窓付きが異世界から来るそうですよ?   作:一反目連

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1.酔生夢死(すいせいむし)

そこは、小さな部屋だった。

 

人間の生皮を()いで繋ぎ(あわ)せたような、(みょう)に生々しい図案(パターン)絨毯(じゅうたん)

 

やけに古めかしいブラウン管のTV(テレビジョン)

 

部屋の大きさと比較(ひかく)するとやけに多い座布団(クッション)

 

(ほこり)が降り積もっていて、本の題名も判読できないが、それでも綺麗(きれい)に本が配置された書架。

 

取り調べ室にあるような簡素な(デスク)

 

そして()(しろ)な、まだ誰も使ってないかのような、柔らかそうなベッド。

 

そして―――部屋の奥にある地味な意匠(デザイン)の扉。

 

その様な、不気味な雰囲気の小部屋に、(まど)()きはいた。

 

「―――(なん)で、()()()()()()()()()?」

 

そこは、(まぎ)れも()く、夢の世界だった。

 

しばし戸惑った後、窓付きは部屋の奥にある扉を開ける。

 

そこには12個の奇妙な意匠(デザイン)の扉がポツン、と置いてあった。

 

そして窓付きは確信めいた何かを持ってもう一度小部屋へ戻る。そこには―――

 

「やぁ、久しぶりだね窓付き」

「―――先生?」

 

目の前に立つ、不可思議な人型。

それは細かい造作が余りにも適当な男性のようだった。

昆虫の複眼みたいに硬質的な目が二つあるだけで、口も鼻も耳も存在しない顔に、のっぺりとした髪の毛らしきもの。体も単色の黒で軟体動物のような光沢があった。

 

それは、窓付き達が『先生』と呼ぶ、夢の中の人物だった。

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

「どうして、私はまたこの、夢の世界に来れたんですか?」

 

この部屋、いや、この世界は窓付きの未成熟な精神によって形作られた場所だ。

 

現実ではもう大人となり、お婆ちゃんになり、孫も出来た。そんな窓付きがこの世界に来れてしまうことは無い筈なのだ。

 

「窓付き、自分の身体(からだ)をよく見て欲しい」

 

窓付きは自らの身体を見て、また驚く。

 

すっかり老いてしまっていた筈のその身体は、若返って―――否、この夢を見ていた頃の自分の身体に()()()()()

 

「窓付き、君は―――既に死んだんだよ」

「えっ!?」

 

しかし―――有り得ない話では無かった。

 

「自覚していた筈だろう?君の身体はすっかり衰弱していた。そしてそのまま、君は死んでしまったんだよ」

「………」

 

予想していた、予知していた、自分の死期が近づいていた事も。

 

「ここからが本題だ。君の、君達が〈エフェクト〉と呼んでいる()()は、(いま)だ君の中に残っている」

 

「だから、君は異世界への招待状を受け取れるようになってしまった」

 

エフェクト―――私は念じてみる、『★かさ★』と。

 

すると、私の手元には赤い傘が、最初から持っていたかのように、手に収まっていた。

 

私が傘を広げると―――雨が降るから傘をさす、そんな事象を逆転したかのように―――雨が降りだす。

 

エフェクトが存在する事を確認すると、傘をしまう。それと同時にまた、雨が止む。

 

「そして、これは窓付きの、子供達からの贈り物だよ」

 

先生がそう言って渡したのは沢山の―――数えると大体90個位だった―――色とりどりのイースターエッグの様な、卵型の物体。

 

「君の子も、君と似たような夢の世界を持っていたんだ。だから私も干渉できた。そして、君が異世界に行くかも知れないことを伝えると―――皆、自身のエフェクトを窓付きに渡すよう言ったんだよ」

 

「………そっか」

 

私も察していた、私の子、孫に、夢の世界があったことを。

 

「これが異世界行きの招待状だ。読めば異世界へ行ける。この手紙をどうするかは君が決めたらいいよ」

 

私は先生が持っていた90個くらいのエフェクトを全て受け取り、手紙も受け取る。

 

「―――じゃあ、いってらっしゃい」

 

手紙を開けて、私は先生に言う。

 

「いってきます」

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

(なや)み多し異才を持つ少年少女に告げる。

 その才能(ギフト)(ため)すことを望むのならば、

 (おのれ)の家族を、友人を、財産を、

 世界の(すべ)てを捨て、

 我らの"箱庭"に来られたし』

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

「わっ」

「きゃ!」

 

窓付きはすぐに気づいた。

 

急転直下、自分たちは上空4000mほどの位置に投げ出されたのだと。

 

眼前に見える断崖絶壁(だんがいぜっぺき)

 

縮尺を見間違うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。

 

彼らの前に広がる世界は―――完全無欠に異世界だった。

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

窓付きはすぐに念じる―――『★まじょ★』と、

 

自分の姿が変化したのを確認するや否や、落ちていた二人の女性―――猫もいたのでそれも一緒に―――を掴み、ゆっくりと降りていく。

 

一人だけ、一人の少年だけは助けれなかったが窓付きの腕は二つしかないので仕方無い。

 

窓付きは湖の近くにあった岸へゆっくりと着陸する。

 

「あ、ありがと……」

「…助かった」

「に゙ゃあぁぁぁ…」

 

「えっと、どういたしまして」

 

自分の若々しく()った声に違和感を感じながらも、感謝の意を受け取る。

 

「おい、なんで俺も助けなかったんだ?」

 

湖から岸へ上がった少年がやや威圧的に尋ねる。

 

「私の腕は二本しか無い、それに箒にこんなに沢山人を乗せるのは初めてだから保険も兼ねて」

 

私が淡々と答えると舌打ちして少年はそっぽ向く。

ボーイッシュな方の少女が辺りを見回して(つぶや)く。

 

