ヤマトin艦これ   作:まーりゃん000

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第4話

 近寄ってきた提督――和子は、手を差し出してきた。

 しかし、軍服姿の女性が魅力的に見えるのは何故なのだろうか。女性用の第2種軍装のタイトなスカートから覗く足が色っぽいし、控えめに自己主張している胸もまた良い。

 そんなことを考えているせいか、少しドキドキしながら握手を交わす。

 

「初めまして、竹下提督。この度は私を保護していただき、ありがとうございます」

「いいえ、とんでもない。困っている艦娘を助けるのも提督の仕事ですから」

 

 和子提督が「どうぞ、お座りください」とソファを示すので、ありがたく座らせてもらう。

 同時に不知火は隣の部屋らしき場所に消えていき、妙高は退室していった。

 和子提督は反対側のソファに座ると、んんっ、と喉を鳴らして話し始めた。

 

「ええっと、大和さん。記憶を無くされているとお聞きしたのですが、やはり今も前の所属などは思い出せませんか?」

「……はい。本当に気が付いたら海の上にいたという感じで……まるで生まれたばかりという感じです」

 

 実際、気が付いたら海の上にいたのだし、艦娘としての俺は生まれたばかりなわけだから嘘ではない。

 

「記憶を無くされた原因などに心当たりはありませんか? たとえば頭が痛むとか……」

「いえ、特にそういった症状は……」

 

 強いて言うなら、お腹が空いたぐらいだ。何せ、昼過ぎから海の上をずっと走っていたのだ。もうそろそろ夕飯時だし、お腹も空くというもの。

 そう言うと、ふむ、と和子提督は考え込む様子を見せた。

 

「では、もう一つお尋ねします。不知火たちに保護される前に深海棲艦と戦闘になったと聞いていますが、その時の敵の編成は分かりますか?」

「ええと……軽巡へ級に駆逐艦イ級とハ級の3隻だったと思います」

 

 正直軽巡はともかく、駆逐艦はクラスが違っても見た目が似通っていることもあり、あまり区別できていない。出会って早々に吹き飛ばしたこともあって、よく覚えていないのだが、確か妖精さんはそう言っていたはずだ。

 

「へ級……近海で見かけるのは珍しいですね。深海棲艦の艦種は覚えてらしたんですか?」

「あ、いえ。妖精さんが教えてくれたんです」

「ああ、なるほど。……あれ。もしかして、妖精なら何か知っているのでは?」

 

 ……あ、確かに。

 俺が艦娘になったときからずっと一緒なのだし、俺が何でこんなことになっているのか知っている可能性もある。

 ただ、記憶喪失という設定には都合が悪い。後で確認して口裏を合わせてもらわなければ。

 

「そうかもしれないですね……後で妖精さんに聞いてみます」

「そうですね、お願いします。それで深海棲艦についてですが、撃破されたということは艤装は問題なく扱えた、ということでよろしいですか?」

「ええ。何というか、身体の一部みたいに動かせました」

 

 俺の言葉に和子提督は微笑んだ。

 

「他の娘たちもよくそう言ってます。では、艦娘としての能力に問題はないようですね」

 

 良かったです、とつぶやく和子提督の後ろ。隣の部屋から、お盆を持った不知火が出てきた。お盆の上には湯気の立つお茶と、お茶請けらしき羊羹。

 テーブルの横に立つと、「どうぞ」と静かにお茶を置いてくれた。流石秘書艦、その姿も様になっている。

 和子提督も「あ、どうぞ召し上がってください」と自分の分に手を付けながら勧めてくれたので、遠慮なく頂くことにする。お腹空いたし。

 しかし、まさか不知火の入れてくれたお茶が飲めるとは……艦娘にもなってみるもんだ。

 

 暖かい緑茶を飲むと、心が落ち着く。羊羹の甘さも引き立ち、とても美味しい。

 ほっと一息ついて、お茶を置いた和子提督と向き合う。

 

「では今後のことについてですが、貴女の所属については一応こちらで調査します。所属が判明するまではこちらで保護しますので、安心してください」

「何から何までありがとうございます……」

「どういたしまして。で、差し当たって今日この後の話ですが……そろそろお夕飯ですね?」

 

 なぜか生暖かい目線を向けられた――と思ったら、いつの間にか俺の分の羊羹が消えていた。

 いや俺が食べたんですけどね。大変美味しかったです。欲を言えばもっとボリュームが欲しかった。

 

「この後の話は夕食を取りながらにしましょうか。不知火、大和さんを食堂まで案内してあげて」

「了解しました」

 

 笑いながらそう言う和子提督に、無表情の不知火。

 移動しなければならないらしいので、俺は慌てて残りのお茶を飲み干し、立ち上がった。

 

「あの、ありがとうございました。失礼します」

「はい。また後で」

 

 挨拶を交わし、俺は部屋から出て扉を閉める。

 先に出た不知火が歩き始めたので、俺もそれに追従する。

 

 しかし、まさか女性提督だとは。

 だが艦娘が女性であることを考えれば、自然なことなのかもしれない。それこそセクハラ問題とか。そうでなくても、やはり性別が違うと踏み込めない領域というのは出てくる。

 軍人として最低限は鍛えなければいけないのかもしれないが、提督の仕事は男性で無ければ出来ないようなものではないだろうし、やはり女性提督というのは悪い選択肢ではないのだろう。

 でも男性の提督もいるのだろうか?

