って誰だ?」

「あっ……」

 

そういえば、説明してなかったな。




今回出てきたエフェクト 5/115

☆カンテラ☆
登場作品:ゆめ2っき
・カンテラを手に持つ
 ・暗いところを明るく照らす
 ・燃え易い物を燃やせる

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