閃乱カグラ ー少女達の想いー   作:影山ザウルス

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走る乙女

強い冷気と熱気を帯びた気配を辿り、飛鳥は雪泉と焔の場所へ急いだ。やがて、木々の隙間から二人の姿が見えた。一瞬ではあったが、二人が既に満身創痍であること、それにも関わらず、二人はまだ戦おうとしていることがわかった。

飛鳥は腰に帯びた二本の脇差しを抜き、二人の間に割って入った。

 

「もうやめてぇぇぇぇ!!!!」

 

飛鳥の二本の刀が焔の刀と雪泉の扇子を受け止めた。

 

「あ、飛鳥!?」

「飛鳥さん!?」

 

突然の乱入者に二人の武器から力が抜けた。

 

「二人とも、もうやめて!!これ以上戦ったら、本当に死んじゃうよ!!」

 

忍の道を極めんとする忍学生としては、道半ばでその命が尽きてしまうのも定めとして受け入れる必要がある。その点で言えば、飛鳥の言葉は忍らしからぬ言葉かも知れない。

しかし、彼女らは忍学生とはいえ、まだうら若き乙女。

雪泉と焔は互いに視線を合わせて、互いに武器を納めた。それと同時に二人は飛鳥にもたれ掛かるように崩れた。

 

「すまない、飛鳥……」

 

「飛鳥さん……しばらくこのままで……」

 

激しく脈打つ鼓動。

熱気を帯びた体。

飛鳥の体に押し付けられる温かく柔らかい二人の胸。

飛鳥はまだ二人に何が起きたのかは知らない。しかし、少なくとも二人がこれ以上戦うことはないだろう。

 

「ねえ……二人とも、なんで……っ!?」

 

飛鳥は自分に寄り掛かる焔と雪泉を振り払い、刀を構えた。何が起きたのかわからない焔と雪泉だが、視界にドス黒い液体と両断された不気味な生物の死骸が地面に転がった。

雪泉には見慣れない生物だったが、焔には見覚えがある。京都で道元が呼び寄せた妖魔だ。形は蜘蛛に似ているが、大きさは小型犬ぐらいあるだろう。

 

「「飛鳥!?」さん!?」

 

飛鳥は真っ直ぐに茂みを見つめている。その先には無数の影が蠢いている。妖魔の群れだ。一体一体は大したことはないものの、その数は厄介だ。何故これほど集まったかはわからないが、間違いなく自分達が狙われているのはわかった。

 

「大丈夫!!ここは私に任せて、二人は逃げて!!」

 

「し、しかし!!」

 

雪泉は自分も戦おうと脚に力を入れたが、思うように立てず、地面に倒れた。焔との戦闘でそれだけ消耗したのだ。同様に焔も動ける様子ではない。二人は飛鳥が現れたことで、緊張の糸が切れてしまったようだ。体が言うことを聞かない。

それに気付いた飛鳥は、自分の周囲に群がる妖魔を凪ぎ払い、忍結界を展開して自分と妖魔を結界内に閉じ込めた。

 

「これで少しは時間が稼げるよ」

 

飛鳥は二人に笑顔を見せて、再び群がる妖魔に立ち向かって行った。一体一体は一太刀浴びせれば倒すには十分過ぎるぐらい弱いが、圧倒的な物量の前に飛鳥の優勢が揺らいでいる。

 

「あ、飛鳥!!」

 

「飛鳥さん!!無茶です!!」

 

「無茶でも、ここで食い止めないと!!」

 

飛鳥が妖魔を次々と撃破して行くにも関わらず、妖魔の数は一向に減らない。それどころか何故か増えてさえいる。おそらく、妖魔を無尽蔵に産み出す何かがいるのだろう。

 

「秘伝忍法・二刀両斬!!」

 

飛鳥は妖魔の群れの中央を突破して、群れの奥へと消えていった。

忍結界の縁で飛鳥の後ろ姿を見送る二人はやり場の無い悔しさを露にした。

 

「クソッ!!動け、私の体!!私はこんなもんじゃないだろ!?」

 

「飛鳥さん!!飛鳥さん!!」

 

雪泉は忍結界を叩いた。しかし、忍結界は窓ガラスを叩いたような鈍い音が響くばかりで、二人の行く手を阻んだ。そもそも忍結界は外部からの干渉を防ぎ、忍務に臨むための忍術。そう簡単に壊れるはずがない。

 

「……焔さん!!秘伝忍法です!!絶秘伝忍法なら忍結界を壊せるかも知れません!!」

 

忍結界は確かに頑強で外部からの浸入は困難ではあるが、決して不可侵領域ではないのだ。強力な衝撃であれば外部から壊すことも可能である。

 

「試す価値は十分だな……」

 

「動けますか?」

 

「ふん!!誰に物を言っているんだ?」

 

「では、行きますよ!!」

 

二人はふらつきながらも立ち上がり、武器に手を取った。雪泉は両手に扇を持ち、周囲に冷気を帯びた。焔は七本目の太刀、炎月花に手を伸ばし、熱気を帯びた。

 

「「絶秘伝忍法!!!!」」

 

冷気と熱気の竜巻が起きた。雪泉の髪は月のように白くなり、氷の太刀を構えた。

 

「氷王!!」

 

焔は炎月花を抜き、髪は燃える炎のような紅に染まった。

 

「紅蓮!!」

 

飛鳥の忍結界に亀裂が走った。

 

「私が忍結界を壊す!!雪泉!!お前はもう一度忍結界を張れ。せっかく飛鳥が閉じ込めた獲物だ!!逃がすなよ!!」

 

「はい!!」

 

焔が炎月花を構えると背中の六本の刀が宙に浮き、炎を纏って、忍結界に突進した。忍結界の亀裂が大きくなり、音を立てて砕け散った。その瞬間、雪泉は忍結界を張り、自分達を含む妖魔を忍結界内に閉じ込めた。

雪泉と焔の出現に気付いた妖魔達が一斉に二人に迫った。

 

「邪魔だぁぁぁぁぁ!!!!」

「推し通る!!!!」

 

炎を帯びた炎月花が妖魔を焼き付くし、氷の太刀氷王が妖魔を凍らせた。


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