八幡と、恋する乙女の恋物語集   作:ぶーちゃん☆

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俺たちの8月8日はこれからだ!(白目)





シュラバ ☆ ラ ☆ 8ン8(バンバ) 【後編】

 

 

 

 ドナドナよろしく、先ほどの金沢さんと同じようにリビングへと連行された結衣さんは、なぜか家主の居ない部屋に居た私と雪乃さん、そして初対面の女の子の姿に酷く動揺しながらも、その疑問を口に出す事すら許されず床に正座している。

 さてと、そろそろ尋問委員会の開始だね。

 

「由比ヶ浜さん。なぜあなたが比企谷くん宅の鍵を持っているのか教えてもらえるかしら」

 

「結衣さん、早く」

 

「二人とも恐いよ!? あたしも聞きたいこと超あるよ!?」

 

「いいから」

 

「早く」

 

 獲物ににじり寄る猛獣のごとく、私と雪乃さんは冷え冷えとした圧を掛けて解答を急がせる。なにせこれは由々しき事態なのだから。

 

 もしも八幡が結衣さんだけに合鍵を渡していたとするならば、その時点で私達の負けはほぼ確定する。八幡への地獄のお仕置きと共に、私達の初恋は幕を閉じる事となるだろう。

 しかし、あの甲斐性無しの八幡が私達に内緒にしたまま誰かとこっそり交際をスタートさせていた──という結論がまずあり得ないであろう事は、先の雪乃さんの件(朝一に八幡の部屋から出てきた)で解が出ていたはず。とてもじゃないけどその線は考えづらい。

 その観点から考えうる解は、八幡が合鍵を渡したわけではなく、結衣さんが無断で作っていたという可能性。こうなると、私達は結衣さんに向けていた目を変えなければならない。こういうの、八幡がたまに読んでる漫画とかラノベなんかによくあるよね。そう。これからはヤンデレ? とかいう危険人物に対する目を彼女に向けなければならなくなるだろう。この人、意外とそういう資質ありそうだし。

 

「ち、違うからね!? 別にヒッキーから合鍵貰ったわけでも、ましてや勝手に作っちゃったわけでもないからね!?」

 

「……」

 

「……」

 

 さすがは長い付き合いだ。こちらから深く言及しなくとも、私達がなにを想像し、なにを言わんと詰め寄っているのかを瞬時に理解したらしい。

 まぁそういう発想が瞬時に頭に浮かぶって事は、十中八九彼女の中でも私達がそういう事をするかもしれないというシミュレーションはしてあった、という事だろう。とても心外だ。

 

「ちょ、ちょっと前にね? 仕事上がりに駅前で二人で夕ごはん食べて、ついでにヒッキーの家に寄らせてもらった時があったんだけど、なんかヒッキー家の鍵を会社に置き忘れて来ちゃったみたいで、緊急用に玄関周りに隠してある鍵の場所教えてもらっただけだよ!? で、もしかしたら熱中症で倒れてるのかも! って思ったら居ても立ってもいられなくなっちゃって、ソコから鍵を取り出しただけだからね!?」

 

「……」

 

「……」

 

 ああ、成る程そういう事か。だったらまぁ納得。

 二人で御飯食べて家に寄らせてもらったとかいう部分に多少の引っ掛かりを憶えない事もないけど、それは私も普通にしてる事だし今回は聞き流してあげよう。

 

「まったく……。そういう事ならもっと早く言いなさい。紛らわしい」

 

「ホントですよ結衣さん。危うく手を汚さなくちゃならないのかと思っちゃったじゃないですか」

 

「二人とも言う余裕全然くれなかったし! あと手を汚すとかなんか恐いよ!?」

 

 がーんと愕然とする結衣さんではあるけれど、八幡の部屋の合鍵を持っているわけではないと結論が出た以上、もうこの件についてはどうでもいいだろう。

 ……いや、どうでもよくない。隠してある合鍵を結衣さんの前で取り出しちゃうとか、さらにはその場所も変えずにそのままとか、八幡ってば無用心すぎ。結衣さんに寝込みを襲われたらどうするつもりなんだか。これはまたお説教モノだね。さらに夜が長くなっちゃうよ八幡。ふふふ。

 

 

 そんなこんなで一旦の落ち着きを取り戻した主不在のマンションの一室。被告がこちらの追及に大人しく応じたので、私達もこの状況に至るまでの経緯を説明した。

 ちなみに私と雪乃さんが結衣さんを責め立てている中、金沢さんは一人呆然としていた。たまーにぶつぶつと「こ、この二人だけじゃないんか……」とか「なんでこんなにレベル高いのばっか……」とか嘆いていたくらいで、あとは静かなものだった。

 静かで助かるから、もう帰ればいいのに。

 

