雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第3話

ーサラ・ヒューイットー

 

アルフォンス君に寝ずの番を任せて、野宿をしていたんですが、火事だということで起こされました。

火事が起こった現場に行ってみると、エルリック兄弟と出会った店が燃えています。

炭鉱で働く人や私、アルフォンス君も手伝って消火活動に当たりましたが、店は焼け落ちてしまいました。

この店は炭鉱夫を取り仕切る親方と呼ばれる男性と、その家族が経営していたらしく、焼け残った店の看板を胸に抱いて泣く奥さんを、慰めるように親方が抱きしめています。

しかも炭鉱夫の話では、ヨキ中尉の部下が昨晩店の周りをうろついてたそうで。

中尉の経営方針には街の人達も以前から不満があったみたいで、騒ぎを起こされる前に店を燃やすことで住人に対する見せしめとしたんでしょう。

エドワード君も騒ぎを聞きつけてやって来ました。

 

「なぁ、エド。昨日ツルハシ直したみたいに、パッと錬成して街を救ってくれよ…」

 

親方の息子で昨日斬られかかった子供、カヤル君がエドワード君に懇願しますが、

 

「ダメだ」

 

と取りつく島もなく断られてしまいました。

 

「いいじゃないか、減るもんじゃなし!」

 

それでもカヤル君は縋りますが、

 

「錬金術の基本は『等価交換』。あんたらに金をくれてやる義理も義務もオレにはない」

 

とバッサリ切り捨てられます。

その余りな言い様にカヤル君はエドワード君の胸倉に掴みかかりました。

 

「てめぇ…、てめぇそれでも錬金術師かよ‼︎」

 

「『錬金術師よ、大衆のためにあれ』…か?ここでオレが金を出したとしても、どうせすぐ税金に持っていかれて終わりだ。あんたらのその場凌ぎに使われちゃ、こっちもたまったもんじゃねー。そんなに困ってるなら、この街出て違う職探せよ」

 

とカヤル君の手を払い除けて、カヤル君達に背を向けます。

なるほど、「立派な魔法使い(マギステル・マギ)」ならすぐ手を差し伸べそうな感じですが、助けるだけでなく助けられる側にも何かしらの頑張りみたいなのが必要だというのがエドワード君の考え方なんでしょうか?

言葉にするのは難しいですが、そういう感覚をエドワード君は持っているんでしょうね。

まぁ、その考え方がわからないでもないんですが、そう簡単に出ていけるならこの街はすでにゴーストタウンになってますよ。

給料は少ないのに重税をかける中尉の運営では、とうの昔に街は見捨てられてるはず。

そうなっていないというのは、

 

「小僧、おまえにゃわからんだろうがな、炭鉱(ここ)が俺達の家で棺桶なんだよ」

 

という親方の言葉に表されるように、炭鉱で働く者としての誇りや郷土への愛着があるんですよね。

そのセリフに一瞬立ち止まったエドワード君でしたが、そのまま歩いて行ってしまいました。

アルフォンス君はその後を追いかけたので、私もついていくことにします。

 

「待ってよ、兄さん!本当にあの人達放っておく気n「アル」…?」

 

「このボタ山どれくらいあると思う?」

 

そう言って見上げるのはトロッコに積まれた石の山です。

炭鉱から出た余分な石なんでしょう。

 

「1tか…2tくらいあるんじゃない?」

 

「よーし、今から法に触れる事するけど、おまえ見て見ぬフリしろ」

 

そう言ってトロッコに飛びつくエドワード君。

 

「あのぉ、アルフォンスさん。エドワードさんは何をするつもりなんです?」

 

「あ。サラまでついて来たのかよ?まぁ、いいや。サラも今からの事は他言無用だぞ」

 

エドワード君に釘を刺されましたが、話すような知り合いなんて、この世界には目の前の2人以外いませんし。

エドワード君がパンと手を合わせ、その手でトロッコに積まれた石に触れます。

すると、ただの石ころだった物が眩しい光を発しながら、金の延棒らしき物に変わっていきました。

これがエドワード君の錬金術なんでしょう。

 