 

「不知火さん。竹下提督は女性の方ですが、男性の提督はいらっしゃらないのですか?」

「お2人いらっしゃいます」

 

 無言でずっと歩くのもどうかと思い不知火に話を振ってみると、そう返ってきた。

 え? たった2人なの?

 

「……ちなみに、提督って何人なんですか?」

「5名です。横須賀、呉、佐世保、舞鶴の鎮守府と大湊の警備府に1人ずつ配置されています。……本当に覚えていないのですね」

 

 覚えていない、というか知らないのだけれども。不知火の言い方からすると、結構常識らしい。

 しかし5名か。思っていたよりもずっと少ない数だ。……まあ、本来そう何十人も居る役職ではないか。

 

「ちなみにこの呉鎮守府では、現在16人の艦娘がいます」

 

 16人。これまた少なく感じる。

 何せ艦これでは所有枠の100名を超える数の艦娘がいたのだ。16人では、艦隊3つ分にもならない。

 ――あ、でも同じ艦娘がいなければそんなものかもしれない。どうもこの世界では艦娘のドロップ、なんてことはないようだし。

 

 しかし、俺が今日倒した敵だけでも3隻。本隊ともなればもっと数は多くなるだろう。

 深海棲艦の勢力は圧倒的だ。他の鎮守府と協力するにしても、戦力不足感が否めない。

 

「あの、たったそれだけの人数で……?」

「これでも先日増員されたばかりです。以前は8人でした」

「はちっ!?」

 

 それはどう考えても少なすぎやしないだろうか。

 

「瀬戸内海まで進行してくる深海棲艦は稀ですので、人数が削られていたという事情もあります。太平洋方面は横須賀がほとんどを受け持っていますので、領海の維持だけであれば事足ります」

「な、なるほど」

 

 それで本当に大丈夫なのか、と思わなくもないが、実際にそれで回っていたのだから大丈夫だったのだろう。

 その後も不知火から戦況や提督のこと、艦娘や今の日本のことについて色々と話を教えてもらいながら歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらが艦娘用の寮になります。食堂もこの中です」

 

 提督室があった建物と同じような、レンガ造りの建物の前で不知火はそう言った。

 なるほど確かに、入口の脇には「呉鎮守府艦娘寮」と書かれている。

 

「食堂はこの奥を右に曲がったところになります。自分で料理する場合もありますが、基本的には皆さんこちらで食事をされますね」

 

 入ってみると、食堂が近いからだろうか。食欲をそそる良い香りが漂ってきた。匂いからすると――

 

「今日はカレーですか?」

「そうですね。金曜日ですので」

 

 毎週金曜日の海軍カレーはここでも同じらしい。

 廊下を歩いて食堂へと向かっていると、途中にある階段の上の方から楽しげな話し声が聞こえてきた。

 

「いっぱい訓練したらお腹空いたわ!」

「同感だね。今日の夕食は何だろう?」

「この匂いはカレーなのです!」

「そういえば、今日は金曜日よね」

 

 まだ幼さを残した声で、楽しげに夕食について語る女の子たち。

 なのです、という声にまさかと思って見上げてみれば、降りてきたのは第六駆逐隊のメンバーだった。

 

「あっ、不知火さん。こんばんは!」

 

 一番最初に降りてきたのは雷だった。とても元気そうで、笑顔も力いっぱい、という感じだ。

 その後ろからは響、電、暁の順で下りてくる。

 

「こんばんは、不知火さん」

「こ、こんばんはなのです」

 

 電は俺を見るとちょっとびっくりしたようで、少し隠れるように動いた。

 大変重要なことだが、そんな姿も可愛い。ああいやもちろん第六駆逐隊のみんなや他の駆逐艦、不知火も含めてみんな可愛いのだが、やはり初期艦選択率40%は伊達ではないということだろう。かく言う俺も電を選択した内の一人である。

 そのちょっと気弱そうなところとか、でも優しくて芯の強そうなところとか、アップにした髪とか色々とても可愛くて、思わず凝視してしまう。しかしそのせいか、電は響の後ろに引っ込んでしまった。

 

「こんばんは、不知火さん。それから、えっと……?」

 

 後ろからやってきた暁がこちらを見て戸惑っている。

 こちらは勝手に見知っているが、彼女たちは知らないのだから当然か。

 

「初めまして、ヤマトと申します。よろしくね」

 

 そう自己紹介すると、彼女たちは「暁よ」「雷よ!」「響だよ」「電です」とそれぞれ自己紹介をしてくれた。

 

