ダンジョンに英雄王がいるのは間違っている   作:あるまーく

73 / 75
 オッタル生存!

 レフィーヤ第四の魔法を会得!


愚者の猛者

ーー体は動かなかった。足の爪先も、指の一本たりとも動かすことは叶わなかった。

 それは目の前の信じられない光景に驚愕したからではない。…魅いってしまったから。その武器達の美しさに、素晴らしさに。

 

 何故気づかなかったのか、そんな今になってはもう遅い後悔が脳裏を掠める。

 オッタルの実力は確かにLV.7に相応しい力を持っていた、そしてその経験値も濃密だ。

 

 如何な格上もオッタルは窮地を乗り切り勝ってきた。勝てないと神々に、仲間達に言われ思われてきてもオッタルはその全ての思惑を裏切り越えてきた。

 

 そんなオッタルが今、始めて勝てない(・・・・)と確信してしまった。

 

 心で負けてしまった。だからもう体は動かなかった。都市最強と言われ、この都市の最高位のLVに達しているオッタルは迫りくる死に覚悟した。

 

 「理解できたか? 我と貴様の格を。では死ねーー」

 

 そして金の流星がその美しい煌めきを放ちながら、オッタルへと放たれた。

 

 不可止の死。迫りくる絶望。抗うことは許されない絶対の圧政がオッタルへと襲う。

 

 茫然とただ立ち尽くすオッタルはそれを理解出来てしまった。抗うことの無意味さを、歯向かうことの無価値さを。

 

 「ーーオオ」

 

 それでもーー。

 

 「ーーウオォオオオ!!」

 

 オッタルは吠えたーー。

 

 何時だってそうだった。かの女神の全てを手に入れたいと願いながら得られなくても、絶対に勝てないと言われた敵に挑んだ時も。

 

 ーー『猛者(おうじゃ)』は諦めることはしなかった。

 

 その咆哮は崩れ去る家屋と共に、そして薄暗くなった空の中でも尚光る武器達の轟音に掻き消えた。

 

 ーー時は廻り続ける。無限を生き続ける神々にはその時の流れは一瞬にしか過ぎない。

 それでも下界に生き続ける人々には平等に訪れる。

 

 時代は変わる。かつてこの地に神々が降り立ち神時代と呼ばれるようになった時のように。十五年前、当時の二大ファミリアをオラリオから追い出し、フレイヤとロキの二つのファミリアが都市最強と呼ばれるようになった時のように。

 

 ーー時は残酷に流れ、時代は変わるのだ。

 

 その時代の変革は、まだ神々も人々も知るよしも無いことだが。

 

ーーーーーー

 

 「な、何ですか!?」

 

 「キャアアアッ!」

 

 「うあぁぁんっ!」

 

 迷子の王様を探すべく、この都市の迷宮と呼ばれる『ダイダロス通り』を走るレフィーヤと子供達は突然の轟音に悲鳴を上げ頭を抑え縮こまる。

 

 その中でもレフィーヤだけは子供達の安全を確保するために周囲からの落下物に注意する。運の良いことに、自身達に落下する物はなく、ホッと息を吐く。

 

 そしてレフィーヤは一つの建物だった物を目にする。そう建物だったのだ。今は粉塵を巻き上げ、それがそうだとは理解出来はしないが、レフィーヤは確かに崩れ去るそれを目にした。

 

 その場所とは未だ距離が離れているために此方に被害はなかった。だがこれでは、何時また同じような事が起こるか分からない。

 

 「貴方達はここで待ってて!」

 

 「お姉ちゃん!?」

 

 故にレフィーヤは子供達をここに残すことに決めた。子供達をここに残す事は心苦しい。しかしレフィーヤにはもしもの時に子供達全員を守る事は難しい。

 

 LV.3のステイタスを持っているレフィーヤであるが、レフィーヤは魔道士、後衛職だ。LV.1の冒険者が相手ならそれでも問題はないだろう。

 だがLV.2なら、自分と同じLV.3ならばそうはいかない。ましてや自分以上のLVの相手なら何も出来ない可能性すらある。

 

