雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第25話

ーサラ・ヒューイットー

 

国家錬金術師の証である銀時計を盗まれたエド君。

その犯人であるパニーニャを捕まえたのは、なんとウィンリィちゃんでした。

捕まえたのはいいんですが、さっきからずっとパニーニャの両脚の機械鎧(オートメイル)を熱心に調べています。

 

「すごい、すごい、すごい!初めて見るわ、こんな機械鎧‼︎サスペンションも他のとは比べ物にならないほど高度なのに、なんと言っても全体のバランス!」

 

武器を内蔵…だとか、運動量と衝撃に…、材質は…なんてブツブツ言いながら、夢中になってパニーニャの機械鎧をチェックします。

ウィンリィちゃんの調査を受けてるパニーニャは訳がわからないと言った表情で、エルリック兄弟は天気の話をして現実逃避、私はウィンリィちゃんの機械鎧マニアっぷりに少し呆れながら2人の様子を眺めてました。

一通りチェックが終わったのか、

 

「ねぇ、パニーニャ。この機械鎧を作った技師を教えて!」

 

とウィンリィちゃんが急に頼み込みました。

よほどパニーニャの機械鎧の技術に感銘を受けたんでしょう。

パニーニャにお願いするウィンリィちゃんは必死です。

 

「え?いいけど…」

 

そう言ったパニーニャでしたが、少し考える素振りをして

 

「すごく辺鄙な所に住んでるから、案内が必要なんだけど…。あたしが案内してあげる代わりに、今日のスリの件、見逃してくれない?」

 

と提案してきました。

それに対してウィンリィちゃんは

 

「うん!見逃しちゃう!」

 

と親指を立てて即答しました。

納得いかないのは銀時計を盗まれかけたエド君。

と言いますか、まだ銀時計はパニーニャが持ったままなんですよね。

パニーニャは逃げられないようロープで両手首を縛られてますが。

 

「ちょっと待て!勝手に決めんな、ウィンリィ‼︎こいつは憲兵に突き出すに決まってんだろ‼︎」

 

と抗議の声をあげました。

ウィンリィちゃんも譲るつもりはないらしくエド君の意見を一蹴します。

 

「なによ?スリの一つや二つ。肝っ玉のちっさい男ね!」

 

「ちっさい言うな!」

 

っていうか反応するところは「ちっさい」ではないと思いますよ?

 

「だいたい街中をこんなにしといてだなぁ…」

 

とエド君が指差した先では、ボロボロになった建物がかなりの数、未だに土煙を上げています。

 

「わしの店に穴開けたのは兄ちゃんだろ?」

 

そう言ってきたのは髭を生やした恰幅のいいおじさん。

おじさんはパニーニャが出てきた店を指差してます。

他にも

 

「うちの屋根もめちゃくちゃになってんだけど」

 

「俺ん家の煙突壊したな?」

 

「宅のジュリーちゃんをいじめたそうね」

 

とエド君とパニーニャの繰り広げた追いかけっこで被害にあった方々が、ずらりとエド君の背後に並んでいました。

まぁ、錬金術で建物を壊して回ったのはエド君ですから仕方がないですよね。

エド君は被害者たちに引っ立てられながら、建物の修復に向かいました。

 

暫くして、息を切らしながらエド君が戻ってきます。

 

「とにかく!そいつは憲兵に突き出して!時計は返してもらうぞ!」

 

ぜー、はーと息を吐きながらエド君は宣言するものの、

 

「結構山の中まで歩くから、身軽にしたほうがいいよ」

 

「そうなの?じゃあ、荷物は宿に預けたほうがいいわね」

 

とパニーニャ、ウィンリィちゃんはエド君を無視して話を進めます。

 

「聞けー‼︎」

 

エド君が怒るのもご尤もなんですが、

 

「だめだ、兄さん。ああなったら、ウィンリィは止まんないよ」

 

アル君の言う通りなんですよね。

機械鎧のウィンドウショッピングでも随分暴走してたんですから、その技師に会えるとなれば止められないでしょう。

 

「エド君。パニーニャも一応時計を返すと言ってるんですし、ウィンリィさんがあの状態では機械鎧技師に会わないとどうしようもないんですから、諦めましょう」

 

アル君と私の言葉に憮然としつつも、結局エド君は折れて、パニーニャの機械鎧技師に会いに行くことになりました。

 

 

 

