読者さまとのお約束通り、今回は後編ですよっ!
──ラッキースケベ。
それは男たちの見果てぬ夢、男たちの遥かなる桃源郷、そして男たちの欲望のパラダイス。
だいたい同じような事しか言ってない気がするけど気のせい気のせい。
そんな男の欲望を具現化したような ジ! アクシデンツ! なラッキースケベなわけだが、いまだかつてこんなに残念なラッキースケベがあっただろうか? いや無い(反語)
「しょのっ……さ、先ほどはお見苦しいモノをっ……」
「……い、いや、結構なお点前(おてまえ)で」
いやん! お粗末さまでしたっ(白目)
……いやいや結構なお点前ってなんだよ八幡さん!
なんて全力でツッコミを入れたかったけれども、現状ではそんなツッコミなど出来る余裕があるわけもなく、比企谷先輩と向かい合って、ただただ俯いた顔を赤面させてクッションの上に正座しているどうも家堀香織です。
ま、まぁお胸だけならまだ許容範囲なんですよ。イケナイとこはたぶん見られてないし、それにそこそこ自慢な美乳なもんで。微乳ではないのよ? そこそこあるんだから!(ドヤァ)
好きな人に自慢のおっぱい見られちゃうなんて、どっちかといえば嬉し恥ずかし大イベントだもんね。
さんざん濁してきたのに思いっきりおっぱいって言っちゃった! 乙女なんだからもっと乳はオブラートに包もうぜ? オ“ブラ”ートだけに。これは酷い。
……じゃあなにがキツいって、好きな人にいろんな惨状を見られてしまったのがなによりキツい。
だ、だってさ? 私ってなんか知んないけど、多方面から残念とかって疑いを掛けられてるワケじゃない? こないだも小町ちゃんにバレてたし。
……やだ! バレてないから私残念じゃないから! リアルが充実しまくってるトップカースト女子ですけどなにか?
だからせめて比企谷先輩にはバレ……ん! んん! 誤解、ご・か・い! されたくなかったのに、寝起きバズーカ食らったレベルの爆発頭とか、寝あととヨダレあとの付いたノンメイクな寝起き顔とか、ブラもパンツも散らかってる部屋の惨状とか見られちゃうなんて、比企谷先輩にはせっかく隠してたのにバレちゃうじゃんかー!
え? 手遅れ? なにがー?
とまぁそんなとっても気まずいムード満点で始まりました今回のバレンタイン物語!
はてさてこの二人の恋の行方は、いったいどうなりますことやら?
なんて、脳内ナレーション(CV香織)して現実逃避でもしてないと恥ずかしいんだよぅ……!
× × ×
「……な、なんかすまんな。小町に家堀んち行ってこいって命令受けたから、てっきり家堀には連絡行ってるもんかと思ってたわ」
──あのラッキースケベのあと、私は全速力でスマホを手に取り、小町ちゃんからのメッセージ、
[そろそろお兄ちゃんお届けできました!? えへ、小町からのサプライズバレンタインプレゼントです☆ あ! これは小町的に超ポイント高いっ]
を確認後、即スマホをベッドに叩きつけ、光の早さで散らかった部屋を片付けて(てゆーか単に全部押し入れにブチ込んで)、あれだけ悩んだ服も適当に見繕って先輩を速攻で部屋に引き入れた。
なんでそんなに無理に急ぐんだって? そりゃそうでしょ。先輩とママンを二人にさせとくなんて不幸な未来しか見えないからに決まってんじゃん! あのアホな母じゃ、比企谷先輩になに口走るか分かったもんじゃないものっ……!
とりあえず自室への連れ込みに無事成功した私は、寝癖と顔をこれ以上見られないようにパーカーを深く深く被って部屋を飛び出し、洗面所で最低限の身だしなみを整えてからこうして比企谷先輩と相対しております。
「いえいえいえ! そ、そりゃビックリはしましたけどもっ……! で、でもお忙しいとこわざわざ来ていただいたんですから、ちょっと痴態を晒すくらい安いもんです!」
痴態を晒しちゃいかんだろ……なんて思いながらも、ドンッ! って効果音が響いちゃいそうなくらいに強がって胸を張ったんだけど、先輩がその胸を一瞥して目を逸らしたもんだから、「はうぅ……!」と慌てて両手で抱き抱えるようにして胸を隠す私。
私がはうぅとか、ちょっと萌えっ娘みたいで萌えちゃわない?
