八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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注)このお話はオリヒロモノとなりますので、そういうのがお嫌いな方は回れ右でお願いいたしますm(__)m





フェスティバルは、パーティータイムでカーニバる 【前編】

 

 

 

 それは、穏やかな初秋の昼下がり、心地のよい海風を頬で楽しみながら、今日も今日とてベストプレイスでの優雅な昼食を楽しんでいた時だった。

 

「比企谷せーんぱい! こんにちはでっす!」

 

 そんな、最近ではそこそこ聞きなれた可愛らしくも元気な声で、俺の唯一の癒しの時間は破られたのである。

 

「……おう」

 

「うっわ、相変わらずテンションひっく」

 

「そりゃそうだろ。お前が来ると俺の貴重なプライベートタイムが削れるからな」

 

 ちなみに数ヶ月前までなら「戸塚を愛でる時間が減るだろうが!」と文句のひとつも言えたのだが、残念ながら戸塚は一学期終了と共にテニス部を引退してしまったのだ。

 俺の生きる糧がひとつ消失してしまった無慈悲な事件である。

 

「ぷっぷ〜っ! 先輩なんて教室でも常にプライベートタイム楽しんでるじゃないですかー。あはは! 今のはなかなか笑えましたよ! ……フッ、なかなか腕を上げたじゃないかね、比企谷君」

 

「ばっかお前、確かに教室でも常にプライベートタイムではあるが、肩身が狭い教室内ではクラスメイトに気を遣いすぎて楽しめねーんだよ」

 

「……いやいや、そこは「おい、誰がクラスメイト達とクラス内別居してんだよ」とかって突っ込むトコじゃないですかねー……なんで普通にプライベートタイムなトコは肯定しちゃってんですか……」

 

「その突っ込みはおかしいよね? ドン引きですーみたいに言ってるけど、どっちかっつーと俺がドン引きだからね?」

 

「にひっ」

 

 ……ったく、にひっじゃねーよ。やっぱお前が来ちゃうと、俺の優雅なひとときが騒がしくなっちまうわ。

 

 

 ──この天真爛漫な笑顔で微笑む騒がしい人物。こいつは、ひとつ下の二年生であり、俺の数少ない可愛い後輩のひとり、家堀香織。

 元々は俺の唯一の後輩の友達……という位置付けだったのだが、いつのまにやらこうして俺の可愛い後輩のひとりというポジションに収まった変なヤツだ。

 

 

 家堀は一色グループのひとりという事もあり、ルックスは美少女という括りに入れてしまっても特に問題がないくらい、どこからどう見ても完全にリア充丸出し。

 先ほどの、白い歯を見せての「にひっ」という笑いからも分かるように、とにかく元気一杯なヤツである。

 

 クセっ毛なのか茶髪の外ハネショートボブが更にその快活さを引き立たせていて、ルックスから明るい性格から、どことなく中学時代のクラスメイト 折本かおりを思わせる女の子だ。

 まぁ折本は黒髪だしクセっ毛ではなくパーマだけど。

 

 そんな、たまたま関わりを持ってしまった一色の友達という肩書きがなければ、キングオブぼっちと呼ばれる俺とはおおよそ関わりを持つような人種では無いカースト上位者な後輩家堀ではあるが、なぜかこいつは俺によく絡んでくる。

 有体に言うと、懐かれてしまっているといっても過言ではないのかもしれない。

 

 俺みたいな日陰者に、こんな太陽のような笑顔をした後輩が懐くってどういう事だってばよ? とは思うのだが、その一見謎に満ちていそうな答えは意外にも目の前にあったりする。

 

「なんだよ、今日もアレの話か?」

 

「へへー、まぁいいじゃないですか! 遂に魔法使いも終わりですもん。んでんでー、」

 

「ったく、たぶん人は通んねぇとは思うが、程々にしとけよ」

 

「かしこまっ☆」

 

「……」

 

 とまぁこういうわけだ。

 端的に言うと、見た目やら雰囲気やらに反してこいつはオタクなのだ。それも潜むタイプの。

 それでいて口癖が「私オタクとかじゃないんで」だから始末に負えない。

 

 もっとも本人は潜めているつもりらしいが、一色曰く……

 

『あ、バレてないつもりらしいですけど、香織の趣味の事は少なくともクラスではみんな知ってますよー』

 

 との事。

 つまりこいつはリア充はリア充でもただのリア充ではなく、オタクはオタクでもただのオタクではない。

 残念な事に、とても残念なヤツなのだ。

 

