ーサラ・ヒューイットー
「こんにちは、デビルズネストの皆さん。私、アルフォンス君を連れて帰りにきた者です」
そう言う私に対して、不審気、或いは困惑といった表情を浮かべるデビルズネストの人々。
まぁ見ず知らずの、あちらからすれば小娘が自分達のアジトに現れたんですから、そういう反応になるでしょうね。
「サラさん?どうして…っていうかどうやってここに⁈」
アル君は私がここに来たことに驚いています。
手や足に鎖を巻き付けられてるところを見ると、自らここに来たのではなく、攫われたという事なんでしょう。
アル君の鎧の中にも人の気配を感じます。
「どうしてここに来たか、はさっき言った通りアル君を連れて帰るためですよ。どうやってここに来たかは勿論歩いてですが?」
アル君は「何故ここに来る事が出来たのか?」を尋ねたんでしょうけど、まさか気配を辿ってなんて言っても信じてもらえないでしょうし。
「そういう事を訊いたんじゃn「あー、盛り上がってるとこ悪いが、鎧クンを帰す訳にはいかねーんだ」…」
アル君の言葉を遮って、ここのボスが言います。
「いやいや、知り合いを連れさらわれたんですから、取り戻そうというのはこちらの権利と義務でしょう。そちらの都合なんて知った事ではありません」
「そりゃそうだ。それでもこいつには訊きたい事があるんでな」
ふむ、その訊きたい事を明らかにすれば返してもらえるんでしょうか?
「ちなみにその訊きたい事とは?」
「この鎧クンを魂のみの身体にした方法だ。魂のみで死ぬ事のない身体、その作り方がわかれば永遠の命さえ夢じゃない!」
はぁ、永遠の命が欲しくてアル君を攫ったと。
でも、アル君も鎧の血印が傷付けばこの世にいられないんですから、完全な永遠ではないですよね。
実際セントラルでエド君が戦ったスライサーという兄弟は、血印に傷を入れられて亡くなったんですから。
「それはアル君の魂を錬成した人でないとわからないので、私にはどうしようもありません。でも、お兄さんのお仲間なら知ってるんじゃないですか?ウロボロスの入れ墨があるという事は、セントラルの長髪の少年も知り合いでしょう?」
「お兄さんって歳じゃねぇんだがな。セントラルの長髪の少年って、ひょっとしてゲテモノエンヴィーの事か?」
あの少年擬きは「
私の考えてる人物と目の前のお兄さんのイメージが同じならという条件がつきますが…。
「私の言った人がエンヴィーというのかは知りませんが、彼はアル君と同じような魂を鎧に定着させた人を手下にしてましたよ。残念ながら、手下はその彼自身に殺されましたが」
「ほう、あいつらそんな事もやってたのか。そいつは知らなかったな…。俺はな、あいつらとつるんでいても俺の欲は満たされねぇと思ったから、あそこを離れたんだよ。そういや、嬢ちゃんには自己紹介してなかったな。俺はグリードってんだ」
なるほど、「
それでウロボロスの連中と意見の不一致だかで離れて、今何をやってるかは知らないと。
「これはご丁寧に。私、サラ・ヒューイットと言います。とりあえず、元お仲間のところに行けば、魂の錬成方法はわかるんですから、そちらを頼ってはいかがでしょう?」
「目の前にチャンスがぶら下がってんだ、わざわざ古巣に帰るような面倒臭ぇ事するわけないだろ?」
グリードはあっけらかんと言ってのけます。
彼にも戻りたくない事情があるのかもしれませんが、私が気にする事ではありませんし。
「それでは力尽くでやらせていただきますが?」
「止めとけ、嬢ちゃん。アジトの奥深くまで来たんだからそれなりに腕もたつのかもしれんが、俺には勝てん。そもそも女と戦う趣味は無ぇ」
「いやいや、やってみないとわからn「サラさん!」…はい?」
さあこれからってところでアル君に呼び止められました。
「兄さんを連れてきてください!」
「あれ?兄貴は死んだって…」
「死んだなんて一言も言ってないよ!」
アル君、エド君を死んだと思わせるようなニュアンスで話してたんですか?
