顕現したギルの前には祖父を無くした直後のベル。
『男ならハーレムを目指さなきゃな!』
幼いころから祖父は僕にそう言い聞かせた。
物心がついた頃には祖父は僕にいろいろな
英雄譚を聞かしてくれた。
怪物を退治し、人々を救い、囚われのお姫様を助けだす、最高にカッコいい英雄達のように自分もなりたいと当時の僕は本気で思った。
そしてそんなとき、祖父は教えてくれた。
英雄達の奇跡の中で最大の醍醐味は、可愛い女の子との出会いなのだ、と。
小さかった僕は英雄に憧れる傍ら、異性との出会いに熱意を燃やし、祖父から日夜『男の浪漫』とはなんたるか教えてもらった。
祖父に度々勧められたことで、すっかり愛読書になった『迷宮神聖譚』
ーーーーーー迷宮都市オラリオで業績を残した様々な英雄の物語も、そんな情熱形成の一役を買ったのかもしれない。
だから、僕はーーーベル・クラネルは英雄達が繰り広げたような冒険の舞台に身をおけば……オラリオに行けば、冒険者になれば、ダンジョンに潜れば。
英雄譚に出てくる、運命の出会いというやつに巡り会えるのではないかと。
ーーーーーーーーー
男は1人何もない空間にいた。
その空間には肉体などないが、意識はあった。
その空間ーーー聖杯の中に男、ギルガメッシュはいた。
ギルガメッシュは第五次聖杯戦争で敗北し、またこの聖杯の中に還った。
そして、今聖杯の中から一筋の光がこぼれ落ちた。
「ふむ…此度の顕現は我が満足するのに値するのか」
彼の王意識は、その口角を吊り上げ愉快そうに呟いた。
値しなかった場合は……と心の中で付け加えて。
ーーーーーー
「じゃあおじいちゃん僕行くね、……迷宮都市オラリオに」
何もない田舎、さらに外れたところにぽつんとたった小屋にベル・クラネルは住んでいた。
少年はこの小屋に祖父と二人で住んでいた、がつい先日祖父が死に、ベル1人になった。
祖父の死後少年はこの田舎を飛び出て迷宮都市オラリオに行くことを決意した。
そして残った全財産を持って今日オラリオに行くことにしーーー小屋の裏に建てた墓前というにはいかないが、祖父が眠る墓前に報告していた。
「……おじいちゃん、昔聞かせてくれた英雄譚に出てくるような英雄になって、また戻ってくるね。」
そう呟き、少年は踵を返し墓前を後し歩み出そうとした。
その時、一陣の風が舞った。
少年はその風にわっ、と声を漏らした。
そしてその背後ーーー誰もいないはずの墓前の前から声がかけられた。
「そこの童よ…まさかとは思うが貴様が我を呼んだのか?」
その声は自身を見て驚愕したのか、そこまで大きな声ではなかった、しかしその声には厳然とした風格があった。
「ゆゆゆゆゆ、幽霊!!?」
しかし、僕には後ろを振り返って見た青年に涙を撒き散らしながら悲鳴しかあげられなかった。
これが、英雄に憧れる少年と全ての英雄達の王との初めての出会いだった。