初めての二人暮らしin101号室   作:larme

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初めての告白

唐突だけど、恭華と由架は連絡先を一度も交換したことがない。仲が悪いとかそうゆうことは断じてなかったし、お互いに携帯は所持していた。

でも、アドレスを交換するという話には自然とお互いにならなかった。バスケをすることに集中していてそうゆう話にならなかったということかもしれない。しかし、それなら由架と瑞希はお互いにアドレスを知っていたことの説明にはならない。

では、なぜか? 答えは簡単である。2人が必ず会える場所があったから。その場所は……。

 

 

恭華は目指すべき場所を目指していた。迷子になった由架をさがして。

実は小学生の頃に一度、由架は迷子になっている。恭華の家に集合して、確か動物園に遊びに行くという話だった。で、そこで恭華は自分の家の場所を説明するためにお手製の地図を渡したのだが……。

その地図が思いの外わかりずらかったらしく、由架は集合時間になっても恭華の家にたどり着くことができなかった。

不安になった恭華は家を飛び出し、由架を探しにいった。なかなか見つけることができなかったが、ヘトヘトになった足で最後に向かった場所でやっと落ち合うことができた。

その頃にはすっかり陽は落ちていたので、恭華たちは動物園を諦めた。そして、彼らはそこでバスケをした。

「やっぱり、ここにいたか」

恭華は目的の場に着いた。そこはいうまでもなくバスケのコート。センターサークルの真ん中で屋台の方をぼんやり眺めている由架が立っていた。

「私も同じ。やっぱりここに来てくれたね」

にっこり笑って恭華に焦点を合わせる由架。コートは屋台群から外れていて、さっきまでの人混みが嘘のように誰もいない。そこには二人だけの時間が流れていた。

「そういえば、あの日も私、迷子になっちゃって、でも、河川敷のコートの上で会えたね」

恭華も全く同じ日のことを思い浮かべていたので、瞬時に頷いた。

「じゃあ、あの日と同じように、少しバスケをしていかない?」

そういう由架の表情は穏やかなものだった。河川敷で由架とバスケをする。いたって当たり前でいたって普通のことだったはずのその行為を今、再び味わうことができる。恭華としては嬉しくてたまらなかった。

「もちろんだ」

幸いボールはすぐそこに転がっていてバスケを始めるのには支障はなかった。

「じゃあ、昔みたいにシュート対決しよっ! スリーをどっちが連続で多く決められるかで勝負ね!」

由架はノリノリだ。迷子になったにもかかわらずこんなに楽しそうにしていられるのはきっと恭華のことを信じていたからだろう。そう考えるとますます嬉しくなる恭華。

そのシュート対決は恭華が負けた。どちらも9本連続までは決めたのだが、そこから恭華が外して由架が決めて決着。

でも、まあ、9本連続でスリーを決めるだけでも十二分にすごいプレイヤーだろう。

「へへ、私の勝ちだ」

また、嬉しそうにニコッと笑う由架。そんな由架に恭華の心は動かされた。

「由架、ちょっと話したいことがあ……」

ヒューーー、パァァァン。恭華の言葉を遮って花火が上がった。

不意に背後に上がった花火に恭華は由架に背を向け見入った。すると、由架が後ろから小走りで近づいてきて恭華の耳元で

「今日は私から言わせて」

と、言って恭華の正面まで走って恭華に向かい合うようにして止まった。その時、ちょうどヒューーーと二発目の花火が上がり始めていた。

そして、それが花開くのと同じタイミングでそれの音に負けないくらい大きな声で由架が叫んだ。

 

「私も恭くんのこと、好き!!」

 

その声は他の誰に聞こえなくても、恭華にだけはしっかり届いた。由架は花火の多色の綺麗な光に映えて恭華にとってはこれ以上なく美しいものに見えた。

嬉しくて恥ずかしくってどうしていいか戸惑った恭華はあたふたしていた。

そんな恭華のところに由架が近寄ってきて

「ここって以外と穴場だね。花火がよく見えるよ」

そう言って、まるで誤魔化すような態度をとる由架。

返事をしなきゃ、そうゆうことも考えたりするのだが、戸惑ってしまって行動に移すことができない。まず、恭華は片思いだと思ってたし。

何も出来ないでただただ、花火を見ていると理菜が遠くから走ってきた。

「やっぱりここにいたんですねぇ」

え? やっぱりって? 僕と由架はいつも河川敷でバスケをしていたからわかるけど……って顔をしていることに理菜は気付いたらしく

「恭くんの話とか聞いてたらここにいるってわかりますよぉ」

と、言って笑い出した。理菜は頭の回転が速いし、賢いしこれくらいの推理はなんてことはないのかもしれない。

それにしてもこうゆう迷子がこれ以上増えても困るな。

「由架、良かったらメールアドレスを交換しないか?」

「うん!」

と、言って携帯を取り出したのだが、案の定電源が入っていなかった。恭華と由架は目を合わせて笑いあった。

あ、幸せだ。恭華はそう思った。そして、その勢いで感謝を述べることにした。

「すごく嬉しかった。ありがとう」

すると、由架は急に顔を赤くして、え?聞こえてたの!? と目で訴えかけてきた。

あれだけの大声だったらって思ったりもしたが、もしかしたら僕であったからこそ聞き取れたのかもしれないと思う恭華もいた。

花火はまだ上がり続けている。夏は始まったばかりだ。この花火はまるでヨーイドンの合図。今日から本格的な夏が始まる気がした。

 

次の日。無事に理菜を通してメアドを交換することができた由架と恭華。

恭華はニヤニヤしながら携帯の画面を見つめていた。

「何ですかぁ? 気持ち悪いですぅ」

「あ? いいだろ別に」

「ははあん、昨日何かあったんですねぇ?」

急に鋭いところをつかれて顔を赤くする恭華。

「まあ、何があったか知りませんがぁ、隣に住んでるんですから会いに行けばいいじゃないですかぁ?」

すると、恭華は口を隠して

「だって、恥ずかしいじゃないか!」

照れを隠すようにそう大声で言った。

「ピュアな恋をしちゃってるんですねぇ」

そういう理菜を軽く睨む恭華。

「恭くん、睨まないでくださいですぅ。それにしても羨ましいですねぇ」

「……」

何も言い返せない恭華。

羨ましいという理菜はピュアな恋そのものにももちろんそう感じた。だが、叶わない恭華とのそうゆう関係にも軽く憧れを抱いてしまっていた。

のちにこの感情がややこしいことを起こしてしまうような気がして……。理菜はグッと気持ちを押し殺して2人を応援することにした。


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