雷氷の魔術師   作:怠惰なぼっち

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お待たせしました。
「憑依生徒サラま!」の続編となる作品です。
皆さんに楽しんでもらえたら幸いです。


第1話

ーサラ・ヒューイットー

 

麻帆良を旅立つため、次元跳躍並行世界往還装置「渡界機」を起動し、私は白い何かに包まれました。

転移が終わったのか、私を包んでいたものはなくなり視界が開けると、私が立っていたのは見渡す限り、砂、砂、砂の砂漠地帯でした。

さっきまで春の朗らかな気候だったのに、いきなりジリジリ焼けるような日射しと照り返しに晒されたので、急いで影の袋からローブを取り出して身に纏い、ついでに渡界機は影の袋に収めます。

ここは一体どこなんでしょうか?

周囲に誰もいないのを確認しながら、浮遊術で徐々に空へと飛び上がります。

万が一でも魔法がない世界、或いは魔法はあるけど秘匿義務があるような世界に来ていた場合、私が何の道具もなしに飛んでいる姿なんて異常なものにしか映らないでしょうから。

太陽の位置から大体の方位を割り出すと、私がいる位置から北の方に遺跡が見え、西には沢山の煙突があって、幾つかの煙突からは煙が上がっているのが見えます。

煙突から煙が上がっているということは、人がいて何かしらの作業をやっているということ。

なら人がいなさそうな北に見える遺跡よりは、西に見える煙突の街に行ったほうが人にも会えるし、この世界のことも少しはわかるでしょう。

そうと決まれば、影の袋から杖を取り出し煙突の街から少し離れた場所まで低空を飛行します。

煙突の街まではずっと砂漠が続いていて、人影は見当たりませんでしたし、歩いて行くのはかなり時間がかかりそうでしたので。

 

 

こうして杖を使った飛行と徒歩で煙突の街まで辿り着きました。

しかし辿り着いたはいいものの、なんだか寂れた街ですね。

トロッコや線路が敷設されて、パイプが街中に張り巡らされてたり、ヘルメットを被ってツルハシやらスコップを持った人が歩いてるんで、ここは炭鉱の街だというのは推測できるんですが、働く人には草臥れてるような雰囲気が漂っています。

 

「出てけ!」

 

という大声が聞こえたかと思ったら、正面に見える建物の扉が開き、金髪金眼に赤いコートを着た少年と大きな鎧の人が放り出されたのが見えました。

 

「こらー!オレたちゃ客だぞ‼︎」

 

「かーペペペっ!軍の犬にくれてやるような飯も寝床も無いわい!」

 

どうやらコートの人と鎧の人は客として入ったのに、追い出されてしまったんでしょう。

「軍の犬」と言ってたので、軍関係の人なんでしょうか?

 

「あ、ボクは一般人でーす。国家なんたらじゃありませーん」

 

「おお、そうか!よし入れ!」

 

「裏切り者っ‼︎」

 

鎧の人の軍関係者じゃないという自己申告に対して、店の人もにこやかな笑顔で手招きします。

その鎧の人に対してツッコミを入れるコートの人。

このやり取りを見る限り、コートの人と鎧の人は一緒に行動してるんでしょうが、街の人には「軍の犬」と言われる「国家なんたら」という職が嫌われてるらしく、コートの人はそれで放り出されてしまったんでしょうね。

鎧の人は店の中に入ってしまいました。

「国家なんたら」と言うからには公務員みたいなものでしょうか?

ならこの人に聞くと色々わかりそうな気がしますね。

 

「ちょっとお話伺ってもいいですか?」

 

「誰だ、あんた?」

 

「私、サラ・ヒューイットと言います。この国には初めて来たんですが、右も左もわからない状態で。誰かに聞こうか思案してたら、『国家なんたら』という職業に就いていられる人が目の前に現れたので、声をかけさせてもらいました」

 

「オレの名前はエドワード・エルリック。『国家なんたら』じゃなくて、『国家錬金術師』な。『鋼の錬金術師』と言えば、この国じゃ少しは有名なんだぜ。あんた初めてこの国に来たって言ったが、どっから来たんだ?」

 

「鋼の錬金術師」って言えば、ダークファンタジーとして有名なマンガじゃないですか。

私は読まなかったので知らないんですが、流血やらスプラッタなシーンがあるとか。

目の前の人がその主人公ということでしょうか?

なんという世界に来てしまったんでしょう。

まぁ、行き先をランダムにしてしまったので、仕方ありません。

ここにも私ができる何かがあるかもしれません、しばらく様子を見ましょう。

 

「私は東の砂漠から来ました」

 

「あの東の砂漠を越えて来たのか⁈」

 

エドワード君が驚いたように尋ねてきます。

その驚きようでは私がいた砂漠を越えるというのは、大変なことなのかもしれませんね。

まあ、砂漠を越えたわけじゃないんですけど。

 

「いえ、砂漠を越えたわけじゃありませんよ。気付いたら砂漠の地にいて、煙突の煙が見えたからこちらに来ただけです」

 

「なんか怪しいな。この国は知らないのに砂漠から来て、しかもその砂漠を越えて来たわけじゃないと言う。じゃああんたはどこから来t「ぐううううぅぅー」…」

 

