ループなハイスクール。二番煎じですね、はい。 作:あるく天然記念物
シーン1
突然だが、天使というのをご存じであろうか。
一般的に天使と言うのは、羽が生えて頭に輪っかのような物をぶら下げているの存在を指すのであろう。いやまぁ、実際に観た人間がいないだろうから断定はできないが。
ただ、もしその情報が本当で、実際にいるのであれば、目の前にいる彼女がそうなのかもしれない。認めたくはないが。
学校帰り、俺は見たい番組があるため急ぎ足で家に帰る途中、空から女の子が降ってきた。
まさに「おやっさん、空から女の子が!」状態だ。
その女の子は振り向き、俺を見るとこう言ってきた。
「あなたには怨みはないけれど、ここで死んでもらうわ。怨むなら神を怨むのね」
一瞬風に包まれたかと思ったら、あろうことか、彼女の姿は変わっていて、ボンテージ姿の上に羽が生えていた。オマケに空まで飛んでやがる。これが世に言う天使なのであろうか? それにしては羽が黒すぎだな。格好といい、むしろ痴女の部類なのではないか? つーか頭に輪っかないし。これが天使だなんて思いたくないね。
「なんかムカつくこと考えてる気がするのは気のせいかしら? まあいいわ、それじゃあ───さよなら」
彼女は徐に両手を広げると、そこから光の矢的な物が───ってぇ投げたぁ! え? なに? 本当に天使だったの!? だとしたらなんかごめん。
俺は突然のことに動くことはできず、普通に矢が腹にぶっ刺さった。
アイタタタタタタタッ!!!?
何気にクソ痛い!!! …あぁ……なんか…………目の前がだんだん暗く…………………………
享年17歳 死亡原因 天使? による刺殺。
シーン2
気がつくと俺は赤ん坊になっていた。
おかしい。先ほどまであの天使っぽい痴女に殺されかけ……ってかむしろ殺されたはずである。死ぬ瞬間までの記憶も完全にある。思い出すとなんか少しムカつく。もういいや、あんな奴痴女で十分だ。二度と天使だと思うものか。そしてできればもう二度と会いたくない。お腹に大穴が開くのはもうイヤでござる。あれ見た目以上に痛かったのだから。
だが、そんな事を俺が気にしていたところでどうにかできるはずもなく、俺は前向きに捉え、前の人生では彼女ができなかったので今回は彼女を作るために、話術やナンパのスキルを上げる事とした。
子供の頃から女の子に積極的に話しかけ、女性と話す心得? の様な物を身につけていった。その努力もあり、なんと中学生の時に彼女ができました! やったね!
それからは彼女とイチャイチャしつつ、高校も二人同じところを合格した。
そんな調子で二年になったある日、俺は彼女と次のデートの場所を決めつつ家に帰宅していたら、目の前に再び痴女のような女性が現れた。てか本人が現れた。
え? ちょっ、おまっ!?
そのまま痴女は俺に向けて矢をぶん投げ、俺はあけっけなく死んだ。
おわた!! そして痛い!!
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン3
気がついたら再び赤ん坊に戻っていた。
ほんとにあの痴女は一体何なのだろうか。二回あった人生に置いて初めての彼女ができたというのにあっさり俺を殺しやがって。
って、そんなことより、もしかして俺は人生をループしているのではないだろうか?
一度目はなんとなく流して生きていたが、さすがに二回目となってくると無視できないぞ。
それに、もしそうなのであれば、このままだとどうしようもないくらい長い時を永久に過ごす羽目になってしまう。それは嫌だ。俺の目標は普通に結婚して子供に最後を看取ってもらうことなのだから。断じて痴女から看取ってもらうのではない。そんなもん末代までの恥だ。
そのためにも、どうやったら死なないですむのかを割と本気で考えることとした。
その結果、最初と前回とで同じ高校に行ったのがマズいという結論がでてきた。
そうだよ。なにもあんな痴女みたいな存在と二年生の時に出くわす高校に行かなきゃいいんだよ。
そう結論づけた俺は前の高校よりかなり遠くに位置する高校に進学するため、猛勉強に励むことした。
目指す高校が前の高校より偏差値が30も違うため、学力を徹底的に上げなければならなかったのだ。
なんで前回勉強しなかったんだろう。おかけで昼夜関係無しに勉強三昧だよコンチクシヨー!