 そんな、自称オタクではない隠れオタクな残念リア充だからこそ、普段友達には吐き出せない、誰とも語り合えない趣味の話を楽しみたいが為に、俺のような日陰者のぼっちに懐いてくるというわけだ。

 常ならば他人の言葉の裏ばかり読んでしまう俺がこうして気を許してしまっているのも、そんな一切裏の感じられない純粋な残念趣味への想いによるところが大きいのだと思う。

 

「ホントあれですよねっ! いやー、まさかあそこで──」

 

 プリティでキュアっキュアな話に花を咲かせたり、はたまた先日俺に貸してくれたオススメ漫画の感想を求めてきたりしている、心底楽しそうな家堀の残念トークに耳を傾けながらも、そういやなんかこんなの久しぶりだなー、なんて感じてしまい、ふとそんな思いを口にしてみた。

 

 ……にしても、今日の家堀はいつにも増して元気だな。

 

「そういやアレだよな。家堀がここ来たのって、まぁまぁ久しぶりだよな」

 

 家堀は進級してからというもの、二・三日に一度くらいのペース……まぁ週に二回ほどの割合でこの場所に赴いては、こうして趣味トークを満喫するようになっていた。

 そんな家堀の来訪を、俺は毎回うんざりした顔をしながらも、何だかんだと楽し……悪くないなんて思っていたのだが、二学期に入ってちょっとしたくらいから、家堀はあまりこの場所に顔を出さなくなっていたのだ。

 べ、別に寂しかったとか、そういうんじゃないんだからね!

 

「あれあれー? もしかして寂しかったんですかぁ?」

 

 こいつっ……ニヤリと悪戯な微笑で覗き込んでくるこの姿は、やはり小悪魔一色の友達だな。

 

「だからそういうんじゃないと言ってるだろうが」

 

「? 初耳ですけども?」

 

 おっといかん。家堀の可愛らしい煽りに軽くテンパっちゃって、思わず脳内のセリフと混同しちゃったぜ。

 

「……なんでもねーよ。そういや一色も最近あんま見掛けないけど、あいつも元気にやってんのか? たぶん今ってすげぇ忙しいんだろうけど」

 

「ですねー、いろはは今超忙しそうに走り回ってますよ。受験生の比企谷先輩には絶対迷惑掛けたくないし頼りたくないって張り切ってますからね」

 

「……そうか」

 

 そうなのだ。あいつは最近奉仕部に入り浸るのを控えてあちこち走り回っている。

 生徒会として今が一番忙しい時期だから、てっきりまた俺達を頼る(利用する)のかとばかり思っていたのだが、先ほど家堀が言っていたように、今回ばかりは自分達だけで成し遂げると頑張っている。

 あいつも成長したもんだなぁ、とホロリとしていると、

 

「フフフ、でもそのぶん受験が終わったら馬車馬のようにこき使ってやる! って息巻いてますけどねっ」

 

 ……感動返していろはす!

 

「あ、ちなみに私も忙しかったからあんまここに来られなかったんですよねー。そりゃいろはとは比べものにはなりませんけど、でもその忙しかった理由にはいろはも含まれるんですよ」

 

「ほーん?」

 

 はて、家堀が一色と一緒になって忙しかったとな?

 

「てか、やっぱり比企谷先輩いろはから聞いてないんですね。そんなに伝えんの恥ずかしかったのかなぁ……ま、まぁ? こうして私の口から先輩にお伝え出来るのは、ラッキーっちゃ……ラッキーなんですけどもぉ……」

 

 と、最後の方はかなり聞き取りづらいくらいに尻窄み気味でもじもじする家堀。

 ん? 恥ずかしい? どしたのん?

 

 すると家堀はけぷこんけぷこんおこぽーん! と激しく咳払いをしながらしゅたっと立ち上がる。

 その頬っぺたはほんのり桜色。

 

「えと……ですね……んん!」

 

 そして家堀はおもむろに俺の前に立つと、はにかんだ笑顔を恥ずかしげに向けて、こんなとんでもない発表をするのだった。

 

「実はっ! 来たる今週の文化祭の有志ステージで、私達グループは大トリで歌って踊る事となりましたっ……! これシークレットライブで、当日大々的に発表するんですよ。しかも! 私センターですよセンター! う、うひぃ……な、なんかハズいっ……」

 

「……マジ?」

 

 

× × ×

 

 

