雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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12時間連続投稿、今回はこの話で終わります。
これからも「雷氷の魔術師」をよろしくお願いします。


第4話

ーサラ・ヒューイットー

 

炭鉱の街ユースウェルを離れ、付近では大きな街のイーストシティへと向かう列車に乗っています。

エド君には

 

「いつまでついてくんだよ?」

 

と呆れられ、アル君からは

 

「まあまあ、兄さん。お金がなくて大変なんだから、少しは付き合ってあげようよ」

 

と優しい言葉をいただきました。

それと、いつまでもエドワードさん、アルフォンスさんという他人行儀な呼び方でなくていいとのことで、エド君、アル君と呼んでいます。

2人の年齢は15歳と14歳ということで、君付けです。

ユースウェルを出ると、まずは西にあるニューオプティンという街に行き、そこで特急へ乗り換えてから南に位置するイーストシティへと向かっていました。

途中までは普通の列車の旅だったんですが、この列車が「青の団」とかいう過激派組織に乗っ取られてしまいます。

私達が乗ってる車両にも銃で武装した2人の構成員が現れ、乗客を見張っています。

私とアル君は車窓からの眺めを楽しんでたんですが、エド君は乗って早々2人乗りの座席を占拠して眠ってしまってます。

銃を持った人間が現れて、乗客は一瞬騒ついたにも関わらず、眠ったまんまです。

静かな客車に、車輪とレールが出す「ガタンタタン」という音の他に、エド君のイビキだけが響いてます。

さすがに構成員のうちの1人が呆れて近寄ってきました。

 

「…この状況でよく寝てられんな。おい!起きろ、コラ!……この…ちっとは人質らしくしねぇか!この…チビ‼︎」

 

「チビ」という単語が口から出た瞬間、エド君の目が大きく見開かれ、ガバッと起き上がります。

その異様な雰囲気にエド君を起こした構成員Aが銃を顔に突きつけました。

エド君はそれを無視して、突きつけられた銃身を両手で挟みます。

すると、銃身から強烈な光が発せられ、光が消えるとぐにゃりと曲がったラッパみたいに変形した銃身が現れました。

それに驚いてる構成員Aをひと蹴りで伸してしまったエド君。

もう一人構成員がいるのにそれはマズいでしょう。

 

「やりやがったな、小僧」

 

やはりというか、もう一人がエド君に横から銃を突きつけました。

仕方がないので、構成員Bが銃を突きつけてる腕を上に向くように糸で縛り上げます。

 

「な⁈なんだ?何しやがったチビ!」

 

と構成員Bが言った瞬間、その顔面に飛び膝蹴りをかまして、

 

「だぁれぇがぁ…ミジンコどチビかーーっ‼︎」

 

と右腕が釣り上げられた構成員Bをボッコボコにしてしまいました。

あまり殴りすぎると撲殺という事態になりかねないので、後ろから羽交い締めにします。

 

「エド君、落ち着いてください。それ以上はマズいですよ」

 

「フーッ、フーッ…。こいつら誰?」

 

え?誰かわからないままフルボッコしたんですか⁈

とりあえず、糸を解除してロープで縛りつけます。

 

「アル君。どうしてエド君はあんな状態になったんですか?」

 

「多分、っていうか絶対『チビ』って単語に反応したんです。しかも無意識に。兄さんはその辺をかなり気にしているので、サラさんも気をつけてください」

 

「なるほど、わかりました」

 

確かに15歳にして150cm程度の身長はコンプレックスになってしまうでしょうね。

私も言葉には気をつけましょう。

それについては置いといて、エド君が構成員Bに列車を乗っ取った「青の団」についての情報を聞き出します。

 

「俺達の他に機関室に2人、一等車には将軍を人質に4人。一般客車の人質は数ヶ所に集めて4人で見張ってる」

 

「あとは?」

 

とニコニコ笑いながらエド君が握り拳を見せつけます。

ボコボコにされたのが効いてるのか、構成員Bは慌てて

 

「本当にこれだけだ‼︎本当だって‼︎」

 

と答えました。

構成員が他にも10人いるんだとわかって、乗客も慌てます。

まぁ、仲間がやられたと分かれば報復に来るかもしれませんからね。

ですが、

 

