八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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なんかもう色々おかしいです。
主に作者の頭が。


ゼクシィで行こう!

 

 

 

四月。

俺はちょうど一年前と同じように、新学期早々職員室に呼び出しを食らっていた。

そして目の前で額に血管を浮かばせながら素敵な笑顔で一枚のプリントをヒラヒラさせているこの人物も、ちょうど一年前と変わらない人物なのである。

変わった所と言えば、現国担当から担任へと変わった事くらいか。

 

「比企谷……君はアレか?私を馬鹿にしているのかね……」

 

「いや、そんなつもりは毛頭ないんですが」

 

「ほう。だったらなぜ未だに進路希望調査表に記入するのが専業主夫なんだ」

 

「やはり県内有数の進学校に入った以上、三年にもなればどいつもこいつも勉強に明け暮れて夢も希望もない最後の一年を過ごす訳じゃないですか。こういう時こそ夢を諦めないという姿勢を堂々と胸を張って言えるような、そんな素晴らしい大人に私はなりたい、と思いましてですね……っっっ!」

 

ビュオォォっと頬をなにかが掠めた。

それがなにかは今さら説明するまでもないですよね。

 

「まったく……君はこの一年で随分成長したのかと思っていたのに、根っこはなんにも変わってはいないな」

 

「人間そんな簡単に変われるもんじゃありませんよ。先生だって変わらず生きてきたからこそ未だ独り身なワケじゃないでぶぉっ!!」

 

ブリットォォォとの叫びと共に腹にボウリングの玉でも投げ付けられたかのような鈍く重い痛みを感じた瞬間、俺はそのまま崩れ落ちた……先生……そんなだから……相手……が……………

 

 

× × ×

 

 

「そもそも君はアレだな。専業主夫というものを舐めてはいないかね」

 

……いや、俺うずくまったままなんすけど、そのまま説教が続くんですかね……

 

「昨今は夫婦共働きが常識だ。まぁ旦那の稼ぎだけでは余裕のある生活が出来ないからというのが主な原因なのだろう。つまり、いくら結婚したとしても専業主夫で居られる確率などかなり低いのだよ。ほんの一握りと言えるだろう。つまり専業主夫だなんだとバカな進路希望をいくら語っても、現実的には普通に就職し普通に暮らすよりもよっぽどハードルが高いのだよ」

 

確かに専業主夫が希望の俺ではあるが、なんかここまでまともな返しをされるとつい「ネタにマジレス乙w」とかって頭に浮かんでしまう俺は、専業主夫の夢はまだまだ遠いな……と思いました。

なんだよ俺って心の中では実は専業主夫ってネタだと思ってんのかよ。

 

ブリットの一撃からようやく立ち直るも、このまま真面目な返しが続くのかと思った矢先、いきなり風向きが変わった。

 

「大体この私を見たまえ!私などは専業主婦どころか聖職者として日々真面目に働いているというのに、貰ってくれる相手さえ見つからないんだぞ!?なんなら旦那を養ったっていいくらいの気持ちで着実に社内……いや校内での地位を確立していってるというのに、貰ってくれる相手が見つからないとは一体どういうことだぁっ!!」

 

あっれ〜……?話が逸れまくってなんかキレ始めちゃいましたけどこの人……

 

「つい先日大学時代の友人に言われたのだよ。『えぇ〜っ?静ってそんなに綺麗でそんなに仕事が出来てキャリアウーマンみたいで格好良いのに、なんで彼氏できないのぉっ?わたしなんてぇ、旦那の稼ぎがいいからパートとかする必要もないからぁ、もう毎日ヒマでヒマでぇ!わたしも静みたいに仕事してキラキラしたぁいっ!』……となっ」

 

その友達の物真似なのか知らんが、超あざとい時の一色みたいな喋り方で回想を説明してくれたあと、とてもニッコリした。

だが俺は知っている。次の瞬間般若になるであろう事を。

 

 

「ふざっけるなぁ葉子ぉぉぉ!!お前は大学時代からいつもいつもそうだったなぁ!?サークル活動してれば男とイチャイチャイチャイチャしまくって、合コンやれば直ぐ様お持ち帰りされおってぇぇ!お前みたいのがいるから私にはいつまでもご縁が巡って来ないんだろうがぁぁっ!」

 

すいません……ここ職員室なんですけど。

涙ぐみながら激高する三十路の担任を前に俺は脳内で祈りを捧げた。

 

 

……ああ、もうホント誰か貰ってやってあげてくれよ……こんなんだけどホントいい人なんだよ……

実は超綺麗だし生徒思で格好良いし仕事も一生懸命で稼ぎも良さそうだし…………なんで結婚出来ないんだろうな、この人……このままだとマジで俺が貰う事になりそうで恐えぇよ……てかもう貰っちゃおうかな?おっぱいデカいし美人だしおっぱいデカいし」

 

「ふぇっ……!?」

 

ふぇ?なんだその可愛らしい声は。

どうしたんだ?と平塚先生を見ると、なぜか真っ赤になって頬を両手で押さえていた。

 

「にゃにゃにゃにゃにを言っていりゅんだね比企谷っ!ききき君はあくまでも私の生徒であり私は君の教師なのだぞっ!?そそそそんなふしだらで背徳的な関係になどなれるわけなかろうがぁっ!」

 

え?どうしたのこの人。

なんかワケ分かんない事をすげぇ早口でまくしたててるんですけど……

 

「あ、あの、先生?」

 

「きゃっ!?」

 

き、きゃっ!??

