八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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美しきぼっちの姫の初恋は、格好悪いぼっちヒーロー

 

 

 

「鶴見さん!好きです!付き合ってください……!」

 

 

「ごめんなさい。私あなたのこと知らないし興味ないから」

 

 

 

……なんだか中学に上がってから、こういうことが多くなった。

 

女子はほとんど話し掛けてこないのに、男子から声を掛けられたかと思ったらこんなんばっか。

 

「バッカみたい……」

 

私、鶴見留美は、名前も知らない男子に呼び出されて告られたあと、教室に荷物を取りに戻る為に廊下を歩きながらぼそりとそう呟いた。

 

 

私は男子なんて大嫌い。バカでガキで軽薄で。

私に告白してくるような男子って本当にガキ。

全然喋った事も無いのに、何が好きなの?

見た目が好みってだけなのは好きって言えるの?

 

 

そもそも私は恋愛なんかに興味ないし。

同性とも上手くやれないのに、異性となんか上手くやれるわけないじゃん。

だから私は男になんかこれっぽっちも興味はない。

 

 

私が唯一興味があるのは、目の淀んだ格好悪いぼっちのヒーローだけ。

ただ憧れてるだけで、好きとかそういうんじゃ決して無いけど。

第一、歳が離れすぎてるし……。

 

「あっ!鶴見さーん!お疲れー!また振っちゃったの?入学してから何人目!?」

 

「あ、小野寺さん。……もう。からかわないでよ」

 

 

この子は小野寺さん。

中学に入ってから出来た私の唯一の友達。

 

 

私は六年生の時に仲良くしてた子たちからハブられてぼっちになった。

でもそれは自分にも責任がある事だから、別にハブってきた子たちに恨みとかそういうのは全然無い。

 

でもそれ以来、他人と関わるのが面倒くさくなっちゃって、一人で何でも出来るように努力して一人で生きていこうと決めていた。

 

そんな時に出会ったのが小野寺さん。

この子も他の子たちとはなんか違うなって直感があって、この子も私にそれを感じ取ったみたい。

やっぱり小野寺さんも私と境遇が似ていて、私達はお互いに唯一の友達となった。

 

それでも前の経験から、信じたり信じられたりするのがちょっと恐いんだけど、この子とならなんとか上手くやっていけそうな気がする。

 

「ホント男なんてバッカみたい。全然興味ないし大っ嫌い」

 

「へへん!嘘ばっかー!だって明日の放課後、憧れのヒーローに会いに行くんでしょー?」

 

「……!えっと……あいつは別。……男とかそんなの関係なくて、ただ憧れてるだけだもん」

 

「そっかそっかー!じゃあなんかあったらまた教えてね!んじゃ帰ろっか?」

 

「うん」

 

 

そうなんだ。私は明日、ようやくあいつに会う決心をしたのだ。

 

 

私は少しは強くなれたと思う。一人でも生きていけるくらいに色んな努力をした。

そして……一人だけだけど友達も出来た。

 

だから、これでようやくあいつに会いに行ける。

あいつにありがとうって言えるんだ……!

 

 

× × ×

 

 

翌日の放課後、私は総武高校という高校の校門の前であいつを待っていた。

 

中学生になってから初めて知ったんだけど、総武高校ってすごい進学校らしい。

あいつ……頭よかったんだ。なんかムカつく……私ももっと頑張んないと……!

 

 

私はあいつを絶対に見逃しちゃわないように、校門から出てくる男子生徒をキョロキョロと見ていた。

 

んー……やっぱりすごく視線を感じるなぁ……。

そりゃ中学生が校門の所で男子をキョロキョロ見回してたら異質だよね。

 

 

ちょっと居心地悪いけど仕方ないよね。あいつがいつ出てくるか分からないんだもん。

 

 

すると、自転車を押しながらどこか見覚えのある猫背の男子が出て来るのが視界に入ってきた。

その男子もチラリと私に視線を寄越すと、またプイッと向こうを向いてしてしまった。

 

……あれ?違うのかな……いや、そんなはずない!私があいつを見間違えるわけないもん。

少し近付いてジーっと見てると、なんだかばつが悪そうな顔して行っちゃおうとした。

 

間違いない!やっぱり私のヒーローだ!私はドキドキして逸る気持ちを押さえながら、逃がさないように駆け寄った……!

