桜舞う星   作:サマエル

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悪夢が覚める時

それは、帝都に冷たい冬が訪れた日の夜の事だった。

 

「あなたは………誰?」

 

目の前に佇む謎の影………。

問い掛けても返事はない。

 

「誰なの………?」

 

再び問い掛けてみる。

すると、影はいきなり襲い掛かって来た。

 

「え………、きゃあああああ!!」

 

悲鳴を上げたその時、影は消え、目の前には闇ではなく月明かりに照らされた自分の部屋があった。

 

「……ハァ……ハァ……」

 

息が荒い。ひどく汗もかいている。

悪い夢を見てうなされたのだろうか。

 

「何………今の………?」

 

夢から覚めた今でも、思い出すと背筋が凍る。

そして、それに伴い胸を何かが締め付けるような痛みが走った。

 

「う………」

 

まるで自分の中に、別の何かが潜む感覚。

あやめは、その痛みの正体にただ胸を押さえて痛みに耐えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

日本橋地下。

今や瓦礫に覆われたそこは、かつて黒之巣会首領・天海のアジトがあった所だ。

日の光も射さないそこに、叉丹はいた。

 

「………どうやら、もうすぐのようだな」

 

無数の降魔達を周りに置き、満足そうに叉丹が呟く。

 

「赤き満月の輝く夜、我が最強のしもべ、最強の降魔が復活する」

 

赤き満月の夜。

それは、明日の夜だ。

 

「降魔、鹿」

 

「はっ」

 

叉丹が三騎士の一人を呼んだ。

同時に間髪入れずに、音もなく現れた鹿が返事を返す。

 

「お前はそれまで時を稼げ。くれぐれも猪の敵討ちなどと、余計な事は考えるなよ」

 

「仰せの通りに………」

 

従順な態度を示す部下に、叉丹は満足そうに笑う。

しかし、一見従順に見える者にも、その心に野心を備えている事が多々ある。

この鹿の場合も、同じだった。

 

「(叉丹様に………、この俺が最強である事を認めさせたい。)」

 

 

 

 

 

 

 

「………ふう、少し休憩にするか」

 

サロンで一人読書に耽っていた大神は、全身を楽にして大きく息をついた。

すると、そこに舞台を控えた花組が姿を見せた。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、何読んでるの?」

 

「これかい?降魔について書かれた本で、参考になるからと司令にお借りしたんだ」

 

そう言って、アイリスに本を見せる大神。

すると、マリアが何かを思い出したように口を開いた。

 

「『放神記書伝』の写し本ですね。私も、昔あやめさんに借りて読んだ事があります。確かに、降魔に関する記述はこれにしかありませんから」

 

「まあ、存在そのものを知る人が少な過ぎますからね」

 

降魔は、今でこそ復活して帝都の平和を脅かしているが、それまではその存在すら公にされていなかった。

元々人間の前に現れる事が滅多になかったのもそうだが、やはり賢人機関がその存在を隠蔽しているのも大きな要因だろう。

実際、米田やあやめの活躍した降魔戦争も、こうして帝国華撃団として名残を残してはいるが、それに関する書物や記録はほとんど破棄されてしまった。

大神が降魔戦争の存在を知ったのも、米田を敬愛する海軍仲佐の話を聞いたからだ。

とはいえ、その処置が間違いとは言えない。

帝都を脅かす魔の存在が帝都にいる事を知れば、市民の恐怖を煽る事になってしまうからだ。

秀介の言う通り、降魔に関する情報が少ないのは、仕方のない事であった。

寧ろそんな中で、こうした降魔に関する書物があると言うのは、幸運である。

 

「にしても古そうな本だな。隊長、分かるか?」

 

カンナが首を傾げた。

この本は一応写し本ではあるが、現物が江戸時代の末期であるために文章が古く、また紙の劣化が激しく非常に読みづらかった。

実を言うと、大神もよく分からなかった。

 

「読みにくい事もあるけど、内容も中々に難しいよ」

 

「ホントだ………。あたしにはサッパリです」

 

ページ一枚に目を通し、さくらが疲れた表情で言った。

放神記書伝はかなり知識のある人物がまとめたものらしく、歴史や霊力をはじめ様々な予備知識が必要な専門用語が沢山あり、余程教養のある人間でなければ分からないような書き方がされていた。

まあ、降魔自体もよく分からない存在なので仕方ないのだが。

 

「それなら大神はん、あやめはんに聞いてみたらええんちゃう?」

 

聡明で降魔にも詳しいあやめの事、一度はこの本に目を通した事があるはず。

その彼女に聞けば、内容を簡単に説明してくれるだろう。

紅蘭の考えは確かにナイスアイデアだが、大神は首を縦には振らなかった。

 

「………いや、やっぱり自分で頑張って見るよ。司令もそれを期待して、貸してくれたんだろうし」

 

「確かに、それがよろしいと思います。隊長、頑張って下さいね」

 

「ありがとう、マリア」

 

応援してくれるマリアに礼を述べ、大神は話題を変える事にした。

 

「そういえば、今度の舞台はアイリスと紅蘭が主役なんだって?」

 

「うん!『大恐竜島』って言うコントなんだよ!」

 

大神が尋ねると、アイリスが嬉しそうに答えた。

今回の舞台『大恐竜島』は、コント仕立てという異色作だ。

夢とロマンを求める二人の若い探検隊が、恐竜がいるという島に潜入して大騒動を巻き起こすドタバタ喜劇になっている。

 

「へへ、まあな。大神はんもよかったら見てや」

 

「ああ。考えておくよ」

 

そう言って、大神は休憩するつもりなのか、本を机に戻そうとした。

すると、いつの間にか姿を消していたアイリスが、手に何やら持って走って来た。

 

「お兄ちゃ~ん、ジュース持って来たよ~!」

 

「ア、アイリス!そんなに慌てて走ると………!」

 

大神が言い終わる前に、アイリスが足を滑らせた。

 

「アイリス、危ない!」

 

素早く飛び出した大神は、間一髪アイリスを抱き留める事に成功した。

しかし………、

 

「あ………」

 

たまたま近くにいたマリアが、アイリスのジュースを頭から被ってしまったのだ。

 

「マリア、大丈夫か?」

 

「………平気です。洗えば取れますから」

 

「ごめんね、マリア………」

 

済まなそうに頭を下げるアイリス。

すると、マリアは笑って答えた。

 

「大丈夫よ。でも、今度から気をつけてね」

 

「は~い………」

 

素直に謝るアイリスと、それを笑って許すマリア。

二人とも、大神と会う以前に比べると明らかに変わっていた。

その様子に、五人は顔を見合わせて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「………う~ん、どうしたらええんやろ?」

 

本番を前に控え、紅蘭は衣裳部屋で一人台本と睨めっこしていた。

いつになく真剣な表情の顔を一筋の汗が伝う。

大神が現れたのは、その時だった。

 

「紅蘭、ここにいたのか。舞台に行かなくていいのかい?」

 

「大神はん!ええ所に来てくれたやないか!」

 

大神に振り向くや、紅蘭は嬉しそうな表情で飛び付いた。

 

「ど、どうしたんだい紅蘭!?」

 

突然の行動に慌てる大神。

すると、紅蘭は大神から離れて訳を話した。

 

「実は、今回のコントで一カ所だけ上手くボケられへん所があるんや」

 

そう言って、紅蘭が台本を見せた。

どうやらかなり頭を悩ませたらしく、台詞の一つに無数の書き込みがされている。

 

「そこでや大神はん、ウチがボケるさかい、上手い事ツッコんでくれへん?」

 

「いいっ!?ま、漫才なんてやった事ないぞ?」

 

漫才といえども、単に笑いを取れればいいというものではない。

言い方や表情、更にはタイミングを完璧に観ている側のツボに合わせなければならないのだ。

 

「大丈夫や!ツッコミのアイリスがおらん以上、頼めるのは大神はんだけなんや」

 

確かに他のメンバーは全員秀介の指揮のもと舞台の準備にかかっている。

自信はないが、大神は引き受ける事にした。

 

「分かった。上手くやれるか分からないけど、頑張るよ」

 

「おおきにな大神はん。ツッコミはタイミングと力強さが命や」

 

「タイミングと力強さ………。よし、分かった!」

 

反復する大神に頷き、紅蘭は芝居の顔に変わった。

 

「ほんなら行くで!………この地図によれば、『民家』の秘宝はすぐそこだ」

 

「(今だっ!)」

 

紅蘭に言われた通り、大神はタイミングを見計らって、力強いツッコミをぶつけた。

 

「それを言うなら『インカ』の秘宝やろ!!」

 

「ゲホッ、ゴホッ!お、大神はん………何て強力なツッコミを………」

 

ツッコミというより裏拳に近い一撃を喰らい、紅蘭は咳き込みながらうずくまった。

 

「す、済まない紅蘭!大丈夫か!?」

 

慌てて紅蘭の背中をさする大神。

すると、紅蘭は涙目になりながらも笑った。

 

「安心して大神はん。ウチは平気やさかい」

 

「そ、そうか。良かった………」

 

とりあえず紅蘭に怪我がなかった事に胸を撫で下ろす大神。

すると、紅蘭は瞳を輝かせて大神を見た。

 

「それにしても、ツッコミのキレといいパワーといい完璧やないか!大神はん才能あるで!」

 

「そうかな?あまり実感は湧かなかったけど………」

 

「そんな事ない!ウチと大神はんが組んだら、大爆笑は確実やで!」

 

そう断言し、紅蘭は付け加えるように言った。

 

「それに、ウチ大神はんと二人ならずっと笑って………」

 

「え………」

 

呟くような一言に、大神はハッとした様子で紅蘭を見る。

 

「あ、いや今のは気にせんといて!ウチ、もう行くさかい!」

 

真っ赤な顔でそう言うと、紅蘭はその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

「紅蘭………」

 

あの少しだけ恥ずかしそうな表情。

キントくんの一件で紅蘭の過去を知ってから、大神は紅蘭に二つの笑顔がある事を知った。

一つはいつもの明るい笑顔。

もう一つが、今みたいに嬉しさと恥じらいを含めた笑顔。

どちらも素敵な笑顔なのだが、紅蘭は後者の笑顔を大神にしか見せなかった。

いつしか、大神の頭には今のような紅蘭の笑顔が深く焼き付いて離れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大神一郎、到着いたしました」

 

「よし、座ってくれ」

 

米田に言われ、大神は隊長席に腰を下ろした。

あの後大神は、マリアを通して米田から作戦司令室に来るよう言われたのだ。

 

「………大神。実はお前に、見てもらいたいものがある」

 

いつになく厳しい表情で、米田が言った。

その様子は、黒之巣会の目的を突き止めた時の彼を彷彿とさせる。

 

「これは………!」

 

モニターに映し出された映像に、大神は驚きの表情を見せた。

それは、江戸時代末期の巻物だった。

妖怪と戦う武士の姿が力強く描かれている。

時代から考えても、かなりの価値があるだろう。

しかし、大神が驚いたのはそんな事ではなかった。

 

「これは………降魔ですか!?」

 

巻物の左上に描かれた妖怪。

それらは全て、目がなく翼と鋭い牙を生やした降魔そっくりだったのだ。

 

「降魔の出現は、今に始まった事ではない。この巻物にあるように、古い時代から降魔は現れて来たのだ」

 

「では、降魔戦争が最初ではないんですね」

 

「そうだ。我々人間は、あらゆる手段を尽くして降魔を封じ込め続けた。しかし、降魔はこうして時を挟んで蘇って来た」

 

それはまるで永遠に終わりのない、いたちごっこのようなものだった。

何度降魔を封じても、何らかの形で再び降魔は現れる。

降魔との戦いは、古い時代からあったのだ。

 

