雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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お気に入り登録件数200件突破記念12時間連続投稿第二弾です。
今回の連続投稿はここまでですが、
これからもサラとその物語をよろしくお願いします。
次回はいつも通り2日後に更新します。


第8話

ーサラ・ヒューイットー

 

エド君の壊れた右腕を直してもらうため、イーストシティを離れる準備をして東方軍司令部にやってきたんですが、マスタング大佐の部屋に入った瞬間、涙をダバダバ流すアームストロング少佐の顔がどアップで現れました。

そして、私と一緒に宿から戻ってきたエド君を「ぐゎしっ!」っとばかりに抱き締めます。

あの筋骨隆々の身体で抱き締められたら潰されてしまうでしょう。

案の定、エド君の身体からは「ベキッ」とか「ボキッ」とか「グキッ」と鳴ってはいけない音が聞こえます。

その強烈なハグを止め、演説をするかのように拳を握り、

 

「母親を生き返らせようとした、その無垢な愛!さらに、己の命を捨てる覚悟で弟の魂を錬成した、すさまじき愛!我輩感動」

 

と言って、再びエド君にハグをかまそうとする少佐。

さすがに2度目のハグは嫌だったのか、少佐の顔を足蹴にして突進を阻むエド君。

ですが、そういう理由でアル君は鎧の身体となっていて、エド君は右腕がないんですか。

随分重たい訳ありですねぇ。

これは聞かなかったことにしておくべきでしょうか?

 

「口が軽いぜ、大佐」

 

「いやぁ…あんな暑苦しいのに詰め寄られたら君の過去を話さざるを得なくてね…」

 

エド君が額に井形を作りながら大佐に文句を言いますが、確かに少佐は暑苦しい感じです。

 

「サラにも聞かれちまったが、オレの左脚がないのとアルの身体がないのは、母さんを生き返らせようとした代償だ。しかも、錬成してできた者は人の形をしていなかった。その後右腕を犠牲にして、なんとかアルの魂だけは鎧に定着させたのさ」

 

「む?ヒューイット殿には話していなかったのか⁈それは悪いことをした」

 

エド君は左脚も機械鎧だというのは初めて知りました。

っていうかそれを話してくれてよかったんでしょうか?

 

「そんな秘密を私に話してよかったんですか?」

 

「暫くオレ達に付き合ってくれるなら、いずれバレてただろーしな。少佐が言っちまったんだ、丁度いいさ」

 

なんてエド君はあっさりと言ってのけます。

本人がそう言うなら、それでいいんでしょう。

 

「と言う訳で、その義肢屋の所まで我輩も護衛を引き受けようではないか!」

 

と少佐が一言付け加えると、これにはエド君は反発します。

 

「はぁ⁈何寝ボケた事言ってんだ⁉︎護衛なんていらねーよ!」

 

しかし、ホークアイ中尉が冷静に切り返しました。

 

「エドワード君、またいつ傷の男(スカー)が襲って来るかもわからない中を、その身体で移動しようと言うのよ。奴に対抗できるだけの護衛をつけるのは当然でしょう?」

 

ハボック少尉も

 

「それにその身体じゃ、アルを運んでやる事もできないだろ?」

 

と追い討ちをかけます。

私ならアル君も運べるし、傷の男からエド君を守るくらい朝飯前なんですけど。

エド君もその事を言います。

 

「サラならアルを運ぶのも傷の男(スカー)と渡り合う事もできんだから、十分だろ?仮に護衛をつけてもらうとしても、別に少佐じゃなくても!」

 

それに対して、ヒューズ中佐は

 

「仮にも軍属の人間を、一般人に護衛させる訳にはいかんだろ…。俺ぁ仕事が山積みだから、すぐ中央(セントラル)に帰らなきゃならん!」

 

と前半は呆れたように、後半は胸を張って言います。

やっぱり軍人の偉い人って仕事が多いんでしょうね。

大佐は

 

「私が東方司令部(ここ) を離れる訳にはいかないだろう」

 

と返し、中尉も

 

「エドワード君、女の子に重たいアルフォンス君を運んでもらおうって言うの?それは外見上どうかと思うわ。それに私はすぐサボる大佐のお守りが大変なのよ」

 

と言いました。

さすがデキる大人の女性!