……え、えっとぉ…………え? も、もしかしてこの人全部見ちゃってね? 香織ちゃんの豆柴先生見ちゃってね?
ねぇ知ってる〜? 男性の乳首って、赤ちゃんに母乳をあげるって存在理由がある女性のと違って、なんの存在理由もないんだって〜。どうでもいいわ。
……てことは当然の事ながら、先輩の意識はあの一部分に全力で集中してただろうから、爆発頭も部屋の惨状も見られてないんじゃね? おっしラッキーラッキー。
…………って、ラッキーなわけあるかぁぁいっ!
うぅ……恥ずかすぃ〜よぅ! でも実際どこまで見られちゃったかなんてとてもじゃないけど聞けないし……、うん。まぁ恥ずかしいけどこのまま知らないままの方がお互い幸せかも知んないし、乳問題はここまでということでっ……!
しっかし……ひぇぇ! こ、この気まずい状況でなに話せばいいのぉ!?
そもそも私の部屋で比企谷先輩と二人っきりって状況からして異常事態なのに、なにせコレ、あのクリスマス以来の再会だかんね……?
なんかもうパニックになってあわあわしていると、この空気をなんとかしようと頑張ってくれたのか、まさかの比企谷先輩の方から声を掛けてきてくれた。
「……しっかし、あれだな。……すげぇ母ちゃんだな」
「はへ?」
いくら先輩からの突然の問い掛けにビックリしたとはいえ、アホ面さらしてはへ? はないでしょ私……
「あ、いや、見た目はすげぇ綺麗なのに、口を開くと、なんつーかパワフルっつーか残ね……ギャップがあるっつーか」
ちょっといま残念て言い掛けましたよねあなた。
やめて!? 『え? あれ? こいつモロ遺伝じゃね?』みたいな目で私を見ないで!
「……あ、あはは〜、よく言われますぅ……な、なーんでしょーかね、あの母親……! ぜんっぜん私に似てないですよねー」
「……いや、そっくりだろ……」
「」
なんだよやっぱ残念なんじゃん私。ついに自覚しちゃったよ。
ま、まぁそれはそれとして、おかげさまでようやく落ち着きましたよ私。
ありがとうママン。こんなに残念な子に産んでくれて☆
と、落ち着いたところで、まだ今日言えていない……ってか言わなきゃいけないことを早速伝えねば!
「えと……きょ、今日はその、ホントに一番大変な時だというのに、わざわざお越しいただきありがとうございますっ」
そう。受験生様にわざわざ来ていただいたというのに、お見苦しいモノ見せつけ事件のどさくさに紛れて、こんな大切なことさえもまだお伝え出来ていなかったのだ。……くっ、不覚!
「お、おう。……ま、小町に言われた以上は来ないわけにはいかんからな。……それにあれだ、ぶっちゃけ受験自体は結構余裕があってな。ちょっとした息抜きだから気にすんな」
……ふふっ、やっぱこういうとこだよなぁ、この人の良いトコ。そして私が好きなトコは。自分が一番大変なくせに、相手に心の負担を与えないようにしてくれる。しかもナチュラルなあざとさで。
ホントずるい。
「えへへ、はいっ。じゃあ気にしません!」
だったら私はその優しさに素直に応えちゃうのだ! ここでこのぶっきらぼうな優しさを素直に受け取らないのは、この人に対して無粋ってもんだぜ!
「おう」
ね、これで正解なのですよ。この優しい笑顔での「おう」がソースです♪
「っと……んじゃ今日来ていただいた理由なんですけど……って、今さら説明するまでも無いですよねー。ふふふ、例の甘ぁいブツ持ってきますんで、ちょっと待っててもらえますか?」
「……よ、よく分からんが、とりあえず了解した……」
ひひ、どうせなにを持って来るのかなんて分かってるくせに〜! そうやってトボけていられんのも今のうちなんだかんね?