小学生の時から英会話を学び、前世の記憶をいかして中学校も進学率が高い私立に入学、気がつけば学校で上位の成績がとれるようになっていた。
その調子で目標の高校も無事に受かり、あの痴女と出くわす高校から逃れることに成功した。
よかった。これであの矢っぽい何かに刺されることはなくなったぜ!
ルンルン気分で高校生活を謳歌して、二年生になったある日、見たい番組のために急ぎ足で帰宅していると、目の前に見たことがある女の子が空から──────って嘘だろ!? なんで痴女がこんな所に──ってやべぇ!! また投げ───あっ………
その後なんの変化もなく俺は痴女に殺された。
やっぱり痛たたたたた!!!
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン4
再び赤ん坊に戻っている俺。
もうあれなのであろうか、日本にいるからダメなのだろうか。
そう思い俺は前世の記憶で学力が高いことを生かし、高校は海外の方に留学する事にした。
留学して直ぐのある日、学校からホームステイ先の家に帰る途中にある公園でつなぎを着たいい男と遭遇した。どっかで見たことがあるような?
そのいい男は俺を見るとつなぎのジッパーを下げつつ一言。
「やらないか?」
ケツに嫌な刺激が走り、俺全速力で逃げ出した。
だが、捕まった。
ちょっ、やめっ、あああああああぁぁぁっ!!!
享年16歳 死亡原因 いい男による肛門裂傷。
シーン5
もうイヤ。人気のない公園はこりごりだ。今度からは逃げ足も鍛えることとしよう。二度とお尻の純潔をなくしてなるものか。服脱がされてケツにヤバいマグナムぶっ込まれたくない。
だが、ここまでくるとマジでどうしよう。
普通に進学したら痴女から矢っぽい何かで刺殺。かと言って違う高校に進学しても同じ痴女から殺される。そして日本がダメなら海外となるといい男から掘られる。コレ積んでね?
とりあえず目下の目標はあの痴女が放つ矢をどうにかする事だろう。
どうしていい男から逃れることじゃないのかって? あいつはダメだ。痴女以上に俺が会いたくないのだ。味方になってくれたら心強いと思うが、なるためには俺のケツを生け贄に捧げなければならないだろうし、そうしたら俺が死んでしまう。そして俺はノンケだ。断じておホモ達ではない。ゆえに却下だ。異論反論口答え文句等はいっさい認めん。
というわけで俺はあの矢を避けるためとついでにいい男から逃れるための脚を鍛えることにした。
そうと決まったら幼稚園の頃から走り込みだ。
来る日も来る日も俺は走った。
具体的には小中学校で陸上に所属して走りまくった。
個人的には長距離走が好みです。まあ目指すはオールランウダーだな。
陸上では特に走った後の清々しい気持ちになるのが最高です。
元々素養が無かったのか、あまりタイムが伸びず、中学総合大会では地区予選止まりだったが、思いの他速く走れるようになっていたので良しとしよう。
高校は最初の時と同じ高校に進学し、ついに迎えた二年生の時。
俺の目の前には三回目となる痴女がいる。
そして例に漏れず痴女は俺を殺そうと矢を展開しだした。
ふふふっ、だがしかし、今回はうまく行くかな?
見よ! これが10年間走りつづけた男の瞬足だーー!!
ぶん投げられた矢を俺の瞬足で避けてみせる!!
ウォオオオオオーーー!!
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン6
無理でした!!
あの矢速すぎ、わろた。
やべぇよ、マジで速すぎたんですけど。こっちが避けようと思ったら既に腹に穴が開いていたんですけど!?
