雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第36話

ーサラ・ヒューイットー

 

シグさんのお店から、キング・ブラッドレイ大総統とアームストロング少佐が出て行くのと入れ替わるように、エド君が店の裏からやってきました。

 

「サラ!ビンゴだ‼︎アルの記憶が戻った!」

 

エド君によると、エド君の血を血印にかけても特に記憶が戻るような素振りはなかったそうです。

私が先に説明していた様に、アル君の魂を現世に留めているのがエド君の血である、という事がショックにならない理由だろうとイズミさんが判断し、次にイズミさんが血をかけてみました。

かけたというか、タイミング良く?吐血してしまってそれが少し血印にかかったそうです。

その途端アル君の意識はなくなって、まさか失敗してしまったのだろうかとすぐにエド君は鎧を叩いて呼びかけます。

その呼びかけにアル君も意識を取り戻して、記憶も蘇ったんですが、結局人体錬成についてはわからなかったそうです。

 

「記憶が戻ってよかったと思いましょう」

 

「それはそうなんだけどさ。サラはホムンクルスと接触したんだろ?何か情報を掴めなかったか?」

 

これは、いいタイミングですね。

丁度どう切り出そうか迷ってたんですが、エド君からきっかけを作ってくれました。

 

「人体錬成の話は聞いてませんが、興味深い話は色々知る事ができました。ですが私達だけでどうにかできる案件ではないので、セントラルに行ってマスタング大佐も交えてお話しましょう」

 

「は⁈なんでそこに大佐の名前が出るんだよ?それに大佐は東方司令部だろ?」

 

エド君が大佐の顔を思い出したからか、思いっきりしかめ面を浮かべます。

 

「私達だけでは手に負えない話だと言ったじゃないですか。ブラッドレイ大総統も軍内部に不穏な動きがあると仰ってたでしょう?それに関連しそうな話ですよ。あと大佐は人事異動でセントラルにいると総統から先程伺いました」

 

その軍内部の不穏な動きの首魁が総統本人かもしれないんですが、それもあとでまとめて話しましょう。

 

「なので大佐も交えるのは決定事項だと諦めてください」

 

不満気な表情のエド君をよそに店からイズミさん宅に移動します。

そこにはちゃんと意識が戻ったのか、と思わず疑ってしまいたくなるくらい微動だにしないアル君がいました。

 

「アル君、大丈夫ですか?」

 

「あ、サラさん。大丈夫です。ちょっと真理の扉を見た時のショックが強かったのを思い出して、混乱してるだけです」

 

まぁ、真理の扉を開けると膨大な知識を無理矢理脳内に刷り込まれるらしいですから、ショックも大きいでしょう。

 

「混乱してるところ申し訳ないんですが、これからセントラルに行きますよ」

 

「え⁈どういう事ですか?」

 

「ホムンクルスから貰った情報をマスタング大佐とお話しないといけないからです」

 

「えーと、大佐は東方司令部に…」

 

「人事異動でセントラルにいるんだってよ。サラが大総統から聞いたんだと」

 

背後からエド君が未だに嫌そうな顔をしながら言いました。

 

「はい。という事で善は急げと言いますし、アル君の記憶も戻ったので、セントラルへ行きますよ」

 

今まではエルリック兄弟について行ってましたが、今回は私が先頭に…

 

「あ、それならラッシュバレーに少し寄りませんか?」

 

アル君がふと思いついたように提案します。

いや、セントラルで大事な話を…

 

「そうだな!ひょっとしたらウィンリィが新しい機械鎧考えてくれてるかもしれねーし」

 

エド君もアル君の意見に乗っかります。

っていうか、エド君は大佐に会いたくないから乗っかったんじゃないですよね?

幸いと言いますか、まだ北で紛争が起きたとか起こりそうとかいうキナ臭い話は聞いてないので、少しラッシュバレーに寄るくらいなら問題ないでしょう。

 

「はぁ。お二人がそう言うなら先にそちらに行きましょう。エド君も素直に好きな人に会いたいと言えばいいのに…」

 

「っば⁉︎バカじゃねーか⁈別にそんなんじゃねーし!」

 

意趣返しとばかりにエド君をからかうと、実に分かりやすい反応をもらえました。

アル君も口元に手を当てて「あらあら、うふふ」という感じです。

そんなグダグダな状況で私達のラッシュバレー行きが決定しました。

 

 

 

 