仕事をサボる上司の面倒も見てるんですね。

そして、大佐の部下である少尉と他の人はというと、

 

「あんなヤバいのから守りきれる自信ないし」

 

「「「以下同文」」」

 

だそうです。

まあ、人間兵器と呼ばれる国家錬金術師を、傷の男(スカー)は10人も殺してるんですから、普通の軍人から見ればヤバいんでしょう。

だとしたら、ラカンさんとかもっとヤバいですね。

確か戦艦撃墜数はナギさんより上でしたし。

 

「決まりだな!」

 

と少佐がエド君の頭を叩きますが、本人はまだ納得いかないのか、

 

「勝手に決めんなよ‼︎」

 

と声をあげます。

 

「エド君、もういいんじゃないですか?その状態で錬金術を使えないなら、素直に護衛してもらいましょうよ」

 

「ヒューイット殿の言う通り。それに、子供は大人の言う事をきくものだ!」

 

私の言葉に少佐もウンウンと頷きながら言いますが、その子供扱いが嫌だったんでしょう。

エド君が余計に癇癪をあげます。

 

「子供扱いすんな‼︎この…、アルも何か言ってやれ!」

 

15歳ならまだ子供だと思うんですが…。

ひょっとして、この国では昔の日本のように15歳で元服みたいな成人扱いなんでしょうか?

声をかけられたアル君はというと、

 

「兄さん‼︎ボク…この鎧の身体になってから、初めて子供扱いされたよ‼︎」

 

と大喜びでした。

結局、幾つで成人なのかわからないですね。

 

「まだ、駄々をこねると言うなら、命令違反という事で軍法会議にかけるがどうかね?」

 

という悪い笑みを浮かべた大佐の一言で、少佐をエド君達の護衛につける事が無理矢理決定しました。

それはいいんですが、少佐に「荷作りだ」と言われて、アル君が荷箱に入れられて荷物扱いされていたのが…なんだかなぁ。

 

ということで、イーストシティに来てほんの数日も経たない内に、ここを離れる事となりました。

今はエド君の機械鎧(オートメイル)を作った人がいて、エド君達の故郷でもあるリゼンブールという町に向かう列車に乗っています。

見送りには中佐だけが来てくれました。

他の人は忙しかったそうで。

しかも中佐が大佐から預かった伝言は

 

「事後処理が面倒だから私の管轄内で死ぬ事は許さん」

 

だそうです。

まあ、それに対するエド君の返しも

 

「了解。絶対てめーより先に死にませんクソ大佐」

 

なんですから、似た者同士なのかもしれませんね。

中佐も中央(セントラル)という街に戻るらしく、「寄ることがあったら声をかけろや」と言って敬礼して見送ってくれました。

一般客者の四人が向き合う席に私とエド君、少佐が座っているんですが…アル君はちゃんと乗せてもらえたんでしょうか?

アル君だけ荷物扱いですから、客車には姿がありません。

 

「そう言えば、アームストロング少佐。アル君はどの車両に乗せたんですか?まさか、駅に忘れたりなんかしてないですよね?」

 

「ふっふー。ぬかりは無いぞ。1人じゃ寂しかろうと思って家畜車両にいれておいた!」

 

「てめぇ、オレの弟をなんだと思ってんだ‼︎」

 

エド君の顔がなんとも表現し難い状態になってます。

じぶんの弟が物扱いとか家畜扱いされたら、誰でも怒りますよ。

少佐はそれを、さも当然かのようにやってますし。

 

「むぅっ、何が不満なのだ⁈広くて安くて賑やかで、至れり尽くせりではないか!」

 

「ふざけんなーっ‼︎」

 

アル君、可哀想に…。

今回の旅も退屈せずにすむかもしれません、少佐のせいでですけど。


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