うし! ちょっと調子でてきたぞっ。
「じゃ、ちょっと待っててくださいねっ」
そう言って、私は先輩を一人残して部屋を出る。てかさっきも身だしなみ整える為に部屋に残してきたから、本日早くも二回目の置き去りか。
うふふ、比企谷先輩ってば、主の居ない女の子の部屋でどんな気持ちで待ってるんだろな? 私の枕とかベッドに顔うずめてクンカクンカしちゃったっていいのよ? やべぇ、隠しカメラプリーズぅ!!
× × ×
ゆうべ可愛くラッピングした箱を冷蔵庫から引っ張りだす。
ふむ……まさかウチでチョコあげることになるとは思わなかったからこんなに可愛くラッピングしたけど、どうしよ? これはお皿に出して渡すべきかな?
いや、でもムード的なことを考えたら、やっぱ箱のまま渡した方がいーよね。お茶淹れてフォークだけ持ってこっと。
先輩はMAX大好きっ子とは言っても、甘い甘いチョコケーキを食べるのにさすがにアレは問題外だから美味しい紅茶でも淹れよう!
なんてウキウキ気分でお湯を沸かしてる脇では、お母たまがニヤニヤとテーブルに頬杖をついていらっしゃいます。超ウザい。
「へぇ〜、あれが噂の先輩くんかぁ〜! へぇ〜」
「……」
「へぇ〜、あれが噂の先輩くんかぁ〜! へぇ〜」
「……」
「へぇ〜、あれが噂の先輩くんかぁ〜! へぇ〜」
なんなの? 壊れちゃったの? 壊れかけのレディオなのん?
「……ねぇねぇあなたさ、さっきあんなとんでもないことしでかしてくれたくせに、なんでそんなにニヤニヤしてるんですかね……」
「ま、大好きな彼にちょっとおっぱい見られちゃったくらい、なんてことないじゃなーい! むしろチャンス?」
いやいやガッツポーズしてる場合じゃないからね? なんのチャンスだよママン。
「ふふっ、それにしてもさすが私の娘よねー。いい趣味してんじゃない、香織ってば〜!」
「……へ? い、いい趣味……!?」
いい趣味って比企谷先輩のこと!?
「比企谷先輩っていい趣味なの!?」
「いやいや香織さん。……あんた自分の好きな男の子になんて言い草なのよ……」
や、やー、そりゃそうなんですけどもね……? ぶっちゃけ趣味がいいとか言われるとは思わなかったよ。
だって先輩の魅力は外側じゃなくて内にあるんだもん。それを知らない人からしたら、とてもじゃないけどいい趣味とか思えなくない?
「……いや、だって比企谷先輩ってあんなんだよ? 目はどんよりしてるし猫背でダルそうだし。……こう言っちゃなんだけど、学校では結構評判よくないんだよ? だから私てっきり変わった趣味してるわね、とか言われるもんかと思ってた」
まぁ私の周りにはその変わった趣味の美少女が何人か居ますけどね?
「ふむふむ。まぁ普通の高校生程度の小娘には分かんないんだろうね〜、ああいう子の魅力って。だからこそいい趣味してるって言ったのよ?」
うっそ、先輩って年増キラーの素質でもあるの!?
いや、それじゃ私たちも年増になっちゃうじゃん。
「ああいったタイプはね〜、歳を増すごとに段々と魅力的になってくもんなのよぉ? 高校生にしては疲れきってる目なんかも、もともと整ってる顔立ちとあの落ち着いた立ち居振る舞いと相まって、今にクールで格好良いとか言われだすんだから〜」
「マジ!?」
「そ、マジマジ。気を付けなさ〜い? 先輩くん、社会人くらいになったらモテモテになっちゃうかもよ?」
うっそーん? あの先輩がぁ?
い、いや、でも確かに比企谷先輩に惹かれてる女の子たちは、高校生女子にしては大人な中身してるかも……!
え? 由比ヶ浜先輩? ……あ、先輩って子供にも好かれるタイプよね!