「もちろん、今日まで降魔をことごとく退けたのは、俺達人間の力だけじゃねぇ。人間には、ある兵器があるんだ」

 

「兵器………?それは一体………?」

 

恐る恐る尋ねる大神。

すると、米田は小さく笑って立ち上がった。

 

「口で言うより見た方が早い。我々人間の対降魔の切り札………、それはこれだ!!」

 

米田が金庫を取り出して中を開ける。

そこには、黄金に輝く剣、珠、鏡があった。

 

「これは古来より受け継がれて来た『魔神器』と呼ばれる伝説の祭具だ」

 

「『魔神器』………」

 

大神は、目の前の祭具に一瞬で目を奪われた。

信じられない程神秘的な、されど何処か危険な力を漂わせる祭具。

まるで自分の中に力が宿るような、そんな気さえした。

 

「だが、こいつは余程の事がない限り使えねぇ。いや、使ってはならねぇんだ」

 

「使ってはならない?」

 

「そうだ。この魔神器の持つ力は凄まじい。今も我々の手の中で力を発揮しているからこそ、降魔が帝都にのさばる事はなかった」

 

「では、もし叉丹に奪われれば………!」

 

「ええ。魔神器の力で降魔の力は膨れ上がるわ」

 

あやめの言葉に、大神は改めて伝説の祭具を見た。

今まで帝都防衛を影で支えてくれた魔神器。

それが奴らの手に渡る事だけは、何としても阻止しなければならなかった。

 

「叉丹は、この事を知っているんでしょうか?」

 

大神が尋ねると、米田は徐に頷いた。

 

「おそらくはな。俺は遅かれ早かれ、叉丹が魔神器を狙って来ると踏んでいる」

 

「やはり、降魔による侵略を進める為………ですか?」

 

「それもあるが、俺はもう一つ恐れている事がある」

 

そこで一旦止めると、米田の表情はより一層厳しいものに変わった。

 

「………聖魔城の復活だ」

 

「聖魔城?それは一体………」

 

初めて耳にする言葉に疑問符を浮かべる大神。

しかし、米田の表情から帝都に害をもたらす危険な存在である事が推測できる。

 

「聖魔城は、数百年前に作られた殺戮の要塞だ。そんなものを帝都に復活させる訳には行かん」

 

「殺戮の、要塞………!」

 

「だから今の内に、帝劇を攻撃された時の防衛について、あやめくんと相談してほしい」

 

確かに、今の内から準備を整えておけば、万が一魔神器を狙われたとしても防衛しやすい。

いつ此処が攻撃されてもいいように、防衛対策を先んじて講ずる事は、極めて有効だった。

 

「大神、この金庫を開けられるのは俺とあやめくんだけだ。そしてこの事は国家の最重要機密だ。外部にはもちろん、花組にも秘密にするんだ」

 

「はい!了解しました!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃、舞台は爆笑の渦に包まれていた。

 

「あと少しで宝の位置に着くぞ~!」

 

探検家スタイルのアイリスがキョロキョロと辺りを見渡す。

すると、その隣で地図を広げる紅蘭が真顔で言った。

 

「ここからは危険だ。指示通りに進んでくれ!」

 

「は~い!」

 

「まず前へ3歩、右へ4歩、そして前へ3歩………」

 

紅蘭の指示通りに歩くアイリス。

すると、紅蘭が真顔から口調を変えた。

 

 

「………と歩いちゃいけないよ」

 

 

とたんにアイリスの頭にタライが落ち、客席はまたも笑いが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛~い、頭がクラクラするよ~」

 

舞台が終わり、アイリスが涙目で楽屋に戻って来た。

その頭には、タライで出来た大きなたんこぶがある。

 

「コントって笑わかすだけかと思ってたけど、意外と体張るんだな………」

 

アイリスの手当てをしてやりながらカンナが言う。

すると、紅蘭が辺りを見渡して尋ねた。

 

「あれ?そういや大神はんは………?」

 

いつもなら誰よりも先に来て労いの言葉をかけてくれる大神が、珍しく楽屋にいないのだ。

もしや途中で由里にでも捕まっているのだろうか。

しかし、秀介の口から出た一言が、その予想をひっくり返した。

 

「隊長なら、先程あやめさんと地下にいる所を見かけましたが………」

 

「お………大神はんが………!?」

 

紅蘭の表情が僅かに曇る。

すると、隣のすみれが口を挟んだ。

 

「怪しいですわね。私達も行ってみません事?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………で、大神君。何かいい案は浮かんだかしら?」

 

「はい」

 

あやめの問いに、大神は自信ありといった様子で答えた。

二人はあれから、花組が公演で舞台にいる間に、帝劇の防衛策を考えていた。

その中で常套手段なのは、何と言っても罠を仕掛ける事だった。

こうする事で、出撃後や寝静まった夜に奇襲をかけられても、反撃する事ができるのだ。

 

「パイプを繋いで、蒸気が噴射するようにしましょう。ダメージは与えられなくても、威嚇はできるはずですよ」

 

鉄道や車も蒸気で動くこのご時世、帝劇内にも幾つかの蒸気を送るパイプが設置されている。

その接続を少し変えれば、侵入者に高温の蒸気を浴びせる事は十分に可能だった。

 

「なるほど。士官学校の成績は伊達じゃないわね」

 

「いえ、それほどでも………」

 

恥ずかしそうに頭をかく大神。

すると、あやめが何かに気づいた様子でハンカチを取り出した。

 

「大神君、顔に油がついてるわよ」

 

「え?あ、あやめさん!?」

 

気がつくと、あやめはハンカチで大神の頬を優しく拭いていた。

あやめの顔が近づき、大神は顔が真っ赤になる。

 

「これからは身嗜みにも気を使わなくちゃ。隊長が勤まらないわよ?」

 

「は、はい………」

 

 

 

 

 

 

「ありゃ~、いっちゃってる顔だね」

 

「お兄ちゃんデレデレしてカッコ悪い!」

 

二人の様子をこっそり覗き、影で言いたい放題の花組。

その後ろで、紅蘭は内心の不安を隠せずにいた。

 

「(嘘やろ………?大神はん、ウチよりあやめはんやなんて、そんな事………。)」

 

考えられない事ではなかった。

大神は優しく、正義に燃える隊長の鑑だ。

しかし正義に熱い分、色恋沙汰とか、そういった事には鈍く、誤解を受けるような行動や言動をとってしまいがちだった。

誰もが信頼する大神の唯一無二の欠点が、それだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ふう、今日は色々な事があって疲れたなぁ………」

 

自室に戻り、大神は大きく伸びをした。

魔神器に国家機密。

はては降魔に関する様々な事実に、聖魔城の存在。

流石に大神でも、これだけたくさんの事実を一辺に把握するのは、無理難題というものだった。

 

「さて………少し内容を整理してみるか………」

 

まず降魔の存在。

降魔戦争以前から、幾度となく人間と闘争を続けて来た魔の存在。

それに今まで勝つ事が出来たのは、絶大な力を持つ魔神器による。

しかし、魔神器は絶対正義の祭具ではない。

もし降魔や叉丹に奪われれば、聖魔城を復活され、帝都は未曾有の危機に陥ってしまう。

そのために魔神器を帝国華撃団の本部である帝劇に保管し、降魔から死守しなければならなかった。

魔神器が帝劇にあるという事実が花組に秘密なのも、そのためだ。

 

「さて………、そろそろ見回りに行くか………」

 

大体の整理をつけた大神は、見回りに出ようと立ち上がった。

その時、開けようとした扉を、誰かが外からノックした。

 

「ん?はい、開いてるよ」

 

そう言いつつ扉を開ける大神。

すると、そこには紅蘭の姿があった。

 

「大神はん、ちょっとええやろか?」

 

「え?あ、ああ………構わないど………」

 

いつもと様子の違う紅蘭に戸惑いつつも、部屋に入れる大神。

すると、紅蘭は単刀直入に問い詰めて来た。

 

「大神はん、さっき地下であやめはんと何してたん?」

 

「えっ!?あ、それは………」

 

答えようとした一瞬、脳裏に米田の言葉が浮かび、大神は黙り込んだ。

 

「何黙ってんの?ウチには言えん事なん!?」

 

怒りを露に詰め寄って来る紅蘭。

その様子は、何処か必死なようにも見える。

答えるのは簡単だ。

魔神器を守るための対策を考えていた。これで紅蘭の誤解も簡単に解ける。

しかし、魔神器が帝劇にある事は口外できない。

もしそれを破って喋れば、軍事規定違反になる。

仲間と命令の板挟みになり、大神は一瞬迷う。

だが、紅蘭の目尻に浮かぶ涙を見て、迷いは消えた。

 

「………分かった、正直に話そう。やはり紅蘭に嘘はつけない」

 

「そうや。さ、素直に話してな」

 

白旗を上げた大神に、紅蘭は僅かに穏やかな表情になって言った。

 

「実は帝劇には、最重要国家機密がある」

 

「国家機密?」

 

「そうだ。帝劇には魔神器と呼ばれる伝説の祭具が眠っていて、司令は叉丹の狙いがそこにあると踏んでいるんだ」

 

「魔神器………。何や凄いもんなんか?」

 

実物を想像出来ず、紅蘭が首を傾げる。

 

「持つ者の心によって、栄光にも破滅にもなる絶大な力を持っている。叉丹は、魔神器を使って降魔の本拠地である聖魔城を復活させるつもりなんだ」

 

「本拠地………。そんな凄いもんが、帝劇に眠っとるん?」

 

「そうだ。最重要国家機密である以上、みんなにも秘密にするように、司令に言われていた。地下であやめさんと二人でいたのは、降魔が帝劇に現れた時の対策を考えるためだ」

 

「………ええんかったん、大神はん?そんな秘密ばらしてもうて………」

 

吐かせたのは自分だが、そんな国家の最重要機密とは夢にも思わなかった。

これが米田やあやめに知れれば、大神は何かしらの処分を受ける事になる。

自分のために危険を侵してまで秘密を話した大神の身を紅蘭は案じた。

しかし、大神は静かに頷いた。

 

「構わないさ。いらぬ誤解で紅蘭を傷付けるくらいなら………」

 

「大神はん………」

 

機密をばらした事で処罰を受けるより、紅蘭が自分のせいで傷つく姿を見る方が辛い。

寧ろ、紅蘭を悲しみから癒せるなら、いくらでも処罰を受ける。

大神の行動は、軍人として間違いかも知れない。

しかし、何よりも自分が大事と言ってくれた事が、紅蘭には嬉しかった。

 

「紅蘭………、誤解させてしまって、済まなかった」

 

「ウチこそすんまへん。大事な事喋らせてもうて………」

 

そう言って寄り添う紅蘭を、大神は優しく抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あやめさんの次は紅蘭ですの!?少尉も優柔不断ではございません事?」

 

「何だよ。お前隊長にかまって貰えねぇのが悔しいのか?」

 

「いいじゃない?元の鞘に収まったみたいだし」

 

ちなみに他の隊員達にも、会話は聞き取られずとも状況はしっかり見られていたとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、叉丹は建物の上から、夜の帝都を見下ろしていた。

 

「もうすぐだ………。今宵、我が最強の降魔が復活する」

 

夜空に輝く、赤い魔性の満月。

まるで帝都の未来に破滅が待ち受けている事を暗示するかのような輝きに、叉丹はニヤリと笑った。

 

「降魔、鹿。そこにいるな?」

 

「ハッ」

 

「奴らを撹乱しろ。あれが目覚めるまで、注意を引き付けるのだ」

 