私が何者かをエドワード君が尋ねようとした時、盛大にお腹の鳴く声が聞こえました。

もちろん私じゃありませんよ。

正面にいるエドワード君が恥ずかしそうに目を逸らしてます。

 

「お腹空いてるんですか?」

 

「……てるよ」

 

「はい?」

 

「ああ、腹減ってるよ!ここの連中、オレが国家錬金術師とわかった途端、店から追い出したんだ!」

 

なるほど、私より背が低いのに同い年くらいに見えるので、今は食べ盛りなはず。

それなのに空腹なのは辛いでしょう。

確か影の袋の中に保存食があったような気がするので、それをあげましょう。

 

「エルリックさん、一つ手品を見せましょう」

 

「は?」

 

「この何の変哲もないローブですが…」

 

急に何を言うんだという感じのエドワード君をよそに、ローブの袖口に手を突っ込んで影の袋から堅焼きパンと干し肉、水を取り出しました。

 

「お腹が空いてるということですので、これらをあげましょう」

 

にっこり笑いながら、それらを差し出したんですが、

 

「どっからそれを出したんだ?それに何を企んでる、あんた?」

 

なんて言われてしまいました。

別に何も企んではいないんですが、ここでも怪しいと言われる運命にあるんでしょうか?

呪われてるんでしょうかね?

 

「どこから出したかは手品なので言えません。それに何も企んでませんよ。食べ盛りだと思われるエルリックさんが、空腹なのはかわいそうだと思って食料を出したんですが。疑われるなら毒味もしましょうか?いらないと言われるなら片付けますよ」

 

「いや、せっかくの好意だ。ありがたくいただくよ」

 

そう言って私が出したパンと肉、水を平らげてしまいました。

本当に空腹だったんでしょうね。

 

「もう、せっかくボクに出された食べ物持ってきたのに…。兄さん食事済ませちゃったの?」

 

声がした方を振り向くと、さっきの大きな鎧の人がトレイにハンバーガーみたいなものと、飲み物の入ったコップを持って立っていました。

 

「ああ、こっちのサラって女の子にパンと干し肉もらった。サラ、こいつはオレの弟、アルフォンス・エルリック。アル、こっちはサラ・ヒューイットで東の砂漠から来たんだと。その食べ物ももらうよ」

 

そう言ってアルフォンス君からトレイを受け取るエドワード君。

 

「え?あの砂漠を越えて来たの⁈」

 

「いや、気付いたら砂漠にいたんだとさ。多分訳ありなんだろ」

 

鎧の人が驚いたように私を見ましたが、鎧の人の方が弟さんということに、私は驚きですよ。

 

「兄さんがお世話になったみたいで、すみません。僕の名前はアルフォンス・エルリックです」

 

「これはご丁寧に。私はサラ・ヒューイットと言います。お兄さんが空腹で辛そうだったので、余った食料を出しただけですよ。それよりもアルフォンスさんが弟さんなんですか?」

 

「ええ、僕が弟になります。よく間違えられるんですよ」

 

ハハハと笑うアルフォンス君ですが、それはそうでしょう。

エドワード君の身長が150cmちょいで、アルフォンス君が180cmありそうな大きさですから。

 

「そう言えば、なんで国家錬金術師という理由で店を追い出されたんですか?」

 

「ここの人達はみんな軍人が嫌いなんです。この炭鉱の統括者…ヨキ中尉と言うんですが、その人元々炭鉱の経営者だったのに、お金で今の官位を買い、さらに中央の高官に賄賂を送っているらしくて。炭鉱で働く人への給料は少ないし、その現状を訴えても賄賂をもらってる人が訴えを握り潰すそうなんです。充分な食料も回ってこないらしいですし」

 

それはこの街の人は大変でしょうね。

 

「はあ、それとエドワードさんが追い出されるのにどんな関係が?」

 

「普通の錬金術師なら問題なかったんだろうが、国家錬金術師は軍人じゃないが軍に属してんだよ」

 

「それに『錬金術師よ、大衆のためにあれ』という術師の常識やプライドを、国家錬金術師は数々の特権と引き換えにしているから、『軍の犬』って言われるんです」

 

「なるほど。でもエドワードさんはここの人達に何かしたわけでもないのに、そのヨキ中尉のせいで大変ですね」

 

私の言葉に苦笑いをするエドワード君。

 

「まったくだよな、ただでさえ軍の人間は嫌われてんのに。国家錬金術師になるって決めた時からある程度の非難は覚悟してたが、ここまで嫌われちまうってのも…」

 

「ボクも国家錬金術師の資格とろうかな」

 

アルフォンス君がポツリと呟きますが、エドワード君はそれを否定します。

 

「やめとけ、やめとけ!針のムシロに座るのはオレ一人で充分だ」

 

この2人も随分苦労してるんですね。

そんなしみじみとした雰囲気が漂ってたんですが、

 

「どけどけ‼︎」

 

という声がさっきの店から聞こえてきました。




いよいよ「サラま」の続編が始まったんですが、
どうでしょう?「ハガレン」の世界。
思ってたところと違うという方が多いかもしれませんが
ひとまずサラにはこの世界で頑張ってもらいます。

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