たかだか10年走った程度でどうにかなる訳なかった。
ダメだ、ダメだ。こんな速さじゃ足りない。まだ速さが必要だ。ここはとにかく走りまくるぜ!
そして再び走り込み、迎えた高校二年生の日
前回含めると20年の努力だ。
今度の脚力はどうだぁー!
ウォオオオオオーーー!! よし! よけれっ………
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン7
痛い。普通に避けれたと思ったら腕がかすって右半身持っていかれたぞ。どんな威力してんだよ。
土手っ腹に大穴空けるだけの威力じゃないのかよ。触れただけで吹っ飛ぶなんてあり得ないだろぉ。
おかげで直ぐには死ねず結構な時間激痛にさいなまれたぞ。
しかし、前回は前々回と比べて脚の速さが上がった気がする。
前々回では避ける以前に腹に大穴が開いていたが、前回はかするまでに成長していた。
結果は死んでしまったが、そこは置いておこう。
そう言えば、前回は陸上の大会でも地区予選は突破して、全国には届かなかったが、中央大会で好成績を残せていた。
これはもしかして、肉体はご覧の通り赤ん坊レベルまでリセットされるが、伸びしろ等の成長的要素は上がるのではないか?
スタートは一緒だったが、高校入学したときのタイムが違った気がする。
そう意気込み練習に励んだ。すると、中学三年の大会で、まさかの全国大会の地に立つことができた。
やったぁ!! 苦節色々含めて30年の苦労が報われた。こりゃ、最終目標はオリンピックだな。
よっしゃ、今日も陸上の練習だぜ! ん? あの女の子どっかで────
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン8
やっちまったぜ。完全に目標履き違えでいたわ。何が目標はオリンピックだな、だよ。あの痴女の矢をどうにかしないと、俺には明日は無いというのに。しかも前回は浮かれまくってろくに避けることもできなかったぞ。
よし、目標はあの痴女が投げる矢を避けることにして、今回も走って走って走りまくるぜ! そして、避けるために瞬発力としてスタートダッシュの練習を重点的だ。
練習の成果もあり、とうとう俺は中学の全国大会で優秀な成績を残すことができた。
やったぜ! しかもオリンピック育成選手を育てている高校からオファーまで貰っちゃった。
こりゃ目指すはオリンピック出じょ───あれ? なんか忘れてね? ん? あの女の子どっかで─────あ゙……………
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン9
だから目標はき違えるなって言っただろうが、バカか俺は。
もう今回は間違えないぞ。
今回も走り込み、とうとう陸上で中学ではあったが、全国一位になってしまった。そりゃ今まで含めたら50年、つまり半世紀の間走ってることになるから当たり前だな。
そして迎える高校二年生の日。進学した高校は目標を忘れてしまうので最初と一緒だ。オリンピックは大学で目指すことにする。
学校帰り、何かしらの気配を感じる。
この気配、奴か。
目の前に痴女が降り立つ。
そして痴女は俺に向けて矢を打ち出してきた。だが、
ふっ、見切ったぁ!!
俺はその矢を軽やかに避ける。
凄い。自分の体がまるで羽のようだ。最初反応出来なかった時とは大違いだぜ。
よし、このまま逃走─────────え゙?
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン10
に、二撃目………まさかの二撃目……だとぉ………。
マジかよ。一回避けただけじゃダメなの? どないせいっちゅうねん。
とりあえずここは気合いでどうにかしてみせる!!
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン11
やっぱ気合いじゃ無理だわ。
来て避けて、目の前にあったわ。あれ避けるのFFのア○イドでも無理だ。
そして報告するのであれば、俺は陸上では化け物になりかけている。この前本気で走ったらボルト超えていた。専門種目長距離なのに。そして専門種目に至ってはマラソンで2時間フラットを叩き出してた。もうあれだね、人超えかけてるね。
こうなったらとことんまで瞬発力を鍛えたら上手くいくんじゃないか?
というわけで今回は瞬発力をとにかく鍛えた。
そうして迎える決戦の日。
ふ、ふふふっ、今ならどんな攻撃でも避けてやんよ!!
