桜舞う星   作:サマエル

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浅草珍道中!

「ふう、疲れた………」

 

事務局で伝票整理に終われていた大神は、廊下に出るや、大きく伸びをした。

すると、そこにさくらが通りかかった。

 

「あ、大神さん。アイリスを見かけませんでしたか?」

 

「アイリス?いや、見てないけど………」

 

昼からずっと伝票整理で事務局に篭っていた大神が知るはずもない。

すると、さくらは急に話題を変えた。

 

「そうですか。ところで大神さん、明日は何か予定はありますか?」

 

「予定?いや、今のところはヒマだなぁ」

 

そう答えると、さくらは意気込んだ様子でさらに尋ねた。

 

「そ、それじゃあ明日、あたしと舞台の掃除を手伝ってくれません?」

 

「掃除か………。分かった、付き合うよ。二人でやれば、早く終わるしね」

 

「本当ですか!?ありがとうございます、大神さん」

 

大神の了承に満面の笑みを浮かべるさくら。

すると、そこに待ったの声がかかった。

 

「お兄ちゃ~ん」

 

帝劇の妖精の異名を持つ、アイリスである。

 

「あ、アイリス」

 

いつになくませた声のアイリスを不思議に思いつつ返事を返す。

すると、アイリスの口からとんでもない言葉が飛び出した。

 

「ねぇお兄ちゃん、明日はアイリスとデートしようね」

 

「いいっ!?」

 

「デ、デート!?」

 

「ねぇ、いいでしょ~?」

 

あまりに唐突かつ早過ぎる申し出に驚く二人だったが、ややあって大神が申し訳なさそうに言った。

 

「ごめんな、アイリス。実は、明日はさくらくんの手伝いがあるんだ」

 

すると、さくらは無言で勝ち誇ったように頷いた。

一方、アイリスは口を尖らせて粘った。

 

「ヤダッ!明日はアイリスの誕生日だもん!デートしてくれなきゃヤダッ!」

 

「えっ!明日はアイリスの誕生日なのかい!?」

 

今度は別の意味で大神は驚いた。

さすがに年に一度の誕生日でデートを断るのは後ろめたい。

誕生日プレゼントとしてなら、と大神はアイリスの申し出を受ける事にした。

 

「分かったよ。明日はデートだな、アイリス」

 

「うん!お兄ちゃん、ありがとう!」

 

溢れんばかりの笑顔を見せるアイリス。

 

「済まない、さくらくん。そういう事だから………」

 

一度約束をしているだけにがっかりさせたと思い、大神はさくらに謝罪を述べた。

すると、さくらは意外にも笑って許してくれた。

 

「仕方ないですよ。明日はアイリスにとって、特別な日ですもの。そうよね、アイリス」

 

「うん。さくら、ありがとう」

 

「でも、いいのかい?一人で掃除は大変だろう?」

 

「大丈夫ですよ。そのかわり、いつか埋め合わせして下さいね」

 

そう言って、さくらはその場を後にした。

 

「それじゃあお兄ちゃん、明日着て行く服を決めるから、一緒に来て」

 

「ああ、分かったよ」

 

アイリスに引っ張られ、大神は衣裳部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

秀介は一人、屋根裏部屋の窓から空を見上げてため息をついた。

夜空に浮かぶ満点の星達………。

その中に一つ、柔らかくて、どこか懐かしい光を放つ星があった。

M78、ウルトラの星。

秀介にとって、帰るべき故郷だ。

 

「(そうだ………、今の僕の使命は、この星を守る事。それ以外には、何も………。)」

 

心の中で、秀介は自分に言い聞かせるように言った。

自分はこの星を侵略者から守るためにいる。

余計な感情を持って、戦いで心を乱してはならない。

秀介は、そう考えた。

いや、考えるしかなかった。

そうしなければ、今の自分の心を鎮められなかったからだ。

 

「こんな所でどうしたの、秀介君」

 

あやめが現れたのは、その時だった。

 

「星を………、見ていました」

 

「星?………あら、綺麗ね………」

 

秀介の隣に立つあやめが、星空を見上げて呟いた。

 

「あれね、貴方の故郷は」

 

そう言って、あやめがウルトラの星を指差した。

 

