雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第5話

ーサラ・ヒューイットー

 

イーストシティ駅からエド君とアル君は、マスタング大佐とホークアイ中尉に連れられて東方軍司令部という所に行きました。

私も行く所ないんでついていったんですけどね。

さすがにエド君、アル君と大佐の会話は、軍の話とかされたら聞く訳にはいかないので待合室で待機です。

この国、アメストリス国と言うんですが、その東方を守る要の司令部なだけあって、この建物広いんですよね。

ちょっと出歩いたらわからなくなりそうです。

大人しく待合室で軍の会報を読んで、2人を待っていると、

 

「サラ、オレ達出かけてくるけど、どうする?」

 

とエド君が声をかけてくれました。

 

「どうするも何も、私は文無しですからねぇ。ここで待つか、エド君達の宿に先に行くしかありません。出掛け先は私はついてこないほうがいいんでしょう?」

 

「確かに、俺達は今から別の錬金術師に会いに行くから、サラが来てもつまんねーと思うぞ。っていうかまだオレに集んのかよ?」

 

エド君は呆れた顔で私を見ますが、私はそもそもついて行く気満々ですから。

でも、確かにエド君に集ってばかりも悪いですよね。

何かバイトでも探した方がいいんでしょうか?

 

「そうですね、いいバイトでもあったらいいんですけど。力仕事なんかありませんかね?」

 

「そんなんオレに聞くなよ…。でも、サラなら力仕事も楽勝そうだよな。大佐ぶっ飛ばしてたし」

 

ニヤニヤしながら後ろにいた大佐を見るエド君。

大佐もさっき叩かれた肩を思い出したかのように摩ります。

 

「まあまあ、兄さん。とりあえず今回くらいはいいじゃん。サラさんもバイト探すって言うんだし」

 

「しゃーねーなー。今回だけだぞ!」

 

「どうもすみません」

 

なんだかんだいって、2人はいい人なんですよねぇ。

 

「じゃあ、ここで待っててくれ。あとで迎えに行くからよ」

 

「わかりました。ではごゆっくり〜」

 

と言って、エド君とアル君、大佐を見送って、再び会報に目を通します。

でも、あらかた目を通したんでやることがないんですよね。

行儀が悪いかもしれませんが、ソファに横になってしばらく目を閉じます。

「お〜い、嬢ちゃん。起きてくれ、お〜い!」

 

誰かに肩を突かれたので起き上がります。

 

「お〜、起きてくれたか。これから大将を迎えに行くんだが、嬢ちゃん。大将の連れなんだろ?」

 

そこにはタバコを咥えた金髪の男性がいました。

もちろん、軍人さんです。

 

「すいません、大将というのは?」

 

「あぁ、鋼の大将のことだよ」

 

「エド君のことですか」

 

「そうそう。オレはジャン・ハボック少尉な」

 

「これはどうも。私はサラ・ヒューイットと言います」

 

「駅で大佐ぶっ飛ばした娘だろ。いやぁ、見てて面白かったぜ。あの大佐の驚いた顔!」

 

口に手を当て笑いを堪える少尉ですが、抑えきれないのか、「クフッ」とか「ブフッ」って声が聞こえます。

悪気はなかったんですけどねぇ。

 

「それより、エド君を迎えに行くんですよね?」

 

「ああ、大将は訪問先で調べ物して、そのまま宿に行くみたいだから、嬢ちゃんを連れて行くよう言われたんだ」

 

「そうなんですか。ではよろしくお願いします」

 

「いいぜ。それより荷物はないのか?」

 

「ええ、問題ありません。連れて行ってもらえますか?」

 

「ああ、了解」

 

そう言って、少尉の運転する車に乗って一軒の家に行きました。

ここの人も錬金術師みたいなので、私は車の中で待機しておきます。

しばらくすると少尉と一緒に、何故か草臥れたエド君と特に変わった様子もないアル君が帰ってきました。

「何か収穫はありましたか?」

 

「それが、そこの娘さんと飼い犬に遊ぶようにせがまれちゃって…」

 

ハハハと乾いた笑いのアル君。

エド君も大した成果を得られなかったんでしょう。

 

「まあまあ。明日もあるんでしょう?」

 

「はい。明日も資料を見せてもらいます」

 

「じゃあ、頑張らないとですね」

 

「サラはバイトの目処ついたのかよ?」

 

「私ですか?そうですねぇ、料理が少しはできるんでどこかのレストランに面接受けに行こうかと思ってます」

 