「此処………どこだろう?」

「さあな。まあ、世界の果てっぽいものが見えたし、どこぞの大亀の背中じゃねえか?」

 

恐らくこの少年が言っているのは古代インドでの宇宙観を指しているのだろう。世界は巨大な亀の甲羅(こうら)に支えられた3頭の象が半球状の大地を支えていると考えられていたという説である。一度は聞いたことのある人も多いだろう。

 

適当に服を(しぼ)り終えた少年は軽く曲がったくせっぱねの髪の毛を掻きあげ、

 

「まず間違(まちが)いないだろうけど、一応確認しとくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは"オマエ"って呼び方を訂正して。―――私は久遠(くどう)飛鳥(あすか)よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴女(あなた)は?」

 

「………春日部(かすかべ)耀(よう)。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。次に私たちを助けてくれた親切な魔女の貴女は?」

 

言われて気づいたが、今は『★まじょ★』の状態のままである。『★まじょ★』を解除して自己紹介する。

 

「私は窓付き」

 

「あら、魔女じゃなかったのね。少し残念だわ。最後に、野蛮(やばん)凶暴(きょうぼう)ほうな貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻(さかまき)十六夜(いざよい)です。粗野(そや)凶悪(きょうあく)で快楽主義と三拍子(そろ)った駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様(じょうさま)

 

「そう。取扱(とりあつかい)説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

窓付きは周りを見渡して、気づく。草陰(くさかげ)に、人影か見える事に。

 

チラリ、と十六夜の方を見ると目で『今はまだ気付かないフリしとけ』と言わんばかりに見ていた。

 

窓付きは今は気付かないフリすることにした。

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

十六夜が苛立(いらだ)たしげに言う。

 

「で、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。この状況だと、招待状に書かれていた箱庭とかいうとのの説明をする人間が現れるもんじゃねえのか?」

「そうね。なんの説明もないままでは動きようがないもの」

「………。この状況に対して落ち着き過ぎているのもどうかと思うけど」

 

全くだ、と窓付きは思った。とはいえ、窓付きも余り人のことをどうこう言える立場ではないが。

 

ふと十六夜がため息交じりに呟く。

「―――仕方がねえな。こうなったら、()()()()()()()()()()()()話を聞くか?」

 

四人の視線が人影に集まる。

 

「なんだ、貴方も気づいていたの?」

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴と三つ編みの奴も気づいていたんだろ」

「風上に立たれたら嫌でもわかる」

「気配には敏感な方だから」

「………へえ?面白いなお前ら」

 

軽薄(けいはく)そうに笑う十六夜の目は笑っていない。窓付き以外の三人は理不尽(りふじん)招集(しょうしゅう)を受けた腹いせに殺気の()もった冷ややかな視線を人影に向ける。人影がやや怯んだ気配がした。

 

「や、やだなあ御三人様。そんな(おおかみ)みたいに(こわ)い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独(こどく)と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱(ぜいじゃく)な心臓に(めん)じてここは一つ穏便(おんびん)に御話を聞いていただけたら(うれ)しいでございますョ?」

 

「断る」

却下(きゃっか)

「お断りします」

「そんなこと言ってる時点で大分脆弱な心臓はしてない気がする」

 

「あっは、取りつくシマもないですね♪」

 

バンザーイ、と降参のポーズをとる(たぶん)黒ウサギ。

窓付きは黒ウサギの眼が冷静に自分たちを値踏みしていることに気づいた。

 

そして、春日部耀は不思議そうに黒ウサギの(となり)に立ち、黒いウサ耳を根っこから鷲掴(わしづか)み、

 

「えい」

「フギャ!」

 

力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!(さわ)るまでなら(だま)って受け入れますが、まさか初対面で遠慮(えんりょ)無用に黒ウサギの素敵(すてき)耳を引き()きに()かるとは、どういう了見(りょうけん)ですか!?」

好奇心(こうきしん)()せる(わざ)

「自由にも(ほど)があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「………。じゃあ私も」

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

今度は飛鳥が左から。左右に力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、声にならない悲鳴を上げ、窓付きはその様子を微笑(ほほえ)ましく見ていた。

 

  ★   ★   ★   ★   ★

 

「――――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしますとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないデス」

「いいからさっさと進めろ」

 

窓付きは黒ウサギと十六夜達の(たわむ)れが終わるまでに子供達から貰ったエフェクトを整理していた。

 

「それではいいですか、御四人様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!」

 

―――――黒ウサギの説明を大体省略―――――

 

「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティでお話させていただきたいのですが………よろしいです?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

 

静聴していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。ずっと刻まれていた軽薄な笑顔が無くなっていることに気づいた黒ウサギは、構えるように聞き返した。

 

「………どう言った質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「そんなのは()()()()()()。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。ここでオマエに向かってルールを問いただしたところで何かが変わるわけじゃねえんだ。世界のルールを変えようとするのは革命家の仕事であって、プレイヤーの仕事じゃねえ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」

 

「この世界は………()()()()?」

 

「―――――」

 

飛鳥と耀も無言になって返事を待つ。

彼らを呼んだ手紙にはこう書かれていた。

『家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨てて箱庭に来い』と。

それに見合うだけの(もよお)し物があるのかどうかこそ、三人にとって一番重要な事だった。

 

「――――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」




今回出てきたエフェクト 2/115

★かさ★
登場作品:ゆめにっき
・赤い傘をさす
 ・エフェクト使用と同時に雨が降る
 ・テンキー1で傘を振る
 ・もともと雨が降っているマップで「かさ」を選択し、解除すると雨を止めれる

★まじょ★
登場作品:ゆめにっき
・魔女の姿になる
 ・テンキー1で箒に跨って飛ぶ

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