 

 

「八幡!」

 

そう名前を呼ぶと、八幡はすっごくびっくりした表情で私をまじまじと見た。

 

「お前、ルミルミか……?」

 

むっ!クリスマス以来の再開なのに、第一声がルミルミなの!?

八幡にルミルミって言われるのはなんだか嫌い。

 

「だからルミルミっていうの、キモい」

 

私が不機嫌にそう伝えると、八幡は苦笑いしながらも私を迎え入れてくれた……。

 

 

× × ×

 

 

「ほいよ」

 

「ありがと」

 

私と八幡は、高校から少し離れたところにある公園に来ていた。

八幡は私をベンチに座らせて待たせておくと、近くの自動販売機で飲み物を買ってきてくれた。

 

コレってMAXコーヒーってやつだ……。

八幡てこんなの好きなんだ。私のこと子供扱いするくせに自分だって子供じゃん……。

 

缶を開けて飲んでみる。……あっまい……。

 

 

「んで?今日はどうしたんだ?」

 

一息つくと、八幡が早速訊ねてきた。そりゃ急に来たらびっくりするよね。

 

「八幡……。ごめんね。本当はもっと早く会いに来たかったんだけど、ちゃんと自分の事は自分で出来るようになるまでは会いにこないように決めてたの」

 

そう。私はずっと八幡に会いたかったの。

林間学校の後は諦めてたけど、クリスマスで奇跡の再会をはたしてからは、ず〜っと会いたかった。

 

「ん?なんで謝るんだ?謝られるような事をした覚えはないぞ」

 

「私ね、八幡にずっとありがとうって伝えたかったの。林間学校の時もクリスマスの時も言えなかったから」

 

「俺はお前に礼なんて言われるような立場じゃねえよ」

 

……むっ!

 

「おい、聞いてるか?」

 

八幡はなんで私が怒ってるのか気付いてない。

前に会った時、あんなに注意したのに……!

ホント八幡ってばか。

 

「……お前じゃない。……留美」

 

「お、おう悪い……。えっと留美」

 

「……ん」

 

うん……。留美って呼ばれるのはなんか嬉しい……かも……。

でもちょっとだけドキドキする……。

 

「だ、だから俺は留美にお礼を言われるような…」

 

八幡はそう言い掛けたけど、途中で遮ってやった。

だって……まずは私の気持ちを聞いてよ。

 

「それは違うの。八幡の言いたいこと、確かに分かる。でもそれは八幡の問題で、私は八幡にありがとうって言いたかったの」

 

私の真剣な声に、今度は真剣にちゃんと耳を傾けてくれた。

だからそんな八幡に、私は思いの丈を語った。

 

「確かに八幡のしたやり方は最悪。小学生の女の子を怖がらせてバラバラにさせるなんて、本当に最低。……でもね、でもそのおかげで私は惨めな思いをしなくなった。結局あのあとも一人だったけど、もう惨めさは感じなくなれたの……。だからこれからは一人でなんでも出来るようになりたくて頑張った。勉強も、運動も。そしたらもっと惨めさなんか感じなくなった。私も八幡みたいになれた」

 

自分が少しでも八幡みたいになれたって思える事が、なんだかすごく嬉しい……。八幡はちょっと困惑気味だったけど。

 

どうせ俺みたいになっちゃダメだろ……とかって思ってるんでしょ?

 

八幡なんて単純だから、すぐに分かっちゃうんだから。

でも私が嬉しいんだからそれでいいの!

 

「そしたらね、私、中学生になってから友達が出来たの。一人で出来るようになったから。自信もてたから。ホントはいつまた裏切るかも、裏切られるかもって怖くて、まだそこまで踏み込めてないんだけど、でもその子も私と同じような境遇でね。その子となら本当の友達になれそう……。だからもっと惨めじゃなくなるの」

 

自分の気持ちを話しきると、八幡はとっても優しい笑顔でポンポンって、優しく頭を撫でてくれた……。

 

「そっか……。良かったな」

 

「……うん。……だからありがと」

 

すごく嬉しいのに、なんか八幡の顔が見れない……。

熱い……たぶん顔が真っ赤になってる。なんだろ?これ……。

 

私は恥ずかしくて顔をあげる事が出来ず、ただコクンと頷いた。

 

 

× × ×

 

 

私が恥ずかしくて俯いていると、八幡も何も言わずに黙ってしまった。

 

どうしたんだろ?

