ーサラ・ヒューイットー
第五研究所跡に無断で侵入し、そこの番人と戦った傷と心配したアームストロング少佐の抱擁が原因でセントラルの病院に入院したエド君。
最近新調した右腕の
それから数日して漸く
「エドワード・エルリック!ウィンリィ殿を連れて来たぞ‼︎」
そう言って、ウィンリィちゃんを案内した少佐が病室に入ってきました。
「少佐に抱き締められて入院が延びたって聞いたけど、少佐の分を差し引いてもあちこち怪我してるじゃない」
ウィンリィちゃんが心配そうに呟きます。
その後ろでは少佐が自慢の筋肉を軍服を脱いで晒してましたが、少佐も入院の一因であることを自覚してください。
「別に何てことはねーよ。大した怪我じゃない」
確かにあちこち切り傷ができてますが、内臓を傷めたとか大きな怪我をしたわけではないのでエド君の言う通り、問題はありません。
と言いますか、そこまで大きな怪我をしてたら私も魔法で治癒しますし。
ウィンリィちゃんはエド君の言ったことが納得いかないみたいで、
「…機械鎧が壊れたからかな…。あたしがちゃんと整備しなかったせいでそんな怪我を…」
と落ち込んだ様子で言いました。
そんなウィンリィちゃんの姿に部屋にいた少佐、ロス少尉、ブロッシュ軍曹がエド君をジッと見ます。
まるで、「あーぁ、女の子をこんなに落ち込ませるなんて」と言わんばかりの空気が漂います。
「べ、別にウィンリィのせいじゃねーって!だいたい、壊れたのはオレが無茶な使い方をしたからだろ⁈おまえの整備は完璧だった!それに腕が壊れたから余計な怪我もしなくて済んだんだしよ!サラも護衛してくれたから気にすんなよ!なっ⁉︎」
と、ウィンリィちゃんに気を遣ってエド君が一気に捲し立てます。
ただ、私が先日ウィンリィちゃんに電話した時「あー、やっぱり」みたいな事を言ってたのが気になるんですよね。
勿論、エド君の使い方が悪かったのかもしれませんが、ひょっとしたらウィンリィちゃんが腕を作り直した時に何かしらのミスがあったのかもしれません。
私にはそれを知る術はありませんが。
そのウィンリィちゃんはというと、
「そうね!あたしのせいじゃないわね!じゃあ早速、出張整備料金の話をしましょ!」
なんて言って、どこからかそろばんを取り出しました。
この場はエド君が原因ということで落ち着いた?みたいですが、実はウィンリィちゃんが原因なら随分強かな女の子ですねぇ。
まあ、決着がついた話なので蒸し返す事もないでしょう。
「うむ!腕も怪我もさっさと治して、早く元気なエドワード・エルリックに戻ってもらわねばな!そのためにも、栄養と休養をしっかり取らねば!」
少佐が雰囲気を変えるために言ったんでしょうけど、入院の一因である少佐のセリフではありません!
そんな騒ぎの中、アル君だけが静かに部屋から出て行きました。
まだいつもの調子に戻ってないんですよね。
エド君もベッドに横たわって、右腕をウィンリィちゃんに修理してもらいながらもそのことを口にします。
「アル…この頃変なんだ」
「変?」
「口数は減りましたし、いつも何か考えてるのか、話しかけても反応が遅いんですよね」
ウィンリィちゃんの疑問に私が答えました。
そういえば、この部屋から離れる回数も多いですね。
「あっ⁈ひょっとしてオレが殴ってショックを受けた⁉︎」
軍曹も自分が思ったことを言いますが、それは何か違う気がします。
エド君も
「いや、それしきでショック受けるような弱っちい奴じゃないと思う」
と否定しました。
原因を聞こうと思っても、すぐ部屋を出てどこかにふらっと行ってしまいますし。
「…何か悩んでるのかな?」
「あー、ウィンリィにもわかんねーか」
「いつも一緒にいるあんたがわからないのを、あたしにわかる訳ないでしょ。はい、整備終了!」
ウィンリィちゃんがそう告げると、エド君は起き上がって調子を確かめるようにぐるんぐるんと腕を回します。
「お、サンキュー。やっと直ったか、こんちくしょー」
「あとは早く怪我も治しなさいよ!」
「へー、へー」
整備油で汚れないよう着けていたエプロンを外しながらウィンリィちゃんがエド君に言いますが、なんといいますか、このやりとりって熟年夫婦みたいな感じですよねぇ。
はいはい、ご馳走様でした。
なんて思いながら2人のやりとりを眺めます。
すると
「よう、エド!病室に女連れ込んで色ボケてんだと⁈」
病院内にも関わらず大声で部屋に入ってきたのは、ヒューズ中佐でした。
部屋の入り口では、警護として外に出ていた少尉が口元を手で押さえて、ニヤニヤと室内を覗いてます。
中佐の言う女というのはウィンリィちゃんのことでしょう。
その中佐の態度に思わずエド君もベッドからずり落ちました。
「ただの機械鎧整備師だよ!」
「なるほど、整備師をたらしこんだのか。やるな、豆‼︎」
エド君が言い返した言葉をさらに切り返す中佐。
そんな中佐に身悶えるエド君。
「…だぁーっ!ああ言えばこう言う‼︎」
「傷口開くぞ?」
他人事のように中佐が言いますが、その原因はご自身ですよ?
ひとしきり悶えて落ち着いたのか、頭を押さえながらエド君が初対面のウィンリィちゃんと中佐を紹介します。
「ウィンリィ、このおっさんはヒューズ中佐」
「初めまして、ウィンリィ・ロックベルです」
「マース・ヒューズだ。よろしくな」
ウィンリィちゃんと中佐が握手していると、エド君が中佐に尋ねました。
「仕事抜け出して来ていいのかよ?」
「へっへっへ。今日はもう非番だ!非番ついでにおまえさんの様子を見に来たのもあるが、
「本当か⁉︎やっとうっとーしい護衛から解放されるよ!」
「え⁈ひどいなー」
「私達がいなかったらどうなってたかわからなかったでしょ」
中佐の報告にエド君は清々するとばかりのセリフを言います。
そのセリフに反論する軍曹と少尉。
まあ、護衛が解除になろうと私はついていくんですけどね。
「じゃあ、あたしは今日の宿を探しに行くから、また明日ね」
「ウィンリィさん宿取ってなかったんですか?」
「うん、駅から直接ここまで来たからね」
「軍の宿泊施設なら
エド君が私も使わせてもらってる宿を紹介しますが、
「えー?軍のってなんかおカタそう…」
と露骨に顰めっ面を浮かべるウィンリィちゃん。
いや、そんなにお堅い雰囲気じゃないですよ。
「そうだ!なんならうちに泊まってけよ」
と言ったのは中佐でした。
あっけらかんと言いましたが初めて会った人に普通はそんなことお願いできませんよ。
「でも初対面の人に迷惑をかける訳には…」
案の定、ウィンリィちゃんもやんわりと辞退します。
「気にすんなって!うちの家族も喜ぶからよ!よし、それでいこう!」
ウィンリィちゃんのお断りも関係ないとばかりに中佐が一方的に捲し立てると、ウィンリィちゃんの腕と荷物を握りズルズル引きずるように病室を出て行ってしまいました。
「こういうのって人攫いって言うんじゃないですか?」
私の呟きだけが、虚しく室内に響きました。