超次次元ゲイム ネプテューヌRe;Birth2 DARK SOULS INSERTION   作:ルーラー

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サブタイトルは、Vita版の主題歌である『きりひらけ! ロープレ☆スターガール』から取りました。


第六話 勇気へのひとかけら(前編)

 ――わたしは、女神として、みんなを守りたいんです……!

 

 

 それは、唐突な告白だった。

 ネプギアが胸に抱いている想い、願い、その告白。

 宣言、じゃあない。彼女のそれは、『そうする』ではなく『そうしたい』というものだったから。

 

 でも、いかんせん、いきなりすぎた。

 『女神化できない自分』を、ネプギアがどれだけ不甲斐(ふがい)なく思っているのかは、推し量れたけれど。

 『みんなを守りたい』という気持ちも、まあ、理解できなくはないけれど。

 けど、彼女がなにを思ってそう口にしたのか、どんな言葉を欲しているのかが、僕には全然把握できなかった。

 

 だから、僕は問いかける。

 その言葉だけじゃわからないってことを、伝えるために。

 

「でも、いまのままじゃ誰ひとり守れない。むしろ守られる側になってしまう。そんな自分が嫌だっていうこと?」

 

「あ、いえ、嫌とかそういうのじゃなくて、なんというか……。あ、そうですよね、いきなりこんなこと言われても、意味、わからないですよね……」

 

 きっとここは、『そんなことないよ』とか言ってあげるべきところなんだろう。

 でも僕は敢えて、はっきりとうなずいてみせることにした。

 

「うん、わからなかった。だから、手探りながらも訊いてみたんだし」

 

「あはは、そうですよね。でも、容赦ないなあ……」

 

 困ったような表情で、そう呟かれる。

 やっぱり彼女は、『そんなことないよ』的な返答を望んでいたのだろうか。

 そう思考を巡らせながら、僕は軽く首を傾げ、

 

「う~んと……ごめん?」

 

「いえ、謝ってもらうほどのことではありませんよ。あと、なんで疑問系なんですか……」

 

「いや、まあ、特に『悪い』って思ってなかったものだから」

 

「それにしたって、もうちょっとオブラートに包むよう心がけたほうがいいような……」

 

「でもさ、下手にそうすると、一番大事なことを伝えられずに話が終わっちゃうかもしれないじゃん。もちろん、オブラートに包んで話すのが必要なときっていうのも、あるんだろうけど」

 

 言って苦笑を浮かべる。

 だって僕は、必要とあらば、オブラートに包むどころか、嘘だって平気で口にする人間だから。

 もちろんそれは、もう、本心だけで話すような『子供』じゃないっていう、ただそれだけのことなのだろうけれど。

 

「まあ、それはそれとして。もう夜もだいぶ遅いわけだけどさ、一体、こんな時間になんの用?」

 

 この言葉、ネプギアが部屋に来たばかりのときに口にしていたら、きっと冷たく響いてしまったと思う。

 でも、雰囲気が弛緩(しかん)してきているいまなら、たぶん、大丈夫なはず。

 

「用というか……和樹さんに、どうしても訊いてみたいことがあったんです」

 

 ネプギアから返ってきたのは、そんな言葉。

 

「訊いてみたいこと?」

 

「はい。女神でもないのに、どうして和樹さんはそんなに強いんだろうって」

 

 それに思わず、僕は別に強くなんてないよ、と口にしそうになってしまった。

 だって僕は、『自分なんてまだまだ未熟だ』って、心の底から思っているから。

 

 でも、そう言ったところで、ネプギアは納得してくれないだろう。

 ただの謙遜(けんそん)と受けとって、『そんなことはないですよ』と否定の言葉を返してくるに違いない。

 それくらいのことを、僕は今日、バーチャフォレストでしているのだから。

 

 ネプギアたちが苦戦していたエンシェントドラゴンを、僕はほとんど一瞬で倒した。

 それは誰の目にも明らかな事実で、なかったことになんてできやしない。

 僕という人間が『ネプギアよりも強い』という現実も、覆すことは不可能だ。

 

