雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第40話

ーサラ・ヒューイットー

 

マスタング大佐とこの国に迫ってる危機について、相談をしようとセントラルへやってきました。

ところがその危機を暴いたヒューズ中佐と家族が行方不明扱いになっていて、それがロス少尉の犯行であるという情報が入ってきます。

私はエルリック兄弟とウィンリィちゃんに中佐は休暇中だと事前に説明していたので、エルリック兄弟の詰問を受け、自分が魔法使いで別世界の住人である事を話してしまいました。

まぁ、自業自得というかタイミングが悪かったというか。

ともかく、実際に影の転移魔法(ゲート)を見せて私が魔法を使えるという事を理解してもらい、なぜロス少尉が犯人扱いされているのかを確かめるために大佐の元へ向かう事になりました。

 

「なぁ、サラ。さっきの影に沈むやつで、パッと大佐のとこに行けないのか?」

 

さっきまで驚きで固まっていたエド君が、好奇心からか尋ねます。

 

「出来るか出来ないかで言えば出来ますよ。ですが、いきなり大佐の所に現れてどう説明するんです?ただでさえロス少尉の件でややこしい事になってるのに、私達がそんな事をしたら混乱を招くだけでしょう」

 

「そりゃ…、確かにそうだな。仕方ない、急ぐぞ」

 

エド君がそう言うと、エルリック兄弟は部屋を出ました。

私も2人を追います。

本当は近場まで転移すればいい話でしょうが、私の魔法で楽をするような癖をつけてほしくないですからね。

 

 

 

そして、2人と一緒に軍司令部へ向かって走っていると、裏路地との十字路で件のロス少尉にばったり出くわしました。

鬼を模したような鎧の人と、なぜかリンも一緒です。

エルリック兄弟も気付いて、思わずといったように声を上げました。

 

「「あ…!ロス少尉‼︎」」

 

「エドワード君にアルフォンス君⁈サラさんまで!」

 

向こうもこちらに気付いて驚きます。

それどころか、鬼鎧の人とアル君は知り合いだったらしく

 

「「あー‼︎あの時の‼︎」」

 

と二人一緒に叫びました。

私もどこかで見た気がするんですが…。

ああ、思い出しました。

第五研究所でアル君に包丁を向けてた鎧ですよ。

今も包丁一振りと、なぜかリンの刀を持ってます。

 

「リンはどうしてそっちにいるんです?」

 

「いやァ、留置所にいたのをこちらの鎧さんに助けられてネ」

 

「リンもいたのかよ⁈」

 

私がリンに声をかけた事でやっと気付いたのか、エド君も叫びます。

 

「ええい、ジャマすんな‼︎」

 

そう言って、鬼鎧が牽制目的で刀を振りました。

 

「ロス少尉!どういう事だよ‼︎ヒューズ中佐はまd「構うな、ねぇちゃん‼︎」…」

 

エド君が少尉に成り行きを尋ねようとしますが、鬼鎧がそれを遮ります。

 

「そこの裏道から一直線に倉庫街へ逃げな!あそこの暗闇なら逃げきれる‼︎急げ!憲兵に見つかりゃ射殺されるぞ‼︎」

 

鬼鎧の「射殺」という単語に顔を強張らせた少尉は

 

「エドワード君、ごめんなさい‼︎あとで説明するわ‼︎」

 

そう言い残して裏路地へと走ってしまいました。

少尉は中佐が行方不明になってる件の犯人と断定されてたので、留置所にいたはず。

それがこんな所を走ってたとなれば、逃亡中だというのもわかります。

その逃亡に手を貸してるのが鬼鎧で、ついでにリンという事なんでしょう。

その背後関係というのが私にもわからないので、ここは下手に手を出さず様子見をします。

エド君は少尉を追いかけようとしますが

 

「ちょっと待ってk…おわ⁈」

 

そうはさせじと、鬼鎧が両手の得物をめちゃくちゃに振り回します。

 

「来んじゃねぇ!おめぇらに構ってるヒマ無ぇんだよ‼︎」

 

狭い路地を背に鬼鎧が包丁と刀をぶん回すので、少尉を追う事ができません。

少尉を追いかけたいエド君達と、それを阻止したい鬼鎧達の睨み合いが続いてましたが、大きな爆発音が起こり、均衡が崩れます。

音源は少尉が逃げた方だったので、そちらに気を取られた鬼鎧の隙をついて、まずはエド君が裏路地へと入りました。

アル君もエド君についていくために拳を振るい、間一髪で避ける鬼鎧。

 

「おめぇらと戦りあってるヒマは無ぇって言ってんだろ‼︎行くぞ、糸目の!」

 

そう言って、少尉が逃げた路地とは別方向に鬼鎧は走り、

 

「ほいほイ」

 

とリンも逃げ出します。

 