「撹乱。かしこまりました!」

 

命令を復唱して消え去る鹿。

叉丹は、視線を再び帝劇に戻した。

 

「もうすぐだ………。もうすぐで我が理想は完成する………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………こ、これは?」

 

異変は、あまりに唐突に訪れた。

急に胸が痛み出したと思うと、自分の意志とは関係なしに体が動き始めたのだ。

まるで、自分ではない誰かが体を操っているかのように。

 

「……貴女は……誰……?」

 

心の中に見える人の姿。

すると、影は答えた。

 

「ふふふ………忘れてしまったの………?」

 

「え………?」

 

「今に分かるわよ………」

 

そう言って消える影。

その間にも、体は勝手に帝劇内を進んで行く。

自分に何があったのか。

自分はこれからどうなってしまうのか。

朦朧とする意識の中、あやめはそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

「………よし、後は地下の見回りだけだな」

 

いつものように帝劇内の見回りを進め、大神は最後に地下に降りた。

今頃は紅蘭が神武の調整をしてくれているはずだ。

大神は地下に仕掛けた罠の確認がてら、紅蘭へ労いの言葉をかけるつもりでいた。

 

「………ん?」

 

労いの言葉を考えていた大神の足が、急に止まった。

 

「あやめさん………?」

 

目の前にあやめの後ろ姿が見える。

しかし、どうも様子がおかしい。

生気がなく、歩き方が弱々しい。

不審に思った大神は、あやめに声をかけてみた。

 

「あやめさん、どうかしたんですか?」

 

「………」

 

返事がない。

大神は不審感を強め、あやめの前に回り込んだ。

 

「あやめさん、大丈夫ですか?あやめさん」

 

その時だ。

あやめがいきなり苦しむようにうずくまったのだ。

 

「あ、あやめさん!?どうしたんですか!?」

 

慌てて呼びかける大神。

その時、大神はいきなり首を掴まれ、持ち上げられた。

 

「な………!? ぐっ………あ、あやめさん………!?」

 

なんと、それはあやめだった。

大神の呼びかけを無視して、無言で大神の首を締め上げて来る。

 

「な、なんて力だ………。………あやめさん………、や、やめてくれ………!!」

 

苦しみながらも必死に訴える大神。

すると、あやめがハッとした表情で手を離した。

 

「ハッ………! お、大神君! もしかして、私が………?」

 

「ゲホッゲホッ………! お、俺は大丈夫です。それよりあやめさん、一体どうしたんですか………?」

 

咳き込みながらもあやめを心配する大神。

あやめが何の理由もなしに大神を襲うはずがない。

正気に戻った今なら、あやめの異変の原因の手掛かりが掴めると、大神はそう考えたのだ。

 

「そ、それが自分でも………うっ!?」

 

しかし答えようとした矢先、あやめは再び胸を押さえて苦しみ始めた。

 

「あ、あやめさん!」

 

「大神君………お願い、私を抱きしめて………。」

 

「えっ?」

 

「お願い………早く………。」

 

突然の頼みに困惑する大神だが、状況からして迷っている暇はない。

大神は、言われた通りにあやめを抱きしめた。

 

「こ、こうですか………?」

 

「お願い………、もっと強く………。」

 

 

 

 

 

 

 

それから少しの時間が過ぎた時だった。

帝劇の地下に、警報が鳴り響いたのだ。

 

「何っ!? くそっ、こんな時に………!!」

 

「大神君、行って………。私は大丈夫だから………。」

 

「し、しかし………。」

 

大神は思わず躊躇った。

大丈夫とは言うものの、大神の見る限りあやめの様子は決してそうは見えない。

一刻も早く出撃しなければならないが、あやめをこのまま放ってはおけない。

すると、あやめは一丁の小型のハンドガンを取り出した。

 

「大神君、これを………。」

 

「拳銃………?」

 

「もしもの時は、迷わず私を撃って………。」

 

「!?どういう事ですか!?」

 

思わず大神が聞き返した。

もしもの時とは、恐らく自分がまた先程のようになった時だろう。

その時は自分を殺せと、あやめは大神に言っているのだ。

 

「何をしているの! 早く出撃しなさい! これは命令よ!」

 

「は、はい!」

 

あやめに一喝され、格納庫へ急ぐ大神。

すると、また胸が激しく痛み始めた。

 

「くっ………!違う!違うわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

大帝国劇場前。

雪の結晶がヒラヒラと舞うそこに、鹿の姿はあった。

 

「叉丹様は撹乱せよと申されたが………構わぬ! この鹿の実力をお見せするためにも、花組を全滅させてくれるわ!!」

 

自身を最強の降魔とする鹿にしてみれば、撹乱など赤子の手をひねるより簡単な事。

ならばいっそ、花組を皆殺しにして、自分が最強である事を叉丹に認めさせる。

暗い野望に心を燃やす鹿に凛とした声が聞こえたのは、その時だった。

 

 

 

「そこまでよ!!」

 

 

 

冷たい空気を震わせる声とともに、八つの神が舞い降りた。

 

「帝国華撃団、参上!!」

 

帝劇を守るように隊列を整える花組。

そこに、米田から通信が入った。

 

「全員そのままで聞いてくれ。敵の狙いは、この帝劇内部にある国家最重要機密だ」

 

「最重要国家機密?」

 

「なんですの、それは?」

 

「戦いが終わったら教える!奴らを帝劇内部に侵入させるな」

 

初めて聞く事実に少々驚くが、今は米田の言う通り戦う事に集中するべきだ。

 

「あたいらに黙ってるとは、水臭いねぇ」

 

「戦いが終わってから伺いましょう。集中ですよ」

 

ぼやくカンナを秀介がたしなめ、花組は戦闘体勢に入った。

 

「来たか、帝国華撃団! この雪とともに葬り去ってくれる!」

 

花組の姿に、鹿は獲物を見つけたような不敵な笑みを見せる。

すると、鹿の魔術で周囲を白い霧が覆い尽くした。

 

「こ、これは………!!」

 

霧が晴れるや、大神は目の前の光景に驚きの声を上げた。

先程まで無人だった帝劇前に、大量の降魔がひしめいていたからだ。

その数、およそ三十体。

 

「ケケケケケ!俺は猪と違って頭がいいんでな。数で押し切れば防げまい!」

 

得意げに笑う鹿。

確かに今見えるだけでの数でも、少数精鋭の花組には辛い。

見ると、奥の光る岩から降魔を召喚しているようだ。

 

「よし、帝劇を守りつつあの岩を破壊する。みんな、行くぞっ!!」

 

「「了解!!」」

 

力強い返事を聞き、大神は二刀を構えて飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「はあっ!」

 

気合いを篭った太刀が横に一閃した。

たちまち降魔を生み出していた岩がその軌道に沿って真っ二つになる。

そこに、秀介が霊力弾を撃ち込んだ。

 

「………中々、頑丈な代物でしたね」

 

通信をさくらに繋ぎ、秀介がぼやいた。

この降魔を生み出す岩、ただ破壊するだけでは意味がなく、粉々に粉砕する事でようやく動きを止めるのだ。

夥しい数の降魔の攻撃をかい潜り、帝劇を守りながらこの頑丈な岩を破壊するのは、何とも骨の折れる作業だ。

そこで、大神はそれぞれ役割を分担し、効率的に戦おうと考えた。

最重要な帝劇の防衛は、マリア、カンナ、紅蘭、すみれの四人で。

降魔を引き付ける陽動はアイリスが。

そして、さくらと秀介が大神とそれぞれ岩の破壊を担当する事になったのだ。

特に自分達は、活躍次第で仲間の負担を大きく減らせる分、頑張る必要があった。

 

「いいじゃないですか。あたし達が頑張って岩を破壊すれば、降魔の出現を止められる訳ですし」

 

そう秀介を宥めつつ、さくらは次の岩目掛けて走り出す。

 

「まあ、そうなんですが………」

 

そう言いつつ、秀介もまた流光の操縦桿を握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「狼虎滅却………、怒号烈震!!」

 

青い稲妻が大神の二刀から放たれ、遠くの岩を粉々に破壊する。

他の岩は全てさくらと秀介が破壊済みなので、これで岩は全て破壊した事になる。

 

「ほう、中々やるな。魔来器を見抜くとは」

 

いつの間にか現れた鹿が、意外そうな顔を見せた。

 

「馬鹿にするな。これでも降魔に関する情報は集めているんだ」

 

あの降魔を召喚する岩は、魔来器と呼ばれる道具だ。

降魔を呼び出す際の転移魔術などの呪文が岩に施され、離れた場所から降魔を魔来器の所にワープさせる事ができるのだ。

大神が読んだ放神記書伝の一部にその事がたまたま書いてあり、魔来器の存在に早く気づく事が出来たのである。

 

「ケケケケケ。まあ良い、そうでなくてはこの鹿の相手は務まらんからな」

 

「全く口うるさい方ですわね。実力は戦って示してはいかが?」

 

威勢を張る鹿に呆れた様子ですみれが返す。

すると、鹿は不敵な笑みを見せた。

 

「フッ、身の程知らずめ。望み通り見せてやろう。俺の偉大な力をな!いでよ、『氷刃不動』!」

 

そう叫んだ時、鹿を中心に巨大な魔法陣が現れ、猪と同じ形をした、色違いの魔装機兵が現れた。

鹿の操る『氷刃不動』である。

 

「ケケケケケ!この鹿と戦える事、光栄に思うがいい!」

 

余程自分の力に自信があるのか、戦う前から威勢の良い鹿。

大神は、二刀を構えつつ叫んだ。

 

「敵の魔装機兵を撃破する! 行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る火炎を操る猪と違い、凍てつく氷河を操る鹿。

この雪の積もった大通りは、正に鹿にとって絶好の戦場だった。

 

「降魔、氷刃の秘伝………氷魔・紅葉落とし!!」

 

凍てつく氷の竜巻が、大神達に襲い掛かった。

逃げ場のない大通りを、竜巻が一直線に突き抜ける。

 

「くっ………!」

 

何とか竜巻を凌ぎ、反撃しようとした時、大神はある異変に気づいた。

 

「なっ………、神武が動かない!?」

 

どういう訳か、どんなに操作しても神武の下半身が機能しないのだ。

見ると大神のみならず、他の隊員達も同様の状態に陥っている。

 

「た、大変やで大神はん! 今の攻撃で神武のあちこちが凍ってしもうとる! これやと動かせへんで!」

 

「何だって!?」

 

ピンチに陥って焦る大神。

すると、鹿が勝ち誇った様子で高らかに笑った。

 

「ケケケケケ! どうだ帝国華撃団!言ったはずだぞ? 俺は猪より頭がいいとな。貴様らの弱点くらい、既に調査済みよ!」

 

「くそっ………!!」

 

「おっと、驚くのはまだ早いぞ? 見せてやろう、我が最強のしもべ、氷超獣アイスロン!!」

 

そう叫んだ時、雪に覆われた地面を割って、雪のように真っ白な怪獣が現れた。

鹿が己に相応しいと豪語する怪獣を超えた超獣。

氷超獣アイスロンだ。

 

「怪獣………!? まさか!?」

 

何か良からぬ事を想像したのか、マリアの顔が青ざめた。

すると、鹿が不敵な笑みを見せる。

 

「ケケケケケ! そういう事だ。お前達には帝国劇場が襲われる様をじっくり見てもらう。」

 

「くそっ………!!」

 

大神の顔が悔しさで歪む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、鹿は気づいていなかった。

この状況を打開できる真の神の存在に………。

 

 

 

 

 

 

 

「隊長! 奴は僕が相手をします!」

 

「秀介………。よし、頼んだぞ!」

 