 だから、そこは素直に認めるしかない。胸を張って『僕は強い』なんて言うことはできないけど、それでもやっぱり、ネプギアと比べれば、僕は『強い』ということになってしまうのだから。

 けど、『どうして強いのか』、か……。

 

「まあ、ネプテューヌやアイエフ、あと他の女神たちに、実戦さながらの稽古をつけてもらったからなあ……」

 

「お姉ちゃんやアイエフさんたちに?」

 

「うん。他にも、僕が元居た世界でだって、色々と。おかげで、それなりのことはできるようになったよ。剣術に、体術に、魔術に、符術(ふじゅつ)。あと、気功(きこう)に、短剣の投擲(とうてき)に、僕の中に元からあった『力』の制御。

 まあ、どれも割と我流(がりゅう)だから、極めるどころか、かなり(いびつ)な修得の仕方しちゃってるんだけど……」

 

「でも、そんなに色々なことができるんですね……」

 

 なんか、尊敬の眼差しを向けられた。

 うう、こういうのって、なんかくすぐったいっていうか、居心地悪くなるんだよなあ……。

 

「いや、魔術以外はどれも中途半端だから、決して褒められたものじゃあ……。大体、生まれたときから僕の中にある『力』――『黒き魂』っていうものの『力』にしたって、安全に使えるのは五分間のみだったりするし」

 

「五分間のみ? それを超えると、どうなっちゃうんですか?」

 

「暴走する」

 

「ぼ、暴走……!?」

 

 あ、ちょっと引かれた。

 

「あー、えっと……『黒き魂』っていうのは、人類すべての『悪性の具現』にして、『破壊衝動の塊』なんだ。だから、暴走すると視界に入るものすべてを破壊したくなっちゃうんだよ、これが。別名、『世界破壊者(ワールドブレイカー)因子(いんし)』」

 

「世界を破壊してしまう力、ということですか?」

 

「そうそう、そんな感じ。まあ、普段は僕の中にあるもうひとつの『力』――『救世主(セイヴァー)因子』によって抑えられているんだけどさ。それがあるおかげで、『黒き魂』の『力』を解放しても五分くらいは正気を保っていられるんだし。

 あ、それでも『力』を使ってる間は、言葉遣いが荒々しくなっちゃったりするんだけど」

 

「ああ、なるほど。女神化しているときと同じようなものですね。女神化すると、わたしも少し好戦的になっちゃいますし」

 

「そう、なのかなあ……? あと、『黒き魂』や『救世主因子』の他にも、一応、『視線感知能力』とか『瞬間記憶能力』とか『完全把握能力』とかいうのを持ってはいるんだけど――」

 

「な、なんかどれもすごそう……!」

 

 目を見開くネプギアに、僕は「聞こえだけは、ね」と肩をすくめる。

 

「でもぶっちゃけ、戦闘には不向きなものばっかりだから。

 たとえば、『視線感知』。これは『視線に敏感』っていう僕の特性を伸ばしていった結果修得できたもので、誰かに『見られている』ことには絶対に気づけるっていう能力。

 でも『気配の察知』や『危険の感知』とはまったくの別物だから、自分から相手の居場所を探ったり、地雷(じらい)みたいな『機械的な罠』を回避することはできないという、致命的な欠点が……」

 

「あ、なるほど。なんか、すごく『受け身』な能力なんですね」

 

「うん、能動的(のうどうてき)になにかを起こせる能力じゃあ、ない。『瞬間記憶』だってそうだし」

 

「名前からすると、どんなことでもすぐに憶えられる、みたいな能力なんですか?」

 

「まさにそれ。おまけに、僕が『自分の目で見たこと』なら、いつまででも憶えていられる。いや、いつでも思いだすことができる、と言ったほうが正しいかな。

 たとえば、今日という日にネプギアと話をしたという事実、その『すべて』を、いまこの瞬間に記憶して、十年経っても二十年経っても思いだすことができるんだ。

 そして、この『すべて』っていうのも、誇張じゃない。話の内容、ネプギアのいまの表情、僕自身が抱いている感情、そういった『すべて』を、本当にこと細かく思いだせるんだ。記憶してるっていうより、脳に直接『保存』……いや、『記録』してるって感じ。『思いだす』っていうのも、『再生』って言い換えたほうがしっくりくるし」