「懐かしいわ。彼といた頃から、もう八年になるのね………」

 

「兄と、ですか?」

 

秀介が尋ねると、あやめはウルトラの星を眺めたまま頷いた。

 

「ええ、そうよ。初々しさに溢れて、謙虚な人だったわ。今の貴方のようにね」

 

「はい。僕の自慢の兄です。地球での功績で、今では宇宙警備隊の隊長です」

 

「まあ、彼らしいわね。………でも秀介君。何故彼が地球を守り抜けたか、貴方は分かる?」

 

唐突な質問に、秀介は意外な表情を浮かべた。

 

「さあ………、ただ強いだけではないと思いますが………」

 

「そうよ、秀介君。彼は強い訳ではない。………愛したのよ、この地球に住まう生命の全てを」

 

「愛する………?」

 

「そうよ。彼は私達を愛し、護ろうとしたわ。それこそ命懸けで」

 

ゾフィーの強さは、秀介も良く知っていた。

幾多の凶暴な怪獣相手でも一歩も退く事なく、簡単に勝利を掴む、正に無敵の戦士。

それが、ウルトラマンゾフィーだった。

 

「だから秀介君。貴方も彼のように、この星を愛して欲しいの。それが貴方にマイナスになる事は、決してないわ」

 

「………!気づいてらしたんですか!?」

 

「もちろんよ。貴方って、結構顔に出る性格だもの。驚く所とか、彼にそっくりよ」

 

そう言って笑うあやめに、秀介は心が全て見透かされたような気がした。

 

「それに、積極的な女の子は積極的でないと落とせないわよ。頑張りなさい」

 

「は、はい………!」

 

あやめの言葉に秀介は、少しだけ心の雲が晴れた気がした。

 

 

 

 

 

 

「………こ、これは一体………!?」

 

翌朝、舞台の上でさくらは棒立ちになっていた。

舞台の床はホコリ一つなく、袖幕や照明に到るまで、舞台そのものが完璧にされていた。

 

「い、一体誰が………?」

 

休日に早く起きるとしたら、自分を含めて大神とカンナの二人だ。

しかし、大神はアイリスとデートだし、カンナは起きてすぐにジョギングに出掛けたのをさくら自身が見かけている。

ほかのメンバーが早起きしたとしても、すみれがやるとは思えないし、紅蘭は昨日遅くまで光武の整備をしていたので体力的に無理がある。

椿はかすみと由里の三人で出掛けているし、米田やあやめも考えにくい。

となると………。

 

「まさか………、秀介さん?」

 

「呼びましたか?」

 

声が聞こえたのは、隣の大道具部屋だった。

そこではいつものように秀介が片付けをしていたが、今朝は少し違った。

 

「おはようございます、さくらさん」

 

努めていつも通りに振る舞う秀介。

しかし、さくらはその違いで全てを理解した。

 

「秀介さん………」

 

「はい?」

 

気づいていないのか、普通に返事をする秀介。

本人は至って普通に振る舞っているつもりなのだろうが、さくらにはバレていた。

 

「………舞台を綺麗にしてくれたの、秀介さんだったんですね」

 

「………何の事ですか?」

 

「いえ、でも………、」

 

さくらは秀介の頭上を指差して言った。

 

「あの………頭に蜘蛛の巣が………。」

 

「……………はい!?」

 

慌てて頭を手で払ってみると、ヒラヒラと白い糸のようなものが落ちた。

 

「………」

 

「………」

 

完全に失敗したという表情で沈黙する秀介に、さくらは頭を下げた。

 

「ありがとうございます、秀介さん。でも、なんであたしに隠そうとしたんですか?」

 

「いえ、それは貴女が………」

 

そこまで口にして、秀介は止めた。

隠そうとしたのは、さくらが大神に対し特別な感情を持っている事を、秀介が知っているからだ。

あやめはああ言っていたが、自分がさくらに想いを伝えても、かえってさくらを困惑させてしまう。

そう考えた秀介は、さくらに気づかれないように配慮する事にしたのである。

ただ、さくらを困らせたくないがための考えだった。

 

「………」

 

「秀介さん………?」

 