 それからは初お目見えの二人が社会人らしく名刺を渡し合ったり、先程の私達同様お互いを敵と認識しあって「たはは……」「あは☆……」と素敵な笑顔を向け合ったりと、なんともよそよそしい挨拶を済ませていた。

 まぁ、金沢さんと結衣さんのやり合いなんかどうでもいいし、そもそも結衣さんは私や雪乃さんと違って表面上の付き合いが得意なリア充側の人間だから、そんなに面白い事も起こらなかったしでそこは割愛しておこう。

 あ、割愛は『惜しいと思っているものを手放す』という意であり、よく使われる『どうでもいい事だから切り捨てる』は間違いである。つまりこのシチュエーションで割愛を使うと八幡に「それ誤用な」とムカつくドヤ顔で言われちゃうから気を付けなきゃ。受験勉強中散々ムカつかされたもんね、あのドヤ顔に。

 

「……ところでゆきのんさぁ」

 

 と、八幡の顔を思い浮かべそんなどうでもいい事を考えていたのだが、ここで風雲急を告げるまさかの事態が巻き起こる。金沢さんとの自己紹介という名の宣戦布告を済ませた結衣さんが、先程までの詰め寄りへの意趣返しとばかりに、不意に低い声で雪乃さんに牙を剥いたのだ。

 表情だけ見てみればいつもと変わらない人懐っこい可愛らしい笑顔なんだけど、なんていうか……、瞳の中に光彩が見えない。

 

「な、なにかしら」

 

「いちおー何でゆきのん達がヒッキーの部屋に勝手に入ってるかまでは説明して貰ったけど、まだ肝心なこと言ってないよね」

 

「……肝心な事とは?」

 

「もー、どーせ分かってるくせに。ゆきのんは昔っからそういうトコ回りくどいよね」

 

 ……なんだろう。なんか結衣さんの笑顔が堪らなく恐いんだけど。

 

「ゆきのんさ、あたしが「来週の日曜ってなんか用事とかある?」って聞いたら言ってたよね。姉さんの指示で行かなければならない所があるのよ、ってさ。……おかしいよね? なんで陽乃さんの指示だって言ってたのに、なんでヒッキーんちに居んの? こんなに朝早く」

 

 ……恐い恐い恐い。輝くような笑顔だからこそ逆に恐い。やっぱり結衣さんて、ヤンデレ? とか言うやつの素質あんじゃないの?

 

「……し、仕方ないでしょう? ここ最近──」

 

『どれだけ長いこと苦戦してんのよ。雪乃ちゃんがいつまでも比企谷くんをモノに出来ないようなら、わたしが貰っちゃうからね』

 

「──と、姉さんから何度も脅されているのだから……。だ、だから私は嘘は言っていないわ」

 

 いや雪乃さん。ソレ嘘というかただの拡大解釈なんじゃないの?

 そ、それにしても、陽乃さん、そんなコト言い出してるんだ……。あんなヤバイ人が参戦してくるとか色々と怖すぎる。まぁあの人極度のシスコンだから、可愛い妹の背中を強引に押してるだけだろうけど。

 ……とにかく本気にせよただの冗談にせよ、早く私が貰っちゃわなきゃ……!

 

「そもそも由比ヶ浜さん、あなたにそんな口を利く資格があるのかしら」

 

「ほえ……?」

 

 八幡曰く魔王への恐怖に一人戦慄していると、今度は雪乃さんが反撃の狼煙を上げた。金沢さんの時もそうだったけど、この人たち攻守の切り替え早すぎでしょ。私も含め、攻め易そうなウィークポイントがありすぎる……

 

「あなた確か私にそれを訊ねてきたあと言っていたわよね。あたしは家族と出掛ける予定があるんだ、と。……おかしいわね。あなたこそなぜこんなに朝早くここに居るのかしら。家族との予定が入っているはずの由比ヶ浜さん?」

 

「うっ……」

 

 ……どっちもどっちだった。ウィークポイントが多いというよりは、この人たち自分でウィークポイントを自家栽培してるだけじゃん。

 

「だ、だってほら、将来的には家族になるわけだし」

 

「結衣さんなにおかしなこと言ってるんですか? ただでさえ沸いてる頭が、この暑さでついに蒸発しちゃいましたか?」

 

「留美ちゃん食い気味の上に超辛辣だ!?」

 

 おっと。ここは黙って成り行きを見守るだけのつもりだったのに、結衣さんのあまりにも低次元な世迷い言にカチンときて、つい口を挟んじゃった。私もまだまだお子様だね。

 

「あら、辛辣なんて難しい言葉、いつ覚えたのかしら」

 

「追い打ちも酷い!?」

 

 

 

 

 それからも、ギャーギャー喚いてはちくちくと攻撃し合う二人。今日は八幡の生誕祭だというのに、本人不在の彼の部屋でのあまりにもいつも通りな二人に、彼女達を眺める私の口元はついつい緩んでしまう。