打ち出された矢を華麗に避け、続く二射目を紙一重で避けきる。
来たコレ!! これなら三射目があろうと避けれる!
すると不意に痴女からの攻撃が止まった。
今だ! ここから一気にスタートダッシュを─────ファッ!!!!?
享年17歳 死亡原因 痴女による惨殺。
シーン12
三射目なら避けれたよ。だけどさぁ、まさか……まさかの乱射は無理だよ!
もうほんとにどうしたいいんだよ。
避けて一気に逃げようとしたら目の前が矢の雨だったぞ。
一般人にする攻撃じゃない気がするぞ。てかしないだろ。あっ、俺人間辞めかけてたわ。
だとしても、いよいよ後が無くなってきた。
やはりあれか? 逃げるのを前提にしているからダメなのか? そう言えば、全国大会に行くことになったときコーチから「負けると思うな。無理だと思うな。時には無謀なことに挑戦しないと壁はいつまでたっても超えられないぞ。やるからには全力で勝ちに行け!」って言っていた。
仕方ない、ここは勝ちに行くぞ。
って、決めたはいいが、問題が山積みである。
この俺、格闘技という物をやったことがないのだ。というか、そもそも戦い方なんぞ知らんぞ。最後に喧嘩したのだて、最初の人生の小学校低学年の時だぜ?
まあとにかく、目下一番の課題としては、戦い方だな。
まずは自分の持っている武器について考えてみる。
とりあえず浮かんでくるのが、これまで鍛えるに鍛え上げた健脚だ。
この健脚こそ俺の大半の人生の集大成と言っても過言ではないだろう。
その健脚を最大限に活用するには、やはり足技しかないだろうな。
だが、格闘技で足技を使う人なんてあんまりいなぞ、キックボクシングならとにかく。アニメキャラだって手を使うのが一般的だ。
俺が知っているのだって、ワンピースのサンジとか北斗の拳のシュウぐらいしか……って、意外と知ってたわ。てかむしろ、この二人強キャラやん。この二人を目標にしたら痴女ごときどうにかできんじゃね?
と言うわけで、新たな目標を掲げた俺は鍛錬を始めることにした。
しかし、問題は山積みだ。俺には南斗聖拳の心得も無ければ、ゼフみたいな師匠もいないのだ。
まあそこのところで悩んだところでしんてんしないし、取り合えずば蹴ることを極めるか。
修行と言えば山だと思い、山に向かった。
歩くこと数分、山に到着した俺は早速蹴りの修行を始めた。足場が若干昨日の雨でぬかるんでいるが大丈夫だろ。
せい! せい! せい! せい───ツルっ──あ……
享年12歳 死亡原因 足を滑らせて崖から転落死。
シーン13
ダサい。果てしないほどにダサい死に方をした。
もうやだ、鬱だ。何もしたくない。
それからやる気がでずに家に引きこもった。
するとどこからともなくドロッとした物が俺の頭上に現れて─────
享年17歳 死亡原因 ドロッとした何かに飲み込まれて。
シーン14
果たして一体あのドロッとした物は何だったのだろうか?
思い出そうとするが、何故か体が震え出す。やっぱり思い出すのは止めておこう。なんか後が怖い。
さてと、これで現状はこれで最悪な状況になったというわけだ。
このまま何もしなければ痴女に殺され、それを回避するために海外に逃げたらいい男に掘られる。そして最悪なことに全てを投げ出して家に籠もったらドロッとした何かに殺される。
もはや俺の人生がハードモードに思えて仕方ない。
しかしめげるわけにはいかない。前回はあまりの格好悪さに自己嫌悪して弛んだが、俺は望んだ最後のために行動しなくては!