突然黙り込んだ秀介を不思議に思い声をかけるさくら。

しかし、秀介は俯いたまま応えない。

何か理由があるのか。

考えてみても、さくらの頭に納得のいく答えは出て来なかった。

すると、さくらは笑顔で秀介に言った。

 

「あ、そうだ。もし良かったら、あたしにも大道具部屋の掃除を手伝わせて下さい!」

 

「えっ?しかし………」

 

「構いません。秀介への恩返しです」

 

そう言って、さくらはモップを手に掃除を始めてしまった。

 

「………」

 

秀介はしばらく立ったままさくらを見ていたが、小さく微笑んで雑巾を掴んだ。

言いたくない事は聞かない。

さくらの気遣いに、秀介は胸が暖かくなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、秀介は支配人室の前で聞き耳を立てているすみれ、紅蘭、カンナを見かけた。

 

「あれ?一体何をされているんですか?」

 

秀介が尋ねたその時、支配人室から珍しく米田の怒鳴り声が聞こえて来た。

 

「バカヤロー!大神、お前がついてながらこのザマは一体何だ!」

 

「あちゃー、大神はんエライ絞られとるな~」

 

「な、何があったんですか?」

 

秀介が尋ねると、カンナがそっと耳打ちした。

 

「実はアイリスがデート先の浅草で、活動写真館を一つぶっ壊しちまったんだ」

 

「え………?アイリスがですか?」

 

「お二人ともお静かになって。聞こえませんわ」

 

 

 

 

 

 

「一歩間違えれば、大惨事になっていた所よ?よく考えなさい!」

 

「ふんっ!アイリス悪くないもん」

 

ジャンポールを抱えたまま、アイリスはそっぽを向いた。

 

「貴女の力はむやみに使うと、大変な事になるのよ」

 

「まあマリアもそうキツくならねぇで………」

 

「そうは行きません!アイリスにはそれなりの処分を下すべきです!」

 

アイリスに睨んだまま、マリアが厳しい声で言う。

すると、大神がアイリスを庇うように言った。

 

「待ってくれマリア。今回の事態は俺の責任なんだ」

 

「隊長!アイリスを甘やかすのもいい加減にして下さい!」

 

「しかし、アイリスはまだ子供じゃないか!」

 

大神の子供と言う言葉に、アイリスは肩を震わせた。

 

「アイリス、子供じゃないもん!」

 

そう叫ぶと、アイリスは支配人室を飛び出した。

 

「アイリスッ!………って君達!」

 

続いて飛び出した大神は、立ち聞きしていた四人と鉢合わせした。

アイリスが突然扉を開けたせいで、揃ってノックアウトしている。

そこへ、さくらが走って来た。

 

「大神さん!アイリスが部屋の方へ!」

 

「分かった。ありがとう、さくらくん」

 

さくらに礼を言うと、大神はアイリスの部屋へ急いだ。

 

 

 

 

 

 

「アイリス!話を聞いてくれ!」

 

扉をノックして必死に呼びかける大神。

しかし、アイリスは冷たく一蹴した。

 

「ヤダッ!………アイリス悪くないもん」

 

「困ったな………」

 

アイリスを怒らせたのは、間違いなく自分の発言だ。

しかし、このまま放っておく訳には行かない。

大神が悩んでいると、すみれ達がやって来た。

 

「少尉、ここは私達にお任せになって」

 

「アイリスはあたいらで説得してやるよ」

 

「ウチらに掛かれば万事解決や」

 

「しかし、どうすれば………」

 

大神が不安そうに呟くと、カンナが胸を叩いた。

 

「大丈夫だって。女心は女の方が分かるんだからよ」

 

「まあ、カンナさんのようなガサツに女心が分かるとは思えませんわ」

 

「何だとぉ!?」

 

すみれの言葉に噛み付くカンナ。

その様子を見て、紅蘭が呆れたように言った。

 

「こんな時にモメとる場合ちゃうやろ。大神はん、ここはウチに任したってや」

 

「ああ。紅蘭、頼んだぞ!」

 

 

 

 

 

 

「アイリス、紅蘭や。ちょっとええかいな?」

 

「………」

 

「なあアイリス、大人になりたいんやって?ほんならウチ、特製の成長薬持ってんねんけど………」

 

すると、鍵の開く音が聞こえた。

紅蘭はしめしめと言った表情でドアノブに手をかける。

 