 八幡を含めた私達の関係性は、この数年で大きく変化した。そんな中でも、とりわけこの二人の関係性は特に変わったのかもしれない。

 

 この二人の関係は、高校生の頃から比べるととても変わった。いい意味で。

 雪乃さんと結衣さんは、高校最後の日に二人揃って八幡に告白して玉砕してから、本当の意味での本物の友達になったように思う。

 

 この二人は私が出会った頃からとても仲が良かった。それはもう眩しいくらいに。あと、ちょっと気持ち悪いくらいに。あのベタベタっぷりは、人間関係に冷めてしまっていた当時の私にはちょっと刺激的だった。

 でも幼かった私の記憶の中にある二人は、まだ本物の友達になれてはいなかったんだと思う。あの頃は気が付かなかったけど、お互いがお互いにまだ遠慮という壁を作っていたんだろう。

 

 後々聞いた話では、その遠慮という壁は、主に恋愛面での壁だったらしい。最初は雪乃さんが彼のことを好きなのだと勘違いしたらしい結衣さんの遠慮から始まり、やがて本当に彼のことを好きになってしまった雪乃さんの、結衣さんへの遠慮でどこまでも長引いてしまった壁。

 雪乃さんは結衣さんを、結衣さんは雪乃さんをとても大事に思っていたから、思いすぎていたから、だからこそ二人が特別に想う一人の男性になかなか踏み込めずにいたんだとか。

 でもこのままじゃいけないって一念発起して、二人で話し合って二人で決めて、二人で卒業式の日に一緒に告白したそうだ。

 

 結果は惨敗。ま、そりゃそうだろう。なにせ誰よりも素敵なこの二人が特別に想う一人の男性は、とても残念な事に希代のヘタレ男だったのだから。そんなヘタレがこの素敵な二人に同時に告白されたのだ。どちらか一方を選べるわけがない。

 ちなみにそいつがヘタレだったおかげで今の私がこうして頑張れているワケだから、実はそのヘタレさにこっそり感謝してるのはナイショ。

 

 でもその惨敗により、この二人は本物の友達になれた。もうお互いに変な遠慮はやめようって、お互いが思う通りの自分で居ようって、そう決めたらしい。

 だからこの二人はこうして喧嘩する。普段はあの頃と同じように……、いや、あの頃よりもさらに輪をかけて仲良しな二人なのに、八幡を取り合う時に限っては、こうして本音と嫌味を堂々とぶつけ合える本物の友達になれたのだ。

 

 そんな経緯を知っているからこそ、目の前で繰り広げられているこの低次元で下らない罵り合いが、こうも微笑ましく思えるのだろう。

 そんな二人を優しく見守りつつ私はこう思う。

 

 

 

 

 ──二人には二人が居るんだからいいじゃん。こんなにも仲良いんだから二人でどこかに逃避行でもしちゃって、八幡は黙って私に譲ってくれればいいのに。

 

 

× × ×

 

 

「ね、ねぇ、鶴見さん……」

 

 雪乃さん達の微笑ましい罵り合いをぼんやり眺めていると、不意に肩をつんつんされた。

 あれ、静かだからもう帰ったのかと思ってたのにまだ居たんだ。

 

「なんですか」

 

「目がめっちゃ冷とうよ……!? あ、あのさ、比企谷先輩ってどんだけモテてんの……!? し、しかもレベル高っかいのばっかだし……。ま、まさか他にもまだ居たりしないよね……」

 

 そう静かに呟く金沢さんは、心底うんざりな様子で新たなライバルの姿を黙って見つめていた。いや、新たなライバルのとある一部分を見つめている。

 まぁそのとある一部分は言うまでもないから敢えて言わないけど、この人が愕然とする気持ちはわからないでもない。

 

 金沢さんが八幡の現状をどれだけ把握してたのか知らないけど、慕っている先輩の家に来たら知らない女が二人も居て、さらにその二人が突然敵意を向けてきたという理不尽な状況にも関わらず、次の瞬間にはすぐさま状況に順応していたのを見る限り、八幡の周りに何人かの女が居る事にはなんとなく気付いていたのだろう。

 でも次から次へとこうも美女が立ちはだかってくれば、いくら気の強そうなこの人だってさすがに弱気にもなるだろう。

 

 じゃあ、可哀想だけど言ってあげなきゃならないよね。どうせ近い内にこの部屋の人口密度はさらに増えるだろうし、アレが来る前に覚悟しておいた方が身の為だろう。なんかこの人とキャラ被ってるし。

 

 だから優しい大人の女な私は笑顔で言ってあげるのだ。とても厄介な……、と て も 厄 介 な女が、まだ待ち構えていますよ、ってね。

 