それから陸上の練習と平行して戦闘訓練を行った。と言っても、近所にあるキックボクシングのジムに通うことにした程度だけど。
しかし、ここで更なる問題が発生した。
別にジムに行く前に殺されたわけではない。では何が問題なのか、それは、ジムの人間より俺が強かったことなのだ。
どれほどかというと、見よう見まねで使ったローキック一発でジムにいる選手みんなをKOしてしまった。
そのせいで選手みんなの精神を真っ二つにしてしまった俺は見事キックボクシングのジムをたたませることに成功した。
…………………いやいやいや!!
なんで!? なんで蹴り一発でみんな倒しちゃってるのよ! つーか俺の脚どうなってんだよ!
まあともかく、ローキックは使えることが分かったので、それを自信に再び痴女に挑むことにした。
もはや数えることが面倒になってくるほどに殺された痴女。
今日こそはこの日を突破してみせる!
間髪入れずに放たれる一撃目を華麗に避け、続く二撃目を巧みに避ける。そして乱撃に入る為の段階で俺は痴女に接近する。
ふ、知っているか? 足ってのはなぁ、腕の三倍の力があるんだぜ?
後少しで痴女のもとにつくといったところで、最大の失態に気づく。
痴女飛んでるやん………。そして俺地上やん…………。
だが、止まる訳にはいかない。
俺は決死の覚悟で脚に力を込め、ジャンプした。
届くはずは無いと思っていたそのジャンプは軽く痴女を飛び越して────え?
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン15
あ、ありのままに今起こった事を話すぜ。俺は届かないと思いつつも、このまま何もしないで痴女殺されるのは嫌だと思って思い切りジャンプしたんだ。そしたらそのジャンプが、あろう事か痴女を軽く飛び越していたんだ。肉体チートとか隠された潜在能力解放とか、そんなちゃちなもんじゃねぇ。もっと恐ろしい物の片鱗を味わったぜ。
とまあポルナレフになってみたものの、俺も何が起こったのかいまいち理解できていない。
あっれー? おかしいな、普通の人間は少なくとも5メートルなんて飛べないよな…………なんで?
今思うと明らかにおかしすぎる。
ひょっとしたらこの体は思っていた以上に化け物になりかけてないか?
とりあえず俺は現状を確かめるため、近所の山に行くことにした。前の経験からカラッカラに晴れた日に。
よし、周囲に人がいない事を確認した俺は早速確認作業を始める。
先ずは軽く準備運動をして体を温めた後、本日の目的でもある確認のため、本気の蹴りを素振り感覚で行う。
ぶぉん! といい音を響かせ、近くにあった木を揺らせた────あれ? 揺らせた?
ここで普通の人ならどこがおかしいかすぐにわかるだろう。普通の一般人なら、本気の蹴りとは言えやったとしても木を揺らすことなどあり得ないのだ。まあ確かに小さい木ならあり得るかもしれないが、俺が揺らした木は軽く10メートルはある大きな木だ。いや、もはや樹である。そしてさらにおかしいのが、俺が直接蹴ったわけでも無いのに揺れてしまったことだ。
俺も何かの間違いだと思い、もう一度蹴りを放つ。すると、先ほど同じように樹は振動し、揺れた。
おいおいおいおいお………こりゃマジだぜ。魔法とか念動力とか、そんなチャチなもんじゃねぇ。正真正銘俺の脚力だけで揺らしてやがる。
これなら直で蹴ったらどんな事になるんだろうか。
……………………………………………………せーのッ!
高まる好奇心には逆らえず、俺は樹に向けて本気の蹴りを放つ。
ドガァァァアァァ──ッ! と音をたてて樹は俺の目の前で倒壊───
いってぇえええええッ!
────するわけはなく、逆に俺の脚に多大なる激痛を与えた。
…………しばらくお待ち下さい………
痛みに耐えられず転がり続けて早三十分。
ようやく痛みが引いたところで自分の蹴りを放った樹がどんな風になっているのか確認しに向かった。
するとそこには倒壊とまではいかなくとも、いい感じにめり込んだ傷のある樹があった。
マジで?