「よっしゃ、お邪魔するで」

 

「………早く薬置いて出てってよ」

 

やはり怒りが収まってないのか、アイリスは紅蘭を睨んで言った。

すると、紅蘭はチッチと人差し指を動かした。

 

「アカンで、アイリス。この薬はな、楽しい気分の時に飲まんと効果がないんや。ほら、笑うてみ?」

 

少々無理のある説明だが、まだ子供のアイリスは真に受けて笑顔を作った。

 

「(よっしゃ、作戦成功や。笑う角には福来たる。笑わかすんが一番や。)」

 

しかし、アイリスは突然キッと紅蘭を睨みつけた。

 

「ど、どないしたん?アイリス、さ、笑うて………」

 

「………紅蘭、嘘ついた………」

 

「な、何言うてんねん。嘘な訳ないやろ?」

 

「アイリス、紅蘭の心の声が聞こえたもん!」

 

その言葉に、紅蘭はハッと思い出した。

アイリスには、相手の心を読む能力がある事を。

 

「ち、ちょっと待ち、アイリス。暴力反対やで………!」

 

今までと迫力の違うアイリスに、何を言っても無駄だった。

 

「紅蘭の嘘つき!大っ嫌い!!」

 

刹那、部屋に轟音と紅蘭の悲鳴が轟いた。

 

「だ、大丈夫か、紅蘭!?」

 

ボロボロの姿で部屋から出て来た紅蘭を支えて、大神が尋ねる。

 

「アカン………。アイリス、人の心が読めるで」

 

「何!?それじゃあ説得のしようがねぇな!」

 

「たしかに、私も手こずりそうですわね………」

 

予想外の事態に、すみれとカンナも勢いを失う。

 

「大神はん。今のアイリスに上辺だけの説得は逆効果や。ここは機嫌が直るまで、そっとしといた方がええんちゃうかいな」

 

そう言って、三人はすごすごと退散してしまった。

すると、入れ違いにあやめがやって来た。

 

「どう?大神くん」

 

「あやめさん。………駄目でした」

 

「そう………、難しい問題ね」

 

あやめは顎に手を当てて考える仕種を見せた。

 

「紅蘭達は子供として、マリアは逆に大人として見ているわ。大神はどう考えるの?」

 

「俺は、どちらも間違っていると思います」

 

あやめの問いに、大神は即答した。

アイリスは成長期に入ったばかりで、精神的には大人になろうとしているが、身体が追いついていない。

言わば、心だけが先に大人になって、そのジレンマに、アイリスは苛立っているのだ。

大人として接するにはまだ早いが、子供と見なすのも正しいとは言えない。

大神はそう考えたのだ。

 

「そこまで分かっているなら、心配はないわ。アイリスをよろしくね」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

辺りは暗い闇に包まれていた。

その中にたった一つの明かりがあった。

それは、小さな街灯だった。

周りの街灯は皆闇の中に消えていたが、この街灯だけはぽつんと明かりを燈していた。

その下に、少女はいた。

少女は待っていた。

大好きな青年が、大きくなった自分の所に来るのを、ただひたすらに待っていた。

そして………、

 

「あ………!」

 

青年はやって来た。

少女は溢れんばかりの笑顔で、青年の胸に飛び込んだ。

 

「お兄ちゃん………。」

 

「アイリス………。」

 

 

 

「あ………、夢?」

 

目を覚ますと、アイリスの前には大神ではなくジャンポールがいた。

 

「お兄ちゃん、アイリス………早く大人になりたいよ」

 

長年ともにいたジャンポールも、今のアイリスの心の傷を癒す事はできなかった。

 

 

 

 

 

 

翌朝、秀介は警報の音で飛び起きた。

 

「て、敵襲ですか!?」

 

慌てて戦闘服に着替えて作戦司令室に飛び込むと、そこには一同にジト目で睨まれる大神の姿があった。

 

「こ、これは一体………?」

 

恐る恐るカンナに尋ねると、カンナがぶっきらぼうに答えた。

 

「どうもこうもねぇよ。アイリスが光武で出て行っちまったんだ!」

 

「少尉が余計な口出しをするからですわ!」

 

「どうするつもりや、大神はん!?」

 