「……あー、それなんですけど」

 

「あら、随分と静かだったから、もう帰ってしまったのかと思っていたわ」

 

「は、は? か、帰るわけないじゃないですかー」

 

 金沢さんに残酷な現実を教えてあげようかと思って口を開いたまさにその時、つい今しがたまでバトルしていたはずの結衣さんを置き去りにした雪乃さんが、なんか突然話に割り込んできた。なんだかとても愉しそうだけどどうしたのかな。

 

 ……そして彼女は薄い微笑をたたえたまま、まるで春風の囁きのような甘く優しく美しい声で、金沢さんの耳元でこう毒づくのだった。

 

「……あなた、ついさっき女の魅力がどうこう言っていたわよね。確か「比企谷くんがその気にならないのも仕方ない」などと言ってなかったかしら。で、先ほどからあなたがちらちらと由比ヶ浜さんに視線を送っていたのが視界に入ってきていたのだけれど、せっかく敵がもう一人増えた事だし、あの時の素敵な勝利宣言をもう一度声高らかに叫んだらどう?」

 

「なッ!? ……ぐぎぎっ」

 

 ……ゆ、雪乃さん……

 

 どうしよう。結衣さんの突然の襲来で有耶無耶になったかと思ってたけど、この人すごい根に持ってた。

 どうやら結衣さんの登場から今に至るまで、金沢さんが結衣さんの胸を気にしてちらちらと横目で見ていたのを目ざとく確認していたらしい。

 で、今の台詞を意訳すると「比企谷くんは高校時代から“コレ”にも惑わされなかったのよ。彼を落とす上では胸のサイズなどなんら意味が無いということが解ったかしら。フッ、由比ヶ浜さんの胸をずっと気にしている辺り、その程度で勝ち誇っていた自分がいかに虚しいのかがようやく理解できたようね」ってとこかな。

 

 悔しくて仕方なかったのはわかるけどね雪乃さん。結衣さんの胸の大きさをまるで自分の手柄のように、とても嬉しそうに胸を張る可哀そ……儚げな雪乃さんを見ていると、なんだかほんの少しだけ視界が霞んできちゃいそうだよ……。雪乃さんファイト。

 

「ね、ねぇねぇ、みんなでこそこそとなんの話してんの……?」

 

 心の中で密かに雪乃さんへ熱い応援メッセージを送っていると、突然蚊帳の外にされてしまった結衣さんが、私達の……というか雪乃さんの愉しげな様子に溜まらず話しかけてきた。

 まぁそりゃそうだよね。ついさっきまで楽しく? 話していた雪乃さんが、突然自分をほっぽりだして私と金沢さんの和の中に飛び込んでいってしまったのだから、さぞや疎外感が半端ない事だろう。

 

 しかしこの質問には、残念ながら雪乃さんは答えられない。てか雪乃さんに言わせたら可哀想。

 もちろん歯軋り状態の金沢さんにも答えられるはずがないから、ここは一番胸のサイズを気にしていない大人な私が一肌脱いであげるとしよう。

 

「あ、気にしないで下さい。薄着の結衣さんの胸って暴力的すぎて犯罪レベルだよねって話をしてただけですから」

 

「酷いセクハラだった!?」

 

 

× × ×

 

 

 バストサイズ争いにあっさりと決着がついてから、一体どれほどの時間が経った事だろう。

 あれからも暫らくの間はああでもないこうでもないと醜い女の争いが繰り広げられていたのだが、特に話す事(牽制や罵り)もなくなってからというもの、各々が適当に時間を潰していた。

 皆、いくらなんでも八幡の帰りが遅すぎる事に一抹の不安がなくもない様子ではあるが、そこはさすがあの変人八幡に惚れるような肝の据わった女たち。私達を否応なくイラつかせる八幡の突飛な行動など日常茶飯事だとばかりに、「まぁ八幡だし」を合言葉に、ただ黙って部屋の主の帰りを待つ。

 

 私と雪乃さんは読書に興じ、結衣さんと金沢さんは携帯弄り。今やすっかり静かになったこの部屋に響くのは、紙を捲る音と画面をタップする無機質な音だけ。

 

 

 ──しかし、紙とタップとは別の音が、ついにその静寂を破る事となる。不意に、どこかからくぐもったような電子音が鳴り響いたのだ。

 

「……あ、八幡の携帯鳴ってますね」

 

 そう。その音は先ほど雪乃さんが弄っていた猫柄の生地に包まれた柔らかな綿の下で鳴っていた。つまり、結衣さんを追い返す為に策を講じたあのクッション(雪乃さんの私物)の下だ。

 

「誰、かしら……」

 

 そう言って、雪乃さんは訝しげな様子でクッションの下部を見やる。

 