 家堀からの思いがけない発表に一瞬固まったものの、まぁ良く良く考えたら、こいつらが有志でトリを務めるのはなんら不思議ではない。

 なにせ去年のトリは、当時二年だった学内カーストトップの三浦・葉山グループが務める予定だったし(さらなる大物グループに全部持ってかれちゃったけど)、雪ノ下や三浦、葉山が卒業したあとは、生徒会長で有名人の一色率いるこいつらのグループが学内カーストでトップになる事はまず確定的といえる。

 だから文化祭のトリを飾るこのステージは、去年の雪ノ下・三浦・葉山からの世代交代という形で考えたらむしろ妥当だ。

 

 ただちょっと意外なのがセンターが家堀だというところだろうか。そういうのって一色の役回りなイメージなんだよなぁ。

 あと歌って踊るって、お前らなにすんだよ……

 

「あ、その顔は家堀がセンターなんて意外だなとか思ってます?」

 

 え、俺の顔ってそんなにすぐ出ちゃうのん?

 

「ん、まぁな」

 

「うん、ですよねー。てか私ももちろんいろはをセンターにする気まんまんだったんですけどね。なんかいろはのヤツに「センターやるくらいならこの話は無かったことに!」って全力で断られちゃいまして」

 

 なんでかなー……? と、家堀は心底不思議そうに首をかしげる。

 マラソン大会なんかで、わざわざヒーローインタビューの舞台とか整えちゃうような派手で目立ちたがりの一色だからな。そう思うのも無理はない。

 

 まぁ一色は今一番忙しい身だもんな。

 二年生生徒会長として、中心となって文化祭を引っ張らなきゃなんないし、そのあとに控える生徒会役員選挙と体育祭と修学旅行の準備だってあるし。

 その上そのステージとやらに立つための練習だってしなきゃなんないんだから、そりゃ一番忙しくて目立たなきゃならないセンターなんてお断わりだろう。

 

「じゃあ襟沢にやらせようかと思ったんですけど、……あいつにMCまわさせるとかちょっと……という話に落ち着いちゃいまして」

 

「……あー」

 

 確かにあのポンコツ三浦モドキにMCとかやらせたくはないだろうなー……

 

「それに襟沢には衣装担当も任せちゃいましたし、負担考えるとセンターは無いかなぁ、と」

 

「え、あのポンコツに衣装とか用意させんの?」

 

「あ、襟沢って、ああ見えて生意気にも女子力たっかいんですよ! 料理も上手いし裁縫も得意なんで」

 

 そりゃまた意外だ……

 でもそういやあいつ、昔少女漫画読んでわんわん泣いてたっけ。

 実はこいつらのグループ内では、一番女の子女の子してるのかもしんない。あんなんでも。

 

「んで、紗弥加と智子はセンターとかマジ勘弁! 絶対に嫌ぁ! と、頑として譲らなかったんで、なし崩し的に私がセンターになっちゃったんですよねー」

 

 なるほどな。確かに笠屋と大友は前に出たがるタイプではないな。一色同様、そこまで必死に拒否しなくてもいいとは思うが。

 そこ行くと家堀とか舞台度胸とかありそうだし、何だかんだ言って一色の次くらいにセンター向いてるかもな。

 

「だからここんとこ、毎日歌の練習したりダンスの練習したり、それでさらに忙しくなっちゃういろはの手伝いしたりで、私も結構忙しかったんです」

 

「そうなのか」

 

 そりゃこんなとこで暇人ぼっちとオタク話なんかしてる暇ないわな。

 でも今日ここに顔を出せたって事は、それなりに余裕が生まれたってことなのだろうか。

 

「んで、調子はどうなんだ?」

 

 そう訊ねると、一瞬……ほんの一瞬だけ表情を固まらせたのだが、すぐに満面の笑顔を見せて、そこそこありそうな胸をドンッと張った。

 

「へっへー! まださすがにバッチリとはいきませんが、なかなかのもんですよー? もうちょいで完璧に仕上がるはずです」

 

「? そうか……ま、頑張れよ」

 

「はいっ!」

 

 

 

 元気に頷いた家堀ではあるが、なぜかその表情はいささか強ばっているようにも見える。

 ついさっき一瞬固まった表情といい、なんか問題でも抱えてんのかな。こいつはいつも元気だけど、なんか今日はいつもより妙にテンション高かったし。ともすれば、若干空元気に見えるくらいに。

 そんな俺の様子に気付いたのか、家堀はたははーと苦笑を浮かべて、ちろっと舌を出した。

 

「……あ、やっぱばれちゃいました? ……まぁぶっちゃけ、こう見えて今から結構緊張してたりするんですよね。私、いろはと違ってあんま人前に立ったこととか無いですし、それなのに大勢の前で歌ったり踊ったりするとか……ねぇ……? しかもさらにセンターになっちゃうなんて……。なんか、こうして本番が近付けば近付くほど、妙にそわそわしちゃいましてっ……あはは、まいったなー」