すみれと紅蘭に責められ、小さくなる大神。

すると、かすみから連絡があった。

 

「長官、アイリスの居場所を発見しました」

 

「よし、モニターに写せ」

 

すると、アイリスの黄色い光武が浅草の街を破壊しながら爆進する光景が写った。

 

「なんちゅう霊力や!あんな簡単に光武を動かすやなんて………!」

 

改めて、アイリスの霊力に驚かされる花組。

その時、再び警報が鳴った。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

「黒之巣会です。浅草雷門に黒之巣会が出現しました!」

 

椿の報告に、米田は歯噛みした。

 

「くそ、こんな時に………!」

 

「こうなったら、アイリスが浅草に向かっている事が唯一の救いね」

 

あやめの言う通りだった。

一刻も早くアイリスを救出し、黒之巣会を撃退しなければならない。

大神は出撃命令を出した。

 

「帝国華撃団花組、出撃せよ!目標地点、浅草!絶対にアイリスを助けるんだ!」

 

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

浅草雷門。

多くの出店で賑わう帝都の名所は、脇侍の出撃で瞬く間に炎に包まれた。。

その様子を、雷門の奥から眺める人物がいた。

黒之巣会死天王の一人、白銀の羅刹である。

 

「ハハハハハ!!燃えろ燃えろ!灰にしてしまえ!!」

 

楽しそうに笑うと、羅刹は怪しげな呪文を唱え始めた。

 

「オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ、オンキリキリバサラウンバッタ………」

 

すると、やはり上空から巨大ドリルが現れ、雷門に沈んで行った。

その時、羅刹の目の前に一瞬、黄色い光武が現れた。

 

「な、何奴!?どこから現れたのだ?」

 

目を擦って見ても、黄色い光武は見えなかった。

なぜなら、それは空間から空間へテレポートしているからだった。

 

 

 

 

 

「アイリス~何もせんけん、こっち来てや~」

 

「アイリスちゃ~ん、出てらっしゃ~い」

 

「いい子だから、こっちにおいで~」

 

すみれ達三人が猫撫で声でアイリスを呼ぶ。

どう考えてもわざとらしいが、やはり子供のアイリスはあっさり引っ掛かった。

 

「さあ、捕まえたで!」

 

「逃げられません事よ!」

 

「ほら、いい子にするんだ!」

 

現れたアイリスを一斉に捕まえる三人。

しかし、これで観念するアイリスではなかった。

 

「みんな………、みんな………、嘘つきだっ!」

 

アイリスは怒りに任せて念力を発動させ、すみれ達三人を簡単に吹っ飛ばした。

 

「わ、私の美しい機体が………!」

 

すみれがショックを受けている隙に、アイリスは再びテレポートで逃げ出す。

 

「よし、みんなは脇侍を食い止めてくれ!俺がアイリスを説得する!」

 

「せやかて、ウチらも攻撃してくるんやで!?」

 

「危険過ぎます!」

 

大神の指示にすぐさま反対するマリアと紅蘭。

しかし、大神は聞かなかった。

 

「このままではアイリスも街の人も危ない。やるしかないんだ!」

 

その時、名乗りを上げる人物がいた。

さくらである。

 

「大神さん、あたしも行きます!」

 

「さくらさんっ!?」

 

「よし、さくらくん。アイリスを救出するぞっ!」

 

秀介が思わず叫ぶが、さくらは気合い十分な返事を返した。

 

「(そうか………、さくらさん………隊長の方が………。)」

 

今更ながら、秀介はさくらと大神の間に割って入れない事を痛感した。

さくらが大神を信頼すると同じく、大神もまたさくらを信頼する。

他の一切が入り込む事を許さない絆。

それが、秀介には二人の間に見えてしまった。

 

「………」

 

走って行く二機の光武の姿を、秀介はただ悲しく見つめる事しかできなかった。

 

 

 

 

 

「アイリス、待ってくれ!」

 

テレポートで逃げるアイリスを必死に追いかける二人。

しかし、アイリスは建物を突っ切って行ってしまった。

 

「大神さん、チャンスです」

 

「よし、挟み撃ちにするぞ!」

 

このまま奥に行けば、アイリスは先に来た方に気を取られる。

その隙にもう片方が背後からアイリスを捕まえようと考えたのだ。

 