 一瞬だけ、ほんの一瞬だけ八幡かも、なんて思ってしまったのだけど、インターホンの例を考えると八幡本人が八幡の携帯に電話をかけるとも思えない。

 

「もしかしてヒッキーかな!」

 

「そんなわけないでしょう。あなたは誰も居ないはずの部屋に置きっぱなしの自分の携帯に電話などかけるかしら?」

 

 突然の電話の音に浮き足立った結衣さん。しかし雪乃さんはそれをぴしゃり嗜める。

 いやいや雪乃さん、さっき自分だって金沢さんにバカにされたよね? アレが無かったら、高校を卒業してから──厳密に言うと八幡に振られてから──ポンコツさが増した雪乃さんならば嬉々として電話に出てそう。

 

「えー? でももしかしたらヒッキー、部屋に忘れたんじゃなくてどこかに落としたかもって思ってるかもしれないじゃん。んで、電話の近くに居る人に出てもらおうって作戦かもしんないし。なんだったらヒッキーが帰ってこないのも、スマホ探して歩き回ってんのかもよ?」

 

「あ」

 

「あ」

 

「あ」

 

 

 ……その発想は無かった。

 なんという事だろうか。まさか結衣さんに……、あの結衣さんに一本取られるだなんて。さすがアホの子に見せ掛けて、実は一番現実的な女(ひと)だ。頭の堅い私と雪乃さんと違い、なんだかんだ言ってこういう時の頭の回転の早さは群を抜いている。

 

「……確かにその可能性もあるわね」

 

 あっさりと論破されてしまった雪乃さん、なんとも悔しそうにふてくされながらも、ゆっくりとクッションへ手を伸ばす。ま、まさか──

 

「え、で、出るんですか?」

 

「まさか。ただ念のため誰からなのか確認するだけよ。もしも公衆電話からなら由比ヶ浜さんの推論通りの可能性が高まるから、その場合に限っては出てみても構わないかもしれないけれど」

 

 勝手に人の電話に出るのはマナー違反だ。異性の電話だったらなおのこと。

 だから、まさか雪乃さんが八幡の携帯に手を伸ばすとは思わなかったから少し驚いてそう訊ねたのだが、その返答を聞いて納得した。

 休日の早朝から姿を消したままの八幡。考えたくもないけど、もしかしたら事故だったり病院からだったりの可能性だって無くはない。事態が事態だし、どこからの電話なのかを確認するだけならば問題ないだろう。

 

「………………」

 

 六つの瞳が見守る中、ついに雪乃さんが鳴り響く携帯の画面に目を向けた。

 なんだろう、このえもいわれぬ胸騒ぎは。今まで考えないようにしてたのに、一度「事故かも」とか考えてしまった途端、その不安は大きくなる一方だ。

 この電話により何かが起きてしまう。そんな漠然とした不安感が、私の胸をぎゅっと締め付ける。

 

「」

 

 どこから掛かってきたのかを確認したであろう雪乃さん。一体どんな表情を見せるのかと息を飲んで見守っていた私達が目撃したその表情は………………、能面。

 まさに能面。能面という以外に表現しようもないくらいに見事な能面。

 そして完全なる無表情と化した雪乃さんは、まるで何事もなかったかのようにそっと置いた。鳴り響いたままの携帯を。

 

「え、雪乃さん? どこからだったんですか……?」

 

「ゆ、ゆきのん? 誰からだったの?」

 

「雪ノ下さん……?」

 

 一言も発さず携帯を置き、一言も発さず静かにクッションを被せるという奇行に走った雪乃さんに向けて、私達は一斉に声を掛けた。なにこれ、雪乃さんの行動はどんな予想とも違う。どう判断すればいいの……?

 

「なにかしら」

 

「いやいやなにかしらじゃないし!? なんでそんな何事もなかったような顔してんの!?」

 

「大丈夫よ。何事もなかったのだから。ええ、本当に何事もなかったの」

 

 本当に何事もなかったかのように……、ともすれば何事もなかったのだと思い込みたいかのように、瞳から光を失った雪乃さんは私達からすっと視線を外した。

 と同時に、電話の着信音も静かに切れる。

 

 

 ──これで何事もないわけがない。ないわけがないではないか。

 …………ないわけがないのだが、雪ノ下雪乃は虚言を吐かない人。それは彼女に関係する誰もが知っている事実。ついさっき由比ヶ浜さんに拡大解釈という名の嘘を吐いていたのは例外中の例外なのである。

 だから私達はこれ以上は問えない。問わない。だって、彼女が何事もなかったと言う以上は、少なくとも私が心配するような事態がおきているわけではないのだから。

 雪乃さんと関係性が薄い金沢さんだけは、未だ納得がいかなそうにクッションの下と雪乃さんを交互に見つめているが、私と結衣さんは、もう気にするのを止めた。気にしても仕方がないと理解しているから。