 

 そう、だよな……こいつは舞台度胸がありそうだなんて無責任に考えていたけれど、そんなのはいつも元気に笑うこいつを見てる俺の勝手な印象にすぎない。

 そりゃあの舞台の中心に立つのなんて不安に決まってる。去年急きょ舞台に立つことになった雪ノ下と由比ヶ浜。望まぬ生徒会長という役職に就いた事により、舞台に立たざるを得なくなった一色。

 俺の周りにはそれを容易く行えてしまえる人間が多くて麻痺してしまいがちだが、普通の高校生にとって、壇上に立って話をするってだけで、それは尋常でない緊張を伴う非日常なのだ。

 それに加えて歌って踊るというのだから、その不安と緊張は計り知れない。

 そう。家堀は、なんてことない普通の女子高生なんだよな。

 

 もしかしたらだが、そんな忙しい合間を縫って今日ここへ来たのも、俺とこうして下らないオタ話をする事で、そんな非日常の不安に日常という安心のベールを覆い被せて、少しでも心を落ち着けたかったのかもしれない。

 

 こういう場合、どう声を掛ければいいのだろう。

 お前なら大丈夫だ、なんて……そんな無責任な事、言ってはいけない気がする。

 

 

 これはどーすっかなぁ、と思考をあちこち巡らせていたのだが、やはり家堀は俺が思っているよりもずっと強い女の子なのかもしれない。

 未だ不安な様子ではあるけれど、それでもこいつは「でも……」と言葉を紡ぐ。

 

「……友達と文化祭とかのステージに立って、一緒に歌って踊るのって、実は私の夢だったんですよね。……確かに不安だしめっちゃ緊張してるんですけど、……でも、ついに私の夢が叶うんですもん……! へへー、がんばんなきゃなって!」

 

 むん! と、不安を吹き飛ばすように気合いを入れ直し、無理矢理いつもの元気な笑顔でひひっと白い歯を見せる家堀は、俺の目にはとても眩しかった。

 

 うん、やっぱお前はそんじょそこらの普通の女子高生ではないのかもな。お前は、そこら辺の連中よりもずっと輝いてるわ。

 だから俺も、家堀を慰めようとか元気づけようなどと偉そうな事を考えるのはやめだ。普段と変わらぬ俺で、普段と変わらぬお前と普通に接しよう。

 

「夢、ねぇ。お前アイドルモノアニメとか大好きだもんな」

 

 茶化すようにそう言った俺は、さらに意地悪くからかう。

 

「……まさかお前、プリパラとかアイカツとか歌うんじゃねーだろうな」

 

 からかうようにそう言ったのだが、意外と冗談では済まされないかもしんない。

 なんかこいつって、アイドルモノアニメのライブシーンで振り付け練習とか本気でやってそうだし……

 

「いやいやいや、いくらなんでも私をバカにしすぎじゃないですか!? 私オタクとかじゃ無いですし、さすがに高校の文化祭で幼女先輩向けアニメの歌を披露するわけないじゃないですか!」

 

 幼女先輩向けアニメを好き好んで観たり歌ったりしてる時点で、十分オタクだからね?

 

「歌うのは、国民的アイドルがCMで歌っちゃうくらいメジャーなグループの歌だから問題ナッシブルですぅ! ほんっと先輩ってマジ私のこと誤解してますよね! ったく!」

 

 あまり誤解はしてないとは思うのだが、いくらなんでもオタバレを警戒してる家堀が、文化祭ステージでソッチ系の歌を歌うわけねーな。ま、そもそも冗談のつもりで言ったんだけどね。

 

「そいつは悪かったな」

 

「ホントですよーもう!」

 

 ぷりぷりと怒りながらも、ようやくいつも通り無理の無い自然な笑顔に戻っていく家堀を、苦笑いで眺めつつ思う。

 

 お前なら大丈夫だ、なんて無責任な事は決して口にはしないけれど、でも心の中だけではいくらでも言ってやるよ。お前なら大丈夫だってな。

 だって、それは紛うことなき心からの本心なのだから。

 

 

× × ×

 

 

『まったく! 文化は最高だぜぇぇ!』

 

『『『うおおおぉぉぉ!』』』

 

『勉強なんてくだらねぇぜ! ──』

 

『『『──俺たちの鼓動を聴けぇぇ!』』』

 

 