「アイリスッ!」

 

先に現れたのは大神だった。

 

「あ、もう来た!」

 

予想通りアイリスは、大神に気を取られている。

そこへ、背後からさくらが駆け付けた。

 

「捕まえたわよ、アイリス!おとなしくしなさい!」

 

「離してよ~!も~みんな嫌いだ~!!」

 

尚も騒いで抵抗するアイリス。

大神は、何とか説得を試みた。

 

「アイリス、聞いてくれ!俺はたしかに、今の君を一人の女性として見る事はできない」

 

「やっぱり………。アイリスが子供だから………」

 

「でもデートの時、俺は本当に楽しかった!アイリスといて幸せだった。それは本当だ」

 

「え………?」

 

「だから、今は子供でいいじゃないか。将来はまだわからないけど今は………これでいいんじゃないかな?」

 

アイリスの良さは、自分に素直になれる子供らしさにある。

だから、無理に背伸びをする必要はない。

それが、嘘のない大神の本心だった。

 

「お兄ちゃん………、嘘ついてない………」

 

「さあ、ハッチを開けて………」

 

大神が言い終わらぬ内に、アイリスは光武を飛び出し、大神の胸に飛び込んだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「アイリス………」

 

大神の胸は、昨日の夢の時と同じように暖かくアイリスを迎え入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行くぞ!アイリス」

 

「うん!」

 

アイリスが力強い返事で答える。

その様子に、花組は高揚感に包まれた。

 

「アイリス………、本当に良かった」

 

「私を吹っ飛ばした時は、どうしようかと思いましたけどね」

 

「初陣だな。頑張れよ、アイリス」

 

「よっしゃ!これで花組勢揃いや!」

 

「八人揃った我等の団結力、見せてやりましょう!」

 

その様子に頷き、大神は二刀を抜いた。

 

「改めて、行くぞっ!」

 

「帝国華撃団、参上!」

 

どんな時でも決めポーズを忘れない花組。

すると、雷門にいる羅刹は大声で笑った。

 

「ハハハハハ!やっと戦えるな、帝国華撃団!我が兄、刹那の無念、この白銀の羅刹が晴らしてくれる!」

 

余程自分の力に自信があるのか、羅刹は花組を前に余裕の表情を見せた。

 

「時に大神一郎、貴様に問う」

 

「何だ、言ってみろ!」

 

油断なく構えつつ答える大神。

すると、羅刹は一瞬ニヤリと笑って尋ねた。

 

「その中で、最も大切な隊員は誰だ?」

 

「……………いいっ!?」

 

あまりにぶっ飛んだ質問に、大神は驚愕した。

最も大切な隊員………、正義に生きて来た大神にとって、それは考えた事もなかった。

ただ、実際大神は各隊員とそれらしいやり取りはある。

それゆえに隊員達は、もしかしてという淡い期待を持って大神の答えを待った。

 

「最も大切な隊員は………」

 

しかし、彼女達の期待はあっさり裏切られた。

 

 

「秀介だ」

 

「………はい?」

 

刹那、六つの光武は音を立ててひっくり返った。

一方、指名された秀介も、何故自分なのかわからないという表情だった。

 

「秀介か。承知した」

 

羅刹が不気味に笑った時だった。

さくらの隣にいたはずの流星が、羅刹の目の前にテレポートさせられたのである。

 

「こ、これは………!」

 

「ハハハハハ!見たか、我が召喚術の力。仲間が殺される所を見ているがいい。いでよ、シルバゴン!!」

 

すると、花組の前に巨大な白銀の大怪獣が現れた。

 

「怪獣………!?なんて事です!」

 

秀介は悔しげに唸ってブレスレットを掲げた。

しかし、そこに羅刹の声が飛んだ。

 

「無駄だ。この門一帯には結界を張っている。巨人に変身する事は出来ん」

 

「何!?」

 

秀介は驚いた。

まさか羅刹が自分の正体を知っていたとは。

 

「仲間が怪獣と遊んでいる間、この羅刹が相手してやる。いでよ、『銀角』!!」

 

すると、今度は秀介の前に蒼角に似た色違いの魔装機兵が現れた。

腕には鉄球をつけ、如何にも力強い印象を持たせている。

 