八幡に見られちゃわないように、少しだけ……ほんのちょっとだけチラリと覗き込んでみた。

 

 

「八幡……?どうしたの?」

 

とっても難しい顔してたから、恥ずかしいのも忘れて思わず聞いちゃった。だって……なんか心配になっちゃったんだもん。

 

「いや、なんでもねえよ……留美、ありがとな」

 

するとなぜだか急に憑き物でも取れたかのように、とってもいい表情になって私にお礼を言ってくれた。

私はキョトンとして八幡を見つめる。

 

「?……なんで八幡がお礼を言うの?」

 

私がお礼を言いに来たのに、八幡がお礼を言う意味が分かんない。………でも、

 

「……でもなんかいい顔になったし、まあいっか」

 

たぶん八幡はまたなんか悩みを抱えてるんだろうな。それも自分の悩みじゃなくって他人の悩み。

私を助けてくれた時とおんなじように。

 

でも今はとってもいい顔になって、なんでか私にお礼を言ってくれた……。

良く分かんないけど、私も八幡の役に立てたのかな……

 

 

× × ×

 

 

やっぱり八幡は私が知ってる人たちとは全然違う。こうして話してると良く分かる。

なんだかとっても楽しくて嬉しくて……だからちょっと切なくなる……。

 

私は思わず溜め息をついてしまった。

 

「どうかしたのか?」

 

八幡が心配そうに私の顔を覗き込んできた。

だってさ……

 

「だって……私、八幡と歳が離れすぎてるんだもん。八幡と一緒の学校に通えたら、つまんない学校も少しは楽しくなるかもしれないのに、私が高校生になるころには八幡は大学生だし、私が大学生になるころには社会人」

 

 

 

まだ小学生の頃も中学生になってからもずっと思ってた。

八幡と一緒に学校に通えたら楽しいだろうな……って。

 

他には誰も居なくても、たぶん八幡が居てくれればそれだけでなんにも問題ない気がする……。

 

 

「あのな、留美……。それはいくらなんでも恥ずかしいんだが…」

 

八幡はなんか照れくさそうに缶コーヒーを口につけた。

私は今ふと頭を過った希望的観測を八幡に伝えてみる。

 

「ねえ、八幡」

 

「ん?」

 

「留年してよ」

 

「ブフォッ!」

 

もう!きたないなぁ。八幡てばコーヒー吹き出さないでよっ!やっぱり八幡て子供。

えっと……ハンカチハンカチ……。

 

「ゴハッ!ゴホッ!おま、急になんてこと良いやがんだよ!死ぬかと思ったわ!大体何回留年すりゃいいんだよ……」

 

「だってつまんないんだもん」

 

さすがに無理かぁ……。当たり前だよね。

でもそうすれば八幡と一緒に居れると思ったんだもん……。

 

……一緒、に?

だったら別に同じ学校に通わなくても、一緒に居れるの……かな……?

 

「うーん……でもなぁ……私が大学生になるころには…うーん」

 

……どうなんだろう。でもこれなら……。

ちょっと恥ずかしいけど、思い切って聞いてみよう!

「ねぇ、八幡ってさ……彼女いるの?」

 

「ブハァッ!……ゴホッ!な!なんだよ急に……。まぁ別に居ねえけど」

 

また吹き出しちゃった……。コーヒー無くなっちゃうよ?

また八幡にハンカチを渡してあげた。

 

でも良かった!彼女居ないんだ……

なんだか自分でもすっごくテンションが上がっちゃてるのが分かる。

 

「そりゃ八幡なんかに彼女なんて居るわけないよね」

 

そう……この方法があるんだ。八幡と私は男と女なんだもん。

全然変な事じゃ……ないよね……

 

 

「…………だったらさ、私が高校生とか大学生になってもまだ彼女いないんだったら、私が彼女になってあげる……」

 

勢いで言っちゃってから、すっごい顔が熱くなってきちゃった……!

でも……別に八幡が恋愛対象とかって言ってるわけじゃないもん!

 

「お、おい……」

 

「だってさ、八幡なんてずっとぼっちでしょ?で、私だっていつまたぼっちになっちゃうか分かんない。……でもぼっち同士でも二人になればぼっちじゃなくなる……。だから仕方ないから、私が可哀想な八幡を引き受けてあげる……」

 

そう!これは可哀想な八幡に、私がしてあげられるお礼であり、ぼっち同士の義務みたいなもん……。

 

仕方ないから私が八幡をもらってあげる……!

