雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第31話

ーサラ・ヒューイットー

 

エルリック兄弟の過去を知り、イズミさんに抱き締められる2人を見てるのは、なんだか悪い気がしたので、部屋を後にします。

2人の過去の話を聞いてる時点で今更な気もしますが、特に席を外すよう言われたわけでもなかったので、流されるまま聞いてしまいました。

部屋を出て暫くすると2人も出てきましたが、なぜか悲痛な表情を浮かべてます。

 

「どうかしたんですか?」

 

「ここを出るぞ」

 

私の質問に対して、エド君がたった一言答えました。

また急な話ですね。

今日やって来たばかりなのに…。

 

「ここを出るって、イズミさんに聞きたいことがあったんじゃないですか?」

 

「ボク達破門になったんです。こんな身体にするために錬金術を教えたんじゃない、って言われまして…」

 

アル君が淡々と言います。

それを言われたら2人は従うしかないでしょうね。

 

「そういうことだ。まだどこに行くかは決めてねーけど、とりあえず駅に戻る」

 

2人には気持ちを整理する時間が必要かもしれません。

 

「わかりました。駅までの道は覚えてますし、先に行ってますね」

 

「悪ぃな」

 

エルリック兄弟は荷物を取りに別の部屋へ行ったので、私はカーティス夫妻に挨拶します。

シグさんは「ああ」とだけ、イズミさんも「すまないね」と一言返すだけでした。

シグさんはそんなに感情が表に出る人ではないみたいでよくわかりませんが、イズミさんは少し参ってる様子です。

久方ぶりに戻った弟子が、散々注意したにも拘らず、自分と同じ過ちを犯したからでしょうか…?

私にはそれ以上踏みこめる話ではないので、何も言わずイズミさんの家を出て、駅へと歩いて行きました。

イズミさん宅を出たのが夕暮れ時だったんですが、駅でエルリック兄弟を待つ間にすっかり陽は沈んでしまいました。

街灯にも明かりが灯り、仕事帰りの人やこれから飲みにでも行くだろう人達でごった返す駅前に、シグさんに連れられた2人が、やっと来ます。

 

「何かありましたか?ちょっと遅かったみたいですが…」

 

特に非難するつもりはなかったんですが、私の疑問に対して

 

「すまん、2人にちょっと話があってな」

 

とシグさんは答え、

 

「また近くに来たら寄ってけよ」

 

さらにエルリック兄弟に言いました。

それに対して戸惑う2人。

 

「え…?でも…」

 

「オレ達破門されたし…」

 

ですよねぇ。

破門されちゃったのにどんな顔して師匠のところに行けるというんでしょう?

そんな2人にシグさんは

 

「ばかやろう!いいか?師匠でも弟子でもなくなったって事はだな、これからはひとりの人間として対等に接するって事だ。何を遠慮する必要がある?ん?」

 

と告げます。

なるほど、そういう考え方もあるんですね。

…あるんでしょうか?

私なんて破門と言われたら、そのまま受け止めてしまいそうですが…。

シグさんの言葉に最初はキョトンとした2人でしたが、エド君は急に頭をガシガシ掻き

 

「あ〜、くそ‼︎アル!オレ達何しにダブリス(ここ)まで来たんだ⁈」

 

と尋ねます。

 

「…あ‼︎シグさん、ボク達先に戻ります!」

 

当初の目的を思い出した2人が元来た道を走って行きました。

戻ると決めたのはいいんですが、私の事を忘れてません?

 

「…嬢ちゃんはどうする?」

 

シグさんも、置いてけぼりをくらった私に少し困ったような、可哀想といわんような表情で訊きます。

 

「あの2人が戻ると決めたなら、私も付き合います。やる気になったのはいい事ですが、せめて私にも一言ほしかったです」

 

「…そうだな」

 

なんとも言えない空気の中、私とシグさんも駅を後にしました。

 

 

エルリック兄弟の破門騒動から数日、私達はまだイズミさんのところに厄介になってます。

2人が元の身体に戻るための手掛かりとして、まずはアル君が真理を見たときの記憶を戻す事にしたからです。

身体を持って行かれるのが真理を見るための通行料ならば、アル君が一番真理に近いという事になるんですが、その記憶が抜けてるんだそうです。

先日も病院帰りのイズミさんが、なぜか持ってた釘バットでアル君を1発ぶん殴ってました。

確かに、強い衝撃を受けると記憶を失くしたり思い出したりすると聞きますが、身体がないアル君にはどうなんでしょう?