「さあどうする!仲間を助けるには俺を倒すしかないぞ?」

 

「………やってやりますよ!」

 

そう返すと、秀介は流星の操縦桿を握り直した。

 

 

 

 

 

 

「くっ、ここに来て怪獣だと………!?」

 

羅刹が召喚したシルバゴンに、大神達は圧倒された。

身長は雷門と同じ位で前回のタッコング程ではないが、それでも大神達の倍はある。

加えてシルバゴンの皮膚は、脇侍以上に強靭な硬さを誇っていた。

 

「破邪剣聖、桜花放心!」

 

「一百林稗!」

 

「神崎風塵流奥義、胡蝶の舞!」

 

無数の脇侍を屠ってきた必殺技でも、それは同じだった。

 

「チッ、何て硬い奴なんだ!」

 

「隊長!このままでは………!」

 

「くっ………!」

 

とうに秀介からの緊急通信は届いている。

しかし、自分達ですらこの怪獣に手も足もでない状況である。

助けに行けるはずもなかった。

 

「こんな時、ウルトラマンがいれば………!」

 

 

 

 

 

「ハハハハハ!帝国華撃団と言えど、分散させれば大した事はない」

 

鉄球を振るい、羅刹が笑った。

外界から隔離された結界という空間の中、秀介は苦戦を強いられていた。

 

「(何て力だ………、表の怪獣と遜色ない!)」

 

見た目通り怪力を売りにしている銀角の攻撃は、激しいの一言に尽きた。

一撃喰らえば負ける。

己の破壊本能のままに攻撃を繰り出す姿は、さながら暴風雨だ。

 

「そろそろ終わりにしてやる。轟・爆裂岩破!!」

 

羅刹が妖気を集中させた。

すると、銀角の周りの地面が揺れたと思うと、槍状になって真上に突き出した。

 

「なっ………!!」

 

予期せぬ攻撃に秀介は反応が遅れ、流星の左翼を損傷してしまった。

 

「ハハハハハ!どうだ、これで動けまい」

 

鉄球を頭上で振り回しながら羅刹が勝ち誇ったように叫んだ。

たしかに流星は両翼の蒸気噴射が正常に機能して初めて飛行できる。

その片方がやられてしまうと、身動きが取れなくなってしまうのだ。

 

「くたばれ!御剣 秀介!!」

 

羅刹の鉄球が流星に襲い掛かった。

しかし、鉄球が当たる寸前、流星の姿が掻き消えた。

 

「何っ!?何処へ消えた!」

 

驚いて辺りを見渡す羅刹。

すると、どこからともなく少女の声が聞こえて来た。

 

「ねぇおじさん。あの怪獣の弱点って何処?」

 

「何っ!」

 

見ると、流星を庇うように黄色い光武が銀角の前に仁王立ちになっていた。

 

「秀介、大丈夫?」

 

「アイリス!」

 

「馬鹿な!何故結界を破って来られた!?」

 

今度は羅刹が驚く番だった。

自身の魔術の中でも絶対の自信を持つ結界術が、こんな少女に破られたのだから当然である。

しかし、アイリスは更に羅刹が驚く事を口にした。

 

「みんな~!あの怪獣の弱点は角なんだって~!!」

 

「何ぃっ!?何故分かった!」

 

自分は一言も、シルバゴンの角が弱点とは言っていない。

さらに、アイリスは今現れたのだ。

こちらの考えを読む隙はなかったはずだ。

すると、アイリスは羅刹の心の声を読み取って答えた。

 

「それはね、アイリスがおじさんの心を読めるからだよ~!」

 

「グッ………!このガキ!!」

 

怒りが頂点に達し、銀角がアイリス目掛けて鉄球を振り下ろす。

しかし、アイリスに当たる寸前で、鉄球はピタリと止まった。

念力である。

 

「え~い!!」

 

アイリスは捉えた鉄球を念力で操作し、銀角にぶっつけた。

たちまちボディがひしゃげて、銀角の機体は全身から火花を上げる。

アイリスは、更に銀角を念力で生み出したボールに包んで浮かべ上げた。

 

「みんなをいじめる悪い奴は、遠くに飛んでっちゃえ!!」

 

「おわあああああ~!!」

 