 

真っ赤になった私をなんとも言えない苦笑いで見ると、また頭をポンポンって、撫でてくれた。

 

 

「ありがとな、ルミルミ。ルミルミに余計なお手数かけないように頑張って彼女作るわ」

 

「ルミルミゆーなっ!………それに、別にそんなに無理して頑張んないでもいいし……」

 

もう!八幡てホントばか。私がもらってあげるって言ってるんだから、彼女なんて作んなくてもいーのっ!

彼女が出来た八幡を想像したらなんかムカつくし……!

 

 

それにやっぱり八幡にルミルミって言われるのは嫌い。

私は八幡と対等で居たいのに、なんだか子供扱いされてるみたいだから……。

 

 

× × ×

 

 

その後もちょっと話してたら結構遅くなっちゃって、八幡は家の近くまで送ってくれた。

「ありがと……。もうすぐそこだから、ここまででいい」

 

「おう。そうか」

 

八幡と離れるのはなんか辛い。もっと一緒に居れたらいーのに……。

 

私は駆け出しながらいい事を思いついた。

またこうやって八幡と会える口実を作ろう!

 

家のすぐ近くの角まで来たところで、私はくるりと八幡に向き直った。

 

 

「八幡!また会いに行くから、その時はあんな甘ったるい缶コーヒーじゃなくて、パフェとかおごってよ」

 

言っちゃったあとにすごく緊張してきた……。

八幡めんどくさがりだから断られちゃったらどうしよう……。

 

でも八幡は……優しく頷いてくれた。

 

「おう、パフェくらいいくらでもおごってやるぞ」

 

「うん!やくそく!」

 

 

やった!やった!八幡とまた絶対に会える約束を取り付けた!

 

私は嬉しくって、八幡が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

 

× × ×

 

 

夕ご飯を食べてお風呂に入って、パジャマに着替えて自分の部屋に戻る。

 

 

部屋のドアを開けてすぐ目に飛び込んできたのは、机の上に大事に置いといた黄色と黒の派手な空き缶。

私はその空き缶を手に取るとベッドにちょこんと座り、もう片方の手で今日二回も撫でて貰った頭をそっと撫でてみた。

 

「えへへ……」

 

なんだろう?すっごく嬉しくって、すっごくドキドキして、すっごく暖かい……。

なんか変なの。バッカみたい……。

 

「そうだ!」

 

私は貯金箱を開けた。

よし!これだけあれば八幡とあそこに行けるっ!

 

 

「さっきあんなに話したばっかりなのに、早く会いたいな……へへぇっ」

 

 

私は空き缶を胸に抱き、なんだかベッドの上をごろごろと転がっていた。

 

 

 

そんな時、ふと壁ぎわに置いてある姿見に映りこんだ自分の顔が見えてしまった。

 

 

「なに……このだらしない顔……キモい」

 

 

そこに映った私の顔は、どうしようもなく緩み切った情けないゆるゆるの笑顔だった……。

 

 

「バッカみたい……っ」

 

 

そう言う私の顔は、さらに緩み切った笑顔になっていた。

 

 

 

 

…………ああ、そっか………私、恋しちゃってたんだ……!……あのぼっちのヒーローに……!

 







今回の物語は、知ってる方は知ってると思いますが、以前書いていた相模SSの鶴見留美回に出したルミルミを、そのままルミルミ視点にしたものです!

なので夕べ二時間弱で書き上げられました(笑)


ずっと待っていたルミルミ回がただの焼き増しかよ!?とご不満な方もおられる事でしょう。


ではなぜ焼き増しにしてまでこの話を使ったのか!?
それは他でもない、この話の続き、つまりはこの後のルミルミが約束を取り付けたデートを書きたかったからに他なりませんつ!

でも、これを見てくださっている方の中には相模SSを読んでない方も居るでしょうし、それなのにいきなりこの回の続編的デート回をぶち込んでもポカン状態の読者様もおられるでしょうから、相模のを読んでなくてもここから入っていけるように、あえてこのストーリーをそのままルミルミ視点に置き換えて更新しました!


というわけで、更新日は未定ではありますが、次回は八幡視点に変更しての中学生ルミルミとのデート回になりますよっ!

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