パニーニャの案内に従って、私たちはラッシュバレーから少し離れた山道を歩いています。

結構な山奥に来たことや、まだまだ暑い陽射しのせいか、エド君とウィンリィちゃんはバテてきてるみたいですね。

エド君はさっき錬金術も連発してましたし。

案内人であるパニーニャは慣れた様子で先を進みます。

身体が鎧のアル君も疲れた感じはありません。

私はそもそも鍛えてますし、身体強化の魔法もあれば、そもそも人ですらありませんから、どうということはありません。

しかし、見渡す限り岩や崖ばかりが続きます。

パニーニャ曰く、その整備師は機械鎧に使う良質な鉱石が出ることと、人嫌いだか無愛想だから街中ではなく山奥に工房を構えてるんだとか。

高さが何十mもある崖に掛かった吊り橋を渡ると石造りの建物が見えてきました。

パニーニャが玄関を開けて中の人に挨拶します。

 

「こんちわっ。今日はお客さんを連れて来たよ」

 

「へぇ、機械鎧の注文かな…ってうわ⁈でっか!ちっさ‼︎」

 

中から出てきたのは丸眼鏡をかけた人の良さそうな男性で、いかにも鍛治仕事をやってそうな格好をしています。

ついでにエルリック兄弟を見て誰もが思うことを言ってしまいました。

エド君はすぐカッとなりますが、これまた慣れたようにアル君に抑えられます。

 

「この子は整備師のウィンリィ。ドミニクさんの機械鎧に興味があるんだって」

 

「こんにちは、初めまして」

 

パニーニャの紹介でウィンリィちゃんも挨拶をします。

 

「珍しいね、こんな若い女の子が機械鎧の整備師なんて…」

 

確かに、機械やら鎧なんて男の子のほうが興味を持ちそうな感じですかね?

しかもそれを整備するんですから。

でも、超りんやハカセちゃんも機械というか、メカに強かったことを考えると、何に興味を持つかなんてやっぱり人それぞれかもしれませんね。

そんなことを考えていると

 

「あら?パニーニャ、今日はお友達を連れて来たの?」

 

窓から女性が声をかけてきました。

 

「サテラさん、こんちわっ」

 

パニーニャは元気に返事します。

 

「ちょうどよかったわ。今からお茶しようと思ってたのよ」

 

「みんな一緒にどうかな?」

 

サテラさんがお茶をするという事で男性は誘ってくれたんですが、はて?

ドミニクさんという人は無愛想で人嫌いと聞いたのに、目の前の人はそんな感じじゃありません。

ウィンリィちゃんも同じことを思ったのか

 

「この人がドミニクさん?全然無愛想に見えないけど…」

 

とパニーニャに尋ねます。

それに答えたのはサテラさんの肩に手を置いた男性でした。

 

「挨拶がまだだったね、オレはリドル、リドル・レコルト。こっちは妻のサテラ。無愛想なのはオレの親父のドミニクだよ」

 

なるほど、ここは親子で機械鎧の工房をやってるんですね。

パニーニャはさっきからカーン、カーンと金属を叩くような音が響いてる方へと行きました。

恐らくそっちが作業場になっていて、ドミニクさんもそちらにいるんでしょう。

果たして、作業場から出てきたのはいかにも頑固親父という渾名が似合いそうな初老の男性でした。

 

 

「カルバリン砲ってぇのはな、漢のロマンだ!」

 

ドミニクさんは開口一番こんなことを仰りました。

ウィンリィちゃん、パニーニャ、ドミニクさんがテーブルを囲んで機械鎧談義に花を咲かせてます。

いえ、パニーニャは仕方なく付き合ってる感じですね。

私とエルリック兄弟はというと、リドルさんサテラさんとお話です。

機械鎧の話なんてわかりませんし、それよりもサテラさんがあと半月で出産を迎えるという事に興味津々です。

 

「流石に重くてしんどいわねぇ」

 

とはサテラさんの言葉。

赤ちゃん自体も重いのかもしれませんが、お腹の中に自分のものとは違う命があるという事が余計に重たさを感じさせるのでしょうか?

 

エド君も気になるらしく、

 

「触ってみてもいいかな?」

 

とサテラさんに尋ね、了解をもらっておっかなびっくりという感じで左手を触れます。

 

「おー、スゲ〜〜。なんかよくわかんないけど、スゲ〜〜」

 

と「スゲ〜〜」を連発してました。

私もサテラさんのお腹を触らせてもらいましたが、1人の人間の中に別の命が宿っているというのは不思議な感覚ですね。

なんてしみじみ思っていたら、

 

「エド〜♡ちょっとこっちに来て。ちょっと」

 

と、すごい笑顔でウィンリィちゃんがエド君を呼びます。

エド君もウィンリィちゃんの様子に嫌な予感を感じたみたいですが、仕方なくドミニクさんとウィンリィちゃんの後に着いて工房へ行くと、ラッシュバレーの時みたいにまたパンツ一丁にされました…。

鋼の錬金術師というか裸の錬金術師ですね。


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