雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第37話

ーサラ・ヒューイットー

 

アメストリス国から東の砂漠を越えた場所にあるシン国からやって来た男性、リン・ヤオ。

彼は私達に探し物をしに来たと言いましたが、その探し物が問題でした。

 

「『賢者の石』。すっごく欲しいんだけド。知らないかナ?」

 

それまでニコニコ浮かべてた笑顔を真顔に変えてて尋ねてきます。

 

「さぁ?知らねぇよ。お互いもう用は無いだろ?じゃあな」

 

エド君は不機嫌そうに言うと椅子から立ち上がり、踵を返そうとします。

そんな態度を急にとれば、リンに何か知ってると思われますよ?

案の定、

 

「おっと…、待ってちょうだいヨ」

 

リンがそう言って指を鳴らしました。

途端に天井に控えてたリンの仲間と思われる2人が私達の背後に現れ、刃物を突きつけます。

私は特に警戒されてるのか、少しでも動けば喉を斬ると言わんばかりに剣を当てられました。

横目で見ると、もう1人の仲間もエド君とアル君に刃物を突きつけてるみたいです。

 

「君達何か知ってるみたいだネ。教えてくれないかナ?」

 

また笑顔を浮かべたリンが言いました。

エルリック兄弟が私を見て固まってしまったので、その緊張が解ける時間を稼ぐために私は質問をします。

 

「賢者の石を手に入れてどうするんです?」

 

「不老不死の法を手に入れル!」

 

と答えるリン。

グリードも不老不死になりたいみたいな事言ってましたね。

 

「そう言えば、この前もそんな事言う人がいましたね」

 

アル君もこの前の誘拐騒動を思い出したのか、言いました。

 

「なんだそりゃ?俺の知らない間に不老不死が流行りだしたのか?なぜそんなものを求める?」

 

少しは落ち着いたのかエド君が尋ねますが

 

「家庭の事情ってやつサ」

 

と、リンははぐらかすように答えます。

 

「他所様の家庭事情なんて私達には無関係ですし、そもそも刃物をちらつかせるのが人に教えを請う態度でしょうか?」

 

私の呆れた呟きにエド君も同調しました。

 

「俺も…そう思うぜ‼︎」

 

言うと同時に、自分の背後にいる相手へ裏拳を振るエド君。

私が喉元に刃物を当てられても動揺してないので、問題ないと思って動いたのでしょう。

実際問題はないので、首に当てられてた剣を摘んで首筋から離します。

私に剣を当ててた相手は慌てて剣を動かそうとしますが、私が摘んでいるのでピクリとも動きません。

更にアル君が私の背後にいる相手に殴りかかったからか、剣に込められてた力が抜けました。

剣を手放してアル君と対峙せざるをえなかったのでしょう。

そのまま店から離れるようにエルリック兄弟とリンの仲間達の気配が遠ざかっていきます。

 

「あぁーあ、か弱い女の子を残して行っちゃうなんて酷いですよね」

 

「か弱いなんてよく言ウ。君から発せられてる魂の気配は普通の人間では有り得なイ。君は…いヤ。お前は何者ダ?」

 

なるほど、リンが最初に私を驚いたように見ていたのは、彼らにも気や魂といったものを感知する能力があったからなんですね。

恐らくリンの仲間もそういう能力を持ってたから、私を危険だと見なしたんでしょう。

 

「この世界にも、魂や気を感じる事が出来る人がいたんですねぇ」

 

「何を言っていル?」

 

「独り言です。気にしないでください。それでどうします?その腰に差した剣で斬りかかってみますか?」

 

「そうしたいのは山々だが、その指でじいの剣を止めた所を見たのに、そんな愚行をすると思うカ?」

 

そう言えば、私が摘んだ剣は持ったままでした。

 

「どうぞ、私には必要ないものなので返します」

 

と言って剣をリンに渡します。

 

「ここにいても店の迷惑なので出ましょうか。もちろん、食事代は私が出しましょう」

 

そう告げて、店員さんにお会計を頼みました。

リンは結構な量を食べたはずなんですが、思ってたよりもお金がかかりませんでした。

流石大衆食堂という事ですかね?