「ふふふ、だから香織?」
母は不敵な笑みを漏らしたかと思うと、キラッと歯を光らせて、全力でグッとサムズアップ。
「今のうちに先輩くんゲットだぜ!?」
「…………あ、うん」
悲しいけど、これ母親なのよね……
その後もお茶を淹れてる最中さんざんちょっかい出してくるお母さんを適当にあしらいつつ、私はトレイに箱と紅茶とフォークを乗せて、意気揚々と自室へと伸びる階段を上っていくのだった。
よぅし! 比企谷先輩ゲットだぜ!?
× × ×
「お待たせしましたっ」
「……おう」
ドアを開けた私を、比企谷先輩は頬を染めて可愛くキョドって出迎えてくれる。
おんやぁ? なにをそんなにキョドってるのかね比企谷君。もしかしてマジでクンカってたぁ? それとも下着漁りでもしちゃってたのかなぁ?
ふふ、しょうがないよね、先輩だって男の子だもの。
ちっきしょー! やっぱ隠しカメラ必須だよこのシチュエーション!
ま、実際はずっと悶々と部屋を見回してただけだろうけども。でもそれはそれで可愛くて愛おしいから、やっぱ盗撮映像プリーズ。
「よいしょっ」
そんな妄想盗撮映像に悶えつつも私は腰をかけた。床のクッションではなくベッドに。
そして膝の上にトレイを置いて、ポンポンと隣を叩く。
「先輩先輩っ、こっちへどうぞ!」
「は? あ、いや、俺はこっちで大丈夫だ」
「先輩先輩っ、こっちへどうぞ!」
「いやだから」
「先輩先輩っ、こっちへどうぞ!」
つい先ほど師匠より直伝されたばかりの奥義“壊れかけのレディオ”を繰り出して、私の隣に先輩を誘う。
なんかさー、あのクリスマスの夜と一緒で、さんざん恥かいたあとってのは、どうやらその瞬間だけは肝が座るらしい。
二人っきりの狭い部屋で並んでベッドに座るとか、ホントなら超恥ずかしいんだけどね〜。
だってだって! そのまま押し倒されてぐふふ……こほん。
そ、そんなシチュエーションだって起きちゃう可能性だってなきにしもあらずなワケじゃない? まぁもちろんそうなったらそうなったでカモンベイベーばっちこいですけども!
でも今日は不思議と勇気が湧きまくっている。この程度の恥ずかしさくらいどうということはないのだ!
これはあれかな? クライマーズハイってやつかな?
だから告って玉砕したあとに好き好きオーラ出しまくって攻めまくったように、せっかくこうして麻痺ってるんだから、それに乗じて攻めまくってやるぜー!
「……はぁ……わぁったよ」
渋々といった感じで私の要求にようやく折れた比企谷先輩は、私がポンポンしてる場所から一人分ほど間を開けてベッドに腰かけた。まぁもちろん即座に距離詰めちゃいましたけどね♪
うっわぁ……私のベッドで先輩と肩寄せ合ってるよ……!
触れてる腕から先輩の体温がじんわりと伝わってくる。ふんわりと漂ってくる先輩の匂いが鼻腔をくすぐってくる。
…………あ、これはあかん。クライマーズハイ終了。早いな!
でもでも、もうちょっとだけ勇気よ保ってくれ! 今日は比企谷先輩に、本気の気持ちを伝えたいんだ……!
「……比企谷先輩、これ、どうぞ……!」
真っ赤になってそっぽを向いてる先輩にラッピングされた箱を手渡す私。
チョコ渡す時って、普通は告白したあとに渡すものなんだろうけど、好きって気持ちはもう伝えてあるし、今日はこっちが先。
「……お、おう、さんきゅ。えと……また作ってくれたんだな……」
「……へへ〜、今年は超頑張っちゃいました! 去年のとは違うのだよ! 去年のとは!」
「はいはいザクとは違うのね。……でもまぁ、去年のも、すげぇ美味かったぞ? ……なんつーか、家族以外からの人生初のチョコだったし……」
「……う……ありがとう、です」
照れ隠しのランバ・ラル大尉をサラッと流したくせに、さらに必殺の追い打ちをかけてくる姿はまさに千葉の白いヤツ。
ぐぬぬ……なんて破壊力だ! 大尉のグフじゃ火力不足だぜ……!