五月ちゃん仕込みの料理の腕ですからね、こちらでもやっていけるはずです。

蒸篭や蒸し布、必要な道具は麻帆良を出る前に買っておいたので、材料さえあればここでも作れますし。

どんな饅頭を作ろうかと考えていたら、エド君とアル君が私をジッと見ていました。

 

「どうかしました?」

 

「いや…、サラが料理できるなんて、ちょっと信じられなくてさ」

 

「ボクもサラさんは武術一辺倒の人だと思ってました…」

 

2人揃って随分失礼なことを言いますね。

 

「そこまで言うならいいでしょう。私の料理の腕を後で見せてあげますよ。私が武術だけじゃないというのを証明します」

 

そう言ってる間に、宿に到着します。

その日は宿をとって、それぞれの部屋に入って終わりました。

 

次の日、朝のうちに材料費をエド君から借りて、必要な材料を購入し、皮と餡を作ってから近くのレストランへと入りました。

 

「すみません、どなたかいませんか?」

 

「表の看板見てなかったのか?ウチはまだ準備中だぞ!」

 

厨房から、ちょっとお腹が出たシェフらしい人が出てきました。

 

「私を雇ってください」

 

「ああ⁉︎何言ってんだ!さっさと帰ってくれ、こっちは忙しいんだ‼︎」

 

「店長が食べたことないものを私は提供できます」

 

私の言葉で店長の目つきが変わります。

アメストリスという国は西洋系の文化が色濃く反映されてますから、饅頭というのはないはずですし、ましてや超包子(チャオパオズ)特製のものですから売り上げにもかなり貢献できるはずです。

 

「偉く自信があるな。そこまで言うならやってみな!但しとんでもなく不味い物だったら、一週間タダ働きしてもらうぞ⁈」

 

「いいですよ。では、厨房を少しお借りします」

 

「いいだろう」

 

そう言って、厨房の入り口を開けてくれました。

私は手早く準備し、用意しておいた餡を皮で包み蒸篭で蒸します。

蒸しあがった饅頭を皿に乗せ店長に出しました。

 

「出来ました、『肉マン』です。熱いので気をつけて食べてください」

 

「ほう、具材を粉物の皮で包んだのか…」

 

「皮は小麦粉で出来ています。中身は豚挽肉や椎茸などが入ってます」

 

「確かに見たことない食べ物だ。だが、味は…」

 

と呟きながら一口放り込むと、

 

「ハフッ、ホフッ…うん、確かに…これは美味い…」

 

「では雇ってくれますね?」

 

「もちろんだ!これならかなりの売り上げが期待できるぞ‼︎そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はゴートン・ベッカー。この店の店主だ」

 

「私はサラ・ヒューイットと言います。ではよろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく頼む。早速だが、さっきの肉マンの準備にかかってくれ。あれは売れるぞ!」

 

というゴートンさんの一言で早速準備にかかります。

因みに、その日の売り上げはゴートンさんが店を立ち上げて以来、ぶっちぎりの最高値を更新し、その日貰ったお給金もなかなかのものでした。

 

「ただいま戻りました〜」

 

と言って、エド君達の部屋に顔を出します。

 

「おう、どうだったんだ?バイトの方は」

 

「はい、すぐに雇ってもらって、随分稼ぐことができました。これお土産です。本当は熱いうちに、食べてもらえればいいんですが…。私が作ったものです」

 

途端に肉マンを怪しいものでも見るかのような目をするエド君。

本当に失礼ですね。

 

「言っておきますが、これが今日一番の売り上げを叩き出した商品ですよ?口コミだけで今日は行列ができたんですから。明日以降はそう簡単に食べれないものですよ?」

 

まあ、列に並べば食べれますが、それでも随分時間がかかります。

 

「そこまで言うなら食ってみるか…」

 

「アル君はどうですか?」

 

それまで静かにしてたアル君にも話を振ってみますが、

 

「すいません、ちょっと今はお腹空いてなくて…」

 

と言われてしまいました。

お腹が空いてないなら、仕方ないですよね。

 

「わかりました。また今度作ってあげますね」

 

「ありがとうございます」

 

「美味ぇ!なんだこれ⁈初めて食ったけど、すっげー美味いぞ‼︎」

 

エド君が一口食べて驚き、手に持った肉マンを一気に頬張ります。

 

「だから言ったでしょう?屋台が開けるなら一儲けできる自信がありますし」

 

「信じらんねぇ。これをサラが作ったのかよ…⁉︎」

 

いやいや、人をなんだと思ってるんですか?

 

「というわけなんで、明日以降もドンドン稼ぐので期待していてください」

 

「いや、貸した金を返してくれりゃいいんだよ…」

 

エド君が呆れたように呟きました。


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