 

 うん。もう電話の事は忘れよう。そう思い、先ほど電話が掛かってきた時に挟んだ栞が待つページを開いた時だった。つい今しがた切れたばかりの電話が、またもやけたたましい音を奏ではじめた。

 

 しかし雪乃さんは動かない。全然気にしていないようで、実は気にしないように意識しまくってるのがバレバレながらも、彼女は決して動きをみせようとはしない。

 必然、私達も動く事はできない。再度鳴り響く音と、その音から目を逸らし続ける雪乃さんを気にしながらも、私達は動けない。四人もの女性が居る静かなこの空間に、ただ携帯のくぐもった音だけが鳴り続けるという、なんともシュールでなんとも異様な光景が延々と続いてゆく。

 

 

 しかし、そんな異常な状況のままでいられるわけがない事など自明の利。いくら雪乃さんが「何事もない」と宣ったところで、この異様な空気に耐え続けられるうら若き女性など居るわけがないのだから。

 

「ね、ねぇゆきのん、さ、さすがにコレは変だよね……!? 何度も何度も電話掛かってき続けてるし、さっきからついに電話からメールに変わったよ……!?」

 

 それは、何度目かのコール音のあと、着信音が電話からメールを知らせる音に変わってから三度目のことだった。ついに、激しいツッコミ体質の結衣さんの心が折れてしまった。

 まぁあと一回メール着信があったら私がツッコんでいただろうから、先に身を挺して犠牲になってくれた結衣さんナイスです。

 

 すると激しくツッコまれた雪乃さん、とてもとても苦い顔を浮かべたまま、どこか遠くを見てそっとこう呟いた。

 

「……本当に何事もなかったのよ。……ただ、先ほど比企谷くんの携帯画面を確認した際、表示されていた名前が、そ、その、……………平塚先生だったから」

 

「……あー」

 

「……あー」

 

 

 二人揃って納得してしまった。

 

 ……やはり、雪乃さんは虚言を吐かないという事に嘘偽りなどなかったのだ。うん。何事もなかった。電話なんて無かった。メールなんてなかった。

 

 

 ──すっかりと忘れていた。八幡を巡る争いは四人で行われていると思ってたけど(博多訛りの女の登場で五人に増えちゃったけど)、そういえばつい最近、一人追加されたんだっけ。

 まぁ長い長いメールが送られてきて引きつった顔をしていた八幡を問い質して知ったんだけど、千葉村やクリスマスイベントに来ていたあの美人な先生も、行き遅れた末に八幡をロックオンしたんだった。

 でもその事実は私達の間では、最早禁句扱いレベル。触れてはいけない領域に入ってしまっている禁止事項なのだ。主に平塚先生の名誉の為に。

 

「え、平塚先生って、確か高校時代の恩師とかいうあのおばさんですか!? え? は? なんで恩師から電話が掛かってきたのに、現実を見ないフリして「何事もない」なんですか!? ……ま、まさかッ」

 

 しかし、雪乃さんの言葉で私と結衣さんは今日この日にあの人から連続で送られ続けてくる着信音に即座に納得したのだが、当然金沢さんは納得など出来るわけもなく。

 高校時代の恩師からの立て続けの電話とメールにも関わらず、それに一向に触れようともしない私達の不可解な態度に、どうやら我慢の限界のご様子。一人でギャーギャーと騒ぎ始めてしまった。

 お願いだから触れないであげて。主に平塚先生の為に。

 

「た、確かに美人だったしスタイルも良かったけど、あの人どうみても三十も半ばを過ぎたおばさんだったじゃろ……!? 先輩どんだけ守備範囲広いんよ……ッ!」

 

 厳密にはがっちりと守備されちゃってる側なんだけどね、八幡。

 ていうか、そもそもなんでこの人が平塚先生のこと知ってんの……?

 

「……なぜあなたが平塚先生のことまで知っているのかしら」

 

 当然私が感じた疑問など、雪乃さんが感じないわけがない。ギラリと目を光らせた雪中の獣が、か弱き獲物へと猛然と襲い掛かった。

 

「あ、やー、……一度比企谷先輩とのせっかくの初飲みをそのおばさんに潰されたんですよー……。まぁ? そのおかげで先輩との飲みが、ゴールデン街のしなびた飲み屋からパークハイアットのラウンジに格上げされたから結果オーライだったんですけどー……」

 

「ちょっとその話詳しく」

 

「な!? パークのラウンジってどーゆー事だし!? あたしだって飲み屋さんくらいしか連れてってもらったこと無いのに!」

 

 雪の獣のハンティングの凄まじい圧に、失言ともとれる新たな情報を提示してしまった金沢さんに、かなり食い気味に詰め寄る二人。じりじりとにじり寄る二人に、金沢さんは失神寸前。

