雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第9話

ーサラ・ヒューイットー

 

私達は、傷の男(スカー)によって壊されたエド君の機械鎧(オートメイル)を直せる機械鎧調整師がいるというエド君達の故郷、リゼンブールへ向かう列車に乗っています。

エド君は車窓にもたれかかって欠伸をし、エド君の護衛としてついてきたアームストロング少佐は読書をしています。

筋骨隆々なせいか、持ってるハードカバーの本がずいぶん小さく見えます。

アル君は右半身が壊れて動けないので、少佐の手によって荷物扱いで家畜車両に放り込まれたそうです。

身体は鎧でも魂は人間なのに、この扱い。

少佐は親切なつもりでやるんですから、厄介としか言いようがありません。

現在はというと、ある駅で列車の出発時間を待っている状態です。

私は、特に何をするでもなく窓から見える田舎の風景を楽しんでいました。

そう言えば、イーストシティを出る時変な気配の人間らしき者がいたんですよね。

1人の人間から多くの人間の気を感じるというか。

しかも同じ車両に乗っている…どういう事でしょう?

そんな事を考えていると突然、本を読んでいたはずの少佐がガバッと立ち上がり、窓から身を乗り出します。

窓に寄っかかっていたエド君が潰されますが、少佐はそれどころじゃないみたいで、

 

「ドクター・マルコー‼︎ドクター・マルコーではありませんか⁉︎」

 

と、窓の外に見えた男性に声をかけてます。

 

「セントラルのアレックス・ルイ・アームストロングであります!」

 

と少佐が呼びかけるんですが、マルコーと呼ばれた人は顔色を変えて逃げてしまいました。

 

「知り合いかよ?」

 

というエド君の問いかけに対し、

 

「うむ…。セントラルの錬金術研究機関にいた、かなりやり手の錬金術師だ。錬金術を医療に応用する研究に携わっていたが、あの内乱の後行方不明になっていた」

 

と少佐が答えます。

すると、

 

「降りよう!そういう研究をしてた人なら、生体錬成についても何か知ってるはずだ!」

 

というエド君の一声で、この駅に降りることになりました。

 

「アルと荷物も降ろさないと!すいませーん、降ります!」

 

と駅員さんに言って、家畜車両からアル君を出してもらったんですが、

 

「うわ!アル、羊臭っ‼︎」

 

お兄ちゃんなのにそれはあんまりじゃないですか?

 

「好きで臭くなったんじゃないやい‼︎」

 

と箱詰めされたアル君が言い返します。

そうですよ、悪いのは少佐です…。

 

 

駅を出て、マルコーさんを捜すため近くを通った人にエド君が話しかけました。

 

「あの、さっきここを通った…、えーっと…」

 

「こういうご老人が通りませんでしたかな?」

 

そう言って少佐が見せたのは、いつの間にか描いていたマルコーさんの似顔絵でした。

しかも上手いという…。

少佐は見た目に似合わない特技をお持ちです。

話しかけられた人もすぐにピンと来たのか、

 

「ああ、マウロ先生!この町は見ての通りみんなビンボーで、医者にかかる金も無いけど、先生はそれでもいいって言ってくれんだ」

 

マウロ?マルコーではなくて?

他の住人にも話を聞きます。

 

「おお、オレが耕運機に足巻き込まれて死にかけた時もきれいに治してくれたさぁ‼︎」

 

「治療中に、こう…パッと光ったかと思うと、もう治っちゃうのよ」

 

治療中に光。

これって、

 

「ひょっとして錬金術でしょうか?」

 

「うむ、おそらくヒューイット殿の言う通りだろう」

 

「そうか、偽名を使ってこんな田舎に隠れ住んでいたのか…。でも、なんで逃げたんだ?」

 

エド君の言うように、隠れる理由がわかりません。

内乱後なら医者なんて引く手数多だったでしょうに。

 

「ドクターが行方不明になった時、極秘重要資料も消えたそうだ。ドクターが持ち出したと専らの噂だった…。我々を機関の回し者とおもったのかもしれん」

 

そう話をしているうちに、マルコーさんが住んでいると思われる建物までやってきました。

エド君がドアをノックして開けます。

 

「こんにち…わ」

 

エド君が顔を覗かせた瞬間、ドンという音が響きます。

ドアの向こうでは拳銃を構えたマルコーさんが立っていました。

エド君は間一髪で銃弾を避けることができたみたいです。

私が開けた方がよかったでしょうか?

