機動戦士ガンダムSEED moon light trace   作:kia

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第6話  終わりは新たな始まり

 

 

 凄まじいまでの眩い閃光が進路上にあるものすべてを薙ぎ払いながら、暗い宇宙を斬り裂くように進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 それは死の光。

 

 飲みこまれたものは塵芥となり、容赦なく薙ぎ払われる。

 

 宇宙を照らしたその光はザフトの切り札『ジェネシス』から発射された閃光だった。

 

 その光景をアドヴァンスイレイズのコックピットから見ていたセリスは思わず、震えた。

 

 「こんなものを再び発射するなんて……」

 

 ジェネシスが発射されたのはこれで二度目。

 

 一射目は地球軍の部隊を一掃。

 

 そして今放たれた二射目が向った先には月―――

 

 地球軍基地へと直撃し、この位置からでも確認できる爆煙が上がっていた。

 

 《これ以上は撃たせる訳にはいかない! 作戦を開始する、同盟軍、出撃!》

 

 「「了解!!」」

 

 全軍を指揮するカガリ・ユラ・アスハの号令に従い、次々とモビルスーツが出撃していく。

 

 目的はジェネシスの破壊と地球軍の核ミサイルである。

 

 セリスのアドヴァンス・イレイズガンダムもカタパルトに運ばれ、選択したエールストライカーが装着される。

 

 アスト・サガミが搭乗していたオリジナルのイレイズガンダムの背中には専用武装が装備されていた。

 

 しかし現在は改修された事でストライカーパックが装備可能になっている。

 

 《エールストライカーでいいんだな?》

 

 「はい、今までのデータから見てもこの装備が一番バランスが良いですから」

 

 《分かった》

 

 モニター越しに班長の質問に答えながら、計器を弄りながら機体の最終チェックを行う。

 

 「各部正常、OS異常なし。機体状態オールグリーン」

 

 すべてのチェックが終了し、ハッチが解放されるとそこから宇宙の暗闇が目の前に広がった。

 

 これがこの戦争、最後の戦い。

 

 身の内から湧きあがる緊張感を吐き出すように大きく息を吐くと、オペレーターが出撃許可を出す。

 

 《アドヴァンスイレイズ、発進どうぞ!》

 

 「セリス・ブラッスール、アドヴァンスイレイズガンダム、行きます!!」

 

 体に掛るGに耐え、宇宙に向けて機体が押し出されると同時にスラスターを噴射、戦場に向けて飛び出した。

 

 すでに視線の先では戦いが始まっており、大きな閃光が生まれては消えていく。

 

 戦場は入り乱れ、混戦状態となっている。

 

 そんな中、先陣を切って戦場に向かっていくのはスレイプニルを装備したフリーダムとジャスティスの二機だ。

 

 持ち得る火力を思う存分発揮し、立ちふさがる敵部隊を物ともせずに薙ぎ払っていく。

 

 その砲火は圧倒的で、正面にいる敵に対して同情したいくらいだ。

 

 「……凄い火力。アレが正面から受けるとか、考えるだけでもゾッとするなぁ」

 

 味方で良かったと安堵しながらさらに別の方向を見る。

 

 そこには白い機体イノセントと飛行形態に変形しているターニングが、並み居る敵を物ともせずに突き進んでいる。

 

 あちらもまた強化された火力や武装を持って、敵を撃破していた。

 

 「あっちも凄い。私も負けていられない!」

 

 せっかく新しい機体を任されたのだ。

 

 きちんと使いこなしてみせる。

 

 セリスもまた他の機体に負けじと敵陣に向けて突撃する。

 

 「あれは……ガンダム!?」

 

 「チッ、何だろうと関係ない! 落とせ!!」

 

 イレイズに気がついたシグーとゲイツが左右から挟み込むようにしてビームライフルを発射してくる。

 

 「そんなものでは!」

 

 撃ち掛けられたビームをタイミングを合わせてフットペダルを踏み込み、回避運動を行った。

 

 機体の横を閃光が通過していく。

 

 その間にセリスはビームサーベルを抜くと懐に飛び込み光刃を叩きつける。

 

 袈裟懸けに振るわれた一撃がシグーを切り裂くと同時に武装を変更し、ビームライフルでゲイツを撃ち落とした。

 