それから身体を鍛える方の修行も順調?なんだと思います。

エルリック兄弟は相変わらずイズミさんに蹴られ、殴られ、投げ飛ばされてますが…。

危ないところを私に助けられたと聞いて、イズミさんが鬼の形相で修行のメニューを重くしたのは、申し訳ない気持ちになりました。

でも、鍛えられるというのは本人達のためになりますからね。

私はシグさんのお店で手伝いをしてます。

お肉屋という事でメンチカツを作って販売してみたら、なかなかの手応えがありました。

そんな感じで今も店番をしてます。

エド君は国家錬金術師の査定というものを受けるため、先程出かけました。

年に一度受けないと国家資格を取り上げられるんだそうで、大慌てで走って行きました。

ここ最近バタバタしてたとは言え、そんな大事な事を忘れてたのはエド君らしいといいましょうか。

アル君もエド君について行って、イズミさんの(地獄の)特訓から逃れようとしてましたが、すぐ捕まり組手で今日も勢いよく投げられてました。

今は組手を終えて、お店の前を掃除しています。

 

「すみません、サラさん。ちょっと用事ができたので出かけてきます。掃き掃除はちゃんと終わらせました」

 

アル君が店を覗き込んで言いました。

 

「わかりました。イズミさんには私から言っておきますか?」

 

「いえ、そんなに時間はかからないと思うので大丈夫です。では行ってきます」

 

「はい、行ってらっしゃい」

 

 

というやり取りから暫くして、アル君の近くにラストと似た気配を纏うものが近付いてる事に気付きました。

この街に来た時にその存在を感じてはいたんですが、特に接触してくる事はなかったんで無視してたんですよね…。

何もしないならそれでよかったんですが、降りかかる火の粉は払わないといけません。

幸い、私の店番の時間も終わりになる事ですし。

 

「メイスンさん、ちょっと買い物に行ってきていいですか?」

 

「ん?ああ、丁度交代の時間だからいいよ!いやぁ、サラさんが店番手伝ってくれて、ホント助かるよ!」

 

「いえいえ、私はイズミさんの弟子というわけでもないのに、滞在させてもらってますから。『働かざるもの食うべからず』ですよ。では、行ってきます」

 

「うん、行ってらっしゃい!」

 

カウンターに来たメイスンさんに一言言って、店を出ます。

以前アル君に結び付けておいた魔力の糸の反応を頼りに、道を進みます。

進む先は大通りからどんどん裏路地へと変わっていき、「デビルズネスト」というバーへたどり着きました。

入り口にはいかにもゴロツキです、というような方々が4人屯してます。

 

「ここはお嬢ちゃんが来るような所じゃないぜ」

 

そのセリフ、魔法世界を思い出しますね。

 

「私も来たくて来た訳じゃないんですよ。でも、ここにアルフォンス君…、あー鎧の人が来てますよね?その人を連れて帰らないといけないんで。とりあえずここを通してもらえませんか?」

 

「鎧の人?そいつがここにいたとしても言っただろ?ここは嬢ちゃんが来る所じゃねぇって。いいからとっとと帰んな」

 

どうあっても通さないと言わんばかりに、入り口の前を塞ぐように立つゴロツキ方。

いやぁわかりやすい反応、ありがとうございます。

でも帰れと言われて、「はい、わかりました」という訳にはいかないんですよ。

ここは大人しく眠ってもらいましょう。

 

眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーティカ)

 

「あぁ?何言ってn…んが」

 

抵抗する事もできずに眠ってしまうゴロツキさん。

魔法が存在しないんですから、仕方ないんですけどね。

むしろ、魔法障壁が出てきたらこちらが驚きます。

「デビルズネスト」の入り口を入ると、当然ながら他のゴロツキさん達がいる訳で。

ですが、私が店内に入ってこれた事に困惑しているようで

 

「表の奴らは何やってんだ」

 

という呟きも聞こえます。

まさか眠らされてるとは思ってもみないでしょう。

まぁ、ここの人達にも同じ運命を辿ってもらいますが。

 

「こんにちは、おやすみなさい。眠りの霧(ネブラ・ヒュプノーティカ)

 

その後もアル君誘拐犯の手下に出くわす度に魔法で眠ってもらいながら、目印を頼りに店内を進みます。

ここのボスは人望があるんでしょうか?

結構な頻度で手下と遭遇してしまいます。

その手下の中にはちょっと人間離れしたような人もいましたし。

そういう人たちの面倒を見てる、もしくは子飼いにしてるのかもしれませんね。

そうこうしてるうちにアル君の反応とラストと似た気配を持つ人のいる部屋の前に辿り着きました。

さて、どんな人が出てくることやら。

そう思いながら部屋のドアを開けると7、8人の手下とともに、アル君とここのボスと思しき男性がいました。

黒いズボンと袖のない黒のファー付き革ジャン、黒い短髪という出で立ちで、今まで見た下っ端とは雰囲気が違いますね。

そして案の定というか、やっぱりというか左手にはあのウロボロスの入れ墨があります。

 

「こんにちは、デビルズネストの皆さん。私、アルフォンス君を連れて帰りにきた者です」

 

そう告げて一礼しました。


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