 

「す、すごい能力じゃないですか!」

 

 まあ、いまの説明だけなら、確かにすごい能力に聞こえるのかもしれない。

 ぶっちゃけ、自分でも『お? この能力、実はけっこうすごいんじゃないか?』と一瞬だけだけど思ってしまったし。

 

「でも、戦闘で役に立つような能力じゃないでしょ? これ。『再生』するときには目を(つむ)って精神を集中させなきゃいけないし」

 

「あ、それだと確かに、戦いながら使えるようなものじゃないですね」

 

「それでも、ネプテューヌやアイエフの戦ってるところを見て、後日『再生』して、ネプテューヌたちの攻撃のときの『癖』――そのときに生じる隙みたいなものを見つけてみたりもしたんだけどさ。けど、いざアイエフと戦ってみたら、その……」

 

 思わず口ごもってしまった僕に、ネプギアは苦笑して、

 

「あまり意味がなかった、ですか?」

 

「あまりというか、まったくというか……。『来る!』って思った瞬間には、もうアイエフの攻撃を食らってた……」

 

「うわあ……」

 

「いやあ、やっぱ自分の身体能力鍛えるのは大事っすよ、ネプギアさん」

 

「な、なんか口調が、いきなり……?」

 

 いやまあ、そこには突っ込まないでくださいな。

 でも本当、あの戦いのときは自分の無力さを嫌というほど痛感させられたなあ……。

 

「あとは……『完全把握能力』、でしたっけ?」

 

「あー、うん。でもそれはさ、なんというか……ほら、他の二つの能力の『土台』になっている能力っていうかさ。『視線感知』も『瞬間記憶』も、『把握』ができるからこそっていうか」

 

「でも、頭に『完全』ってついてるじゃないですか」

 

「うん、まあ、そうなんだけどね。たとえば、ベッドに触っただけでその材質がわかったりとか、ネプギアを見ただけで身長やらなんやらがわかったりとか、するんだけどね。

 他にも、敵を視界に収めるだけで弱点属性を見抜けたりもするし。でもやっぱり、肝心の『弱点をつく方法』を持ってなかった当時の僕には、あまり意味のあるものじゃなかったかな……」

 

「やっぱり基礎(きそ)が大事、特殊な能力を持ってるだけじゃ強くはなれない、ということなんですね……」

 

「おうい、『楽して強くなりたい』という多くの人の願いをバッサリ斬って捨てるなよ……。いやまあ、言ってることは全面的に正しいんだけどさあ。

 ともあれ、だから僕も()の身体能力を上げなきゃなって思って、ネプテューヌやアイエフに稽古をつけてもらったってわけ」

 

「それで、女神と同じ強さにまでなれちゃうものなんですか?」

 

「そこはほら、僕にはいくつか特殊な能力があったから。戦闘に不向きっていう事実は動かないけど、それでも、頭を使えば戦いにもそれなりに活用できるからさ」

 

 そう結び、僕はひとつ息をついて天井に目を向けた。

 そして、喉が渇いてきたなあ、なんて思いながら、改めてネプギアのほうを見る。

 

「と、まあ、『どうして強いのか』って訊かれたから、僕はこう答えてみたけれど。でも、ネプギアのほしい回答は、たぶん、これじゃなかったよね?」

 

「えっ……?」

 

「だって、僕の強さの理由を知ったって、ネプギアが強くなれるわけじゃないじゃん。僕と同じ能力を持ってるってわけじゃないんだし」

 

 いやまあ、僕が『どうやって強くなったのか』にも、もちろん興味はあったんだろうけどさ。

 だって、女神化できないネプギアは、『人間の状態』でも女神状態に匹敵(ひってき)する力を出せるようになりたいって、そう思っているはずだから。

 でも、一番訊きたかったのは、きっと、別のことだと僕は思う。

 