目をこすり、再び見ると、やはりそこには俺がめり込んだような傷をつけた樹がある。
マジかよ………俺ってそこまで人間辞めかけていたのか。
そりゃ見よう見まねのローキックで選手全員を倒せたわけだ。普通の人間は樹より固くもないも。
これなら、この威力ならば、憎きあの痴女に勝てる。今ならそんな樹がして──あっ間違えた、気がしてならない。
そして高校二年までに陸上と併走しながらも入念に樹を蹴る特訓を重ね、決戦の日までにはへし折ることはできなくとも、かなり脚をめり込ませられるようになっていた。
そして、恐ろしかったジャンプ力はあまり伸びなかったが、今でも軽く3メートルは跳べるし、本気を出せば6メートルに行くかいかないレベルになった。
ふふふ、これは完璧だ。もう負けることはないだろう。今日こそは乗り越えてみせるぞ!!
そして決戦の帰り道。
現れる痴女。
ふふふふふ、今までは逃げるだけだったが、今の俺は昔とはひと味もふた味も違う──今回はこっちからだ、先手必勝!! ウオオオオオオオォッ!!!
俺は痴女が出てくると同時に走り出す。
「え!?」
いきなり向かってくる俺に驚いた様子の痴女であったが、すぐに気を取り直し、矢を俺に放ってくる。
俺は走りつつ華麗に避け、痴女の目の前までジャンプして肉迫する。
そして、体を捻り、全ての体重を込め、右足を振り抜く。
喰らえ! これが苦節100年以上鍛え続けた男の蹴りだ!!
俺の全身全霊の蹴りは痴女に当たる───瞬間、何か見えない壁のような物に阻まれた。
え? 何これ──ハッ、このパターン……まさか……。
目の前には矢を展開する痴女が────
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン16
今度こそ……今度こそ勝てると思ったのに……チクショウ……。
まあ嘆いても痴女には勝てん。取り合えずば前回の反省からだ。
前回の俺は確かに痴女の意表をついて蹴りを入れられるはずだった。だが、奇しくもその蹴りは見えない壁のような物に阻まれた。これが世に言うバリアというやつなのであろうか。ふむ。これはどうするべきか。バリアで防がれたってことは、俺の蹴りの威力が足りなかったということなのだろうか。
と言うことで、今回は蹴りの修行に力を入れて挑戦してみることにした。
せいやッ! あっ、ダメだこりゃ
享年17 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン17
今度は回転を加えてみよう。どっかの伯爵は重力が生み出す圧倒的破壊エネルギーで特攻していた。あの蹴りならバリアを突破できるかも。
ウオオオオオオオォッ! パパウッパウッパウッ!! 喰らえ! 見様見真似、
結果、惨敗。
享年17歳 死亡原因 特に後世に生命エネルギーを伝えることなく、痴女による刺殺。
シーン18
ツェ、ツェペリの旦那ぁああッ!! のような結果に終わってしまった。詳しくは上半身と下半身がお別れしてしまった。凄く痛かったで御座る。
さてと、次はどうするか。重力の生み出す圧倒的破壊エネルギーでもダメだった。いや、これに関しては俺が波紋使いじゃないことが大きく関係するだろう。波紋の呼吸法なんぞ知らねーもん。
ここまでしても勝てないとなると、ここはいよいよ持って本気で逃げることに挑戦すべきだろうか。
試しに今回は逃げるのに全力を懸けてみることにした。
痴女登場と共に全力疾走!!
走り出しと同時に放たれる矢を軽く避け、続く二撃目を軽やかに避ける。そして乱撃の為に少しの間準備で動きの止まった痴女を後目に、限界を超えて走り出す!
だが、そんな俺を逃がさないとばかりに痴女は乱撃を放ってきた。
こうなったら、全て避けてやんよ!!
これ、を、避け、きっ、たら、かく、実に、俺の、勝ち────やっぱ無理!!
享年17歳 死亡原因 痴女による刺殺。
シーン19
何が起きたのかって? そんなもの簡単だ。圧倒的物量には勝てなかったんだよ。知ってるか? 丸腰の兵士よりマシンガン持った少年兵の方が遥かに強いんだぜ?