 こういう時は前衛職の者達が羨ましくなる。しかし無い物ねだりをしている場合も、目の前の光景を見過ごす時間もない。

 

 「捲き込まれたりしてないで下さいよ…!」

 

 もしあの人があの近くにいたら、そんな最悪な予想が脳裏に浮かぶが、それを首を振るい現場へとレフィーヤは急行する。

 

ーーーーー

 

 瓦礫と粉塵へと化した家屋。一つの屋根の上に立つ原初の王はそれをただ見下ろす。

 

 「出し惜しんだ(・・・・・・)とはいえ、息長らえる(・・・・・)とは運がよいな…」

 

 「はぁっ…、はぁ…!」

 

 もはや満身創痍だった。オッタルの体には幾つもの裂傷が赤く刻まれ、黒いローブを変色し。腹部(・・)には穴が開かれ、おびただしい量の血が地面へと流れていた。

 

 立つことも出来ず手にした()を支えに膝を付く。しかし、今もその眼光だけは真っ直ぐに相手を射抜いていた。

 

「ほとほと度し難いな貴様は。よもや我の宝物を使い(・・)生き長らえるとは…」

 

 パチンと、指をならす。その音に伴い地へと突き刺さっていた武器の数々が、そしてオッタルが手に持つ剣が粒子に変わり消滅する。

 

 支えを失った巨木のように、その鍛え上げられ逞しい体躯は重力に従い地面へと倒れ伏す。

 

 ーーオッタルはあの瞬間、迫りくる剣撃の嵐から生き残れたのは、一重にその培った武術。そしてLV.7まで上り詰めたステイタスによるもの。

 

 ーーそして運が良かった事に他ならない。

 

 頂天まで至ったステイタスがその一撃までを許し、それにより腹部へと突き刺さった剣を手にできて。

 限界まで極めた武術が、そして経験が迫りくる剣撃の嵐から生き延びる事が出来た。

 

 もしもあの時他の剣を選んでいたら、深紅に染まった槍にその心臓を穿かれたかもしれない。

 もしあの時頭を掠めた剣の尖端が少しずれていたなら、この頭蓋は砕かれていたかもしれない。

 もしもあの時、この男が慢心(・・)していなかったら、もしもオッタルの惨めな足掻きを見るためだけにその剣を手に持つことを赦さなかったら、この世に肉片一つも残っていなかったかもしれない。

 

 ーーけれどもこの結果だけが全てだ。

 

 息はしている。その心臓はまだ脈動している。それでもオッタルはもう指一本動かす事が出来ない。

 

 結果は火を見るより明らかだった。オッタルは負け(・・)たのだ。都市最強、LV.7の頂きに至ったオッタルは。

 

 スッと、地面へと降り立つ。結果は出た、勝敗も決した。一歩また一歩その歩みは悠然と進む。

 

 「はっ、惨めだな。滑稽ここに極まり、中々に笑えたぞ道化」

 

 倒れ伏すオッタルを見下し、原初の王は不敵に笑う。

 

 そして虚空から金の歪みが現れ、オッタルが先程まで手にしていた剣を引き抜く。

 

 「して何か計れたか道化? フハッ、貴様程度では何も計れない事が計れたぐらいか? くくっ。あぁ、だが我は計れたぞ。貴様が無様で滑稽な道化だと。故に許してやろう、王を名乗る事を『道化の猛者』と。フハハ!」

 

 嗤う。けれども何も返答はない。そして出来ない。オッタルはそれを返す余裕も、体力もないのだから。

 

 ゆっくりとその剣は振り上げられる。止める者も、阻む物ももう何もない。

 

 そして断罪の剣は降り下ろされた。

 

 ーーだが。

 

 「ん?ああ…、貴様にかまけていたので忘れていたな」

 

 原初の王は首を少し傾け、誰もいない路をそこから微かに聞こえた聞き覚えのある声にその裁きを止めた。

 薄皮一枚、オッタルの首のほんの少しずれた位置で止まった剣は文字通り薄皮一枚切り裂いた位置で止まった。

 