「アルフォンスさん、これからどうするんです?それにあれって金の延棒ですか?」

 

「兄さんのことだから、何か悪いこと考えてるんだと思いますよ。まあ、お手並み拝見という事にしておいてください。それと金の錬成って実はタブーなんですよ。経済崩壊に繋がりかねないですからね。あれは偽物の金塊です。そこが『法に触れる事』なんですよ」

 

確かに、あまり出回らないから価値が高いのに、金を錬成してそれが出回れば価値が下がって大変なことになるでしょう。

偽物の金塊を作るって、要は偽札を造るようなものですよね。

それは法律違反にもなりますよ。

 

「わかりました、誰にも言いません」

 

「ありがとうございます、サラさん」

 

「アル!これを中尉んトコに持ってくぞ」

 

ということで偽金塊を中尉の屋敷まで3人で運びました。

途中で偽金塊を軽々運ぶ私にエルリック兄弟は驚いていましたが、今は人の姿をしていても中身は人外の私には、これくらいなんてことありません。

屋敷に偽金塊を運び終わると、エドワード君が早速中尉と交渉を始めました。

 

「炭鉱の経営権を丸ごと売って欲しいって、言ってるんだけど…足りませんかねぇ?」

 

金塊をバックに置いて、腕組みしながら交渉するエドワード君の姿は堂々としています。

 

「めめめ、滅相もない!これだけあれば、こんな田舎におさらばして…。それから…」

 

これからの自分の出世への道を夢想して、笑顔を浮かべるヨキ中尉ですが、はっきり言って気持ち悪いですね。

 

「もちろん、中尉の事は上の方の知人に、きちんと話を通しておいてあげましょう」

 

「錬金術師殿‼︎」

 

にっこりと笑って告げるエドワード君の手をガシッと掴む中尉。

でも、あのエドワード君の笑顔は怪しいです。

私も怪しいとよく言われますが、あんな笑顔じゃないと思いたいですね…。

 

「でも、金の錬成は違法なので…。バレないように、一応『経営権は無償で穏便に譲渡した』っていう念書を書いてもらえると、ありがたいんですけど…」

 

「おお、構いませんとも!では早速手続きを…。しかし、錬金術師殿もなかなかの悪ですのぅ」

 

「いやいや、中尉殿ほどでは…」

 

と言って笑いあう2人。

あまりに楽し気だったので、アルフォンス君に話しかけました。

 

「エドワードさん楽しそうですね」

 

「…」

 

帰ってきたのは無言でした。

これは呆れているんでしょうかね?

とにかく、手続きは終わったということで、次は親方達の所に行くそうです。

 

親方率いる炭鉱夫の皆さんはというと、作業場で不穏な空気を漂わせて屯してました。

今朝の放火の件で不満が爆発寸前なんでしょう。

 

「はーい、皆さん!シケた顔並べてご機嫌うるわしゅう♪」

 

そこに心底楽しそうな声音のエドワード君が入っていったんですが、炭鉱夫達はカヤル君も含めて心から嫌そうな顔でこちらを見ます。

 

「…何しに来たんだよ?」

 

代表してカヤル君が尋ねてきました。

 

「あらら?ここの経営者に対して、その言い草はないんじゃないの?」

 

「てめ!何言っt…」

 

エドワード君の言葉に馬鹿にされたと感じた炭鉱夫の1人が食ってかかりますが、その人に対して羊皮紙を見せつけます。

 

「…これは?」

 

「ここの採掘・運営・販売その他全商用ルートの権利書」

 

「なんでおめーがこんな物持って…って、あーー!名義がエドワード・エルリックだと⁉︎」

 

「「「「なにぃ⁈」」」」

 

食ってかかった炭鉱夫の言葉に親方、カヤル君、他の炭鉱夫も驚きの声をあげます。

 

「そう!すなわち今現在、この炭鉱はオレの物って事だ‼︎」

 

エドワード君の一言に固まる親方達。

 

「…とは言ったものの、オレたちゃ旅から旅への根無し草。権利書なんてジャマなだけ…」

 