カーティス夫妻とメイスンさんに別れを告げ、私達は汽車に乗って再びラッシュバレーにやってきました。

街は相変わらず賑やかで、機械鎧技師という名のハイエナ達が今日も新たな獲物を求めて、軒先で勧誘合戦を繰り広げてます。

ウィンリィちゃんが修行しているガーフィールさんという人のお店に向かって通りを歩いていると、アル君が急にクルッと横を向き路地裏の入り口に座り込みました。

エド君と私はすぐに気付いたので

 

「アル?何やってんだ?」

 

「アル君、どうかしたんですか?」

 

と同じタイミングで声をかけます。

アル君はというと身体をもじもじさせながら

 

「兄さん…」

 

と困った様な声を出しました。

 

「…お前がそんな態度の時は、たいていネコか何かを拾ってんだよな」

 

エド君はこういう状態のアル君をよく見ているようで、またかよと言わんばかりです。

対するアル君も慣れたもので

 

「うん」

 

と拾ったモノを掲げました。

ただし、拾ったと言ってもネコやイヌのような小さいモノではなく、長く伸ばした髪を後ろで纏め、腰に剣を下げた男性です。

まさか人が出てくると思わなかったので、驚きで一瞬声が出なかった私とエド君。

 

「これって…」

 

「やっぱ行き倒れか?」

 

「そうみたい」

 

私達の疑問に対してアル君はあっさり答えます。

しかし、行き倒れですか…。

何かしら身分証明になる物があればいいんですが…。

そんな事を私は考えていたんですが、エド君は

 

「元の所に捨ててこい」

 

なんて言ったんです。

見つけてしまったのに見捨てるというのは流石に寝覚めが悪いので、近くにあった食堂へ連れて行き、とりあえず食事をあげようという事になりました。

食堂に着くと、まずは消化に良さそうな物を注文したんですが、それがテーブルに届いた途端、ペロッと平らげ、まだ食べ足りないのか他にも色々注文しだしました。

この男性、どうやら他所の国の人みたいですね。

注文をする言葉に少し訛りがあります。

 

「いやー、生き返った生き返っタ‼︎あんた方、命の恩人ダ‼︎ありがト!ごっそさン‼︎」

 

平らげた量を示すたくさんの食器を前に、片手を上げて謝意を表す男性。

空の食器を見て若干引きながら

 

「…奢るなんて一言もいってねぇよ」

 

とエド君が言いますが、それは意味がないでしょう。

 

「お金を持ってたらこの人も行き倒れになんてなってませんよ。ここは私が出しましょう」

 

私の言葉で納得したのか、エルリック兄弟は可哀想な人を見る目で男性を見ます。

 

「情けないけど、その通りだからネ。でも女の子にお金を借りるのは申し訳ないから、あとでちゃんと返すヨ」

 

そう言いながら元々笑顔を浮かべてたのを、さらに破顔させる男性。

この人は笑顔がデフォルトなんでしょうか?

ただ、笑顔を浮かべながらも私をちらりと見た時の目は、まるで信じられないモノを見たかのような感じだったのを見逃しませんでした。

どうしてそんな目を向けられたのかはわかりませんが、私としては

 

「そうですか?まぁ、期待しないで待っておきますよ」

 

と答えるしかありません。

行き倒れてた人にお金を返してもらおうなんて、考えても仕方ないと思いますし。

 

「異国で触れる人情…、ありがたいネェ」

 

男性はハンカチで涙を拭く仕草をします。

私も散々胡散臭いと言われてきましたが、この人も中々じゃないですか?

 

「異国って…、やっぱり外国の人?」

 

アル君の疑問に対して

 

「そウ!シンから来タ!」

 

と男性が答えます。

 

「東の大国シン!」

 

「へー!こんな遠い所まで物好きな!砂漠越え大変だったろ?」

 

アル君とエド君が驚きの声を上げました。

東の砂漠というと私がハガレンの世界に来て最初にいた所ですね。

 

「ああ、あの大砂漠には参ったネェ」

 

苦笑いを浮かべながら近くに落ちてた棒を拾って、地面にガリガリと簡単な地図を描く男性。

 

「鉄道ルートは砂に埋まって使えなくなってたからサ…、馬とラクダを乗り継いデ…。クセルクセス遺跡を中継するルートでどうにかこの国に入ったのサ」

 

「そういや、どっかの誰かさんも砂漠からやって来たな」

 

男性の言葉に思い出したかのように私をジト目で見るエド君。

 

