やはり俺の魔王攻略は間違っている。   作:harusame

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その15 俺と魔王と旅の始まり

 

ゆうしゃをたおしてしまったまおうは、

ぼうじゃくぶじんのふるまいだ

 

 

しかしそれにもあきてしまって、ながいつきひがながれた

 

 

もうだれもまおうのことをおぼえていない

 

 

もうだれもまおうのことをわからない

 

 

もうだれもまおうのことをーーーーー

 

 

仕方ないのでまおうは探すことにしたのです

 

 

 

 

 

 

 

×××××

 

 

 

 

今の現状が認識出来ず、この間スマホで

やったフリーゲームの冒頭を思い出していた。

 

 

確か、深夜に陽乃さんに捕まり、なぜか車に押し込まれ、なぜかアイマスクとイヤホン(アニソンが流れていた、しかも俺好み)装備でどこかの駅に連れて行かれて、電車に乗ったらしい。

 

道中、握られた彼女の手は今までの邪知暴虐の王のような振る舞いが嘘のように暖かいものだった。

 

その暖かさに当てられてか、知らない間に眠りこけていた。

 

数時間経ったのか?

感覚が遮断されていたせいか時間の感覚が分からない。どこかに着いたらしく、陽乃さんに手を引かるがままやって来て、ようやく封印の戒めを解かれた。

 

 

俺は、周りに木がいくつか生えた広場でおしゃれなベンチに腰をかけ、目の前にそびえたつ目新しいビルをただ茫然と眺める。

 

雲のような流線系屋根の奥に有名デパートの名前。建物を縦に貫くガラス張りの壁面の中央に設置された大きな時計は昼時を示していた。

 

 

 

 

 

 

「比企谷くんはここ初めてだったかな?まあ、私も久しぶりだけどね~」

 

 

 

「あの~」

 

 

 

「この駅ビル数年前に建替したみたいよ。たしか地震があったときかな。新幹線をみんなで出迎えるCMが有名だったね~」

 

 

 

「あの~」

 

 

 

「さ~て、比企谷くんラーメン好きだったよね?駅ビルの中に、ラーメンストリートがあるよ~」

 

 

 

「いい加減、聞いて下さいよ」

 

 

 

「ラーメン以外が良かった?他にはうどんも有名だよ。一応うどん発祥の地と言われているからね~」

 

 

 

「分かりました。降参です。だから質問させて下さい」

 

 

 

「一つだけならいいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あそこに見える『JR 博 多 駅』って何ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

愛すべき聖地千葉より遥か遠く、

 

九州の修羅の国、福岡に八幡が立つ!

 

 

 

「駅の名前でしょ?」

 

きょとんと妹と同じ仕草でとぼける陽乃さん。

 

 

「質問が悪かったです。なぜ俺は福岡県に連れて来られたか?です」

 

 

「前に私の休日の過ごし方はふらっと旅をすることだって言ったよね~」

 

 

「いえ、聞いてませんし、知りませんが」

 

 

「だから、比企谷くんも連れてきちゃった」

 

と、両手を後ろに組み、俺の顔を覗き込む陽乃さん。

 

 

連れてきちゃった☆じゃないですよ!

遠すぎますから!!九州って、西の果てでしょ!

 

千葉が恋しい!八幡おうち帰る!

 

 

「ちなみに帰ろうとしたら、新幹線代は当日券だと数万かかるよ~」

 

走って逃げようとした足が止まる。

 

そういえば俺の財布には数千円しかないが、小町より遥かに少ないお年玉を必死にためた貯蓄口座に数万円はあったはずだ。キャッシュカードを取り出そうとして財布のポケットに紙切れを見つける。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

お兄ちゃんへ

 

へそくりは小町が保管しておくね~。

お兄ちゃん無駄遣いが多いから、小町が貯めて上げる!

 

うだつの上がらない旦那のために家計を切り盛りする

奥さんみたいで小町的にポイント高い!

 

お土産は素敵な思い出プライスレス!だよ。

 

                       ☆小町☆

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

小町ーーーーーーー!!!!!

 

 

 

「とりあえずランチ終わったら電車にのるからね」

 

「目的地はここではないのだよ。青年!」

 

ぴっと人差し指を俺に指さす陽乃さん。

 

ウールコートにベルトをリボン結びで、黒タイツが何だか艶めかしい。

 

 

休日の駅前なので人通りは多く、通りかかる人が陽乃さんに目を向けている。

 

本当に目立つなこの人…。

 

「さ、行こうか!」

 

と俺の腕に抱き着く陽乃さん。

 

 

アイエェェーーーーー!!!

 

周りから好奇の視線を感じる。

 

 

 

「また顔真っ赤だよ。こういうのはまだ早いのかな~?」

 

「早くも遅くもそもそも間違っていますから。過度な接触は

 心臓に悪いから勘弁してください。」

 

「大丈夫?今からそんなこと言ってると。

 

 この後は心臓持たないかもね~」

 

 

さらっと死刑宣言は止めて下さい。

 

 

どうやら、俺は帰れそうに無い。

小町に連絡しようとスマホを取り出すが、液晶画面は真っ暗のままだ。なぜか電源が入らない。

 

昨日は充電したはずだが?

 

「『ごみ兄ちゃんなら数日好きにしても大丈夫ですよ。両親も私も気にしませんから。』って小町ちゃんが言ってたよ」

 

 

雪ノ下(妹)よ、小町の誤解は解いたはずだよね?

 

 

「そういえば、比企谷くんのスマホの電池見つかるといいね~」

 

さっきまで部室であいつが見せる笑顔と大差なかったのに、たった一瞬で、反転してしまう。

 

相手の思考を根こそぎ刈り取ってしまう、そんな圧倒的な笑みを陽乃さんはとても可憐に浮かべていた。

 

 

ただの従者である俺には、その役割を担うしかない。

 

 

「お店はぎったぎたのとんこつラーメンでお願いします」

 

 

俺は陽乃さんと一緒に歩き始める。

 

 

 

 

 


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