「この人、
「ちょっ!おまっ…いきなりバラすなよ」
グリードの焦りを他所にアル君は続けます。
「ボク達が元の身体に戻るヒントを持ってるんです!兄さんに知らせないと‼︎」
「エド君はさっき出かけたばかりで、2、3日は戻らないって言ってたじゃないですか」
国家資格の更新査定につい先程出かけたんですから、戻るのも時間かかるでしょう。
「何だよ、おまえ肉体を取り戻したいのか?その身体便利でいいじゃん」
「よくない‼︎」
「ああ!ゴチャゴチャ喧しい‼︎いいか?俺はこいつらに人造人間の製造方法を教える。こいつの兄貴は俺に魂の錬成方法を教える…どうだ?」
アル君を脇に抱えながら言うグリード。
なるほど、取引をしたいという事ですか。
でも、さほど意味のあるものじゃありませんね。
「人造人間の製造方法までは知りませんが、何を基に造られてるかは既に予想がついてるんですよ」
「何?」
グリードが訝しげな表情を浮かべます。
「まぁ、簡単な推察なんですけどね。私には人の身体を流れる『気』やら『魂の気配』というのを感じる事ができるんですよ。これはアル君やエド君にも言ってなかった事なんですけどね」
グリードは抱えてたアル君を見ますが、アル君がポカンと私を見てる状態だったので、私を見直し先を促します。
「さっきグリードさんが言ったエンヴィーという人もグリードさんも1人の人間とは思えない程多くの『魂の気配』を感じられます。さて、アル君。人の魂を複数使って作られるものがあったのを覚えてます?」
「あ⁈賢者の石…」
アル君がハッと顔を上げます。
「その通り。つまり、グリードさんやエンヴィーさんも含め、人造人間というのは賢者の石を基にして人間そっくりに造られているというのが私の考えです。どうですか?」
「一応こちらの手札だからな、『はいそうなんです』なんて言うつもりは無ぇが、その推察通りだとしても、核がわかっただけで製造方法はわかんねぇだろ?」
「それはおっしゃる通りですが、エド君は直情型の性格ですからね。アル君が攫われたのに大人しく情報交換するとは思えません。むしろグリードさんをボコってでも情報を奪おうとすると思います。その手間を省こうってだけですよ」
アル君は私が言った事を容易に想像してしまったのか、頭を抱えてしまってます。
「どのみち、私に目をつけられてしまった時点で負けは確定してるんですから、大人しく情報を提供した方が皆さんのためですよ?」
「さっきから黙って聞いてりゃ、偉そうな口利きやがって!いい加減にしろこのガキ‼︎」
グリードの脇に控えてた刀を持った人が斬りかかってきます。
刀なんてこの世界に来て二振り目ですが、この世界にも東洋系の文明があるんでしょうか?
アメストリス国は思いっきり西洋系の文明が反映されてますが。
なんて考えながらも横に振られた刀をバックステップでかわし、瞬動で懐に潜り込んで
「いきなり斬りかかるなんて、危ないじゃないですか」
そう言って下顎を軽〜く掌で小突きます。
本気でやったら大変な事になりますからね。
とりあえず刀の人は脳震盪で倒れました。
「だから言ったのに。襲われたんで正当防衛ですよね?」
「ロア、鎧クンを連れてけ。まだ大切なお客さんだから丁重に扱えよ。ドルチェットも手当てしろ。俺はこの嬢ちゃんの相手をしなきゃならん」
グリードの指示に従って、ロアと呼ばれたガタイのいい男性がアル君を担ぎます。
「連れてったところで私の捜査網から逃れる事はできませんよ」
そもそも、アル君には目印をつけてるんですから。
この部屋にはロアという人の他にも5人手下がいます。
それからアル君の鎧の中にもう1人いましたね。
「まぁ、また探し出すのも二度手間なんで、手下の皆さんには少し寝てもらいましょう。アル君、ちょっと失礼しますね」
そう言ってアル君の頭を操糸術で外し、中にいた人も糸で引っ張り出します。
なんと、右肩から頬にかけて入れ墨のある「女性」が、アル君の中から出てきたではありませんか‼︎
彼女はと言うと、急に外に引きずり出された事に驚いてるのか、目をパチクリとさせてます。
「アル君、鎧の中に女性をいれてたなんて…。奥手かと思ってましたが意外ですね」
「好きでいれてたんじゃありません‼︎」
私の茶化した言葉をアル君は全力で否定します。
わかってはいたんですけど、ついイジってしまいました。
そんなやり取りの間にもロアや女性も含め、手下全員の頸を糸で締めて気絶させます。
担がれてたアル君は、ロアが気絶したので床に落とされました。
そういえば、アル君は手足を鎖で縛られてましたね。
その鎖も糸で切断したので、頭のないアル君がこちらにやってきます。
私は外した鎧の頭をアル君につけてあげました。
「おいおいおい、嬢ちゃん。俺の手下に何してくれたんだ?」
一瞬で8人の手下が倒れた事に驚きと苛立ちを滲ませた声で尋ねるグリード。
「安心してください、ちょっと気絶してもらっただけですから。誰も死んでなんていませんよ」
手下達はちゃんと呼吸してるのが確認できますし。
「じゃあアル君も取り戻したので、これで失礼しますね」
そう言ってさっさと帰ろうと思ったんですが、
「待ちな。俺が残ってるのに鎧クンを逃すわけないだろ」
それで納得するわけがないグリードはそう言いました。
今年最後の更新となります。
途中で休載を挟みましたが、
どうにかこうにか一年の締めくくりを
迎える事が出来ました。
次回は2016年1月4日月曜日に更新する予定ですので
来年もどうぞ宜しくお願いします。
それでは皆さん、よいお年をm(._.)m