「前も言いましたが、気付いたらあの砂漠にいたんですよ。私はシンから来た訳ではありませんし、砂漠を越えてもいません。まぁ、ユースウェルの街の近くにいたのはラッキーでしたね。砂漠のど真ん中にいたらどうなってたことやら」

 

別になんてことなかったとは思いますが、適当な事を言って誤魔化します。

 

「大回りしてでも海路を使えば苦労もなかっただろうに」

 

「うん、それはそうだけド…。クセルクセス遺跡を見ておきたかったかラ」

 

アル君の言葉に男性はそう返しました。

恐らく私が最初にチェックしたのが炭鉱の街ユースウェルと、そのクセルクセス遺跡なんでしょう。

私は確実に人がいると思ったのでユースウェルに行ったんですが。

 

「クセルクセス?あそこは何も無いった聞いたけど」

 

「『大昔に一夜で滅んだ』なんて伝説があるくらいだよ」

 

やっぱりあの遺跡には何もなかったんですね。

エド君の言葉だけで判断するのもどうかと思いますけど…。

しかし、一夜で滅んだなんて物騒な伝説ですね。

どうやったらそんな事ができたんでしょうか?

魔法は当然ありえませんし、大量破壊兵器があったとも考えられませんし。

私の考え事を他所に話は進みます。

 

「観光か?」

 

「違うよ、調べもノ。この国にも『錬丹術』について調べに来タ」

 

遺跡を見たかったという言葉に反応したエド君の質問に、男性が答えたのは錬丹術という言葉でした。

錬丹術なんて初めて聞きますが、男性によるとシンの錬金術だそうです。

 

「俺達の国では医学方面に秀でた技術なんダ。この国の『錬金術』は科学技術として特化してるんだっテ?」

 

「ああ、お国柄ってやつだな。うちは軍事転用が主だから」

 

そう言ってエド君も男性が描いた地図にアメストリス国周辺の状況を描き足していきます。

南のアエルゴと西のクレタとは国境付近で小競り合い。

北のドラクマとは不可侵条約を結んでいるものの、ブリッグズ山という険しい山地が一触即発の状況に留めてるだけだと。

 

「昔っからゴタゴタはしてたんだけど、こんなに軍事に傾いたのは今のブラッドレイ大総統になってからかな」

 

とエド君は言葉を締めます。

それはホムンクルス達の計画が最終段階に入りつつあるからでしょう。

北だっていずれ戦場になるはずですし。

 

「この国ももっと平和だったら、シン国みたいに人々の役に立つ錬金術になってたかもしれないね…、そうだ!君達の国の錬金術についてもっと知りたいな!」

 

「おー、そうそう!それ興味あるな。医学に特化したってやつ!」

 

アル君の言葉にエド君も食いつきます。

自分達が知らない錬金術には興味を隠せないみたいです。

医学特化という事もより興味を持たせる一因でしょう。

 

「ヘェ!ひょっとして君達、錬金術師?」

 

「そう!オレはエドワード・エルリック。国家錬金術師だ」

 

「ボクはアルフォンス・エルリック。ちなみにボクが弟ね」

 

「私はサラ・ヒューイットです。錬金術師ではありませんが、2人と旅をしている者です」

 

「国家資格!いやぁ、博識な人に会えてラッキーだなァ!俺はリン・ヤオ!よろしク!」

 

リンといった男性は和かに握手を交わします。

 

「そんでほら、そっちさんの錬丹術ってやつ?詳しく教えてくんないかな?」

 

握手もそこそこにエド君は尋ねましたが

 

「それ無理。俺、錬丹術師じゃないかラ」

 

とリンはあっけらかんに答えました。

その返事にズッコケるエルリック兄弟。

 

「術師じゃねーのに何を調べに来たんだよ‼︎」

 

エド君のツッコミも当然でしょう。

錬丹術師ではないけど他所の錬金術を調べに来るというのは、私でもわかりません。

そんな簡単に素人が首を突っ込める話題じゃないでしょうに…。

 

「ん〜〜、ちょっと探し物。君達なら知ってるかなァ」

 

リンは少し考える素振りをしてから、私達が最近よく耳にした単語を言います。

 

「『賢者の石』。すっごく欲しいんだけド。知らないかナ?」

 

そう言うリンからは笑顔が消えていました。




ちょっと強引ですがラッシュバレーに
寄ってもらいました。
でないとリンが大変な事になってたかもしれませんので。
具体的には全く登場しないとか…。

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