そんな事を考えつつもリンを連れて通りに出ます。

 

「で、改めて尋ねますが、どうします?今ならそちらは二刀流。私は武器無し。結構チャンスだと思いますよ?」

 

「そんな見え透いた挑発に乗る程、愚かじゃなイ」

 

「いやいや、私という異質な存在に気付いておきながら、賢者の石の情報を脅して貰おうとしたのは愚かじゃないんですか?」

 

そう、私に気付いてたなら別の機会を伺えばよかったんですよ。

それを敢えて私の前でやったというのがよくわかりません。

 

「言っただろウ?家庭の事情だト。早く賢者の石の情報を手に入れて国に戻らなければならないからナ。少し強引ではあったがやらざるを得なかったんダ」

 

「それこそ私達には無関係だと先程言いましたけどね」

 

「…結局、お前は何者なんダ?なぜ、あの兄弟について旅をしていル?」

 

「私は私、サラ・ヒューイットです。それ以上でもそれ以下でもありません。エルリック兄弟と旅をしているのは、彼らについて行けば面白い事が待ってると思ったからです」

 

まさか、この世界の主人公なので一緒にいれば何かあると思ってなんて言ったところで、通じる訳がないので適当に答えます。

 

「賢者の石なんて、興味ないので私には構う必要ありませんよ?」

 

「それだけの魂を持っていれば、賢者の石が無くとも不老不死かそれに近い存在だろうヨ。寧ろ賢者の石よりお前をシンに連れてった方が確実かもしれン」

 

自分が不老不死になったかなんてわからないんですけどねぇ。

「ネギま」ではネギ君が原因不明ですが亡くなってる描写もありましたし。

それが私にも適応されるのかわかりません。

確かめようなんて試す訳にもいかないですし。

 

「そうダ!サラ・ヒューイット、シンに来ないカ?それなら賢者の石の事も諦めるし、俺としてもあの兄弟にこだわる理由がなくなル」

 

まるでいい事を思いついたと言わんばかりのリン。

あいにく私にはまだこの国でやるべき事があるので、シンに行くつもりはありません。

 

「残念ながら答えはNoです。自分の事を人間じゃないだろうと決めつけられてるのに、シンにノコノコついて行けば、実験動物みたいな扱いを受けるのが容易に想像つきますよ」

 

「多少の協力はお願いするが、俺はサラを実験動物として扱うつもりはないゾ」

 

憮然としてリンは言いますが、リン自身がそうだとしても国ぐるみになると話は変わります。

まさにこの国と変わらないのではないでしょうか?

ヒューズ中佐やマスタング大佐みたいに個人でいい人はいても、その国のトップはアウトみたいな。

シンも同じだと言うつもりはありませんが、誰かは知りませんけども不老不死を求めるなんて似たり寄ったりでしょう。

 

「何と言われようとシンに行こうなんて考えてませn「「ドーン!」」…あちらの『話し合い』も終わったみたいなので、様子を見に行きましょうか」

 

そう言って、私は爆発音がした方へと歩きます。

リンも仕方ないとばかりに、私について来ました。

 

 

エルリック兄弟の気配を頼りに行くと、2人は黒装束の2人組と睨み合っていました。

なぜかパニーニャもここにいました。

この黒装束が食堂で剣を突きつけてきたリンの仲間なんでしょう。

黒装束は文字通りお縄についてる状態でした。

 

「2人とも無事で何よりです。パニーニャさんも久し振りですね。でも何故ここに?」

 

「サラも久しぶり。屋根の修理してたらアルが降ってきてね。成り行きでアルの手伝いしたんだよ」

 

とパニーニャは答え、

 

「サラも無事か…って、何でそいつも一緒なんだよ?」

 

エド君がリンを指差して言います。

 

「そちらの黒装束のお二方を引き取ってもらわないといけないでしょう?しかし、黒装束の中身がおじいさんとまだ若い娘さんだったとは思いませんでした」

 

そうなんです。

リンの仲間は白髪とヒゲのおじいさんに、女の子だったんです。

 

「『若い娘さん』という言い方は、まるで年寄りみたいだナ」

 

「失礼ですね、私だってまだ15ですよ。それより、エド君の腕。ウィンリィさんに怒られるんじゃないですか?」

 

リンの失言に反論しつつ、エド君の腕の状態を尋ねました。

稼働に支障はなさそうですが、装甲はボロボロで内部も少し見えてます。

 

「完全に壊れた訳じゃないけど、スパナの1発は覚悟しとかねーとな。ったく、俺が何したってn「おお、いたぞ!」…へ?」

 

エド君がボヤき始めたところで大勢の人がやってきました。

 

「お前らあちこち壊して回ったな⁉︎」

 

「弁償してもらうぞ」

 

「こいつらこの前も色々壊した奴らじゃね⁈」

 

「毎度毎度よく壊すな」

 

「さっさと直してもらうわよ」

 

そう言いながら、恐らくこの街の住民だろう人達は有無を言わせずエルリック兄弟を連行していきます。

実際、前回このラッシュバレーに来た時もパニーニャに盗まれた国家錬金術師の証である銀時計を取り戻すため、主にエド君が錬金術を街中で使いまくってましたからね。

今回協力してくれたパニーニャはというと、住民がエルリック兄弟に詰め寄る前に逃げてました。

私は仕方なく、仲間内で話してるリン一行と共にエルリック兄弟を待つことにします。

っていうか、さっさと逃げ出さないって事は、リン達は賢者の石をまだ諦めてないんですね…。


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