障壁が銃弾くらいは防いでくれますし。

 

「何しに来た‼︎」

 

「落ち着いてください、ドクター」

 

「私を連れ戻しに来たのか⁈もう、あそこには戻りたくない!お願いだ!勘弁してくれ…‼︎」

 

「違います。話を聞いてくだs「じゃあ、口封じに殺しに来たか⁉︎」…」

 

余程機関に知られるのが怖かったんでしょう。

こちらの話に耳を傾けてくれません。

 

「まずはその銃をおろしt「騙されんぞ‼︎」…落ち着いてくださいと言っておるのです!」

 

最初は優しく語りかけてた少佐も堪忍袋の尾が切れたのか、担いでいたアル君の荷箱を投げつけて物理的に黙らせます。

それで、漸くマルコーさんはこちらの話を聞いてくれて、家兼診療所である建物の中に案内してくれました。

 

「私には耐えられなかった…。上からの命令とはいえ、あんな物の研究に手を染め…。さらに、それ(・・)が東部内乱での大量殺戮に使われたのだ…。本当に酷い戦いだった…。無関係な人が死に過ぎた…。私のした事はこの命を以ってしても償いきれるものではない。それでも、できる限りの事をと…、ここで医者をしているのだ」

 

マルコーさんは何か恐ろしい研究をしていたんですね。

 

「一体貴方は何を研究し、何を盗み出して逃げたのですか?」

 

少佐の質問に対して、マルコーさんは

 

「賢者の石を作っていた。私が持ち出したのは、その研究資料と石だ」

 

と答えました。

それにエド君は大きく反応します。

 

「石を持ってるのか⁉︎」

 

「ああ、ここにある」

 

と言って薬棚から薬瓶を取り出したんですが、石というから固体かと思えば、液体です。

しかし、薬瓶の蓋を開けて中身を出すと、水玉みたいな形になりました。

普通の液体のように拡がることはありません。

 

「『哲学者の石』、『天上の石』、『大エリクシル』、『赤きティンクトゥラ』、『第五実体』。賢者の石にいくつもの呼び名があるように、その形状は石であるとは限らないようだ」

 

とマルコーさんが説明します。

なんか魔法世界の高価な薬「エリクシール」を思い出させる名前がありましたが、似たような存在なんでしょうか?

 

「だが、これはあくまで試験的に作られた物でな。いつ限界が来て使用不能になるかもわからん、不完全品だ。それでもあの内乱の時、密かに使用され絶大な威力を発揮したよ」

 

錬金術の効果を増幅させるアイテムということでしょうか?

「エリクシール」のような薬ではなさそうですね。

 

「不完全品とはいえ、人の手で作り出せるって事は、この先の研究次第では完全品も夢じゃない…。マルコーさん、その持ち出した資料を見せてくれないか⁉︎」

 

エド君はテーブルに身を乗り出してお願いします。

その言葉にマルコーさんも驚きを隠せません。

 

「ええ⁈そんな物、どうしようと言うのかね?アームストロング少佐、この子は一体…?」

 

「国家錬金術師ですよ」

 

「こんな子供まで…。潤沢な研究費をはじめとする数々の特権に釣られて資格を取ったのだろうが、なんと愚かな!あの内乱の後、人間兵器としての己の在り方に耐え切れず、資格を返上した術師も多くいたのだ‼︎それなのに君は…」

 

マルコーさんはその手で顔を覆って、子供が国家錬金術師をやっている現状を嘆いているようです。

しかし、エド君の決意は変わりません。

 

「馬鹿なマネだというのはわかっている!それでも‼︎…目的を果たすまでは針の筵だろうが座り続けなきゃならないんだ…‼︎」

 

と失くした右腕を庇うようにして声を上げ、これまでの経緯を語ります。

 

「そうか…、禁忌を犯したか…。驚いたよ。特定人物の魂の錬成を成し遂げるとは…。君なら完全な賢者の石を作る事ができるかもしれん。だが、資料を見せる事はできん!」

 

「そんな…‼︎」

 

「話は終わりだ、帰ってくれ。元の身体に戻るだなどと…。それしきの事のために石を欲してはならん」

 

身体を戻したいという事がそれしきとは、随分な言い方ですね。

エド君もその言葉にカッとなります。

 

「それしきの事だと⁉︎」

 

「ドクター、その言い方はあんまりでは!」

 

少佐も声を上げますが、マルコーさんも意思が固いようで、

 

「あれは見ない方がいいのだ。あれは悪魔の研究…知れば地獄を見る事になる」

 

ときっぱり拒絶しました。

それでも、決意の固さはエド君だって負けてません。

 

「地獄ならとうに見た!」

 

と言い返しますが、マルコーさんは折れませんでした。

 

「……ダメだ。帰ってくれ」

 

結局、マルコーさんの拒絶によって家を去り、駅まで戻りました。


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