「…俺達に売りつけようってのか?いくらで?」

 

親方の目付きが鋭いものに変わります。

 

「高いよ?何かを得ようとするなら、それなりの代価を払ってもらわないとね。なんてったって高級羊皮紙に金の箔押し。さらに保管箱は翡翠を細かく砕いたもので、さりげなくかつ豪華にデザインされてる。うーん、こいつは職人技だね。おっと、鍵は純銀製ときたもんだ。ま、素人目の見積もりだけど、これら全部ひっくるめて…親方んトコで1泊2食3人分の料金……てのが妥当かな?」

 

「あ!等価交換…」

 

カヤル君が呟きます。

っていうか、炭鉱の権利と同じ宿泊費なんて親方の所は随分高い店ですね。

それに3人分って私も入ってるんでしょうか?

 

「アルフォンスさん、3人分って…?」

 

「サラさんの分も入ってるんだと思うよ。昨日、兄さんに食料分けてくれたし、今日も石運び手伝ってもらったからね」

 

「よっしゃ!買った‼︎」

 

「売った‼︎」

 

私がアルフォンス君に話しかけた前では、エドワード君と親方の商談も成立したみたいです。

そこに、扉を乱暴に開けてヨキ中尉が入ってきました。

 

「錬金術師殿!これはどういう事ですか‼︎」

 

その手には石塊が握られています。

 

「これはこれは、中尉殿。ちょうど今、権利書をここの親方に売ったところで」

 

「なんですとー⁈いや、そんな事よりも!あなたにいただいた金塊が、全部石塊になっておりましたぞ!どういう事か、説明してください!」

 

それで中尉は石塊を持ってたんですね。

いつの間に石に戻したんでしょう?

アルフォンス君も同じことを思ったのか、

 

「…いつ元に戻したの?」

 

と尋ねると

 

「さっき、出がけにちょろっと」

 

なんてシレッと答えるエドワード君。

さらに中尉に対して

 

「金塊なんて知りませーん♪」

 

と、煽るように返事します。

 

「惚けないでいただきたい!金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これではサギだ!」

 

その気持ちは横で見ていた者としてはわからなくもないんですが、中尉が元々悪い事してたんですから、罰が当たったんでしょう。

 

「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね。ほら、念書もありますし」

 

エドワード君、やり口が悪どいですね。

 

「はうっ⁈ぬぐぐ…、この取引は無効だ!おまえ達!権利書を取り返……せ⁈」

 

部下に指示を出そうとした中尉でしたが、その前に炭鉱夫達が立ち塞がります。

 

「力尽くで個人の資産を取り上げようなんて、いかんですなぁ」

 

「これって職権乱用ってやつか?」

 

「う、うるさい!どけ、貴様ら‼︎ケガしたくなかったら、さっさとs「炭鉱マンの体力、なめてもらっちゃ困るよ。中尉殿」…」

 

作業場にいた炭鉱夫達があっという間に中尉の付き人2人を伸してしまいました。

今までの鬱憤を晴らすかのようにボッコボコにされる2人と、その様子にビビる中尉。

そして思い出したかのようにエドワード君がトドメの一言。

 

「あ、そうだ。中尉?中尉の無能っぷりは上の方に、きちんと話を通しときますんで。そこんとこよろしく♡」

 

その一言で中尉は崩れ落ちてしまいます。

逆に炭鉱夫達はテンションがうなぎ登りとなり、そのまま酒盛りを始めてしまいました。

私はこの男の世界に入るのは無粋だと思って遠慮したんですが、騒がしさがなくなったので酒盛りに参加しなかったアルフォンス君と様子を見に行くと、飲んで食い散らかした部屋でみんな眠ってしまってました。

 

「もう食べられない…」

 

なんてベタな寝言を言うエドワード君に、

 

「また、お腹出して寝て!だらしないなぁ、もう!」

 

と世話を焼くアルフォンス君。

この2人について行けば、しばらくは退屈しないですみそうですね。

もう少しお世話になりましょう。


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