雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第2話

ーサラ・ヒューイットー

 

「鋼の錬金術師」の世界にやってきて、最初に出会ったのはその主人公と思われるエドワード・エルリック君と弟のアルフォンス・エルリック君でした。

2人と出会うきっかけになった店から怒声が聞こえたので、中を覗くと3人の青い制服を着た男性が店内にいるのが見えました。

あの制服が軍服で、3人とも軍人なんでしょう。

それはいいんですが、こっちから見て左の軍人がサーベルを抜いて子供に斬りかかろうとしてるのが見えました。

いきなりスプラッタは勘弁なので、糸を使って斬りかかった腕を固定します。

 

「な?なんだ!腕が動かねぇ‼︎」

 

子供の前にはエドワード君が右腕を掲げていましたが、それじゃあ腕が斬られてしまうでしょうに。

それとも斬られない自信があったんでしょうか?

軍人と子供の間に躊躇なく入ったところを見ると自信があったんでしょうね。

サーベルが途中で止まったことを逆に驚いています。

 

「ど、どこの小僧だ⁉︎」

 

「通りすがりの小僧です」

 

3人の中で真ん中にいた男が声をあげ、エドワード君は何事もなかったように、コップの飲み物を啜ります。

 

「お前には関係ない。下がっとれ」

 

「いや、中尉さんが見えてるってんで、あいさつしとこうかなーと」

 

すごい偉そうだなぁって思ったら、この人が件のヨキ中尉なんでしょう。

エドワード君はポケットに入った懐中時計っぽいものを中尉に見せています。

 

「アルフォンスさん、エドワードさんが見せている懐中時計みたいなものはなんですか?」

 

後ろから扉を潜るように店内に入ってきたアルフォンス君に尋ねると、

 

「あれは国家錬金術師の証の懐中時計ですよ。国家錬金術師自体が大総統府という国のトップ直轄の機関なんです」

 

「なるほど。急にヨキ中尉がゴマをすり始めるわけですね」

 

私の目の前では、中尉とその取り巻きがヒソヒソ話をしたかと思えば、急に揉み手をしながらエドワード君に擦り寄ってました。

国のトップ直轄の機関ということは、中央に通じる出世の道ができると考えたんでしょう。

 

「こうしてお会いできたのも、何かの縁。こんな汚い所などおらずに!田舎街ですが、立派な宿泊施設もございますので!」

 

「そんじゃ、お願いしますかねー。ここの親父さん、ケチで泊めてくれないって言うんでー」

 

中尉の招待によって、エドワード君はその屋敷に行くことになりました。

 

「ところで錬金術師殿、そろそろ部下を解放していただけますかな?」

 

「あ、ああ!…これは失礼」

 

そう言えば、中尉の部下に糸を巻きつけたままにしてるの忘れてました。

腕だけが全く動かないのを押したり引いたりして、なんとか動かそうと頑張っていました。

エドワード君にもなんで動かせないのかわからないからか、少し焦ってますね。

すぐに糸を解除してあげました。

それまで全力で腕を動かそうと踏ん張ってた部下は、糸を解除した途端すっ転んでしまいます。

 

「えーと、すみません?」

 

「いえいえ、元々部下が失礼したのですから」

 

エドワード君が困惑しつつ謝りましたが、中尉は中央へのコネがかかってるからか、文句は言いません。

 

「いいか、貴様ら!税金はきっちり払ってもらうからな!また来るぞ‼︎」

 

という中尉の捨て台詞とともに、エドワード君達は店を出てしまいました。

 

「ぐわー!ムカつく‼︎」

 

と斬られかけた子供が吠えます。

 

「どっちが?」

 

とアルフォンス君が尋ねると

 

「両方‼︎」

 

と客として来ていた炭鉱夫達が答えました。

 

「大変ですねぇ。そう言えばアルフォンスさんはどこかに泊まるんですか?」

 

「いえ、ボクはちょっとお金の持ち合わせがなかったので、野宿ですね」

 

「私なんて文無しなんで、同じように野宿ですよ。でもエドワードさんと一緒じゃなくて大丈夫なんですか?」

 

2人が兄弟なら中尉の所で一緒に泊まっても、問題ないと思うんですけどねぇ。

 

「まぁ、兄さんなら大丈夫でしょう。それよりもサラさんの方がボクは心配ですよ。女の子の一人旅で野宿だなんて…」

 

「野宿くらいは何度かしたことがありますからね。せっかくなんで一緒に野宿しませんか?さっき中尉の部下のサーベルを止めた方法もお話しますよ?」

 

「え?あれってサラさんだったんですか⁉︎」

 