 

 私は、ひ、ひぃぃぃ〜! とたじたじな金沢さんと、今にも襲い掛からんとする二人の姿を眺めながら思う。

 

 

 ──誰か早くあの人を貰ってあげて。美人だし、優しくて頼り甲斐のあるとてもいい人だから。誰かが早く貰ってくれないと、なぜか八幡が同情で貰っちゃいそうで恐いんだけど、と。

 

 

 あ、あと高級シティホテルのラウンジで二人っきりで飲んだことは、あとで八幡から詳しく聞かないとだね。……ふふふ。

 

 

× × ×

 

 

 あれからも時折携帯が着信音を発するものの、回数が回数だけに、慣れすぎて特に気にもならなくなった頃の事だった。

 読みかけだった小説もついには読み終え、未だ帰らぬ部屋の主を待ちながら、窓際でぼんやりと外を眺めていた時のこと。不意に、眼下に待ち人の姿が。

 

「あ、帰ってきた」

 

 自分ではとても冷静に、とても落ち着いた声音で呟いたつもりだったそのセリフ。でも、その音の振動が鼓膜を揺らす頃には、自分の声が全く冷静でも落ち着いているわけでも無かったという事に気付く。

 私の声は、なんかめちゃくちゃ低くて冷え冷えしてた。

 

「ようやく帰ってきたの……!?」

 

「ヒッキー遅すぎだし!」

 

「比企谷せんぱぁい!」

 

 私が発した音に反応した三人は、私が発した音とはまるで違う嬉しそうな音を奏でる。なんだかんだ言いながらも、やはり八幡が無事に帰ってきたのが嬉しくて仕方ないのだろう。

 

「…………あぁ、本当に帰ってきたようね」

 

「…………やっぱり」

 

「……ま、まだ他にもおるんか……」

 

 でもね、そんな嬉しげな音は、彼女達が窓際へと駆けてくるまでのとてもとても短い時間しか保たなかった。押し合いへし合い、我先にと眼下を眺めた瞬間の彼女達の口から発せられた音は、最初に私が呟いたのと同じくらい低く冷たい音だったのだから。

 

 ……まぁ、ね。正直な話、なんとなく解ってたとこあるよね。そうなんじゃないかなぁ、って。たぶん金沢さん意外はみんな解ってたんじゃないかな。結衣さんの「やっぱり」が、それを如実に証明してる。

 そう。本来であれば、いの一番にこの場に居るはずのヤツがまだ姿を現していないのだ。彼女がまだここに居ないという通常なら有り得ない状況が、ずいぶん前から私達に現実を教えてくれていた。

 

 

 

 ──八幡の部屋の窓際から見下ろせる笹目川の遊歩道。よくお散歩デートに使ったりお花見デートに使ったりするあのお気に入りの遊歩道。八幡の姿はそこにあった。彼はこの暑さにうんざりと顔を歪めながら、ゆっくりと自宅へと歩いていた。

 しかし、歩いてくる人影はひとつでは無かった。八幡と二人、とても仲睦まじそうに──、いや、それじゃ語弊があるかな。暑さによるうんざりな歪み顔。でも、それはなにも気温による暑さだけではない。この暑いのに、嬉しそうに腕に絡み付いてくる亜麻色の髪の女が居るのだから、それはもう暑くてウザくて堪らない事だろう。つまり仲睦まじいのではなく、睦まじいのは女の方だけなのである。

 

「……やられた」

 

 私は思わずぽしょり呟く。八幡の左腕に絡ませる腕とは逆の手には、ちょっと大きめな籠バック……というよりはバスケット。早朝から……ともすれば夜が明ける前から作り始めたとおぼしきあざとさ極まるお弁当がぎっしり詰まっていたであろうバスケット。

 

 彼女はライバル達を出し抜く為に、私達同様……、いや、私達よりも遥かに早く動いていたんだ。同じ始発だったとしても、千葉住まいの私達よりずっと早く八幡の家に来られる東京住まいという利点を活用して。

 彼女は計画通りお弁当を用意し、まだ涼しいうちから八幡を外へと連れ出した。大方「お弁当作って来たんで、たまには川辺で朝ごはんにでもしましょうよー♪」とでも甘えて誘い、嫌がる八幡を無理矢理連れ出したんだ。そして出来うる限り外で時間を潰した。早く帰りたがる八幡を簡単に家路につかせないようあの手この手で引き止めて。年下にはめっぽう弱い、あのバカ八幡を。

 なんという厚かましさだろうか。遠い千葉住まいの私でさえ始発で突撃するのは遠慮したというのに。雪乃さんはしっかり始発で来てたっぽいけど。

 