 一色と全校生徒の、こんな怪しげなコール&レスポンスで幕を開けた今年の文化祭も、今日で二日目最終日。

 

 てか今年のスローガン『勉強なんてくだらねぇぜ! 俺たちの鼓動を聴け!』ってどうなのん? 去年めぐり先輩の「お前ら、文化してるかー!?」の掛け声と共に始まった『千葉の名物、踊りと祭り! 同じ阿呆なら踊らにゃシンガッソー!』もよっぽどだと思っていたが、今年のはさらに輪をかけて酷い……

 最初の掛け声にしてもスローガンにしても、これ絶対発案者家堀だろ。一色の手伝いしてたとか言ってたし。

 ネタ元も知らずにこんなセリフを叫ばされている一色と全校生徒に涙を禁じ得ません……

 

 

 

 そして二日目の今日、クラスの出し物での自身の役目を完全に終えた俺は、特別棟の屋上を目指すべく、ひとり教室をあとにする。

 

 「せんぱい、絶対に、ぜぇぇったいに文実にはならないでくださいね!」との一色からのお達しにより、今年は文実入りを合法的に免れる事となった。

 あとあと家堀から聞いた話によると、どうも俺が文実に居ると確実に頼ってしまうであろう一色が、自制の為にも俺を文実にはしたくなかったのだそうだ。そのため今年はクラスの出し物に専念する事が出来た。

 クラス出展(執事喫茶)の内装作りをひっそりと影のようにこなし、当日は「プラカードを持って適当にずっと校内うろついててー」という大役を仰せ付かった比企谷八幡ですがなにか?

 

 

 

 ちなみに、一日目のクラスでの大役を終えたあとエラい目(雪ノ下、由比ヶ浜、一色の三人に校内の出展見学に連れ回され、校内中の視線にライフをごっそり持ってかれました(白目)!)に遭ったので、二日目の今日は家堀達のステージの時間まで、ひっそりと屋上で過ごす予定である。

 

 

 

 

 ──だがしかし……そんな俺の目論見は脆くも崩れ去る事となる。

 

「あ! 比企谷先輩発見! 先輩先輩、ふ、ふたりで文化祭回りませんかっ?」

 

 教室を出る寸前に、こんな元気な声を掛けられてしまったから。

 

「……おい、お前このあと有志ステージがあんだろ……こんなとこでなにやってんだ」

 

「や、やー……ステージまでまだ時間あったんで適当にぶらついてたら、た、たまたま……た、ま、た、ま! 比企谷先輩をお見かけしてしまったので、……え、えへっ」

 

 そう言ってブレザーの袖をちょこんと摘み、一瞬で俺の退路を断つ家堀。

 

 やめてぇ! うちのクラスの入り口で、顔赤くしてもじもじと俺の制服掴まないでぇ!

 俺ただでさえ昨日の事でクラスメイト達から奇異の目で見られてるんだからッ!

 

「よ、よおっし、そんじゃ行っきましょー!」

 

「お、おい離せ……誰も行くとは言ってねぇだろうが」

 

「フフフ、拒否権なんてあるわけないじゃないですか。出番までのいい時間潰しになってもらいますよー?」

 

「……はぁぁ……つか引っ張んな」

 

「にしし」

 

 

 

 家堀の有志ステージが始まるまでの短い時間ではあるものの、こうして、俺と家堀の文化祭デー……巡りが始まるのだった……

 

 

 

続く

 




恋物語集今年一発目(もう1月も終わりだというのに…)は、なんとなんと初の八幡視点からの香織でした!


*他の作者さん・八幡視点でオリジナルヒロインを書く→普通

*この作者・八幡視点でオリジナルヒロインを書く→異常


というわけで、これは私なりにはかなりの変化球なのではないでしょうか笑
ちなみに香織SSはサブタイに『ラノベ』を入れるのが通例だったのですが、今回は香織視点じゃないのでその縛りは回避しました。
時系列的には香織√のシーデート→クリスマスデートの間の出来事ですねー。


それにしてもアホな脳内がウリの香織なのに香織視点にしないとか、これって香織らしさは出てるんでしょうかね……(・ω・;)?
誰得……?
香織の夢(みんなでステージに立つッ)を叶える為には、香織じゃなくて八幡視点の方が都合良かったので汗


今回は本気で1話で済ませる予定だったのですが、ちょっと忙しくてなかなか執筆出来なかったので分けちゃいました!
なので前編後編の二話で終わるぜ詐欺とか無いですからね(*^_ ’)


遅くとも来月中には後編投下しますんで、また次回もヨロシクですノシ

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