大神の返事を聞き、秀介はブレスレットを構え、右手を外側から回してオーブに翳した。

そして右手を切るように斜め下に下げてオーブを発光させ、ブレスレットを空に掲げて叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーーーック!!」

 

 

 

 

 

 

「シュワッ!」

 

ジャックは帝劇を守るようにアイスロンと対峙した。

地面が舗装されている分、着地の振動が伝わってくる。

 

「グオオオオン!」

 

アイスロンは邪魔だと言わんばかりにジャックに襲い掛かる。

ジャックも負けじとつかみ掛かった。

 

「ヘッ!!」

 

雪の中、激しくぶつかり合う両者。

帝劇目指して進撃するアイスロンと、そうはさせるかと押さえ込むジャック。

猪に続く街中での戦闘に、花組のみならず避難した市民までも、その戦いを見守っている。

しかし、その力勝負に勝ったのは超獣だった。

 

「グオオオオ!」

 

咆哮とともに口からジャック目掛けて絶対零度のアイスブレスを吐き出す。

アイスロンにつかみ掛かかろうとしていたジャックは、それを至近距離から受けてしまった。

 

「ァアッ!?」

 

更に怯んだ隙を突かれ、ジャックはアイスロンのタックルを受けて倒れてしまった。

アイスロンは邪魔者を始末したと言わんばかりに帝劇に迫る。

ジャックはその足を掴んで妨害するが、カラータイマーが点滅を始め、アイスロンの進撃を阻むには至らない。

最早これまでか………。

 

 

 

 

 

しかし、アイスロンの進撃は意外な形で阻止される事になる。

 

「グオオオオン!?」

 

何と、突然帝劇の入り口からアイスロン目掛けて蒸気が噴射されたのだ。

高温の蒸気を全身に浴び、アイスロンは苦しみの声を上げる。

これには花組のみならず、鹿も驚きを隠せなかった。

 

「な、何だと!?」

 

「蒸気………!? 一体どうして………!?」

 

何故蒸気が噴射されたのか、その場の誰もが首を傾げる。

しかし、仕掛けた大神だけは悠々と啖呵を切った。

 

「言ったはずだ! 降魔に関する情報は集めているとな! お前達が帝劇内部への突入を優先させる事くらい、計算済みだ!」

 

本当はアイスロンではなく降魔を想定して作った罠なのだが、まあ結果オーライという奴だ。

一方、その事実を知らない鹿は予想もしなかった事態に慌てた。

 

「そんな馬鹿な! この俺の完璧な作戦を、見抜いていたというのか!?」

 

「当然ですわ!」

 

その鹿に、追い撃ちをかけるように声を発する人物がいた。

すみれである。

 

「貴方のような三下の考え、少尉が見破れないと思って?」

 

「何だと! 俺は最強の降魔なんだぞ!?」

 

「あ~ら、貴方『井の中の蛙』という言葉を知りませんの? ろくに外界も知らないくせに、自分を最強と豪語するなど、自惚れ甚だしいですわ!」

 

「な、な、何~!?」

 

すみれの立て続けの口撃に、鹿は怒りで震えながらも言い返す事が出来なかった。

その様子は、正に蛇に睨まれた蛙である。

 

「くしょ~!! この俺をか、蛙扱いしやがって!」

 

「あ~ら、貴方なんて舞台に例えればミジンコ以下ですわ!」

 

 

 

 

 

 

 

鹿がすみれに散々罵られている頃、ジャックもアイスロンを相手に逆転していた。

既にカラータイマーは赤く点滅しているが、蒸気を全身に浴びて弱りきったアイスロンなど敵ではなかった。

 

「シュワッ!」

 

ジャックはアイスロンを高々と持ち上げ、広い道路に投げ飛ばした。

そして、両腕を十字に組んでスペシウムを放つ。

 

「グオオオオ………!!」

 

スペシウム光線を胸に受けたアイスロンは、断末魔の叫びとともに大爆発した。

 

 

 

 

 

「ば、馬鹿な! 俺のアイスロンが、あんな簡単に倒されるだと!」

 

自ら超獣と呼んで信頼していた怪獣があっさり倒され、鹿は狼狽する。

その時、すみれが叫んだ。

 

「カンナさん、頼みますわよ!」

 

「おう、任せとけ!!」

 

一瞬の隙をつき、カンナの燃える一撃がその場に炸裂した。

 

「四方攻相君!」

 

虎を象った炎が叩き込まれ、すみれとその周りの氷が一気に蒸発する。

 

「何っ!! 俺の氷を破るだとぉ!?」

 

紅葉落としの氷は、溶岩でも溶けない程の冷たさのはず。

鹿は自分が最強というアイデンティティが、音をたてて崩れていくのを感じた。

しかし、それ以上に大声を上げる者がいた。

 

 

 

「カンナさん!貴女一体どういうおつもり!?」

 

「何だよ煩いな~。助けてやったんじゃねぇか」

 

「まあ!貴女これを助けたとおっしゃるんですの!?」

 

見ると、確かにすみれの神武は自由な動きを取り戻しているが、そこらかしこが煤まみれという、何処かで見たような状態になっていた。

 

「大体お前が芝公園であたいに同じ事したじゃねぇか!」

 

「なんですって!過去の事を根に持つとは見苦しいですわよ、カンナさん!」

 

「何だと!お前がそれを言える立場かよ!」

 

そうしてしばらく言い合った後、すみれはようやく薙刀を手に氷刃不動と対峙した。

 

「さあ、覚悟はよろしくて? 三下!」

 

「三騎士だ! 三下三下言うんじゃねぇ!!」

 

いきり立って両腕から冷気を放つ鹿。

しかし、すみれによって度重なる屈辱を味あわされた鹿は正常な思考能力を失い、攻撃も大振りで隙だらけのものへと変わっていた。

 

「お~っほっほっほ! だから三下と言うのですわ!」

 

悠々と鹿の攻撃をかわし、すみれは薙刀を構えて霊力を集中した。

 

 

 

 

 

「神崎風塵流、花の演目、最終奥義………鳳凰の舞!!」

 

 

 

 

 

鳥を象った巨大な炎が、氷刃不動を包み込んだ。

 

「俺は………俺は………、最強の降魔だあっ!!」

 

万物を焼き尽くす聖なる炎の中でそう叫び、氷刃不動は大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ、使えぬ奴め………」

 

無能な部下の最期を冷ややかに一瞥し、叉丹は帝劇に目を向けた。

 

「さて………、そろそろ奴を目覚めさせるとするか」

 

叉丹の待ち侘びた、真に最強の降魔。

その復活を指し示すように、夜空を赤い月が照らしていた。

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして、米田の姿は地下にあった。

 

「………嫌な夜だぜ」

 

地下を冬の冷たい空気が包む。

しかし、この冷たさは違った。

何かがいつもと違う………。

そんな気がしてならないのだ。

 

「あやめくんを一人にしちまったが、どうも胸騒ぎがしやがる」

 

その異常な空気の冷たさからか、いつになく独り言の多い米田。

あやめはあの若さで、降魔戦争の時から活躍した戦友だ。

多少の修羅場を一人で切り抜ける術はいくつも知っている。

だが今は、どうも悪い予感がした。

その才女でも切り抜けられないような事態が起こっているんじゃないか。

そんな気がしてならないのだ。

そして、この後米田の感じた胸騒ぎは、現状となる。

 

「ぐっ………」

 

「………あやめくん!」

 

作戦司令室に来た米田が見たのは、苦しそうに胸を押さえる戦友の姿だった。

 

「あやめくん!どうしたんだ!?」

 

「う………くっ………、さ………叉丹………様………」

 

あやめは米田の呼びかけに応えず、譫言で何かを呟いたかと思うと、突然立ち上がった。

 

「あ、あやめくん!」

 

慌てて追いかけようとする米田。

しかし、あやめの身体を取り巻く何かがそれを制止した。

 

「あやめくん! どうした、返事をしろ!」

 

呼びかけてもあやめは反応しない。

 

「ま………じん………き………」

 

それどころか、金庫に安置してある魔神器を取り出すと、米田を突き飛ばして作戦司令室を飛び出した。

 

「待て、あやめくん!? 魔神器をどうするつもりだ! あやめくん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ………」

 

鹿を倒し、帝劇に戻ろうとした花組の耳に不敵な笑い声が聞こえたのは、その時だった。

 

「あれは!」

 

さくらが帝劇の屋根を指差して叫んだ。

 

「なっ………!?」

 

その方向を見た花組は、一瞬にして声を失った。

なぜなら、そこにいたのは………。

 

 

 

 

 

 

「あ、あやめさん………!!」

 

苦しげな表情のまま叉丹に寄り添うように立つ、あやめだったからだ。

 

「ふはははは………。魔神器は譲り受けたり!」

 

「ま、魔神器やて!?」

 

勝ち誇った様子で笑う叉丹の言葉に、紅蘭が反応した。

確か大神が言っていた、帝劇に保管されているはずの伝説の祭具だ。

見るとあやめの腕に、それらしい物が抱えられている。

 

「さあ、あやめ。こちらへ………」

 

「………は、はい………」

 

叉丹の優しげな言葉に、あやめは叉丹に近づく。

その様子は、まるで叉丹の言葉にまどろんでいるようにも見える。

 

「だ、駄目だ!あやめさん!!」

 

たまらず、大神が叫んだ。

その時、あやめがハッと正気に戻り、大神に訴えかけて来た。

 

「大神君! 私を………、私を撃って!!」

 

「………!!」

 

「早く! 早く撃ちなさい! これは命令よ、大神君!!」

 

恐らくは残された理性の全てを振り絞っての言葉だろう。

命令と言われ、大神は反射的に出撃前に渡されたハンドガンを取り出した。

 

「くっ………」

 

あやめは狙いやすいように前に出ている。

周囲に障害物は一切ない。

あやめの心臓を狙い撃つだけなら簡単だ。

だが、大神は迷った。

 

「(命令………、でも、そんな事をすればあやめさんは………。)」

 

それは、正に悪夢の選択だった。

命令を受けた以上、それを果たすのが軍人。

士官学校でもそう教えられて来た。

このままではあやめと魔神器は叉丹の手に落ちてしまう。

だが大神は、今まで自分達を支えてくれた大切な人を即座に殺せるような人間ではなかった。

 

「駄目だ………。俺には………、撃てない………」

 

その言葉とともに、ハンドガンが地面に落ちる。

すると、あやめは最期の理性でこう告げた。

 

「自分を………、偽らない………大神君でいてね………」

 

「くそっ………」

 

「大神はん………」

 

力無く両膝をつく大神。

その肩に紅蘭が優しく手を置き、慰めるように声をかける。

その様子を冷笑とともに見下ろし、叉丹はあやめを引き寄せた。

 

「さあ………思い出せ、あやめよ。失楽の園の記憶を………」

 

そう囁きかけ、叉丹はあやめに口づけた。

 

 

 

 

 

その時、大神を始め、その場にいる誰もが、目を疑う光景を目にする事になる。

叉丹に口づけられたあやめの目が一瞬見開かれたかと思うと、あやめの体が青い炎に包まれ、その背中から黒い翼が生えて来たのだ。

髪止めが外れて、長く美しい茶色の髪が夜空に靡く。

 

「………ふふふふふふ………」

 

まるで別人とも思える不敵な笑い。

叉丹は、それに満足そうに口を開いた。

 

「最強の降魔にして我に最も近しく、頼りとする者………。殺女よ、よくぞ目覚めた」

 

「はい………我らは常に対なるもの。前世での契りに従い、今度こそお側に………」

 

まるで最愛の人に寄り添うように、あやめ………いや、殺女は答えた。

 