「人質として捕まったからには、誰かと交渉するときの道具にされかねませんよ?それならここの錬金術師の2人に任せた方がよろしいのではないですか?」

 

私がそう言うと乗客も黙ってしまった。

 

「私も言い出しっぺなので、手伝いますよ。エド君が上を行くなら、私が下を抑えましょう」

 

「サラ、お前大丈夫なのか?」

 

「ええ、私にはこれくらい朝飯前です」

 

「まあ、アルもいるから大丈夫だろ」

 

そう言ってエド君は窓から客車の上に上がりました。

風圧で飛ばされそうになったのはご愛嬌でしょうか?

 

「では、アル君行きましょうか?ちなみにアル君は私が心配ですか?」

 

「あの糸の術があれば、大丈夫だと思ってます」

 

「その通りです。それではサクッと終わらせますか」

 

そう言ってアル君と共に前の車両を目指します。

1両前の車両の連結部分に来た時、早速銃を持った男に出会いました。

 

「おっと嬢ちゃん、一歩も動くな。後ろの車両で何があt何だこれ!」

 

銃を魔力を込めた糸で切断し、驚いて固まった男の鳩尾に掌底を軽く当てます。

なんてったって、魔力障壁がないから本気で当てたらトマト的なことになってますから。

軽く当てただけでも吹っ飛んで、壁に身体をぶつけて昏倒する男。

 

「あら?まだ強すぎたでしょうか?」

 

「え?結構な勢いで身体が飛んでましたよ⁉︎」

 

「一応力は抑えたつもりだったんですが、もっと抑えるべきですかね?」

 

「そ、そうですね…それがいいと思いますよ」

 

ハハハと乾いた笑い方のアル君。

今まで闘った中でも防御力が低すぎる相手ですね。

障壁がないんで当たり前なんでしょうけど。

うーん、強くなりすぎるのも困りものです。

どうやって、力を抑えればいいんでしょう?

いっそのこと、近接戦闘はやめて全部糸で処理するべきでしょうか?

 

「…ラさん、サラさん!サラさん‼︎」

 

「ッハ!すいません、少し考え事をしてました。では先に進みましょうか?」

 

「いえ、もうこの先は一等車と機関車だけですよ」

 

「途中の乗っ取り犯達はどうしたんですかね?襲ってきませんでしたが…」

 

「サラさんが糸で全員気絶させてましたよ!乗っ取り犯達が持ってた銃も、サラさんが車両に入った途端バラバラになりますし!あれどうやったんですか?っていうかここまで無意識に来ちゃったんですか⁉︎」

 

力加減について考えてるうちに、一等車の手前の車両まで来てしまったみたいで。

まあ、乗っ取り犯を無力化できたなら無問題でしょう。

 

「すいません、ちょっと考え事に夢中になってました。テーマは『いかに力加減するか』ですね。決着はつかなかったんですけど…。銃は特殊な糸でバラしたんだと思います。意識してなかったんですが、それくらいは余裕です。それでこれからどうするんですか?」

 

「もうすぐ兄さんが機関室を奪還して、何かしらの合図があると思うので少しここで待ちます。サラさんって兄さんより大雑把な人かもしれない…」

 

最後はなんて言ったのか聞き取れませんでしたが、随分失礼なことを言われた気がします。

まあ、いいんですけどね。

暫く待っていると、前の車両からエド君の声が聞こえました。

 

「あー、あー。犯行グループの皆さん。機関室及び後部車両は我々が奪還しました。残るはこの車両のみです。大人しく人質を解放し投降するならよし。抵抗されるなら、強制排除させていただきます」

 

「ふざけるな!何者か知らんが、人質がいる限り我々の敗北はない‼︎」

 

エド君とは違う声が聞こえます。

これが主犯なんでしょうか?

 

「あらら、反抗する気満々?残念、交渉決裂。人質の皆さんは物陰に伏せてくださいねー」

 

とエド君の最後通牒のあと、前の車両からザバーッという音が聞こえてきました。

これは水の音でしょうか?