とまぁよくわかんない説明は放っておくとして、状況は再び振り出しだ。
それにしてもあのバリア硬すぎ。ん? まてよ、そう言えば、こういった硬いバリアをどうにか突破する方法があったような気が──あっ、そうだよ、壊せないのは同じ土俵にいないからだ。相手は何かしらの力をもってバリアを張ってきた。だったら、俺も何かしらの力を使って蹴りを入れられればあのバリアを突破できるかもしれん。
となれば俺も痴女同様の力を持っていることが最低条件となるが、俺にはその力がなんなのか見当がついている。飛んでいることといい、バリア、そして極めつけはあの光った矢。これらのことから察するに、あの痴女は気を操っているに違いない!
気であるのならば、一般人にもあるって白米君が言っていたような気もするし、先ずは認識することが大切だってことも言っていた……多分。
そうと決まれば、早速俺の持っている気を見つけるぜ。
俺は瞑想し、体の内部に意識を向ける。
すると、体の中心部分から、何かしらのオーラを感じた。
恐らくコレが気なのであろう。
そのオーラを右手に出すように集中する。すると、バスケットボール程の気の固まりが浮かんでいた。
やった……遂にやったぞ俺は!
この気を自在に操れる様になれば、あの痴女と同等だ。待ってろよ、今回こそは俺が勝ってみせるぜ!
気の制御に費やすこと三年。気功だけではなく、脚に展開して蹴りの威力を飛躍的に高めることにも成功した。この前試したら樹を倒壊させれた。普通に驚いた。これで俺もワンピースの登場人物の仲間入りだな、こりゃ。
そんなこんなで迎える決戦の日。この日を迎えるのは十回を超えた時点で数えてないが、恐らく二十に到達しそうなので、今回こそは突破したい。
下校中、痴女が目の前に降り立つ。
そして俺に何かを言いかける時点で俺は痴女に向けて走り出す。
もう今回は負ける気はしないぜ!!
俺のいきなりの突進に慌てた痴女は、俺に向けて矢を放った。だが、
無駄!!
俺はその矢を蹴りで弾く。これこそが気の修行の成果だ。内包する気をコントロールし、脚に集中させることによって、あの馬鹿げた威力の矢であろうと蹴りを入れられるようになったのだ!
そして続く二撃目や乱撃を脚を使い弾き、時には痴女が張ったバリアも展開し、痴女の攻撃が一旦終えたところで、ようやく痴女の元に到達した。
ここで気を込めた蹴りを痴女にお見舞いしてもいいのだが、ここはあえて雪辱を果たすことにする。
俺は痴女のいる地点より高めにジャンプする。最高地点に到達した俺は体を勢いよく螺旋回転させる。こうして痴女に向けて落下する重力エネルギーと、俺自身による回転のエネルギーが合わさり、そこで生まれるのは、圧倒的破壊エネルギー。前回は惨敗だったあの大業を俺なり改良を加えたのだ!
喰らえ! 波紋ではなく、気を利き足に集中させた圧倒的破壊エネルギーの蹴りを!
その圧倒的破壊エネルギーは痴女のバリアを意図もたやすく崩壊させ、勢いが止まることはなく、痴女に直撃する。
直撃を受けた痴女は地面に激突し、体をピクピクさせている。どうやら起きあがってくる様子は無さそうだ。
と言うことは──やった………やったぞ!! 遂に俺は、死亡フラグを突破したぜ!! そしてツェペリの旦那ぁ、仇は、とったぜ…‥…。
陸上の全国大会で優勝した時と同じ様な達成感を胸に、俺は家へと帰って行った。
現在までの主人公が習得したもの
気
痴女が飛んでいることも、バリアを張ったのも、矢を打ち出せたのもこれのおかげと思い、主人公が修得したもの。基本的に誰もが持っている物らしい。
波紋乱渦疾走パート2
ツェペリ伯爵の波紋乱渦疾走を波紋ではなく気で補った技。圧倒的破壊エネルギーが相手を襲う。