 「ふむ…。まぁよい、今の貴様など何の価値(・・)もないしな」

 

 皮一枚を切り裂いた剣の先には血が滴る。しかしそれ以上先に行くことはなく剣は先程と同じく金の粒子へと変わる。

 

 激痛に腹から生温かいモノが込み上げるがそれを有らん限りに歯を食い縛り、ぐぐっと首を動かす、それでも満足に体は動かないし、指先一つにも力は入らない。それでもオッタルは顔を上げることができた。

 

 ーーオッタルは認めたくなかった。運が良いとか悪いかなどを。何故なら戦士にとって武人にとってここにある結果だけが全てなのだから。

 

 「ふ…ざけ、る…な。…情け…など、いら…ん、殺せ…」

 

 「はっ、自惚れるな道化。死にかけの貴様など殺しても我には何の得になる。貴様のような道化は、その矮小な驕りを抱いたまま溺死する方がお似合いだ」

 

 武人にとって一矢報いることも出来ずーー持てる武術の全てを奮ったと言うのに。猛者として傷一つ付けることさえ叶わえられずーー仲間が女神が付けてくれたその名に報いる事も出来ず。

 

 悔しかった。何よりもーー死に方すら選べない事が。

 

 「ではな道化、今の貴様はこの我が手ずから裁くのも憚れる。王にとって道化の諸行を許すのも、我の沽券に関わるのでな。此度は嗤って赦してやろう、クハハハハッ!」

 

 「ま、て…」

 

 笑い声を上げるその後ろ姿をオッタルは引き留める。それがどれだけ愚かで、瀕死の自分には何も出来なくとも、許せなかったから。

 

 動かないと思った腕がそれでもとオッタルの体を起き上がらせた。動かせないと想った脚が我慢出来ぬと立ち上がらせた。勝てないと知った心がふざけるなと激しく燃え上がった。

 

 ーー限界を超えてオッタルは立ち上がった。

 

 それがどのような変化を促したかはまだ誰も知らない。その立ち上がった先に何があるのかは神さえ知らない。

 だがそれでもーー

 

 ーー原初の王(ギルガメッシュ)猛者(オッタル)を置き去りにし、その路の先へと歩を進める。

 

 何故なら今のオッタルに原初の王は振り向く価値もなくて、もはや殺す価値さえないのだから。

 

 「……我が許したのは先程までの無礼のみだ、道化。これより先の無礼は流石の我でも見過ごせぬぞ? 故に聞いておこう何故今立ち上がった?」

 

 しかしてその歩みは止まった。

 

 敵わないと知って、その行為がどれだけ愚かであると知っていて、例え今己が器(・・・)を越えたといっても。

 

 立ち上がる事は無意味でしかない。満身創痍の状態で器を越えた所で意味もなく、一つ器を越え英雄(かれら)の領域に踏み込んだとしても、それには何の意味もない。

 

 だからこそ理解できない。その愚行を、オッタル自身が望んだ事を。

 

 故に原初の王は問う、何が貴様をそうまで駆り立て、何を願うのか。

 

 「決まっ…て、いる…!ま、だ…けっ、ちゃく…は、付い、て…いない」

 

 「ふん。つくつぐ度しがたいな道化。言ったであろう格の差を示すと。故にこれは戦いですらない、それすら解らんとは、貴様どれだけその頭蓋愉快で作られてるのだ?」

 

 「こ、れは…。俺が、挑んだ…戦いだ。そ、う…俺が、決め…た、戦いだ…!」

 

 血反吐を吐きながら、それでもオッタルは己が心中を答えを述べる。始まりは女神の戯れに過ぎない、けれどもこれが戦いだと、これが原初の王と猛者の格の差を示すモノではないと、そうオッタルは決めたのだ。

 

 「ーーフハッ」

 

 それを聴いて、その答えを聞いて、オッタルに背を向け顔を俯かせていた原初の王は笑い声を漏らす。

 

 「フハハ! フハハハハ! そうか道化よ、これは貴様が定めた戦いか!」

 