 さらには携帯を置いていかせたのも彼女の計画なのだろう。連絡をつかせないようにする為に。必ずやってくる私達が諦めて帰るよう仕向ける為に。

 そしてかなりの時間を外で潰して、もういい加減諦めただろう頃合いを見計らっての同伴帰宅なのだ。

 八幡の腕に絡み付いて楽しそうに笑いながらも、時折見せるあのしてやったりなほくそ笑みがそれを物語っている。

 

 ……でも誤算だったのは、携帯の着信音が玄関の外にまで届いてしまった事、そしてまさか私達が勝手に侵入して居座って帰りを待つほど非常し……けほけほ、粘り強いとまでは思ってなかったという所だろう。

 そしてそのわずかな誤算が大きな大きな失態となってしまった事が、いま白日の下に晒される。

 

「あ、こっち見た」

 

 通常なら誰も居るはずが無いマンションを見上げたりなどしない。しかし彼女はなにかの拍子にこちらを見上げたのだ。

 察しのいい彼女の事。たぶん私達の殺気でも感じ取ったのだろう。

 

 ふとこちらを見上げてしまった彼女の顔にまず浮かぶのは疑問符。誰も居ないはずの部屋から何人もの女が自分を見下ろしているという事態に理解が追い付かないのか、心底不思議そうにきょとんとしている。

 次にその顔に浮かんだのは驚愕。計算高く頭の回転が早い彼女は瞬時に事態を飲み込み、自身の身に危機が迫っている事を悟る。

 

 すると彼女はすぐさま行動に移そうとした。顔面を蒼白色に染め上げ、八幡の腕をぐいぐいと引っ張るのだ。元来た道を引き替えそうと。

 これほど距離が離れているというのに、「せ、先輩、やばいですやばいです! わ、忘れ物しちゃったんで、今すぐ戻りましょうよー!」とか言っているのが容易に想像出来てしまうほど解りやすい。

 でもね? 残念だったね。ただでさえ嫌々外出させられた八幡が一度帰れると判断したのに、これ以上暑くて仕方の無い外に留まってるわけないじゃん。もう家路以外は梃子でも動かないよその人。詰めが甘過ぎ。ばっかじゃないの?

 

 

 そして、彼女を発見してからずっと頭の中を駆け巡っていた思考は、なにも私だけのものではない。こんな泥沼の争いを何年も続けて来た雪乃さんと結衣さんも、当然のように同じ思考を巡らせていたのだろう。

 その熱き思いは、今まさに言霊となって世に放たれる。

 

「……さて、それではそろそろあの女狐と尻軽谷くんを捕獲しに行きましょうか。このままここで待っているのも一興ではあるけれど、狩りは待つよりも追う方が楽しいものね」

 

「……そうだねー。あたしも脇の下が甘いヒッキーとオハナシしたい事いっぱいあるし」

 

「それを言うなら脇が甘いよ由比ヶ浜さん。唐突におかしな性癖を公表しないでくれるかしら」

 

「し、知ってるし!」

 

「……な、なんかよくわかんないけど、当然私だって行きますからね」

 

 もうオブラートに包むこともなく『女狐の捕獲』を実行しようとする二人に続き、まだ事態を飲み込めていないであろう金沢さんまでもが狩りへの参加を申し出たところで、三人の次なる行動は決定という事となった。

 

 

 

 ──よし。じゃあ私も早速参加表明しようかな。ここから始まる掛け替えのない素晴らしき生誕祭を、少しでも長く愉しめるように。

 

「じゃ、とっとと行きましょうか。今日この日に八幡だけを私達に残して一人で逃げるような愚かな選択はしないとは思いますけど、下手に逃げられでもしたら面倒ですしね」

 

 

 

 そして私のその号令を合図に、女達はふわり髪をたなびかせ、旅立ちの歴戦の勇者のごとく颯爽と部屋をあとにするのだった。……未だ一人哀しく鳴り響く携帯を置き去りにして──

 

 

 

 ハッピーバースデー、八幡……♪

 

 

 

 

終わりdeath☆





というわけでありがとうございました!誕生月の更新だからセーフ(・ω・)


大体の読者さんの予想通り当然のようにいろはすオチでしたが、セリフどころか登場さえしないというね。

この、登場しないのに……というより登場しないからこその存在感w
どうせ出てくるんでしょ?どうせ全部持ってくんでしょ?の期待感からの、出番マダー?おいおい最後まで出てこないんかい!最後まで出てこないのに八幡もオチも全部持ってっちゃうんかい!という、居ないのにここまでの圧倒的存在感を出せるのはいろはすだけ☆
電話とメールの“音”だけで凄まじい圧を与えてくる独神熟女も凄いけどねっ(吐血)



さて、次回はいつになるか、誰を書くかは全くもって分かりませんが、またいつの日かお会いいたしましょう!ノシノシ


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