「今宵の邂逅こそ永遠………。我らの行く所、あまねく魔の楽園が広がりましょうぞ」

 

まるで別人が乗り移ったかのような従順さ。

叉丹はその様子に、満足そうに笑っている。

 

「さあ、これこそが我らの求める鍵。魔神器をお納め下さい」

 

そう言って、殺女は黄金に輝く祭具を叉丹に差し出した。

 

「あやめさん! それを渡しては駄目だ!」

 

魔神器が叉丹の手に渡れば、聖魔城が復活し、米田の恐れていた事が現実となってしまう。

大神は必死に叫んだが、殺女は叉丹にそれを渡してしまった。

 

「ふはははは! 貴様らに待ち受けているのは、苦悩………絶望………」

 

「そして、破滅」

 

魔神器を受け取り、高らかに笑う叉丹と、それに続く殺女。

そして、叉丹が転移魔術で姿を消すと、殺女もまた翼を羽ばたかせて空に舞い上がった。

 

「そ………そんな………。ま、待ってくれ! あやめさん!!」

 

目の前で起きた出来事が信じられず、大神が叫ぶ。

しかし、返って来たのは優しい励ましではなく、冷たい嘲笑だった。

 

「お前らのあやめは、もう死んだのだ。あの赤い月とともに!」

 

「あやめはん………」

 

最早、どうする事も出来なかった。

赤い満月の彩る夜空を優雅に飛び去る、変わり果てた副司令の姿を、花組はただ無言で見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黒き雨よ、魔の風よ、邪念の海よ。今こそ封印を解き、我に力を与えよ!」

 

帝都に巣くう魔の存在、降魔の本拠地にして殺戮の要塞、聖魔城の沈む海に向かい、叉丹が叫ぶ。

黒雲に覆われた空からは黒い雨が絶え間無く降り注ぎ、海は荒れ狂うように波立つ。

 

「いよいよ復活するのだ………。聖魔城が!!」

 

魔神器を手に、叉丹が叫ぶ。

それに応えるように、殺女が笑った。

 

「うふふふふふふ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦司令室は今までになく暗い、澱んだ空気に包まれていた。

 

「あやめさん………」

 

永遠の空席となった副司令の座席を見て、大神が呟く。

今まで側にいた大切な人がいなくなり、心にポッカリと大きな穴が開いたかのようだ。

 

「大神さん………。きっと何かの間違いですよ。あやめさんが敵だったなんて………」

 

あれからずっとうなだれたままの大神を元気づけるように、さくらが声をかける。

 

「確かに。様子からして、あれはあやめさん本人の意志ではなく、叉丹の催眠術などに因るものかと………」

 

秀介も、さくらをフォローするように口を挟むが、どちらも内に秘めた動揺は隠しきれていない。

それは、他の隊員達も同じだった。

 

「こ、この私を騙すなど、許せない事ですわ!」

 

「夢なら………、早く覚めてほしいものです。………こんな事って………」

 

「信じられないぜ! あの、あやめさんが………!!」

 

「さっきのあやめお姉ちゃん、とても怖かった。どうかしたのかな?」

 

「あやめはん………。ウチ、どうしたらええんや?」

 

全てはあの赤い魔性の月が見せた悪夢。

そう思えたならどんなに楽だったか………。

しかし現実に、あやめは叉丹の忠実なしもべ、降魔殺女として覚醒してしまった。

 

「みんな。辛いかもしれないけど、少し休まなくては………」

 

いつもの冷静さをどうにか保ちながら、マリアが言った。

帝劇前での鹿との戦いは、魔来器で呼び出された多くの降魔を相手にした事もあり、神武も流光もダメージを負っている。

またいつ降魔が襲って来るか分からないのだ。

今は、少しでも休息するべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………由里くん。こんな所にいたのかい?」

 

地下から階段を上がってすぐの音楽室。

そこに由里の姿を見つけ、大神は声をかけた。

 

「ええ、レコードを聞いてたの。どんなに辛い時も、好きな音楽を聞いていると、元気が出るから」

 

そう言って、由里はレコードのケースを出して見せる。

それは、由里が良く聞いている、最近発売されたばかりの流行りの歌だった。

 

「大神さんは、どうやって自分を元気づける?」

 

「え………?」

 

ふと由里に尋ねられた大神は、少し考えた後答えた。

 

「そうだな………、俺も音楽を聞くな」

 

「大神さんも?やっぱり音楽はいいわよね」

 

そう言って、由里はレコードのスイッチを入れる。

 

「ねぇ大神さん、これで元気になって。そして、その元気をみんなにも、分けてあげてね………」

 

ふと、由里が真剣な眼差しで大神に告げた。

 

「今はみんな、どうやって立ち直ればいいか、分からないはずだから………」

 

「由里くん………、わかったよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レコードを一通り聞いた後、大神は事務局の明かりがついている事に気がついた。

 

「まさか、かすみくんか………?」

 

あの生真面目なかすみの事、もしかして残業でもしているのではないか。

大神の予想は、的中した。

 

「あ………かすみくん。こんな時間に何しているんだい?」

 

案の定何か仕事をしているかすみに、大神が声をかける。

すると、かすみにしては歯切れの悪い返事が返って来た。

 

「え、ええ………。伝票の整理が終わらなくて………」

 

「俺も手伝おうか?」

 

いつになく疲れた表情のかすみに、優しく大神が声をかける。

かすみは生真面目過ぎるくらいに几帳面で、仕事の途中で休む事を嫌っていた。休めと言っても聞かないだろう。

それなら一緒に片付けて、早く休ませてあげようと、大神は考えたのである。

 

「助かります、大神さん。平常心でいようと思って始めたのに………」

 

「かすみくん………」

 

「少し、夜風に当たって来ます。このままでは、伝票整理なんてできそうにありませんので………」

 

そう言って、かすみは立ち上がった。

 

「大神さん、やっぱり伝票整理はいいです。それより今は、みんなを元気づけてあげて下さい」

 

「わかったよ、かすみくん」

 

そう笑顔を返してかすみを見送ると、大神もまた、事務局を後にした。

 

かすみを見送った後、大神は食堂に足を運んだ。

ここには恐らく彼女がいる。そう思ったからだ。

そして、彼女はやはりそこにいた。

 

「カンナ………」

 

「ああ、隊長か」

 

大神に気づき、カンナは箸の手を止めた。

どうやらいつものように、夜食を作ったらしい。

 

「夜食かい?」

 

大神が尋ねると、カンナは陰りのある笑顔で答えた。

 

「へっ、まあね。クヨクヨしてても、あやめさんが戻って来る訳じゃねぇだろ?」

 

「確かに、そうだな………」

 

「心配すんな隊長!首根っこ引っ張ってでも、あたいが連れ戻して見せるさ!」

 

大神を元気づけるように、カンナが胸を叩いた。

 

「だからさ、飯でも食って元気出せよ。な、隊長!」

 

「ありがとう。いただくよ」

 

カンナの気遣いに、ちょうど小腹が空いていた事もあって、大神は一緒に夜食を食べる事にした。

すると、カンナは目一杯の笑顔を見せた。

 

「そうこなくちゃな!ほら、ここにある料理、好きに食っていいぜ」

 

「それじゃ、いただきます。どれどれ………」

 

カンナの向かい側に座った大神は、目の前にある野菜炒めを一口頬張った。

が、あまりの辛さにむせてしまった。

 

「辛っ!カンナ………ちょっと塩を入れすぎたんじゃないか?」

 

初めて会った時にご馳走してもらった料理と違い、単に塩が多過ぎる。

すると、カンナは真顔に戻って言った。

 

「あ………そうか。だったら塩………、入れすぎちまったんだろうな」

 

「え………?」

 

「味が………しねぇんだよ。何を食べても味がしなくてさ」

 

見ると、カンナの顔からは笑顔が完全に消えていた。

 

「あたい………どうしちまったんだ!? 何も出来なかった自分が悔しくてさ………!!」

 

何も出来なかった。

それはつまり、あやめを叉丹から救えなかった事だろう。

やはりカンナも、あやめがいない事が悲しくて仕方がないのだ。

 

「隊長、一人にさせてくれねぇか?」

 

笑顔の仮面を外し、ようやくカンナが正直な思いを口にした。

 

「わかった。でも、少しは休むんだぞ?」

 

「ああ………。ありがとな、隊長」

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂を後にした大神は、玄関で椿を見かけて声をかけた。

 

「椿ちゃん。どうしたんだい、こんな所で………」

 

「玄関の鍵を開けに来たんです………。鍵がかかってたら、あやめさんが帰って来られないから………」

 

そう言って、椿は手に持ったマスターキーを見せた。

こんな夜中に玄関の鍵を開けるのは些か不用心だが、降魔の蔓延るこの時期は幸いこそ泥はいない。

 

「椿ちゃん。だったら、笑って迎えてあげなきゃ。そんな暗い顔じゃ、あやめさんも帰りづらいよ」

 

優しく笑顔で言う大神。

すると、椿は嬉しそうに笑った。

 

「大神さん………、そうですよね。あたし、笑顔でいます。あやめさんがいつでも帰れるように!」

 

「うん。椿ちゃんは、やっぱり笑顔が一番だよ」

 

その言葉に、椿は嬉しそうに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロビーから二階に上がった大神は、サロンでいつものように紅茶を飲むすみれを見かけた。

 

「すみれくん………」

 

「あ、少尉………」

 

大神の姿を見るや、すみれはばつが悪そうに視線を逸らした。

何やら思い悩んでいるように見える。

 

「どうしたんだい?こんな所に一人で………」

 

そう尋ねると、不機嫌な答えが返ってきた。

 

「私が何をしていようと、少尉には関係ございません。それとも、少尉の了承が必要とおっしゃるの!?」

 

「いや、そうじゃないけど………。気に障ったなら、謝るよ」

 

ただでさえ心が不安定であろうすみれを傷付けたと思い、謝罪を口にする大神。

すると、すみれはハッとした様子で謝った。

 

「あ、いえ、こちらこそ………」

 

その言葉に、大神は敢えて返事を返さなかった。

すみれは、他人に自分の弱みを見せない人間だ。

今までがそうだったように、今回もそうなのだろう。

そういう時は、黙っていてほしい事を、大神は知っていた。

 

「何も、言って下さらないのですね………」

 

徐に、すみれが呟いた。

 

「でも、それが少尉の優しさなのかも知れませんわね」

 

その一瞬、すみれの顔に笑顔が戻る。

だが、直後にすみれの表情は更に厳しいものとなった。

 

「けれど……今の私にその優しさは、毒ですわ。だから……、私自身で決着をつけます」

 

そして、すみれはその決意を述べた。

 

「あの人は、この私が殺して差し上げます。それが、最後の恩返しですから」

 

そう言って立ち去るすみれ。

恐らくあの人とはあやめの事で、決着とは殺す事だろう。

大神の優しさは、それを揺るがせるから毒なのだ。

 

「すみれくん、無理をしすぎだ………」

 

 

 

 

 

 

 

大神の足は、隊員達の部屋に向かった。

既にカンナとすみれは話し終えたとして、大神はマリアの部屋に向かった。

アイリスは既に寝てるだろうし、さくらや紅蘭も留守だったからだ。

 

「マリア、少しいいかい?」

 

「はい、どうぞ」

 

いつもよりやや弱い返事に、大神は中へ入った。

みんなの前では平静を装っていたが、マリアも心の底では辛い思いだったのだ。

 

「マリア、あやめさんの事だけど………」

 

マリアもすみれと同じように、自分の弱みをすぐには見せない所がある。

しかし二人だからか、マリアは素直に話してくれた。

 