 そも戦いとは双方の合意で行われる事など稀だ。戦いなど、どちらか片方が挑めばそれだけで成ってしまう古来より単純なものなのだから。

 

 「だがな猛者(・・)よ。確かにこれは貴様が定めた戦いやも知れんが、我が未だ此度の余興を、戦いと呼ぶに値しないのもないのも事実」

 

 それが戦いであったかどうかを決めるのは、その決着を決めることが出来るのもまた勝者(・・)のみであるというのも事実。

 

 ーーそれでも、原初の王は再びオッタルへと振り返った。

 

 「故になオッタル(・・・・)よ、これが戦いであると、我が相対するに相応しい戦士であると、我が裁くと定めるに値する王であると。その答えを持って、また来るがよい」

 

 今のオッタルには価値などない。それでもこれが戦いであると、原初の王に挑むに相応しいと呼べると言うのなら。

 

 ーー越えよ

 

 ーー超えよ

 

 限界を越え、頂天すら踏み越え。その領域に入るしかないのだ。

 

 そして原初の王は振り返りオッタルを置き去りにして、再びその路の先へと歩んで行く。

 

 ーーそしてオッタルがその答えを持ってきた時に、どうするのかのその答えを述べて。

 

 「その時はこの我手ずから殺してやろう」

 

 先を行くその背を、オッタルはただ見つめることしか出来なかった。追うことも、再び襲いかかる事も出来ない。それでもーー

 

 「ーーそこ(・・)…で、待っ、て…いろ。いつ…か、辿り、着く…まで、この…決着…は、預け…て、おく」

 

 薄れ行く意識の中でもオッタルは、『猛者(おうじゃ)』は、今は届かぬ英雄の王の背を睨み付け、そう答えたのだった。

 

 今回は負けではない。決着はまだついてない。例え()が見て敗北したと言われようとも。オッタルは認めない。

 

 それは負け犬の遠吠えかもしれないが、それでも生きている。まだ次がある。

 次があるのならまた挑める、次があるなら勝ちがある。そう夢見て、そう信じて生きてきたこの身なのだから。

 

 所見それは叶わぬ夢かもしれない、それでも届かぬ境地かもしれない。けれどオッタルはそこを目指したのだ。

 

 手に入れないと知り手を伸ばし、相応しくないと解ってもその名を名乗り、天が遠いと言われても追い求めたのだから。

 

 ーーオッタルは愚かなのだから。それを知りながら手を伸ばし、そうと解っても名乗り続けた、そうだと言われても追い求める事をやめなかった愚か者なのだから。

 

 だからそこで待っていろ。そう言い続ける、この身はその愚かをもう七つ(・・)も越えてきた者だ。

 

 愚かであるなどとは、愚者(オッタル)自身が知っている。だがそれを知っていて尚目指す愚か者(オッタル)なのだ。

 

 足りぬと言うのなら越えよう、届かぬと笑うならそれも超えよう。それでもここまで登り詰めたのだ、それでも駄目ならそれを超えるのみ。それがオッタルが夢を見て、見続け出した答えなのだから。

 

 猛者(このな)は所見天界から降りし(すべてをみてきた)神々に、一都市の最強(せかいをしらぬ)オッタルに送られた名なのだから。

 

 だがなそれでもこの身が届かぬと決められた覚えはない。この身が超えられぬと決めた覚えはない! だからーー

 

 ーーそこで待っていろ。愚かなるこの身が、その身に届くその日を。

 

 その言葉が今のオッタルの限界だった。力なく倒れ伏すその姿に、原初の王、英雄の中の英雄王ーーギルガメッシュは言葉を一つ残す。

 

 「ーーよい、赦す。その時を我は待っていよう、だがなオッタルよ、この身に届くやも知れん者が貴様一人だけというのは我はまだ決めてないぞ」

 

 その言葉は意識を手放したオッタルには届いていない。それでも愚者(オッタル)はそれも越えようと答えるであろ。何故なら彼は愚かなのだから。

 

ーーーーーー

 