車内で水音とは、修学旅行を思い出しますねぇ。

なんてシミジミ思っていたら、アル君が一等車に通じるドアを開けたので水と一緒に男が3人流れ込んできました。

っていうかドアを開けるなら開けると、言って欲しかったですね。

靴と靴下が濡れちゃいましたよ…。

とりあえず糸で3人を縛り上げます。

あら、あと1人いたような気がするんですが?

そう思って前の車両を覗くと、アル君が男の側頭部を殴ってるのが見えました。

あれはなかなかいいパンチですね。

残った男も卒倒しました。

それはいいんですが、今まで手袋をしていた右手は手袋がないかわりに金属製の手がありました。

 

「お疲れ様でした。エド君はその右手、どうかしたんですか?」

 

「…昔、ちょっとな」

 

「なるほど、訳ありというやつですね?ならば何も聞きません。ただ、よくできてますね。その眼帯の男の人もですが、身体に金属の腕を着けるなんてすごいです」

 

機械鎧(オートメイル)を知らないのか?」

 

「まぁ、私も訳ありですから」

 

ハハハととりあえず笑っておきます。

なんせこの世界に来たばかりなんで、こちらでは機械鎧なんて当たり前かもしれませんが、私は知るはずがありません。

そんな微妙な雰囲気の中、列車はイーストシティに到着したので、ホームに降り立ちました。

エド君、アル君に続いて列車を降りると、

 

「や、鋼の」

 

という声が聞こえました。

「 鋼の」というのは「鋼の錬金術師」の略で、恐らくエド君のことなんでしょう。

声がした方を見ると青い軍服に黒いコートを羽織った黒髪の男性と金髪の女性がいました。

 

「あれ、大佐。こんにちは」

 

とアル君が返事したところを見ると2人の知り合いなんでしょう。

エド君はというと、思いっきり苦虫を噛み潰したような顔をしてるところを見ると、知り合いだけどあまり会いたくない人なのかもしれませんね。

 

「アル君、知り合いですか?」

 

「男の人がロイ・マスタングさんで見た通り軍人で大佐なんですよ。女の人がリザ・ホークアイさんで中尉です。ホークアイ中尉、こんにちは」

 

「アルフォンス君もこんにちは。こちらのお嬢さんは?」

 

「こちらはサラ・ヒューイットさんで、ユースウェルで知り合ったんです」

 

「初めまして。私はサラ・ヒューイットと申します。しがない旅人をやっています」

 

「初めまして、サラさん。私はリザ・ホークアイ、見ての通り軍人よ」

 

ホークアイ中尉はいかにもデキる女って感じの女性です。

 

「鋼の、こちらの可愛いお嬢さんと知り合いか?ちゃんと私に紹介しないか」

 

「いやぁ、可愛いだなんて…」

 

って言われて、つい肩を叩いてしまいました。

途端に「ぐぁっ!」と声をあげて吹っ飛ぶ大佐。

アル君はあちゃーとばかりに顔を手で覆い、エド君と中尉は驚いた顔で私を見ています。

ギリギリで力を抑えたんですが、気を抜いてたんでやってしまいました。

 

「ああ!すいません。大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ。大丈夫だ。ちょっと肩が痛いが問題ない。君は、その…、随分力が強いんだね」

 

大佐が肩に手を当て、少し呻きながら立ち上がります。

 

「すいません、ちょっと力加減を間違えました。改めまして、サラ・ヒューイットです。よろしくお願いします」

 

「私はロイ・マスt「うわぁ‼︎」…む?」

 

大佐が自己紹介しようとした時、誰かの叫び声が聞こえたので、そちらを向くとさっきの眼帯の男が機械鎧の左腕から仕込みナイフを生やしてます。

周囲には血を流して倒れる軍人さん。

あのナイフで斬られてしまったんでしょう。

そのまま、大佐に向かって走ってきます。

大佐はというと右腕を男に突き出し、指をパチンと鳴らしました。

すると大佐を襲おうとしていた男の正面で爆発が起こります。

大佐が指を鳴らした時に空気が少し動いた気がし、指からは火花が飛んだのが見えました。

あれが、大佐の錬金術なんでしょう。

 

「私はロイ・マスタング大佐だ。そして『焔の錬金術師』でもある。覚えておきたまえ」

 

とカッコつけていました。

肩を摩ってますが…。

私が悪いんですが、なんか締まらないですねぇ。


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