 しかしまあ、小さい。セーラー服を着ているのでかろうじて中学生に見えるが、小学生でも十分通じそうだ。

 こんな子たちが、遠目に見ても凶悪な深海棲艦と戦っているのかと思うと、ちょっと心の痛むものがある。

 

「彼女は一時的にこちらの鎮守府に滞在することになりました。解らないことも多いかと思いますので、サポートをお願します」

「任せて! 大和さん、解らないことがあったら何でも暁に聞いてちょうだい!」

「あ、ずっるーい! 私も! 私にも聞いていいんだからね!」

 

 無い胸を張る暁に張り合って、雷が声を上げる。そんな光景に思わず笑顔がこぼれる。

 

「ええ、その時はよろしくね」

 

 そう言って俺は、「行きましょう」と言う不知火に付いて、食堂へ入るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妙高少尉、入ります」

「どうぞー」

 

 不知火と大和さんが去ってしばらくして、クリップボードを持った妙高が戻ってきた。

 「失礼します」と入ってきた妙高は、机の前までやってきて佇む。

 

「で、どうだった?」

 

 私はそう尋ねた。

 

 ――私たちが話している間、妙高には大和さんの艤装を確認してもらいに行っていた。

 漂流したうえ戦闘になったのだから、整備や補給が必要だろうから――というのが建前なのは言うまでもない。

 ぶっちゃけ、彼女は怪しい。

 重要な戦力である艦娘が単艦で漂流している上に、報告も上がっていないということが基本的に有り得ない。どこかの提督が大和を建造したが、上に報告もせず秘匿したところ、戦闘中に彼女は怪我を負い、記憶を失った上に行方不明になった――なんてストーリーも考えられなくはないが、それは妄想が過ぎるだろう。記憶を失ったという話も、本当かどうか怪しい。

 もっとも、だからといって彼女が敵だと考えているわけではない。というか、艦娘が敵になったら人類は終わる。

 ただ、彼女は何か秘密を持っている。彼女の持つ艤装を調べればその秘密が解るのではないか、と期待して妙高には調査を命じたのだけれども……。

 

「それが……彼女の艤装の妖精が非常に非協力的でして、彼女の性能や装備については、ほとんど解りませんでした」

「……え? 妖精さんが?」

「はい」

 

 妖精は基本的に人間に協力してくれている。

 人間にはまだ再現の仕様がない技術を駆使し、艤装という艦娘のもう一つの身体を大した見返りも無しに作り上げてくれている点からも、それは解る。深海棲艦という強大な敵に立ち向かっていく上で、非常に心強い味方だといえるだろう。

 そのような妖精だけに、非協力的な姿というのが想像できない。

 

「それはウチの妖精さんを通してもダメだったの?」

「はい。それどころか、補給すら拒んでいます」

「補給も!?」

 

 艦娘の戦闘能力は、タダで成り立っているわけではない。確かに艦娘自体も多少力を持っているが、深海棲艦と立ち向かうには足りない。艤装は当然必須。また、その艤装を十全に扱うために燃料と弾薬の補給を欠かすことはできない。

 大和さんは保護される前に戦闘を行っているから弾薬も多少減っているだろうし、燃料に関しては言うまでもない。

 ただでさえ戦艦という艦種は大食いだと聞く。補給を拒むというのは、もはや自殺行為でしかない。

 

「どういうことなのかしら……それでも知られたくない何かがあるとでも……?」

「分かりません。一応、確認できたことだけご報告させていただきます」

「そうね、お願い」

 

 手元のボードを見ながら、妙高が報告を始めた。

 

 まず、彼女が戦艦の艦娘であることは間違いない。これは工廠の妖精さんの1人が大和さんの艤装を見て「あれが戦艦じゃなかったらこの世の中に戦艦なんかねーよ」みたいなことを言ったらしいので、間違いないだろう。彼女の艤装は、他の戦艦と比べてもさらに大きいようだ。

 そして、彼女の持つ装備は非常に多いらしい。しかも、そのほぼ全てが工廠の妖精さんたちも良く解らないものであるとのこと。

 

「妖精さんにも解らないってどういうことよ……」

「分かりかねます」

 

 頭を抱えた私が発した言葉に答えた妙高も、どこか諦めたような雰囲気が漂っていた。

 

「ただ、妖精さんが言うには、全体として大和型の装備とは違う印象を受けるとのことでした」

「え? それはやっぱり大和ではない、ってこと?」

「分かりませんが、主砲も妖精さんの知る46㎝三連装砲塔とは違うらしく、副砲も随分口径が大きいようです。装備だけ変更することはよくあることですが、妖精さんが言うにはまるで――」

 

 そこで妙高は、ちょっと戸惑うように言葉を止めた。

 私が「まるで?」と続けるよう促すと、ゆっくりと唇を動かした。

 

「――まるで、大和型を超える戦艦のようだと」

 

 

 

 


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