ーサラ・ヒューイットー
エド君の右腕を直すためにリゼンブールへ向かう途中の駅で、錬金術を医療に応用する研究をしていたドクター・マルコーという人を見かけました。
その人を追いかけると、エド君達が元の身体に戻るために追い求めていた賢者の石とその研究資料がある事を突き止めます。
マルコーさんに資料を欲しいとお願いするエド君でしたが、きっぱり拒絶されたため、暗い雰囲気のまま私達は駅まで戻ってきました。
「本当によかったのか?資料は見られずとも、石だけは力尽くで取り上げる事もできたろうに」
アームストロング少佐がエド君に問いかけます。
強奪というのはどうかと思いますが、身体を戻したいという願いを「それしきのこと」というマルコーさんもどうかとは思いますね。
「もちろん、喉から手が出るほど欲しかったさ!マジで‼︎でも、マルコーさんの家に行く途中で会った人達の事を、思い出したらさ…。この町の人達の支えを奪ってまで、元の身体に戻っても後味悪いだけだなーって。また別の方法を探すさ、な?」
エド君は確かめるようにアル君に声をかけ、アル君もそれに「うん」と答えました。
「そう言う少佐はよかったのかよ?マルコーさんの事をセントラルに報告しなくてさ?」
今度はエド君が問いかけますが、
「我輩が今日会ったのは、マウロというただの町医者だ」
なんてシレッと答えました。
なんだかんだ言って、いい人ですよね。
「あーあ、また振り出しかぁ。道は長いよ、全く」
と、エド君は賢者の石が手に入らなかったのに笑って呟きました。
「君!」
そこへ息も絶え絶えといった状態のマルコーさんがやってきました。
手には封筒のような物を持っています。
研究資料を見せてくれる気になったんでしょうか?
それにしては随分薄い感じですが。
「…私の研究資料が隠してある場所だ。真実を知っても後悔しないと言うなら、これを見なさい。そして、君ならば真実の奥の更なる真実に…いや。これは余計だな」
そう言って、封筒をエド君に渡し、
「君達が元の身体に戻れる日が来るのを祈っておるよ」
と手を振りながら帰っていきました。
その姿にエド君は頭を下げ、少佐は涙を流しながら敬礼をして見送ります。
マルコーさんもいい人だったんですねぇ。
「よかったですね、エド君」
「ああ、マルコーさんに感謝だな」
「それで、その封書には何と書かれているのだ?」
少佐に尋ねられたので、エド君は早速封筒を開けます。
「『国立中央図書館第一分館 ティム・マルコー』」
「なるほど。『木を隠すには森』か…。あそこの蔵書量は半端ではないからな」
「ここに石の手掛かりがある…‼︎」
エド君の手紙を持つ手に力が入ります。
「兄さん、道は続いている!」
「…ああ!」
アル君の声も心なしか昂ぶってる感じです。
手掛かりが掴めそうとわかったんですから当然でしょう。
そう言えば、あの変な気配の人間もここで降りてましたが…、ひょっとしてマルコーさんの家にいます?
ちょっとマズいかもしれませんね。
「すいません、マルコーさんの家に忘れ物をしてきたみたいなので、ちょっと取ってきますね」
「はぁ⁈持ち物なんかないくせに、何を忘れたっていうんだよ⁉︎」
「まあ、よいではないか。幸い、次の汽車までの時間はある。仮に乗り遅れてもその次の汽車に乗ればよい。ここまで来て迷う事もなかろう」
「申し訳ありません。私が戻ってくる前に汽車が来たら、先に乗って構いませんので。それでは行ってきます」
それだけ言って、駅の構内に入って人目につかないところで影の
これを使うのも久しぶりな気がしますね。
なんて考えながら展開先の影から姿を出すと、マルコーさんの左肩に伸びた爪を突き刺してる女がいました。
その女は右手の爪でマルコーさんを刺し、左手の爪は女の子の首を挟んでいて、少し捻れば首を狩れる状態にしてあります。
「お嬢ちゃん、ちょっと目を瞑っててね」
それだけ言って、
スプラッタな光景ですが、他の爪で女の子を刺されたら困りますから、左手も落としておきます。
突然現れた私と左手が斬られた驚きで、動きが止まった女の右手の爪も斬り、女を開いた扉の外へと蹴り飛ばします。
「大丈夫ですか?マルコーさん」
「君は、さっきあの子と一緒にいた…?」
へたり込んだマルコーさんが、私を驚いたように見上げています。
「自己紹介をしてませんでしたね。私はサラ・ヒューイットと言います。エド君達と旅をしている者です。ああ、賢者の石には興味ないので安心してください」
そう言いながら、こちらも床に尻もちをついてる女の子をマルコーさんに預けます。
「女性を足蹴にするなんて感心しないわよ、お嬢さん」
声がした方を見ると、扉の前にさっき蹴飛ばした女が立っていました。
いやいや、なかなかの美人でなおかつ胸の戦闘力は圧倒的にこちらの負けです。
いえ、胸の大きさが戦力の決定的な差ではないというのはわかってます。
そういえば、女の胸に尻尾を咥えた竜の入れ墨らしきものが見えます。
あれはなんでしょう?