え?マジでどうしちゃったのん?

なに?きゃっ!?って。

 

やべぇどうしよう……椅子に座りながらなんか内股になって、すっげぇモジモジしてんだけど。

 

「も、もういい!き、きょおっ……今日はもう行きたまえっ!」

 

「は、はぁ……」

 

なんだか良く分からないうちに職員室を追い出されてしまった……

ま、助かったからいいか。今日はこのまま帰っかな。いや、雪ノ下さんが恐いからやっぱいかないとマズいですよねー。

そして俺は平素と変わらず部室へと足を向けるのだった。

 

 

× × ×

 

 

あれから数日経ったのだが、どうも様子がおかしい……

HRの時間も平塚先生はなぜか常に頬を染めてモジモジしているし、まったく俺の方を見ようとはしない。

そしてすっかり部活に顔を見せなくなった。

 

俺、あの時なんかやらかしたっけ?

いつまでも専業主夫専業主夫と言ってるから怒っちゃったのか?

それとも勢いで大学の友人とのトラウマをカミングアウトしちゃったから恥ずかしいのん?

でもどっちも今更っちゃ今更なんだよな。

 

そして今日も様子がおかしいままに一日が過ぎていき、部活も終えて帰宅の徒に着こうとしていた時だった。

 

昇降口へと向かう廊下で、なんか前方から視線を感じた。

そちらへ目を向けると、そこには廊下の角に半分身を隠して潤んだ瞳でモジモジしている平塚先生が、ちょいちょいと俺を手招いていた。

 

……え?なにあれ?超行きたくないんですけど……

しかし行かないワケにはいくまい。無視したらどんな説教(肉体的な)が待ってるか分からんからな……

 

「……えっと、なんでしょうか……?」

 

なんか担任のハズなのに、会話するのが久し振りな気がしますね。

 

「す、すまんな……どうしても確認したい事があってな……い、いや、あってね?」

 

なんで言い直した?しかも「あってね?」とか若干キモいんですけど……

 

「ど、どうしました……?」

 

「えっと……その……比企谷?」

 

「は、はい」

 

「……先日言ってたことは、その……ほ、本気……なのか……?」

 

先日言ってたこと?………………………………………………ああ、専業主夫の件か。

いやいやいや、マジで今更だな。俺ずっと言ってましたよね?

いやまぁ確かに先日、俺自身も若干ネタなんじゃね?とか思っちゃいましたけどね?

しかしやはり捨てきれない夢である事なのは間違いないはずなのだ。夢を簡単に捨てるような、そんな大人になんかなりたくないよっ!

 

だからまた怒られるかも知れないが、堂々と胸を張って言ってやろうじゃないか。

 

「もちろん本気ですよ!なにせ俺の本気の夢ですからね!」

 

しん……と静まる返る廊下。

やばいブリットが飛んでくるぅぅ!と恐る恐る平塚先生を見ると…………そこには怒りでは無い違う感情に支配されている先生が、背後にガーン!と見えそうなくらいの表情で立ち尽くしていた。

そして見る見る茹でダコのように頬を赤らめると、先日と同じように内股になってモジモジし始めてしまった。

 

なんかもう意味分からんと引いていると、ようやく先生が口を開いた。

 

 

「………………そ、そうか……君の気持ちは良く分かったよ……さすがに最初はそんな関係になるのはどうかとも思ったのだが……ひっ、比企谷がそこまで言うのなら……夢だとまで言ってくれるのなら……そこまで真剣な気持ちを、わ、私としても無下に扱う事など出来んな……」

 

……そんな関係?一体なんのこと言ってるんだ?

俺が専業主夫になりたいのと、そんな関係ってのは一体どんな繋がりがあるというのか……

 

しかし先生が俺の専業主夫志望を前向きに捉えてくれる日がこようとはな。

 

「えっと……ご理解頂いてありがとうございます。夢に向けて一生懸命頑張りますので」

 

「いっ!一生懸命頑張るのか!?……そ、そうか。夢だものなっ……いつか幸せに出来るように、き、君の頑張りを見ているからなっ」

 

幸せに出来るように?

そうだな。専業主夫として妻を支えて幸せにするのが立派な主夫の役目だからな。

なんかそこまで専業主夫の夢を応援して貰えると、なんだか申し訳なくなっちまうな……でもまぁ見ていてくれる教師が近くに居るってのはとても有り難い事だ。

 

だから俺は平塚先生に言う。思いの丈を心の底から。

 

「はい。夢を叶える姿を先生に見せてやりますよ。(専業主夫として妻を支えて)絶対幸せにします!」

 

「はうんっ……!」

 

いやなんだよはうんって。

マジでどうしちゃったの?この人。

 

「それじゃそろそろ帰りますんで、失礼します」

 

なんかいつまでもこの場に留まるのは危険と判断し、俺は早々に立ち去る事にした。

 

「そ、そうだな。じゃ、じゃあ気を付けて帰るんだぞ…………帰ってね」

 

 

 

なぜかモジモジと帰ってねと言い換える平塚先生を背にしながら、俺はもう道を引き返す事が出来ないんじゃなかろうか?……そんな漠然とした不安にザワザワとした気持ちになるのだった………

 

 

 

続く?

 







ありがとうございました!

ふふふっ……まさか本当に静ちゃんを書いてしまうとはね(白目)……は、はるのんSSとの落差がっ……

これはこれで終わりにしちゃってもいいかも知れないんですけど、もしかした後編に続くかもです!
需要あるのん?



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