雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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第11話

ーサラ・ヒューイットー

 

マルコーさんを襲っていたラストを「凍てつく氷柩(ゲリドゥスカプルス)」に閉じ込め、その足でリゼンブール行きの汽車に乗りました。

リゼンブールに着いたんですが、エド君が言っていた通り、本当に長閑な田舎という感じです。

牧羊が主要産業なのか、あちこちで羊が草を食んでます。

そんな舗装もされてない田舎道を歩いていると、一軒の家が見えてきました。

その家から、左前足が機械鎧(オートメイル)の中型犬が駆け寄ってきて、エド君にじゃれつきます。

知り合いの犬なんでしょうか?

犬が走ってきた家には1人のおばあさんが待ってました。

 

「よう、ピナコばっちゃん。また、頼むよ」

 

エド君が軽く挨拶し、私達の紹介をしてくれます。

 

「こっちがアレックス・ルイ・アームストロング少佐。こっちはサラ・ヒューイット」

 

「ピナコ・ロックベルだよ」

 

と言って、互いに握手しました。

機械鎧調整師というだけあってか、手には数々の肉刺(まめ)ができてます。

仕事でできたものなんでしょう。

職人の手って感じです。

 

「しかし、しばらく見ないうちに…エドはちっさくなったねぇ」

 

とピナコさんがしみじみと呟きますが、少佐とエド君というのは比較対象を間違ってますよ。

少佐は普通の人より筋骨隆々で身長も高いですから、エド君と比べたら余計にいけません。

案の定、エド君の短い導火線に速攻で火がつき爆発しました。

 

「誰がちっさいって⁉︎このミニマムばば‼︎」

 

「言ったね⁉︎ドちび‼︎」

 

「豆粒ばば‼︎」

 

「マイクロちび‼︎」

 

「ミジンコばば‼︎」

 

エド君も15歳で150cmは小さいんですが、ピナコさんも年齢はわからないものの、エド君より小さいですからどっちもどっちだと思うんですけどね。

そんなやりとりを見ていたら、

 

「こらーっ!エド‼︎」

 

という大きな声と共に金属製の工具が飛んできて、エド君の頭に直撃しました。

あれはレンチっていうやつですかね?

ネジでボルトを締める部分を調節できるやつ…じゃなくて、あんな硬い物が頭に当たったらマズいんじゃないですか?

 

「メンテナンスに来る時は、先に電話の1本でもいれるようにって言ってたでしょー‼︎」

 

「てめー、ウィンリィ‼︎殺す気か⁉︎」

 

同じ声が響くとそれに負けない声でエド君が頭を押さえながら言い返します。

ピナコさんの家の2階バルコニーに、繋ぎの作業着の上を腰で結んだ女の子がニコニコとこちら、というかエド君を見ています。

 

「あはは!おかえり‼︎」

 

「おう!」

 

「ただいまー」

 

ウィンリィと呼ばれた女の子の挨拶にエド君はムスッと、アル君はのんびりと返事して、ピナコさんの家に案内されました。

ひょっとして、エド君の好い人なんでしょうか?

 

 

 

「初めまして、サラ・ヒューイットと言います」

 

「初めまして、ウィンリィ・ロックベルよ。あなたもアームストロング少佐と一緒にエド達の護衛をしてるって聞いたんだけど、本当?」

 

確かに少佐と違って、可憐な女の子が護衛というのは信じられないでしょう。

 

「元々はユースウェルでエド君達と知り合ったんですが、あてもなく旅をするよりは、『鋼の錬金術師』として有名な人についていけば、面白いことがあるだろうと思いまして。勿論護衛としての腕に自信もありますよ。例えば、そうですね…私と少佐が勝負しても、私が勝てるんじゃないでしょうか?」

 

実際に少佐の錬金術を見ないことには何とも言えませんが、まさか何度死んでも蘇ってくるラストより強いということはないでしょう。

でも相性や条件で変わることを考えれば、一概に強い弱いを決めることはできませんか…。

 

「それはさすがに言い過ぎでしょ。ねぇ、少佐?」

 

少佐は少し考えてから、私に尋ねてきます。

 

「…ヒューイット殿に聞きたいのですが、傷の男(スカー)の時に見せた氷の矢はあれ以上作れるのですかな?」

 

「あの時作ったのは101本でしたが、あと1桁多く作れますし、私の術はあの矢だけではありませんよ」

 

そう言った瞬間、少佐は首を左右に振りました。

 

「ヒューイット殿の言うとおり、我輩では勝てそうにありませんな。我輩が錬金術で攻撃する前に4桁になる氷の矢を撃ち込まれたら敵わぬでしょうし、ヒューイット殿には更なる手段がある様子。我輩の得意な近接格闘に持ち込む間も無く終わりでしょうな」

 

少佐が真顔で言ってる様子に、嘘は吐いてないとわかったウィンリィちゃんが唖然とした顔で私を見ます。

 

「まぁ、私のことよりエド君の腕ですよ。なんせバラバラに壊れてましたから」

 

そう言った瞬間、ウィンリィちゃんの目付きが変わりエド君の側へと駆け寄ります。

そして、右腕がないエド君を指差して、

 

「んなーーーっ‼︎」

 

と声をあげました。

やっぱりエド君のことが心配だったんですかねぇ?