 レフィーヤは駆けていた。それでも周囲に視線を向けながら、都市の迷宮と呼ばれる『ダイダロス通り』を真っ直ぐに。

 

 はぁはぁと、荒い呼吸がその愛らしい口元から溢れ漏れるが気にしている余裕はない。

 

 探してるのはファミリアの家族でもない。ましてや仲のいい友達でもない。他人だ、それも余り関わりたくないと思うほどに。

 

 それでも今日知り合って、その人と触れあって、そんな人を放っておくほどレフィーヤは人でなしではない。

 

 何よりもーー。

 

 「ーーまだ、このネックレスのお礼も言ってないんですから」

 

 ギュッと首元にぶら下がるネックレスを握り締める。その行為は不安を拭うために無意識にレフィーヤがとった行動。

 

 自分がいった所で何も救えないかもしれない、この不安を拭えるために何か出来るとも思ってない。

 

 ーーこの身は所見憧れの彼らに未だ届かぬ矮小な身なのだから。 

 

 ベートさんならきっともっと速く見付ける事が出来るだろう。

 

 リヴェリア様なら、子供達も連れて向かう事が出来てその智謀で、魔法で全て解決出来るだろう。

 

 アイズさんなら、憧れのあの人ならきっとこんな事にはなってないだろう。

 

 ティオネさんなら、ティオネさんなら、団長ならーーと自分ではない誰かを思ってしまう。何故なら彼等彼女等なら等しく出来てしまうから。

 

 それでも此処にいるのはレフィーヤなのだ。未だ第一級冒険者(あこがれ)に届かぬレフィーヤなのだ。

 

 故に示さねばならない。憧れの彼らに頼らなくても解決できると言うことを。

 

 だからレフィーヤは走る。走り続けるのだその暗闇の先の見えない路を。

 

 「一体…、どこまで…行って、るの、ですか…。王様ぁ!!」

 

 「ーーそう愛らしい声で叫ぶでない。しかとこの耳に届いておるぞ」

 

 呼吸など整えられぬ全力疾走中に、それでも力を振り絞った言葉に、返ってきた聞き覚えのある声が返ってきた。

 

ーーーーーー

 

 走る路の小脇の小さな路、そこから私が探し求めた人物が現れた。

 

 悠然と歩むその姿は日が落ち暗く染められた中でも尚輝きを放っていた。そう今まで探していた人が今此処に見つかったのだ。

 

 目を驚愕で目一杯開き、その口は何よりも速く開かれた。

 

 「見つけたぁ!!」

 

 「おっと、全くほとほと貴様も愛らしいなレフィーヤよ」

 

 ガバッとこの身に抱きつく。もう迷子にさせないために、その身を捕獲したのだ。

 

 「何処をほっつき歩いているんですか!? どれだけ私が探したことか…」

 

 「そうか、それは面倒をかけたなレフィーヤよ」

 

 幼い子供をあやすように、その頭を叩き撫でる。撫でられるその手にこそばゆいモノを感じたが、ガバッと顔を起こしその距離を離す。

 

 「な、何してるんですか!?」

 

 「ん? どうしたもう少し愛でてやってもよいぞ? 我は子供には寛容だ、それ故の特権だぞ。ほれレフィーヤよ、この身に体を委ねる数少ないチャンスだぞ?」

 

 「ふざけないで下さい! 私がどれだけ心配したか、分かってるんですか!?」

 

 笑うその姿に、さしもの私でも頭にくる。人がどれだけ探した事か、それが解っているのか、と。

 

 何故かこの人が居なくなって突然に、この人とはぐれたその日に限って『ダイダロス通り』に異常事態が発生したと言うのに。

 

 「ふむ心配か…、我の心配などするだけ無駄だと言うのに。それに出会ってばかりの貴様に言われるのも心外だ…」

 

 「何を言っているんですか…」

 

 溜め息を吐いてしまう。恩恵を貰っていない身だと言うのに、それを心配するなど言う方が無理だ。

 

 「良かろう、レフィーヤ。その心配払ってやろう貴様の届きそうにない相手言うがよい、その首我が取ってきてやろう」

 