「隊長………、私とあやめさんは、華撃団結成時から一緒でした」

 

「え………?」

 

「花組の中で、私が一番、あやめさんとの付き合いが長かったんです」

 

そして、マリアはその時を思い出すかのように、目を閉じて続けた。

 

「そして………、私に命を与えてくれたのも、あやめさんなんです」

 

「命をくれた?………どういう事なんだい?」

 

やや抽象的な言葉に、大神が尋ねる。

すると、マリアはポツリポツリと話し始めた。

 

 

 

華撃団に来る前………、私はアメリカにいました。

報酬のために人を撃つ………。

そんな殺し屋稼業に身を落としていました。

自分の命も………、他人の命も………、紙屑同然の毎日………。

私は、死んでいたも同然なんです。

そんな私を救ってくれたのが、あやめさんでした………。

私は………、あやめさんに帝都を守るという………、生きる目的を貰いました。

心を失っていた私に、生きる希望を与えてくれたんです。

 

 

 

「そうだったのか。あやめさんとは、そんな事が………」

 

今の話を聞いて、大神は確信した。

あやめが敵になったこの状況に一番苦しい思いを強いられているのは、マリアなのだと………。

 

「こんな事を話せるのも、あやめさんだけだったのに………」

 

大神は、やはり黙っていた。

下手な慰めは、余計に傷を深くするだけだ。

先程のすみれがそうだったように。

 

「人は、一人では生きて行けないのでしょう………。………ですが………」

 

マリアは、自嘲気味に笑った。

 

「一人になってしまったものは、どうしたらいいのでしょうね………」

 

「マリアは一人じゃないよ。俺や………、花組のみんながいる」

 

その言葉に、ようやく大神は口を開いた。

 

「だから、一人だなんて寂しい事言うなよ」

 

「隊長………、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

「お兄ちゃん………」

 

マリアの部屋から出て来た大神を、アイリスが呼び止めた。

 

「アイリス………。どうしたんだい、こんな所で?」

 

「眠れないの。怖い夢が出て来て、眠れないの」

 

余程怖い思いをしたのか、アイリスの表情は強張っていた。

大神は、優しくアイリスを部屋に戻す。

 

「アイリス、どんな夢を見たんだい?」

 

夢に怪獣でも出て来たかと思って尋ねる大神。

しかし、アイリスの口から出た夢は、そんな安直な考えとは違う末恐ろしいものだった。

 

「………誰もいないの。みんな、真っ暗になるの」

 

「え………?」

 

「さくらも………秀介も………米田のおじちゃんも、真っ暗な所に行っちゃうの」

 

その言葉に、大神は先程のマリアの言葉を思い出した。

 

「一人になってしまったものは、どうしたらいいのでしょうね………。」

 

アイリスの夢は、それと全く同じだった。

 

「みんな、いなくなっちゃう。あやめお姉ちゃんみたいに………、みんな………」

 

大切な人を失った喪失感は、生半可なものではない。

特にまだ幼いアイリスにとって、それがどんなに辛い事か。

察するにあまりある。

 

「お兄ちゃんは行かないよね! アイリスを置いて、何処かに行ったりしないよね!」

 

すがるように聞くアイリス。

大神は、優しくアイリスの髪を撫で、囁くように言った。

 

「俺が側にいてあげるよ。だから、安心して」

 

「本当………?お兄ちゃん、アイリスの側にいてくれる?」

 

「ああ、本当だよ。約束する」

 

念を押すように尋ねるアイリスに大神がしっかりと頷く。

 

「ありがとう。お兄ちゃん………大好き」

 

すると、アイリスにようやく笑顔が戻った。

 

「ねぇ、お兄ちゃん………、みんな、ずっと一緒だよね?あやめお姉ちゃんも、早く帰って来るといいね」

 

「うん………そうだね」

 

「それじゃ、お休みなさい………」

 

そう言ってベッドに入るアイリス。

寝息が聞こえるまで、5分とかからなかった。

 

「………おやすみ、アイリス。いい夢を………」

 

 

 

 

 

「………秀介。ここにいたのか」

 

屋根裏部屋に来た大神は、そこに佇む秀介を見つけた。

すると、秀介も穏やかな表情で返事を返した。

 

「隊長でしたか。何か探し物ですか?」

 

「いや、みんなの様子を見て回っていたんだ。秀介は、ここで何をしているんだい?」

 

大神が尋ねると、秀介は窓を開けて言った。

 

「星を………見ようと思いまして」

 

「星を?」

 

秀介の隣に並んで、空を見上げる大神。

すると、空には満点の星が光っていた。

 

「隊長、あの星を見て下さい」

 

秀介が、その内の一つを指差した。

夜空を彩る星達の中でも、一際輝いている星が見える。

 

「あれは?」

 

「僕の故郷、M78・ウルトラの星です」

 

遠く離れた故郷。

その光は輝かしくも、何処か懐かしかった。

 

「あれが………秀介の故郷なのか………」

 

「はい。こんなに遠くても、ちゃんと僕の事を見守ってくれている………。そんな気がしてならないんです」

 

ウルトラの星を見たまま、秀介が呟く。

大神も、その隣でウルトラの星を見上げて言った。

 

「どんなに離れていても、君達は強い絆で結ばれているんだね」

 

「はい………」

 

大神の言葉に頷き、秀介がふと尋ねた。

 

「ところで隊長、僕の兄も、かつて降魔戦争で地球にいた事はご存知でしたね?」

 

「ああ。陸軍の一ノ瀬大尉は、俺達海軍でも有名だったからな」

 

一ノ瀬 豊陸軍大尉。

その正体が、秀介の兄、ウルトラマンゾフィーと知ったのは、今年に入ってからだ。

 

「兄は無敵のゾフィーと呼ばれ、地球では華々しい功績を残しました。何故か分かりますか?」

 

「いや………分からないな」

 

「兄は、決して強かった訳ではありません。ただ………」

 

秀介は胸に手を当てて目を閉じると、続けた。

 

「愛したんです。この星の生命全てを。守りたいと、強く心に刻んだんです」

 

「そうか………、一ノ瀬大尉が………」

 

秀介の言葉に、大神は納得した。

力よりも何よりも、守りたいという強い愛情が不可欠。

それは、自分達も同じ事が言えた。

 

「実はこの話………、前にあやめさんから、ここで聞いたんです」

 

「あやめさんから………?」

 

「はい。それで決めました。兄が愛したように、僕もみんなを、この星を愛し守ると………」

 

そう言って、秀介は左腕のブレスレットを取り出した。

中央のプラズマオーブが、淡い光を放っている。

 

「このオーブに誓って、あやめさんは救い出して見せます。あやめさんは兄にとって、僕にとって、大切な人ですから………」

 

真っすぐに大神を見て、決意を口にする秀介。

すると、それを指し示すようにオーブの光が僅かに強まった。

それを見て、大神は秀介に告げた。

 

「秀介。君に一つ頼みたい事がある………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秀介と別れた後、大神は図書館で紅蘭の姿を見つけた。

 

「紅蘭、こんな所に一人でいたら風邪を引くぞ?」

 

「ううん……、ウチの事なんかどうでもええんや。それより、あやめはん………」

 

いつになく暗い表情で、紅蘭が言った。

その様子に、大神の表情も沈む。

 

「なあ大神はん。ウチ、あやめはんのお役に立ててたんやろか?」

 

ふと、紅蘭が尋ねた。

 

「マリアはんのように銃の名手でもなければ、カンナはんのように力もない。強いて言うなら、手先がちょっと器用なくらいや。………ホンマ言うたら、学校っちゅう所にも行った事ないしな」

 

それは、仕方のない事だった。

紅蘭は小さい頃に、戦争で国を追われ、日本に来た。

当時の日本には、まだ外国人の学校制度が確立していなかったため、紅蘭は学校に通う事が出来なかったのだ。

 

「そんなウチを、あやめはんは拾ってくれた。勉強もさせてくれたんや」

 

だからこそ日本語を学ぶ事が出来たし、機械についての教養も身についた。

紅蘭にとってあやめは、育ての親とも言うべき存在だった。

 

「あやめはんは、ウチの大事なお人や。それなのに………」

 

その時、紅蘭の瞳から、涙がこぼれ落ちた。

 

「ウチ、あやめはんにきちんとした御礼も出来てへんのに………」

 

「紅蘭………」

 

大神は紅蘭の涙をそっと拭いた。

 

「まだ諦めるのは早いだろ? あやめさんは、俺達が助ければいいんだ。そうすれば、御礼も出来るだろう?」

 

「うん………そうやね。諦めたら、全てが終わってまう。ウチ一人やったら何もでけへんけど、あやめはんを助けたあ気持ちだけは、誰にも負けんつもりや」

 

御礼が出来てないなら、助けて御礼をすればいい。

大神の言葉に、紅蘭は笑顔を取り戻した。

 

「せやから大神はん。ウチの事、手伝ってくれるか?」

 

「もちろんだ。みんなであやめさんを助けに行こうな」

 

真剣な眼差しで尋ねる紅蘭に、大神も力強い返事を返した。

 

「おおきにやで、大神はん」

 

「ほら、紅蘭、笑って。そんな顔してたら、あやめさんに笑われるぞ?」

 

まだ笑顔に陰りの残る紅蘭に、優しく大神が笑いかける。

すると、紅蘭が思い出したように言った。

 

「おかしい時に笑えへんのは、心が弱ってる証拠なんやて。あやめはんが言うてはった」

 

でも、今は笑える。

それは、心を強くしてくれる人が、目の前にいるからだった。

 

「ウチ、大丈夫やと思う。自分の足で立てると思う。せやけど………」

 

すると、紅蘭は僅かに赤い顔をして尋ねた。

 

「ウチがまたくじけそうになったら………ちゃんと支えてくれる?」

 

「紅蘭、そんな事………聞かなくても分かってるだろう?俺達はずっと一緒だ」

 

そう言って、大神は紅蘭を後ろから包み込むように抱きしめた。

 

「うん………おおきにやで。それが嘘やとしても………、ウチ、嬉しいわ………」

 

大神に体を預け、紅蘭が応える。

距離が無くなった背中に、鼓動が聞こえてくる。

 

「嘘じゃない。俺は嘘なんか言わない。この気持ちに嘘なんて………」

 

「で、でも………ウチなんか、機械いじりしか能があらへんし、女としての魅力もあらへんし………」

 

紅蘭は、自分に魅力がないというコンプレックスがあった。

四六時中、口をついて出て来る言葉は機械の事ばかり。

そんな女に、誰が振り向くだろう。

加えて、帝劇には沢山の美女がいる。

そんな人達の中にいて、自分はどの位置にいるのか。

答えは考えなくても分かっている。

だから信じられなかった。

大神が他の誰でもなく、自分を選んだ事に。

しかし、大神はハッキリと告げた。

 

「そんな事はない。紅蘭には夢があるじゃないか。誰にも真似のできない夢が」

 

「え………そんな………、大神はん、覚えてくれてはったん?」

 

驚きのあまり、紅蘭は顔を動かして大神の顔を見た。

その顔が林檎のように真っ赤な事に、果たして紅蘭は気づいているのだろうか。

 

「当たり前だろう。紅蘭が俺に教えてくれた夢………、忘れる訳ないよ」

 

「大神はん………」

 

紅蘭は嬉しさのあまり、大神の腕を下から包むように抱きしめた。

 

「君を見てると、夢というのは必ず叶うものだと、そう信じられるんだ。」

 

それから、大神は紅蘭の耳元でそっと囁いた。

 

「なあ、紅蘭………あやめさんを助けに行こう」

 

「うん………」

 