「……ぐぅ……と、とりあえず開けてみてくださいよ……超美味しいですから」
なんすかねこの甘いムード。チョコケーキ渡すまでもなく甘々だよ!
ひぃやぁぁ……なんかもう恥ずかしいよぅ……
「……うす。じゃあ失礼します……」
そうしてようやくラッピングに手を伸ばす比企谷先輩。
リボンをほどくシュルッという音、包装紙を剥がすガサゴソとした音が部屋に鳴り響く度に、私の鼓動も鳴り響く。
ふぇぇ……な、なんだこれ!? 超緊張する〜……! あんなに自信があったチョコケーキだけど、今はもうそんな自信はどこかに消失しちゃってる。
「おお……美味そう」
気に入ってもらえるかな? 喜んでもらえるかな? そんな不安な気持ちに支配されかけてた私のチキンハートだけれど、パカッと箱を開いた音と同時に先輩の口から漏れ出たその音に、心臓は緊張と喜びで跳ね躍る。ああ、やっぱ幸せだわ、こういうの。
「ひひ、美味しそうじゃなくて美味しいんですよ。それはもう尋常じゃなくっ」
「……すげぇな、お前ハードル上げまくってっけど大丈夫か?」
「ノープロブレムです! だって、超美味しくなるように、あるものをたっぷり入れちゃいましたからっ」
…………ん? あれ?
なんかこの光景、ついさっき見たぞ?
特に深く考えもせずに自然と放った私のセリフ。つまり“あるものをたっぷり入れちゃいました”。
なんかこれさ、アレじゃね……? 正夢的な……?
──ここ最近、どうやら私は世間でフラグ立て名人の称号を賜っているらしい。世間ってどの辺だよ。
しかし皆さんはお気付きだろうか? そんな名人な私は、実はこのたったの一晩で、常時ではそう簡単に回収出来ないような高難易度のフラグを、すでにいくつか見事に回収しているということを。
[CASE1]
……うん、いずれね。いつかは会わせてあげたいな。あんたの娘にそんな顔をさせるようになった、素敵な素敵な男の子を。
[結果]
いやんいつかもなにも翌日会っちゃった!
[CASE2]
いつかはこの我ながら結構綺麗な柔肌を、比企谷先輩に隠すことなく隅々まで全部見せることになるのかな〜ぐへへぇ
[結果]
いやんさっき見られちゃった☆
……我ながら見事である(白目)
もっと簡単なフラグならまだしも、普通に生活してたらまぁまず起こらないようなこんなシチュエーションのフラグを、こうもいとも容易く回収するあたり、職人気質まで感じられるほどの見事な名人芸である(吐血)
とまぁそんな私だからこそ、さっきの夢だって見事に回収しちゃうんじゃね!?
つまり! なにが言いたいのかといいますと!
「……あるものってなんだ?」
「ふふっ、まずは食べてみてください! ……で、ではでは失礼しましてー、よっ……と。……は、はい、比企谷先輩っ……あ、あーん」
キタ! これキマした! 魅惑のあーんタイム来ちゃいましたよコレ!
普段なら絶対にあーんなんかに応じないであろう比企谷先輩だって、この甘い空気とセカイの強制力には逆らえませんて!
フゥハハハ! さあ食べるがよい比企谷君! あーんするがよいぞ!
「いや自分で食うから」
「アウチっ!」
なんでたよ強制力!? なんでこういう時だけ働かないんだよ!?
……でもまだ負けない! あっさり拒否られた私は、俯きながらどす黒いオーラを発し、取って置きの一言をぼそりと呟いてやった。
「……見たくせに……」
具体的に何を見たかなんて言わないのがポイント。いや、ただ恥ずかしくて言えないだけなんだけどね。
「……ぐっ」
そう。全てはこの時の為の餌だった。
寝坊したのも胸をはだけさせてたのも見られちゃったのも、全部全部私の作戦。計算通り。これこそがセカイの強制力(大嘘)
……でもただの偶然だって、それは運命であり必然なのだ!