エド君はというと、あっけらかんとした感じです。

 

「おお悪ぃ、ぶっ壊れた」

 

「ぶっ壊れたって、あんたちょっと‼︎あたしが丹精込めて作った最高級機械鎧を、どんな使い方したら壊れるって言うのよ⁉︎」

 

え?エド君じゃなくて機械鎧の心配ですか⁈

 

「いや、それがもう粉々のバラバラに」

 

エド君のさらっと言った一言に、貧血を起こしたかのようにフラフラとなるウィンリィちゃんでしたが、すぐに復活しまた工具でエド君を殴りました。

今回のもレンチですが、さっきのよりゴツい工具です。

痛そうですねぇ。

 

「で、なに?アルも壊れちゃってるわけ?あんたら、いったいどんな生活してんのよ…」

 

「いやぁ…」

 

と言って、なにがあったか言葉を濁すアル君。

まさか、連続殺人犯に命狙われたなんて幼馴染には言えないですよね。

ウィンリィちゃんの追求を誤魔化したまま、身体を元に戻すために必要と思われる賢者の石の資料が中央(セントラル)にあることを告げます。

 

「ーで、その賢者の石の資料とやらを手に入れるために、1日も早くセントラルに行きたいって言うのかい?」

 

「そう、大至急やってほしいんだ」

 

ピナコさんの疑問に対して急ぎの仕事をお願いするエド君。

 

「うーん、腕だけじゃなく足も調整が必要だね。足の方は(これ)があるからいいとして、腕は一から作り直さなきゃならんから…」

 

と言って煙管をふかして、どれくらいの時間がかかるか思案するピナコさん。

その様子に思わず、

 

「やっぱり1週間くらいかかるかな?」

 

と、エド君は不安気な声をあげますが、

 

「舐めんじゃないよ、3日だ」

 

エド君の不安を吹き飛ばすように、ピナコさんが自信満々に答えました。

そして、エド君の左脚の機械鎧を外し、スペアの脚を取り付けます。

 

「やっぱ慣れてない脚は歩きにくいな」

 

そのスペアの具合を確かめながら、エド君が呟きます。

ウィンリィちゃんはというと、これからの作業行程を考えてうんざりという感じでため息を吐きます。

 

「削り出しから組み立て、微調整、接続、仕上げと…。うわぁ、完璧徹夜だわ」

 

「悪ぃな、無理言って…」

 

エド君もウィンリィちゃんの姿に素直に謝りました。

しかし、幼馴染の頼みだからか、ウィンリィちゃんはまるで気にしてないとばかりに答えます。

 

「1日でも早くセントラルに行きたいんでしょ?だったら無理してやろうじゃないのさ。そのかわり、特急料金がっぽり払ってもらうからね!」

 

心配無用といった感じでエド君の背中を叩きました。

が、エド君は慣れないスペアの脚をつけてる状態なので、踏ん張りが利かず吹っ飛ばされてしまいます。

エド君はどうにか起き上がり、無言で家から出て行ってしまいました。

護衛でついてきてるので、私も外に出ます。

外ではエド君達を最初に迎えてくれた犬のデンとアル君に対して、エド君がウィンリィちゃんのことを愚痴ってました。

 

「…ったくなんなんだ、あの狂暴女は‼︎」

 

「ははは、何を今更」

 

アル君も容赦ない一言を放ちますが、幼馴染だからですかね。

イーストシティ、ユースウェル、マルコーさんのいた町と来て、この世界で4つ目の町がリゼンブールですが、本当に長閑な田舎ですね。

風が木の葉を揺らす音と遠くで鳥の鳴く声しか聞こえません。

 

「はー、3日か…。とりあえずやる事が無いとなると、本当に暇だな」

 

「ここ暫くハードだったから、たまには暇もいいんじゃない?」

 

「だ〜〜〜!暇なのは性に合わねー‼︎」

 

そう言ってエド君はデンと一緒に手脚をバタつかせます。

 

「そうだ。そんなに暇なら、母さんの墓参りに行ってきなよ」

 

アル君がふと思いついたように提案します。

 

「墓参りか…。でも、おまえそんなナリじゃ行けないじゃん」

 

「少佐に担いでもらうのも悪いから、ボクは留守番してるよ。機械鎧がなおったら、すぐセントラルに行くんでしょ?だったら暇なうちにさ」

 

「ひょっとして、私のこと忘れてません?アル君の1人や2人、簡単に運んでみせますよ」

 

「いえ、サラさんのことを忘れてたわけじゃないんですけど、女子に重たいボクを持ってもらうっていうのも…」

 

そういう話をイーストシティでもしましたね。

 

「いいんですよ、私もどうせ暇なんですから。さあ、行きますよ」

 

と言って、荷箱から出されていたアル君を、もう一度荷箱に入れて箱ごと持ち上げます。

そして、エド君とデンの後を追って2人のお母さんの墓参りに行きました。

途中で、エド君達と親しい町の住人方に驚いた顔で見られましたが、アル君が恥ずかしそうにしてたのはご愛嬌ってことで。

私は全く気にしてませんよ。


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