「そして、紅蘭の夢を叶えるんだ。空を飛ぶ夢を………」

 

「うん………」

 

「初飛行には、俺も乗せてくれるんだろ?」

 

「うん………。ウチ、大神はんと飛べたら、どないに………」

 

紅蘭の目に、再び涙が浮かんだ。

だが、それは悲しみによるものではなかった。

 

「ありがとう。一緒に頑張ろうな」

 

そう言うと、紅蘭が静かに笑った。

 

「クスッ、不思議やな………。こうしてると、ウチ、ホンマに落ち着く。何でやろな………」

 

口ではそう言うが、紅蘭はその理由を知りすぎる程に知っていた。

 

「大神はん………もうちょっと、このままで………」

 

「………ああ」

 

大神は、紅蘭を包む腕に少しだけ力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、秀介は二階のテラスに来ていた。

あの後大神からさくらを頼まれた秀介は、彼女が普段からよく顔を見せる此処に足を運んだのだ。

 

「あ………秀介さん………」

 

案の定、そこにいたさくらは、秀介に気づいて声をかけて来た。

 

「やっぱり此処にいたんですね。………寒くはありませんか?」

 

優しく尋ねる秀介。

すると、さくらは首を横に振った。

 

「いいえ、冬の寒さは好きです。身が引き締まる感じがするので………」

 

「そうですか………。なら、いいのですが………」

 

すると、さくらが突然話題を変えてきた。

 

「実はあたし、あやめさんに憧れていました。いつか、あやめさんみたいになれたらって、そう思ってました………」

 

「そう………だったんですか………」

 

確かにあやめは、全てにおいて非の打ち所がない完璧な才女だった。

そんな女性に憧れるのは、ある意味当然であった。

 

「なのに………、なのに、戦わないといけないなんて………、こんなの酷すぎます………!!」

 

桜色の袴の袂を握りしめ、さくらが言った。

その様子は、悲しみを必死に堪えようとしているように見える。

 

「さくらさん………。そんなに思い詰めないで下さい………」

 

秀介は、優しくさくらに語りかけた。

 

「僕らはあやめさんを助けに行くんです。戦う訳ではありません」

 

「でも………」

 

あの殺女の姿が焼き付いて離れないのか、さくらは尚も言おうとする。

秀介はそれを遮って続けた。

 

「信じましょう、さくらさん。あやめさんは、きっと助けられると」

 

「秀介さん………」

 

そっとさくらの右手を両手で包み込む。

冬の冷たい空気に当たっていたせいか、さくらの手は冷たかった。

 

「秀介さん………!!」

 

その時だった。

さくらが急に思い詰めたように、秀介に抱き着いたのだ。

 

「さ、さくらさん………!?」

 

突然の事に驚く秀介。

すると、さくらが秀介の胸に顔を埋めて続けた。

 

「あたし、あやめさんがいなくなった時、凄く怖い思いがしました………。心に穴が空いて、そこから冷たい風が吹いて来て………。寒くて、寂しくなるんです………」

 

「さくらさん………」

 

さくらの背中に、秀介はそっと手を回した。

その背中が小刻みに震えているのは、果たして寒さのせいだろうか。

 

「そして、ふと思ったんです………。もし秀介さんまでいなくなったら………どうしようって………」

 

「さくらさん………」

 

「分かってます………。でも………でも、怖くてたまらないんです………」

 

震える声に、嗚咽が混ざる。

ずっと側にいなければ、二度と会えなくなるような喪失感と、一人取り残される孤独感。

この二つの不安が、さくらの心の穴を広げ、大きなものにしているのだ。

 

「安心して下さい………。僕は、貴女を置いて行くような事はしません」

 

そう優しく囁きかけ、秀介はさくらの手を片方取った。

 

「ほら………、僕の手の温もりが伝わるのが、分かるでしょう?」

 

「はい………」

 

「この温もりがある限り、僕は貴女の側にいます。絶対に」

 

体を離してさくらと顔を合わせ、秀介が言った。

さくらと離れ離れになる………。

それは、秀介にとっても恐ろしい事だった。

 

「何も心配はありません。さくらさん………、貴女の笑顔がある限り、絶対に……」

 

「秀介さん………」

 

いつもと違う、さくらにしか見せない微笑みと、真摯な眼差し。

さくらは、心に空いた穴が急速に閉じていくのを感じた。

 

「あたし………、また冬の寒さが好きになりました………」

 

「………何故です?」

 

秀介が尋ねると、さくらは頬を赤く染めて答えた。

 

「だって………、貴方の温もりを感じられるから………」

 

「さくらさん………」

 

その仄かな微笑みに愛おしさを感じ、秀介はさくらをもう一度抱きしめた。

 

「さくらさん………。愛しています」

 

「あたしも………、大好きです。秀介さん………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海は一段と勢いを増し、唸りを上げていた。

まるで、これから蘇るであろう殺戮の要塞に怯えるかの如く。

 

「殺女、聖魔城の復活には、まだいくばくかの時が必要だ。その間、奴らの注意を引け」

 

「はっ!」

 

叉丹の命令に不敵な笑顔で応える殺女。

魔神器があるとはいえ、叉丹の力でも聖魔城の復活は小一時間程かかる。

万全を期すためにも、もう一度花組に接触し、こちらに来ないよう手を打つ必要があった。

しかし、ここで一人異を唱える者がいた。

三騎士最後の一人、蝶である。

 

「お待ち下さい。殺女はまだ完全な力が戻らぬ故、確実さにかけます」

 

一見気遣うような言葉遣いだが、そんな慈愛など降魔が持つはずもない。

蝶は、自らを復活させてくれた叉丹に忠誠と共に愛までも誓った。

その蝶にとって、新参者の殺女が優遇されるのは面白くない。

そこで、一つでも多く手柄を取ろうと考えたのだ。

 

「その任務、是非ともこの蝶に」

 

「ふっ、よかろう。好きにしろ………」

 

意外にも、叉丹はあっさり了承した。

 

「ありがたき幸せ」

 

蝶がそう言った時、殺女が蝶を横目に見て笑った。

 

「何を笑う!?」

 

「いいえ、別に………。貴方のお手並み、拝見させて貰うわ」

 

睨み返す蝶に悪びれもせず、殺女は返した。

 

いくら蝶が愛していようと、叉丹にとって蝶は、いや、三騎士すら、己の野望のための駒に過ぎない。

故に蝶は、叉丹に捨て駒にされたも同然なのだ。

殺女は、その滑稽さに笑っていたのだ。

 

「叉丹様と共に野望を果たすのは、このアタシ。貴様の好きにはさせないわ!」

 

そんな事など夢にも思わない蝶は、嫉妬の炎を燃やしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間、花組は休息もそこそこに作戦司令室に揃っていた。

 

「みんなに集まってもらったのは、他でもない。魔神器が奪われた今、俺の恐れていた事が、現実になるかも知れん」

 

「どういう事ですか?」

 

大体の予想はついているが、大神は敢えて尋ねた。

 

「聖魔城の復活だ………」

 

「聖魔城?一体何です?」

 

秀介が聞き返す中、大神はやはりと心の中で呟いた。

すると、米田はある言葉を口にした。

 

「赤き月の夜、封印解かれし時、降魔の聖域、蘇らん。聖域には破滅の神機ありき。その神機、裁きの光をもって、地上を灰塵に帰さん。………『放神記書伝』の一文だ」

 

「それって、大神さんが読んでいた本ですか?」

 

「ああ。魔神器と共に、この帝都で最も尊き御方の元に、代々伝えられた予言書だ」

 

数々の降魔に関する書籍が消える中、この放神記書伝だけが残っていた理由。

それは、この書物もまた魔神器同様に、帝都の宝物だったからだ。

流石の賢人機関も、帝都の宝物には手出しが出来なかったのだろう。

 

「聖魔城が事実だとしたら………地上を灰塵に帰すという、破滅の神機とは………」

 

「恐らくは、太古より伝わる霊子砲の事だろう」

 

「霊子砲!? それが裁きの光を………!?」

 

霊子砲………。

それは、伝説にのみその名を残す兵器の名前だ。

その光は、天空を切り裂き、大地を消す程の力があると言われる。

正に、悪夢の兵器だった。

 

「そうだ。四百年前の戦いの再現だ。封印されし幻の大地、『大和』が浮上しようとしているんだ」

 

四百年前、人々は力を合わせ、降魔と聖魔城を海底に沈め、悪夢を振り払った。

その戦いが、今また蘇ろうとしていた。

 

「もはや時間はない! 一刻も早く東京湾に向かい、聖魔城復活を阻止するのだ!」

 

魔神器が叉丹の手に渡った今、その悪夢が蘇るのは時間の問題だ。

だが、それを妨害する者がいた。

 

「はっ!」

 

「な、何や!?」

 

「まさか………!」

 

突然作戦司令室を凄まじい衝撃が襲った。

しかし花組は、その直後に聞こえて来る声に、更なる衝撃を受ける事になる。

 

 

「その汚い小屋から出て来なさい!帝都の犬共!!」

 

 

「こ、この声は………!」

 

「あやめさん………!?」

 

誰もが信じられない様子でその場に立ち尽くした。

あの優しい声を、聞き違えるはずはない。

あやめは再び帝劇に現れたのだ。

叉丹のしもべ、殺女として………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帝都、銀座某所。

建物が建ち並ぶそこに、雷鳴と共に二つの飛行物体が現れたのは、突然の事だった。

飛行物体は空を舞い、次々と建物に電撃を浴びせ、破壊していく。

たちまち銀座のあちこちから上がる火の手。

その中の一つに、蝶の姿はあった。

 

「叉丹様の望みは、全ての破壊、全ての死。その望みはアタシが………」

 

その笑いを助長するかのように、揺らめく炎が蝶の牡丹の描かれたローブを照らす。

その時、別の声が飛び込んだ。

 

 

「そうはさせません!!」

 

 

その声とともに、流光が飛行物体を霊力弾で打ち落とした。

その下には、七機の神武が立っている。

 

 

「帝国華撃団、参上!!」

 

 

その時だ。

大神は、背後に蝶とは別の気配を感じ、振り向いた。

 

「あ、あやめさん………!!」

 

赤い月を背に立つその姿。

大神は今でもまだ信じられない。

 

「あやめさん!」

 

「ふふふ………、出て来たわね坊や」

 

大神は必死に呼びかけるが、殺女は冷たい笑いで大神を見下ろした。

 

「あやめさん! 俺です! 大神です!!」

 

「あらあら、可愛い子ね。あやめは死んだのよ?」

 

言うや、殺女の掌から圧縮された妖気がぶち込まれた。

 

「うぐっ!」

 

「大神はん!!」

 

不意を突いた攻撃に反応出来ず、直撃を受けた大神は後ろにのけ反る。

そこに、紅蘭が思わず駆け寄った。

 

「そんなにあやめに会いたいなら、会わせてあげるわ。………地獄でね!!」

 

大神を嘲るように笑い、再び妖気を撃つ。

しかし、今度は秀介の操る流光が、それを阻止した。

 

「やはり、こいつらとつるんでただけあって、手緩いわね」

 

転移魔術で殺女の隣に立った蝶が、呆れた様子で言った。

 

「あら、貴方一人で殺れるの?大丈夫かしら?」

 

「くっ! 見てなさい!!」

 

挑発に挑発で返された蝶は、妖気を集中させて降魔を呼び出した。

 

「皆殺しにして叉丹様にご報告を!」

 

「ふふふ………、最高の舞台が始まりそうね………」

 

蝶を小馬鹿にしたように笑うと、殺女も転移魔術でその場を後にした。

 

「あやめさんっ!!」

 