あーんの為に私のおっぱいは犠牲となったのだ!
「……比企谷先輩、あ、あーん!」
私からの二度目のあーんに、比企谷先輩は観念したかのようにゆっくりと口を開ける。
もちろん先輩の目は私の目と一切合わない。めっちゃ泳ぎまくってる。
ま、まぁ私も絶賛泳ぎまくってますけども。
「あ、あーん……」
もじもじと可愛く開いた口に、震える手でなんとかケーキを押し込み、ゆっくりと引き抜く。
や、やべぇ……引き抜いたフォークに少しだけこびり付いたケーキの残骸とかがやけにリアル。だ、だって、この残骸に比企谷先輩エキスとか混ざってんだぜ? ハァハァ不可避。完全に変態の目である。
「ど、どうでしょう……?」
じっくりともきゅもきゅ咀嚼する比企谷先輩と使用済みフォークを交互に見つめつつ、私は心臓バクバクでお伺いをたてる。
神様! どうかお口に合いますように!
「……すげぇ美味ぇ」
「!? ……マジですか……?」
「……おう。マジ」
…………やったぁぁぁぁ! 比企谷先輩が美味しいって言ってくれたよおかーさーん!
あの捻デレ先輩が、『悪くない』とか『まぁ、いいんじゃねーの?』とかじゃなくって、『すげぇ美味い』って言ってくれたぁ! どうしよう超嬉しいよぅ!
これだから料理はやめらんないよねっ……うぅ……ちょっと泣きそう……
「うう"〜……よがったよぅ……」
「いやいや泣くなよ……」
「な、泣くわけないじゃないですか……! ちょ、ちょっと安心して目にゴミが入っちゃっただけですっ……」
……安心して目にゴミが入ったってどんな状況だよ……支離滅裂すぎだろ私。
や、やー、私ってばなんだかんだ言って、意外と緊張してたんだな。実はあーんのくだりとかも、ケーキの出来の不安を誤魔化す為のものだったりしてね。
あんなにずっと練習してたから、あんなに自信あったはずのにね。先輩の言葉にすっごい安心しちゃった。
比企谷先輩は、胸を撫で下ろしてホッとしている私を、呆れたような苦笑いで優しく見つめてくれてる。
チラッと横目で先輩を見るとばっちりと目が合ってしまい、先輩は顔ごとぷいっと逸らすと頭をがしがしと掻きはじめた。
「……いや、なんだ。マジ美味い。……で、あれだ。さっき言ってたたっぷり入れたものってのはなんだ……? ナッツとかのことか……?」
目が合っちゃった照れ隠しなのか私がめちゃくちゃ喜んだことに対しての照れ隠しなのか、そっぽを向きながら先ほどのクイズの答えを要求してくる先輩。
ふふふ、だったら答えてやらねばなるまいね!
「……まぁナッツも美味しい要素のひとつではありますけど、さっきの答えとは違いますよ? ……正解は」
そして私はニヤリと悪戯顔でこう答えてやるのだ。もちろん越後製菓ではないのよ?
「……愛情ですっ♪」
お、おう……そうか……とさらに赤面した比企谷先輩に向けて私は…………
これから本気の想いを告げる。ラノベの丸パクリなんかじゃない、自分の気持ちを、自分の言葉で。
もうギャグパートはここまでなんだからね! ここからはシリアスパートで頑張っちゃうよぉ?
ギャグパートってなんだよ。私はいつだって一生懸命なんだから☆
続く
ついにお約束通りの後編となりましたがありがとうございました(*> U <*)
……え?全然終わってねーじゃねぇかって?
だって、次はエピローグが待ってますから。
(完全にエピローグの使い方をまちがっている)
『あなたとの繋がりはこのラノベの香りだけ』
から始まり、予想外に長い物語となりましたこの香織SSですが(普通に長編で良かったね!)、次回でついに大団円となります♪
香織に幸あれ☆