雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第7話

ーサラ・ヒューイットー

 

傷の男(スカー)の襲撃を退け、私達は東方司令部に連れられました。

そこでイシュヴァールの民がどういう部族だったのかということを知ります。

曰く、イシュヴァラを唯一の創造神とする東部の一部族だったそうで、宗教観の違いからそれまでも諍いはあったものの、13年前、遂に軍将校がイシュヴァールの子供を誤って射殺したことを機に内乱にまで発展。

暴動は東部全域に拡がり、7年間攻防を続けた軍上層部も最後には国家錬金術師を投入したイシュヴァール殲滅戦を展開。

戦場での実用性を試す意味もあって、多くの術師が人間兵器として駆り出されたそうです。

 

「私もその一人だ。だから、イシュヴァールの生き残りである奴の復讐には正当性がある」

 

と、マスタング大佐は言います。

ですが、果たしてそれでいいんでしょうか?

当事者ではないので口にはしませんが、復讐を正当だとか言い始めたら争いだらけになりますよ。

 

「くだらねぇ。関係ない人間も巻き込む復讐に正当性もクソもねーよ。醜い復讐心を『神の代行人』ってオブラートに包んで崇高ぶってるだけだ」

 

エド君の言う通り、関係ない人間を巻き込むところもダメですよね。

アル君は国家錬金術師じゃないのに壊されそうになったんですから。

 

「だがな、錬金術を忌み嫌う者がその錬金術で復讐しようってんだ。形振り構わん人間てのは一番厄介で怖ぇぞ」

 

確かに、自分が嫌ってる術を使ってでも復讐しようと思ってるなんて、凄まじい執念ですね。

ヒューズ中佐の言葉に対して、

 

「形振り構ってられんのはこっちも同じだ。我々もまた死ぬ訳にはいかないからな。次に会った時は、…問答無用で潰す!」

 

と大佐が決意も新たに告げました。

まあ、私は降りかかる火の粉を払うくらいにしておきましょう。

私なら無力化する手立てがいくらかありますし。

例えば「凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)」とか…。

 

「さて!辛気臭ぇ話は終わりだ。エルリック兄弟はこれからどうする?」

 

中佐がエド君に尋ねます。

確かに、エド君は右腕がないし、アル君も右半身壊れてますから、どうにかしないとですよね。

 

「うん…。アルの(からだ)を直してやりたいんだけど。オレ、この腕じゃ術を使えないしなぁ…」

 

なるほど、ユースウェルでやったように手を合わせないと術が使えないんでしょう。

でも、傷の男は手を合わせてませんし、大佐は指を鳴らすだけでした。

何か違いがあるんでしょう。

 

「我輩が直してやろうか?」

 

そう言って、アームストロング少佐が上着を脱いで筋肉を見せつけます。

ここにもいましたよ、自分の肉体を見せつける変態が…。

完全なる世界(コズモエンテレケイア)」のデュナミスを思い出しますね。

ということは、少佐も「紅き翼(アラルブラ)」世代の変態みたいなものでしょうか?

カイゼル髭が貴族感を見せてるのに残念な人なのかもしれませんね。

 

「遠慮します」

 

さすがのアル君もキッパリと断りました。

あの筋肉と棘付きのガントレットで殴られたら、いかに頑丈そうな鎧でも大変なことになりそうですしね。

 

「アルの鎧と魂の定着方法を知ってんのはオレだけだから…、まずはオレの腕を直さないと」

 

とエド君が言ったんですが、ホークアイ中尉が

 

「そうよねぇ…。錬金術の使えないエドワード君なんて…」

 

と呟くと

 

「ただの口の悪いガキっすね」

 

「クソ生意気な豆だ」

 

「無能だな、無能!」

 

とハボック少尉、中佐、大佐にバッサリ切り捨てられました。

アル君も

 

「ゴメン、兄さん。フォローできないよ」

 

だそうです。

随分な扱いですが、それがエド君の評価なら仕方ないですよね。

 

「しょーがない…、うちの整備師んトコに行ってくるよ」

 

エド君とアル君はそういうことになりました。

当然ながら、エド君の機械でできた腕を作った人がいるんでしょう。

 

「さて、サラ君はどうするのかな?」

 

「私ですか?私はヒマなので、エド君達について行きますよ」

 

大佐に今後を尋ねられたのでそう答えます。

 

「ヒマではないだろう。あの店のバイトが忙しいのではないのかね?」

 

「どうしてマスタング大佐が私のバイトを知ってるんです?」

 

バイト中、大佐の顔を見た覚えはないんですけど?