 この人は一体何を言っているんだろう…。この人と会話をする度にそんな事を思ってしまう。

 

 出来もしない事をよくもまぁ、そんな自信満々に言えるものだと関心さえしてしまう。

 

 ここで適当に答えてしまおうか。どうせさっきから話していたアイズさんの事も記憶してないにだから、いっその事、アイズさん本人にその身の程を教えて上げるように頼みましょうか。

 

 それこそ団長に頼んでも良いですよ? どちらにしろ戦いにもならないでしょうから。

 

 嫌、自分のファミリアにこんな些細な事で手を煩わせるのもアレだし、いっそ都市最強の同じ王を名乗る『猛者』にけしかけましょうか。

 

 都市の情勢も何も知らない用ですし、いっそここでそれを教えて上げるのも優しさと言うものでしょう。

 

 きっとこの人の事だから何も知らず挑んでしまう。そして挑んで来るものを無傷で返すほど憧れの彼等は優しくない。アイズさんなんて嬉々として戦うだろう。

 

 ーーまぁ、そんな事はしないんですが。

 

 「必要ないです!」

 

 「何?」

 

 それに必要ない。この人がどれだけ強いかなんて、そんな事は私の強さには関係ないんですから。

 

 「私が心配してたのはそんな事じゃ無いんです。貴方が、王様がどれだけ強くても私にはどうでもいいんです!」

 

 「……解らんな。貴様は今、絶対にして唯一無二の力を前にしているのだぞ? それを必要ない、と? それを見たくない、と?」

 

 「どこまで自信があるんですか…。貴方がどれだけ強いかなんて知らないですけど、だってそれは私の力じゃないんですから。 私はですね、私の力でそこまで行きたいんですから!」

 

 そうだ。私が心配に成ってしまうのは私が弱いからだ。そこにこの人の強さは関係ない。私が未だ至らぬから、情けないから起こってしまうのだから。

 

 だから私は、私の力でいつかそこまで行きたいんだ。いつか憧れの隣に立ちたいんだ。

 

 「フハハ…。そうか、レフィーヤよ。貴様もここを目指すか…。だがなここを目指すにのは些か険しい路と知っているか? それを解っているのか?」

 

 「そんな事百も承知です!」

 

 貴方に言われなくとも、他の誰に言われようともそんな事知っています。それでも目指すと決めたんだ。

 

 第一上から目線で言っていますが、貴方なんて恩恵を貰ってないんですからね? 言うならばLv.0ですよ? そんな貴方がそこだの、ここだの言うなんてLv不足ですよ。

 

 「フフ…。では、気張るがよいレフィーヤよ。あぁ、だが此度の余興の報奨をやろう。実に良いタイミングで我を呼んだ事の、な。貴様もあやつも中々気骨のあるのがまだこの都市にはいる事を知れた事の、な。それに見たくないと言われると見せなくなるのも人の道理。故になレフィーヤよ、どうしても見たくなったら我の名を呼べ。さすれば我が何時でもこの力示してやろう。それが此度の報奨だ」

 

 「だから別に良いですってば…」

 

 貴方の力を見ようなんて、貴方の力を借りようなんてそんな事思う機会なんてあるはずが無いじゃないですか。

 

 「では、帰路に着くとするか。レフィーヤよ、貴様は実にいじりがいがあった。また合間見える時があるだろう、その時はまた存分に我を興じさせよ」

 

 「はいはい…。もう会うことはないですけどね。それでもまた会ったときはもてなしますよ、王様」

   

 安心してください。もう二度と好き好んで貴方には近付きません。だからこれが最初で最後です。

 

 そんな事は言わないですが。

 

 




 レフィーヤ第四の魔法!

 『英雄王召喚(サモン・ギルガメッシュ)

 ・詠唱式『助けて…』等、王を呼ぶ声

 ・壊滅魔法

 ・放ったが最後、常識が崩壊する 

 尚、上位互換である『王様のカッコいいとこ見たい』とは別。

 発現者。レフィーヤ、春姫、リリ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。