 だって、自分よりも遥かに強い人たちが、常に傍にいてくれて。

 そんな人たちが、ある日、自分の目の前で強大な敵に圧倒されてしまったら。

 きっと僕だって、『自分なんかがどんなに頑張って強くなったところで……』って、思ってしまうだろうから。

 

「ネプギアが僕に訊きたかったのはさ、『どうして強いのか』じゃなくて、『どうして強くなろうと思い続けていられたのか』だったんじゃない? ネプテューヌとかアイエフとか他の国の女神たちとか、そういう、自分よりも強い人がたくさんいたのに、どうして『自分みたいな、ちっぽけな人間が頑張っても無駄なんだ』って思わなかったんだろうって、さ」

 

 僕の問いかけに、ネプギアは自分の気持ちを確かめるように目を瞑り、両手を重ねて胸元に当てた。

 きっと、無意識のうちに目を逸らしていたことだったんだろう。

 女神が『無駄だ』なんて認めるわけには、いかなかったから。

 どんなに塞ぎ込みたくても、それが許されなかったように。

 

 もちろん、これは僕の想像でしかない。

 ネプギアは僕なんかが思っているよりも、ずっとずっと精神的に強い娘なのかもしれない。

 でも、使命感で自分を奮い立たせて、自らを追いつめてしまっているところもあったんじゃないかって、やっぱり僕は思ってしまう。

 

 やがて、胸から両手を離し、ネプギアが目を開けた。

 少し伏し目がちには、なってしまっているけれど。

 

「そう、ですね……。確かに、『わたしなんかが強くなったところで……』って、思っていました。だって……だって、お姉ちゃんたち四人が、手も足も出なかったのに……」

 

「でも、『無理です、できません』とは言えなかった?」

 

「はい……。みんな、シェアを集めるのは女神候補生であるわたしにしかできないって……。それに、わたしもその期待に応えたいって、お姉ちゃんのことだって助けたいって、思ったから……」

 

 ネプギアが塞ぎ込んでいたら、ネプテューヌを助けることができない。

 シェアクリスタルを作るためのシェアが集められない。

 それは、動かしようのない事実だ。

 実際、ネプテューヌを助けることを最終目的としている僕からしたって、『塞ぎ込んでたっていいじゃないか』なんて言うことはできないわけだし。

 

「でも、できるんでしょうか? わたしなんかに。……本当に、わたしに世界が救えるんでしょうか……?」

 

 その弱々しい問いかけに、僕は思わず嘆息してしまった。

 わかってる。ここは『大丈夫、ネプギアにならできるよ』って、励ましてやるべきところだ。

 嘘だろうと、慰めだろうと、そう言ってやるべきなんだ。

 でも……。

 

「『できるよ』って、ネプギアは本当にそう言ってもらいたいの? 僕のその言葉は、正しくネプギアの『支え』になる? それがネプギアの『重荷』になってしまうことは、絶対にない?」

 

「――えっ……?」

 

 よほど予想外の返しだったのだろうか。

 プラネテューヌの女神候補生は、僕の言葉に目を見開いて固まってしまった。

 

 無責任な期待や励ましの言葉は、ときに人を傷つけ、潰してしまう。

 それを、僕はよく知っていた。

 だから僕には、気軽に『できるよ』なんて言うことはできなかった。

 そうしたほうが丸く収まるとわかっていても、言いたくなかった。

 

 だって、それを口にしたが最後、僕はそんな自分を嫌いになってしまうから。

 どう間違っても、そんな自分にだけは、なりたくないから。

 でも、これだけで終わらせてしまうのは、あまりにもネプギアにとって(こく)か。

 

「あー、でも、なんだ……。話すくらいは、できるよ。僕がなんで『強くなりたい』と思ったのかっていう、『きっかけ』の、ことなら。それがネプギアの役に立つかどうかまでは、わからないけどさ」

 

 そして僕は、気が進まないながらも語り始めた。

 僕が『強くなりたい』と願った理由を。その『きっかけ』となった事件のことを。

 そう、ネプテューヌと出会う前の、まだ弱かった瀬川和樹の物語を――。


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