 

「私の部下が店に寄ったんだよ。いつも閑古鳥の鳴いてる店が、この前から行列のできる店に変わってて、中を見たら君がいたということさ。そいつもかなり驚いていたぞ」

 

あの店、そんなに経営不振だったんですか⁉︎

それなら、店も行列ができるまでになってゴートンさんには喜んでもらえたのではないでしょうか。

レシピは教えたので、あとはゴートンさんの頑張り次第ですし、私はどうも人に教えるというのが苦手みたいなんですよね。

自分の考えてることが、思った通りには伝わってないというか、少しズレて伝わってしまうというか。

少なくとも先生には向いてないことがわかりました。

 

「レシピは店長さんに教えたので、大丈夫でしょう。それに元々、私は旅人ですから。資金もそこそこ貯まったので、問題ありません」

 

「なるほど。そう言うなら問題ないのだろう。では2人は移動の準備をしたまえ。アルフォンスは移動の時まで預かっておこう」

 

「では準備してきます。エド君行きましょう」

 

「ああ、わかった」

 

ということで、私とエド君は宿に一旦戻ることにしました。

宿に戻る前にゴートンさんの店に寄って、暫くイーストシティを離れることを告げます。

店長からはここに残るように泣いて頼まれましたが、申し訳ないと謝り、イーストシティで時間があればまたバイトをする約束をして、店を後にしました。

っていうか、最初に会った時の「俺の店だ」という勢いはどこへ行ってしまったんでしょうね。

 

「なあ、サラ。あれでよかったのか?」

 

「あれでよかったのかとは?」

 

「あの店だよ。肉マンっていうこの間もらった美味い食い物がバカ売れなんだろ?」

 

「そうですねぇ」

 

「それなのにオレの腕を直すために付き合わせていいのかってさ…」

 

「ああ、そんなことを気にしてたんですか?」

 

「そんなことって、お前…」

 

「言ったでしょう?私は旅人だと。エド君達に付き合った方が楽しいだろうと思ったから、ついていくんですよ。それをエド君が気にする必要はありません。ここに定住しようとかも思ってないんですから」

 

私の言葉にエド君は黙り込んでしまいました。

私が好きでやってることなんで、本当に気にすることじゃないんですけどねぇ。

 

「そういや、サラ。あの傷の男(スカー)の時に使ってた術は何なんだ?」

 

静かな空気に耐えられなくなったのか、エド君から話しかけられます。

 

「氷の矢のことですか?」

 

「なるほど、あれは見た目通り氷で出来てんのか。あれは錬金術じゃないんだろ?」

 

「そうですよ。錬金術とは体系が異なる技術といったところでしょうか」

 

「100本近くの氷の矢をすぐに作れんだからすげーよな。それがサラの訳ありな部分なのか?」

 

いや、本気を出してないんで101本でしたが、やろうと思えば4桁本いけるんですよ?

それを言っても仕方ないんで言いませんが。

 

「それも訳ありな部分ですね」

 

「おいおい、『それも』ってことはまだなんかあんのかよ?」

 

このやり取りも懐かしいですね。

ちうっちを思い出します。

今隠してることと言えば、この世界の人間ではないということ、そもそも人間ではないこと、魔法を使えることくらいでしょうか?

 

「まあ、3つくらいですか。思ったより少ないですねぇ」

 

「いやいや、隠し事が3つなんて多過ぎだろ…」

 

エド君が呆れたような顔でツッコミを入れます。

でも元いた世界でも3つくらい隠し事をしてたのを考えれば、それが私には普通なのかもしれませんね。

 

「まあまあ、人に言えないことなんて誰にもあるでしょう?とりあえず、宿に着いたんですから、準備を済ませましょう」

 

そう言って私は自分の部屋に戻りました。

といっても、私の準備なんてすぐ終わるんですよね。

荷物は影の袋に収めるだけですし、その荷物自体をあまり外に出してません。

すぐに準備を終えて、宿のフロントで会計を済ませました。

エド君はまだいない様子なので、暫くソファで待ちます。

 

「もう会計まで済ませたのか?早すぎだろ…。っていうか荷物はどうしたんだよ?」

 

トランクを左手に背負ったエド君がフロントまで来ました。

 

「荷物はユースウェルで見せた手品の要領で持ち歩いてるので問題ありません」

 

手品というか影の袋なんですけどね。

 

「手品で持ち歩くとか意味がわかんねーし。ま、準備が出来てんならいいや。司令部に戻って、さっさとアルを連れて行かなきゃなんねーからな」

 

ということで、再び司令部に戻ることとなりました。


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