「隊長、今はあの降魔達を倒す方が先です!」

 

思わず叫ぶ大神を、秀介が制止した。

既に周りにはかなりの数の降魔が犇めいている。

まずはこれらを殲滅し、銀座の街を守らなければならなかった。

 

「………分かった。みんな、降魔達を撃破して、あやめさんを助け出すぞっ!」

 

「「了解!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見てなさい、殺女! 叉丹様と共に野望を果たすのは、アタシなのよ!! 来なさい、『紫電不動』! エレキング!」

 

そう叫ぶと、蝶を中心に巨大な魔装機兵『紫電不動』が現れた。

すると、それまで空を飛んでいた飛行物体が、紫電不動に合体した。

飛行物体は、紫電不動の腕だったのである。

更に、銀座の川から白黒の怪獣が現れた。

蝶の操る電気怪獣、エレキングである。

 

「隊長、怪獣は僕が相手をします!」

 

「分かった! 秀介は怪獣を、俺達は魔装機兵を撃破する! みんな、行くぞっ!!」

 

「「了解!」」

 

その返事と共に、秀介は一連の動作でブレスレットのオーブを発光させ、叫んだ。

 

 

 

 

 

 

 

「ジャーーーーーック!!」

 

 

 

 

 

 

 

「シュワッ!!」

 

ジャックは変身するや否や、エレキングにドロップキックを浴びせた。

 

「ガーッ!」

 

「ヘッ………!?」

 

しかし敵も甘い相手ではなく、ジャックの足を掴み、後ろへ投げ返した。

 

「ガーッ!」

 

更にエレキングは、尻尾をジャックの足に巻き付けた。

途端に、5000万ボルトの凄まじい電流がジャックを襲う。

 

「ァアッ!!」

 

全身が川の水で濡れている事もあり、ジャックは全身にダメージを受ける。

電気を操る怪獣を相手に、水場は最悪の戦闘場所だった。

 

「ヘッ………!」

 

電気を喰らって傷付いた体に鞭を打ち、ブレスレットを光の刃にして放った。

刃は寸分狂わず、エレキングの尻尾を切り落とす。

ジャックはその隙に、尻尾を外して立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャックがエレキングに苦戦している頃、花組もまた、紫電不動相手に厳しい戦いを強いられていた。

何せ蝶は両腕を外して独立行動させ、こちらの攻撃に応じて援護攻撃させているからだ。

猪や鹿も強敵だったが、この蝶もかなり腕が立つ。

花組は改めて、降魔の強さを知った。

 

「(くそっ、ここで手間取っていてはあやめさんが………!)」

 

自分達はこんな所で油を売っている暇はない。

一刻も早くあやめと魔神器を叉丹から奪い返し、聖魔城復活を阻止しなければならないのだ。

焦って気ばかりがはやる。

しかし、意外な事に蝶もまた、別の意味で焦りを感じていた。

 

「チッ、しぶとい奴らね………!!」

 

紫電不動の圧倒的攻撃力は、さしもの神武も霞んでしまう程。

だが、いくら攻撃を仕掛けても、花組は得意のチームワークで簡単にそれをかわして行く。

つまり、攻勢に出ているのはこちらだが、優勢とは決して言えなかった。

 

「(冗談じゃないわ!アタシは叉丹様の最も信頼する降魔なのよ!)」

 

叉丹を深く崇拝する自分が、叉丹の邪魔をする輩を即座に殺せない。

その事実は、蝶のプライドをズタズタにするには十分だった。

 

「遊びはここまでよ! 降魔紫電の奥義………雷舞・電子牡丹!!」

 

凄まじい雷鳴が轟いた。

刹那、花組を強烈な電撃が襲う。

 

「ぐっ………」

 

電撃のショックに耐えながら、反撃しようと二刀を構える大神。

しかし、ここで不思議な事が起こった。

 

「これは………、神武が動かない!?」

 

見ると自分だけではない。

他の隊員達の神武も、同様に動きがマヒしていた。

 

「大神はん、今の攻撃で霊子水晶がやられてもうとる! 簡単には動かへんで………!」

 

「何っ!?」

 

昼の鹿との戦いといい、花組はまたしてもピンチに陥ってしまった。

 

 

 

 

 

 

「ガーッ!!」

 

尻尾を斬られた事に腹をたてたのか、エレキングはジャック目掛けて頭から突っ込んで来た。

しかし、ジャックは難無くその頭を掴んで首投げをキメる。

 

「ヘアァッ!」

 

仰向けに倒れるエレキングに追い撃ちをかけるべく、馬乗りになった。

 

「ガーッ!!」

 

だが、エレキングはジャックに向かって、今度は口から怪光線を放って来た。

 

「ァアッ!?」

 

思わぬ反撃に倒れるジャック。

すると、その胸のカラータイマーが、赤く点滅を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっはっはっは! どう、帝国華撃団! なぶり殺される気持ちは!!」

 

両腕から電撃を浴びせ、蝶が得意そうに笑った。

 

「アタシこそ、叉丹様に相応しい最高のパートナーなのよ! ほら、貴方もそうおっしゃい」

 

そう言って大神に肯定を強要する蝶。

しかし、大神にはそれを肯定するしない以前に、どうしても気になる事があった。

 

「………お前、男なんだろ? なのに最高のパートナーって………」

 

「た、確かに………。でも、体が男でも、心は女よ! これだって立派な乙女心じゃないの!」

 

痛い所を突かれ、蝶は慌てて弁解した。

言葉遣いこそ女だが、無理な裏声を使っている辺りから、女でない事は一目瞭然だ。

そこに、通信を使って米田が蝶に一喝した。

 

「何言ってやがる! お前も男なら中途半端な事はするな! 身も心も女になってから叉丹とやらに告白しろ!そんな事も出来ねぇで、御託ばかり並べるんじゃねぇ!!」

 

実に最もな事を言う米田。

すると、蝶の口から意外な言葉が出た。

 

「まあ………! 何て素敵なお方………」

 

「いいっ!?」

 

大神のみならず、その場にいた全員が背中に寒気を感じる。

まさか米田まで蝶のタイプに入るとは思わなかったからだ。

 

「まさか………、これが愛の力なのか………?」

 

先程までと一転して沈黙してしまった蝶を見て、大神がボソッと呟く。

すると、米田が珍しく慌てた口調で反応した。

 

「じ、冗談じゃねぇ! 大神、早いとこあの降魔を片付けちまってくれ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘッ………!!」

 

立ち上がるジャックに、エレキングが再び怪光線を放った。

ジャックはそれを見て、左手首のブレスレットを盾に変化させて凌ぐ。

そして右手を立て、その上に横から左手を被せた。

フォッグビーム………霧状の冷凍光線を発射し、敵の動きを鈍らせる牽制技だ。

冷凍光線は、エレキングの顔面を直撃した。

 

「ガーッ!!」

 

顔面を押さえて怯むエレキング。

そこに、渾身のスペシウム光線が撃ち込まれた。

 

「ガーッ!?」

 

スペシウムを胸に受けたエレキングは、そのまま仰向けに倒れ、大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、花組もまた逆転に転じていた。

それは、アイリスだった。

 

「みんな、行くよ~! イリス・ジャルダン!!」

 

アイリスの黄色い神武から七体のジャンポールが現れ、大神達を光に包む。

すると、見る見る内に神武のダメージが消え、神武は元の動きを取り戻した。

 

「なっ!? ど、どういう事なの!? アタシの電撃を受けて動けるはずが………!!」

 

驚きの声を上げる蝶に、アイリスは胸を張って答えた。

 

「だってアイリステレポートで逃げてたも~ん!」

 

蝶が攻撃を仕掛けて来た一瞬、アイリスは得意のテレポートでそれをかわしていたのだ。

エレキングもジャックに倒され、蝶は完全に不利な状況に陥っていた。

 

「このガキ………!! 超ムカつく~!!」

 

叉丹のパートナーであるはずの自分がこんな10歳程度の人間の子供に出し抜かれた事が勘に障り、紫電不動の両腕がバチバチと火花を散らす。

しかし、二度も窮地に陥るような花組ではなかった。

 

「そこっ!」

 

電撃から解放されたマリアの銃が火を噴いた。

凍てつく一撃で、紫電不動の動きが止まる。

そこに、大神が果敢に切り込んだ。

 

「狼虎滅却……… 無双天威!!」

 

緑色の二つの稲妻がほとばしり、紫電不動を十字に切り裂く。

 

「帝都は俺達が守る! 蝶、貴様の負けだ!!」

 

「いや………いや………、叉丹様アアアァァァ………!!」

 

断末魔の叫びと共に、紫電不動は木っ端みじんに吹き飛んだ。

 

「そうだ、あやめさんは!?」

 

蝶の死を確認して、大神は辺りを見渡す。

すると、夜空を飛び去る黒い影が見えた。

 

「あやめさん!!」

 

それに気づいた大神が叫ぶ。

しかし、影はそれに応える事なく、空を舞い、見えなくなってしまった。

 

「あやめさーん!!」

 

大神の悲痛な叫びが、冷たい冬の夜空に木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、東京湾では聖魔城復活の準備が最終段階に入っていた。

 

「よし、いよいよだ………」

 

聖魔城の中心に位置する場所に魔神器を浮かべ、叉丹は妖気を集中させた。

 

「はああっ!」

 

まがまがしい妖気の一撃が叉丹の諸手から放たれ、海上に浮かぶ魔神器を一直線に狙い撃った。

叉丹の集中させた妖気が、魔神器の力によって何百倍にも増幅される。

 

「蘇れ! 失われし聖なる都よ!!」

 

叉丹が叫ぶと同時に、海が高い波をあげ、魔神器を中心に何かが姿を現した。

 

「おお………!! 遂に………、遂に………!!」

 

叉丹が感極まった表情で目を見開いた。

東京湾にそびえ立つ漆黒の大地。

そして、その中心に見える魔の城。

四百年前に封印された大地『大和』と、殺戮の要塞『聖魔城』が、遂に復活したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あれ………!」

 

日の出と共に見えた巨大な影を、怯えた様子でアイリスが指差した。

 

「どわあああっ!! な、何なんだありゃ!?」

 

「もしかして、聖魔城………!?」

 

それを見て、カンナやすみれも驚きの声を上げる。

東京湾を埋め尽くし、帝都とタメを張れる程の巨大な魔城。

そこから溢れ出る醜悪な妖気。

正に悪夢の城が、帝都をその影に包んでいた。

 

「まさか、蝶はそのための時間稼ぎ………!!」

 

秀介の言葉が、全てを意味していた。

叉丹は聖魔城復活のため、実に周到な罠で自分達の注意を逸らしていたのである。

 

「見るがいい、愚かな人間共!」

 

失われし大地に足を着き、叉丹が叫んだ。

 

「貴様らの時代は終わった。この霊子砲を以って、全てを無に還してくれる! 新しい帝都は、この大和にあり!」

 

同時に四方八方に妖気の波動が撃ち込まれ、帝都は瞬く間に炎に包まれる。

 

「フハハハハ………! アーッハッハッハッハ………!!」

 

燃え盛る帝都に、叉丹の高らかな勝利の笑い声が響き渡った。

夜が明けて尚悪夢に苛まれる帝都を、嘲笑うかのように………。

 

<続く>




《次回予告》

遂に、最後の決戦が訪れた。

この星で出会った喜びや悲しみ。

そして、愛。

帝都の全ての人々のため、みんなのため、そして愛しい貴女のために、僕は帝都を守り抜いて見せる!

次回、サクラ大戦!

《桜舞う星・前編》

大正桜にロマンの嵐!

帝国華撃団花組、ここに参上!!

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