「リン!なんでそんな奴と一緒にいるの⁈」

 

アル君が背を向けるリンに声をかけますが、リンはジェスチャーで済まないと表して走り去りました。

 

「アル君、私達も少尉を追いましょう」

 

私の言葉に

 

「ああ、もう!」

 

とリンの事を気にしつつも、アル君は少尉の消えた路地へ走り出しました。

 

 

 

アル君と路地を走っていくと、襟元を正す大佐と片膝をついてるエド君がいました。

辺りには肉の焦げた嫌な臭いが漂っています。

エド君は起き上がり、大佐へ殴りかからんと右拳を振りかぶり、慌ててアル君が抱えるようにしてエド君を押さえ込みました。

 

「ダメだよ、兄さん!何があったか知らないけど…」

 

「はなせ、アル!この野郎はロス少尉を…‼︎」

 

エド君の言葉に道端を見ると、黒焦げになったヒトの形をしたモノが転がってます。

その手首には少尉の名前が書かれた認識票が巻かれてました。

確かにこれだけなら、「大佐が少尉を殺した」ように見えますが、私には少尉がこの近辺から離れているのも感じられます。

この気配がアル君みたいに魂だけなら、目の前の黒焦げは少尉の遺体となりますが、ついさっきまでちゃんとした肉体を持っていた少尉を魂だけの存在にするには時間が短すぎます。

大佐にそんな事ができるとも考えられませんし、これは少尉は生きていると考えた方が良さそうですね。

ただ、大佐としては少尉を死んだように見せた方が都合がいいみたいなので、ここは黙っておきましょう。

アル君も黒焦げのモノが少尉だと思ったみたいで、事の成り行きを尋ねますが、

 

「ヒューズの失踪事件の犯人であるマリア・ロスが脱走したから射殺命令が出ていた。それだけだ」

 

と大佐はにべもなく告げます。

 

「それじゃあ、何の説明にもなってない‼︎だいたい中佐は…」

 

「ストップです、アル君!」

 

アル君が大佐に中佐の事を話そうとしていたので、待ったをかけました。

爆発音を聞きつけた野次馬が集まってきたので、大声で中佐が生きてる事を話されては困ります。

どこの誰が敵側の人間かはわからないですからね。

 

「…?ヒューズの件を黙っていた事は謝ろう」

 

少し訝しげな表情を浮かべましたが、そう言って大佐は通報で駆け付けた憲兵の方へと向かいます。

 

「マスタング大佐、後でお話がありますのでよろしいですか?と言いますか、今日はキチンと聞いていただくために営門前で待たせてもらいますよ」

 

「ああ、いいだろう」

 

私の言葉に了承の返事をした大佐は、憲兵と話を始めてしまいました。

その後、私とエルリック兄弟、特にエド君は国家錬金術師という事もあってか、事情聴取を受けて司法解剖の結果を聞くために軍の病院へと向かいます。

てっきり司令部に行くのかと思ってたんですが、大佐もエルリック兄弟も、少尉の上司であるアームストロング少佐も病院へとやってきました。

まあ、ここも軍施設という事でちゃんと営門もありますし、その前で待たせてもらうことにします。

暫くすると大佐だけが営門に向かってくるのが見えました。

 

「やあ、サラ君。待たせてしまったかな?」

 

「いえいえ、それ程ではありませんよ。エルリック兄弟はどうされたんです?」

 

声をかけてきた大佐にそう返すと、

 

「2人はロス少尉と知り合いだったのに私が殺したのだ。その状況で仲良くお喋りするような図々しさはない。君も少尉と既知の仲だったはずだが?」

 

と逆に質問を返されました。

知り合いが殺されたはずなのに、飄々としてる私を不審に思ってるのでしょう。

実際は少尉が生きてると知ってるから、落ち着いてるんですが。

知り合いがそういう状況になったら、実際にどうなるかは私にもわかりません。

 

「それはですね…、ああ。エルリック兄弟も来ましたよ。続きは宿に戻ってからお話ししましょう」

 

エルリック兄弟も営門を出て私達の方に来ますが、エド君は特に強く大佐を睨んでます。

アル君も表情はわかりませんが、怒り心頭という感じでしょうね。

 

「2人とも落ち着いてください。宿に戻って色々お話しないといけないんですから」

 

「サラはこんな奴の肩を持つ気か⁈」

 

宿までの道中を考えて兄弟に言いますが、日に油だったのかエド君は怒気を荒げます。

 

「その事も後でお話しますから。とりあえず宿に戻りましょう、ね?」

 

何とか3人と一緒に宿へと向かいますが、大佐はいつも通りの澄ました感じで、それが気に食わない兄弟は不貞腐れて声を発しないどころか、大佐や私の方を見ようともしません。

そんな嫌な雰囲気の中、この状況から早く抜け出したくて宿を目指すのでした…。


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