みっともない悲鳴とともに、羅刹は空の彼方へ消えてしまった。

 

「どう秀介?アイリス凄いでしょ!!」

 

えっへんと胸を張るアイリス。

その様子に秀介は思わず微笑んだ。

 

「ええ、今回はアイリスのお手柄ですね」

 

 

 

 

 

 

一方、大神達もアイリスのアドバイスのおかげで反撃に移っていた。

 

「マリア、紅蘭、奴の動きを制限してくれ!」

 

弱点は角。

ならば動きを封じ込め、一気にそれを叩き斬る。

そう考え、大神は指示を出した。

 

「スネグーラチカ!」

 

マリアが放った氷の一撃が、シルバゴンの足を固める。

そこに、紅蘭が続いた。

 

「チビロボ軍団、発進!」

 

チビロボ達がシルバゴンの体にしがみつき、動きを止めた。

 

「今やで、大神はん!」

 

「分かった!」

 

勝負はこの一撃にかかっている。

大神はシルバゴンの角を一点に見据えると、霊力を二刀に集中した。

 

「狼虎滅却………、千変万化!!」

 

シルバゴンの角目掛けて、赤い稲妻が大神の二刀から放たれた。

稲妻は一直線に角を直撃し、木っ端みじんに吹き飛ばした。

 

「グアアアアッ!」

 

シルバゴンは悲鳴ともとれる叫び声を上げ、仰向けに倒れた。

しばしの沈黙が辺りを支配する。

 

「………か、勝った………」

 

かなりの霊力を使い荒い息の中、大神は信じられないような表情で呟いた。

一度は駄目かと思った相手を、ウルトラマンの力を借りる事なく、自分達で打ち破ったのだ。

 

「やりましたね、隊長!」

 

マリアが言うと、他の隊員達も続いて賞賛の言葉を口にした。

 

「凄いです大神さん!」

 

「少尉、お見事でしたわ!」

 

「さすがはあたい達の隊長だぜ。」

 

「決まっとったで、大神はん!」

 

すると、大神は二刀を鞘に納めて言った。

 

「いや、アイリスの助言がなければ勝てなかった。お礼はアイリスに言うべきだ」

 

「呼んだ~?」

 

その声に振り返ると、雷門から凱旋したアイリスと秀介の姿があった。

 

「アイリス!秀介さんも無事でしたのね?」

 

「はい。アイリスのおかげで助かりました」

 

「すっげえなアイリス!お前羅刹まで倒しちまったのか!」

 

「えへへ………」

 

カンナに褒められ、アイリスは恥ずかしげに笑った。

 

「でもアイリス、もう勝手な事はしないでね」

 

「はぁい、ごめんなさい………」

 

「ふふっ、分かればいいの。それじゃあ、いつものはアイリスがやる?」

 

マリアの提案に、アイリスは満面の笑顔で答えた。

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

「勝利のポーズ………、決めっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、秀介。おはよう!」

 

数日後、ロビーを掃除していた秀介に、アイリスが声をかけた。

何だかいつもより笑顔に溢れている気がする。

 

「アイリス、おはようございます。随分嬉しそうですね?」

 

「うん!これからお兄ちゃんとデートなんだ~!」

 

結局あの日は、アイリスにとって散々な一日になってしまった。

大神は助けてくれた礼も含めて、アイリスにデートのやり直しを提案したのである。

 

「良かったですね。楽しんで来て下さいね」

 

「うん、アイリス頑張る!それじゃ、行ってきま~す!」

 

ジャンポールを手に駆け出すアイリス。

しかし、急に立ち止まると、秀介に振り返って言った。

 

「秀介も頑張ってさくらを捕まえてね~!」

 

刹那、秀介は派手にすっ転んだ。

 

「な………何故それを………?」

 

秀介が尋ねる前に、アイリスは走って行ってしまった。

 

<続く>




《次回予告》

お~ほっほっほっ!!

何だぁ、テメェは!?

あ~らカンナさん、相変わらずのゴリラ女です事ね?

何だとこの腐れババァ!ちゃんと予告をやりやがれ!!

次回、サクラ大戦!

《見えない友情》

大正桜にロマンの嵐!!

邪魔なさらないで!

テメェこそ引っ込んでろ!

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