「エドワードさんは右腕でサーベルを躊躇なく受け止めようとしてたみたいですが、あれこそ無謀でしょう。それより先にサーベルを動かせなくしたらいいんですよ」

 

「それってどうやって…」

 

「とりあえず野宿できそうな場所を探しましょう。話はその後でも問題ないでしょう?」

 

ということで野宿をする場所を探すことにしたんですが、すぐに空いた倉庫が見つかったのでそこを間借りすることにしました。

そこらに転がってた廃材で焚き火も作ります。

 

「サラさん、本当に手馴れてるんですね」

 

「数回しかしてませんが、まぁこんな感じです。お兄さんにも見せた手品を見せましょう。何の変哲もないローブですが…」

 

そう言って、ローブの袖口に手を突っ込み影の袋から毛布を取り出します。

 

「すごい手品ですね!」

 

アルフォンス君の食いつきがかなりいいんですが、彼は素直なんでしょうか?

 

「毛布使います?」

 

「あ、いえ。僕には必要ないんで…」

 

あら?今度はテンションが少し落ちてしまいました。

何か地雷踏んでしまったんでしょうか?

 

「そう言えば、さっき言おうとしたサーベルを止めた方法を教えましょうか?」

 

「そんな簡単に話しても大丈夫なんですか?」

 

「全然問題ありません。そもそも普通の人にはできないことですから」

 

「そんなに自信があるんですか?」

 

「ええ。糸を使うんですよ」

 

「糸ですか?」

 

アルフォンス君は兜を被ってるので、その表情は見えませんが、明らかに訝しむような声音です。

 

「まあ、糸で身体を抑えられるか疑問に思うかもしれませんが、なんならアルフォンス君の右腕を抑えて見せましょうか?」

 

「そんなことできるんですか?ボク、力には結構自信があるんですよ」

 

アルフォンス君は自信があるんだと言わんばかりに胸を叩こうとしたみたいですが、その右腕はすでに糸を巻きつけてあるので動かせません。

 

「あれ⁈うー!」

 

右腕を動かそうと左手も添えますが、その腕はピクリとも動きません。

しかし、普通の人に比べたら確かにパワーがあるみたいですね。

 

「という感じですね。今、糸を外しますから」

 

一言告げてから糸を解除します。

アルフォンス君は自由になった右腕を確認して、

 

「すごいですね!あんな風に糸を使う技術があるなんて知りませんでした‼︎」

 

ちょっと興奮したような口調でまくし立ててきます。

 

「あれは私の師匠から習った技の一つです。その師匠は『人形使い(ドールマスター)』と渾名されてて、その渾名通り人形を使うのが得意なんですが、さっきのはその応用です」

 

「へぇー、『人形使い』って渾名は聞いたことないんですが、世界は広いんですね」

 

まあ、この世界にもひょっとしたら『人形使い』と呼ばれる人はいるのかもしれませんが、私の師匠はいないでしょうね。

 

「その師匠には他にも格闘術やらサバイバル技術やらを習ってきたので、こうして女子の一人旅に野宿ということも出来るわけですよ」

 

「なんだか僕達の師匠に似た人ですね」

 

「アルフォンスさん達の師匠ってどんな人なんですか?」

 

「僕達の師匠はですね、えーっと…」

 

そう言ったきり、カタカタと震え始めたアルフォンス君。

あー、これは相当スパルタな師匠だったんでしょうね。

ネギ君もコタロー君と話してる時に似たような症状を出したことがあったので、トラウマ級の厳しさだったんでしょう。

 

「いえ、無理に説明しようとしなくていいですよ。口にすることも恐ろしいくらい、厳しい師匠だというのは伝わったので」

 

「す、すみません」

 

話し込んでるうちにすっかり夜も更けてきましたね。

 

「そろそろ私は寝ようと思うんですが、本当に毛布いらないですか?」

 

「ええ、ボクは大丈夫です。見張りもボクがやっておくので、よく休んでください」

 

「全部任せっきりというのも悪い気がするんですが、そこまで言われるならよろしくお願いします」

 

「はい、任せてください。じゃあ、おやすみなさい」

 

「おやすみなさい」

 

アルフォンス君に見張りを任せて、私は毛布を被って寝ることにしました。

街の中でも、何があるかわかりませんからね。

でも一晩中寝ずの番で大丈夫なんでしょうか?

そんなことを考えつつ、本人が大丈夫というなら問題ないかと思いながら眠りにつきました。

 

「…ットさん、ヒューイットさん!起きてください‼︎」

 

「…どうかしましたか?」

 

まさかこんな街中で夜盗でしょうか?

 

「鐘の音が聞こえます、火事ですよ!火の手で明るくなってるのは、さっきの…カヤル君の店の方です‼︎」


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