それと全力ではないにしろ、それなりの力で蹴ったのでかなりのダメージを受けてるはずなんですが…。
そんな様子は見当たりませんし、何よりも斬り落とした左手も元のように生えてます。
「あら?お姉さん結構丈夫なんですね」
「そうでもないわ。貴女も見た目によらず、随分パワーがあるのね。おかげで1回死んじゃったじゃない」
「そうですか…。ではもう1度吹っ飛んでください」
そう言って、瞬動で女に接近し掌底を腹部に叩き込みます。
下から掬い上げる様に掌を当てたので、空中に吹っ飛びました。
「マルコーさん、肩を治しましょう。
マルコーさんに刺さった爪痕に治癒魔法をかけ、傷を治します。
そういえば私が斬り落とした左手やマルコーさんに刺さってたはずの爪も無くなってますね。
どこにいったんでしょう?
「君のその術は何かね…⁉︎少なくとも錬金術ではあるまい?錬成光がない!傷も治って、もう痛みがない」
「説明したいのは山々なんですが、さっきのお姉さんを追いかけないといけないんで、これで失礼しますね」
それだけ言って、私も家の外に出て女の気配を頼りに瞬動と虚空瞬動で追いかけます。
…いました、町から離れた所にうまい具合に吹っ飛んでくれてます。
私も移動して、女の近くに降り立ちました。
肝心の女はといえば、四肢があり得ない方向に曲がっていて、内臓も傷ついたのか口から血を流してます。
この女、人間にそっくりすぎて、どうもやり難いんですよね。
「お嬢さん…ゴフッ…。本当に…パワーが強過ぎよ…。内臓が…いかれちゃったじゃない…グフッ…」
「すいません、死んでも生き返ったということで、以前戦った人を思い出して、少し力が入っちゃいました」
もちろん思い出したのはアーウェルンクスシリーズです。
欠損した部位が再生するとかそんな事はなかったんですが、なんか似たようなイメージを受けます。
あちらはまだ人形らしくてやりやすかったんですが、こっちはフェイト以上に人間らしく、やり辛いことこの上ありません。
「貴女みたいな…パワーもスピードも…ゲフッ…ある人間と戦うなんて…どんな…ゴホッ…化物よ…」
「そう言うお姉さんも、人間じゃないでしょう?お姉さんからは、たくさんの人間の気配みたいなのを感じます」
「そこまでわかるなんて…グフッ…ますます貴女は危険だわ。計画の邪魔になりかねないから、…ここで死んでちょうだい!」
と言って、いつの間にか治った両手から爪を伸ばして、私を刺そうとします。
ですが、女の爪は私の正面1mほど手前で魔法障壁に阻まれ、止まってしまいました。
「バカな⁈私の爪が刺さらないなんて!」
「まあまあ速い再生力ですが、私も急がないといけないので、お姉さんには退場してもらいましょう。そう言えば、お姉さんの名前は?」
名前を尋ねながら女に近付きます。
距離が1mを切った所でやっと答えてくれました。
「…ラストよ。お嬢さんは?」
「サラ・ヒューイットと言います。では、おやすみなさい」
ラストが最後の抵抗とばかりに両手の爪を伸ばしてきましたが、それより速く両肘から先を斬り落とし、
「
で氷の中に閉じ込めました。
しかし「
人間の「7つの大罪」から名付けられているなら、あと6人は同じような人間じゃない何かがいるのかもしれません。
氷に閉じ込められたラストは、身動きが取れないからか肘から先も再生できません。
手がなければ、あの爪も再生できず、氷柩からの脱出もできないでしょう。
氷漬けのラストを影の袋に収め、影の転移魔法を再度展開し駅へと戻ります。
丁度汽車が到着したみたいですね。
「遅くなりました」
「結局手ぶらじゃねーかよ」
エド君がやっぱりという感じで文句を言いますが、まさかマルコーさんを助けるためにラストと戦ったなんて言えませんし。
「まぁ、女子にはいろいろあるんですよ。それを根掘り葉掘り聞こうとしたら、デリカシーがないと言われますよ」
と言ったら、黙ってしまいました。
デリカシーがないというのに、ちょっと傷ついたんでしょうか?
「エドワード・エルリックもヒューイット殿もその辺にして、列車に乗るぞ」
という少佐の仲裁でリゼンプール行きの汽車に乗ります。
アル君はまた家畜車両に放り込まれてました…。
ラスト捕獲という原作にない展開。
これにより
・ヒューズ中佐の死亡確率やや減少
・マスタング大佐の負傷イベント無し
・ハボック少尉の負傷イベント無し
どうなるんでしょう…?