 「やれる。この機体なら!」

 

 事前に伝えられていた通り欠陥部分は改善されており、反応の遅れも全く感じない。

 

 スルーズやフリストは決して悪い機体ではなかったが、自分の思ったように動かせないというのはかなりのストレスを感じるものだ。

 

 「こいつ」

 

 「やっぱりガンダムは……俺達には荷が重いって」

 

 イレイズの動きに恐れをなし、動きを止めたザフトの部隊。

 

 指揮していた隊長機がどうすべきか判断に迷っていると、一機の黒いゲイツが躊躇わずに前へと向かっていく。

 

 「臆病風に吹かれたなら失せろ! こいつの相手は俺だ!」

 

 「待て、アルド・レランダー!!」

 

 隊長機が制止するがそれを無視してアルドと呼ばれたパイロットはガンダムに向かって突撃する。

 

 「無駄ですよ。アイツは強い相手と戦う事が誰より好きなんですから」

 

 「そうそう。腕前はそこらのエースよりも上なのにどの部隊からも嫌煙されてるのって、それが原因ですからね」

 

 同僚のパイロット達の声を聞きながら、隊長は思わず顔を顰める。

 

 「だから『狂獣』か」

 

 アルドにつけられた異名をため息と共に吐き出すと、厄介な奴を押し付けられたと今更ながらに頭を抱えてしまった。

 

 配属された当時から問題のある奴だと聞いてはいた。

 

 だが怯えるどころか、嬉々として向っていくその姿はまさに『狂獣』と呼ばれるのも頷けるというもの。

 

 「やるじゃねぇかよ、ガンダム!! 俺がここで落としてやる!!」

 

 ビームサーベルでジンを貫くイレイズに向け、アルドはビームクロウで斬り掛かる。

 

 「おらァァァァ!!」

 

 「当たらない!」

 

 袈裟懸けに振り抜かれた光爪を宙返りして避けると、ビームライフルを連射する。

 

 しかしそれを容易く防いだゲイツは頭部のピクウス76mm近接防御機関砲を放ちながら、エクステンショナル・アレスターを撃ち込んできた。

 

 「くっ、この動きはエース級!?」

 

 正確な射撃とその鋭い動きは間違いなくエースパイロットの動きだ。

 

 「だからといって怯んでられない!!」

 

 いかに敵の技量が高くても今の自分とこの機体性能があれば―――いつも通りにやれば負けない。

 

 セリスの意表を突く形で腰から伸びたビームスパイクをイーゲルシュテルンで撃ち落とすが、その隙に再びビームクロウが迫る。

 

 「そんな簡単には!」

 

 刃をシールドで弾き、引き抜いたサーベルを叩きつけるが眼前で止められてしまう。

 

 「クハハ、アハハハハ!! やるなぁ! 楽しいぞ、ガンダム!!!」

 

 「こいつ、強い!?」

 

 お互いに斬り込んだ一撃が装甲を掠めて傷を作り、再び光剣と光爪がシールドによって防がれ、火花を散らした。

 

 「ハハハ、お前は強いなァァ!! 倒し甲斐がある!!!」

 

 「このォォ!!」

 

 セリスはゲイツを力任せに弾き飛ばす。

 

 そしてビームライフルを撃ち込んできた敵の攻撃を潜り抜けると銃身を斬り飛ばし、胴体に蹴りを入れて吹き飛ばした。

 

 「ぐっ!!」

 

 「貴方に構ってられない!」

 

 吹き飛ばした黒いゲイツに向けミサイルポッドを撃ち込み、反転すると直進しながら正面の敵部隊を撃ち落していく。

 

 「ぐあああ!!」

 

 「隊長ォォ!?」

 

 「良し、このまま!!」

 

 思い通りに機体を操り、戦艦に向かおうとする敵を阻止しながら地球軍のモビルアーマー部隊に向かっていった。

 

 モビルアーマーからプラントに撃ち込まれた核ミサイルに先行したフリーダムとジャスティスがその火力で薙ぎ払っていく。

 

 それに続くようにセリスも腰にマウントしていたビームランチャーを構えた。

 

 試作型故に連射はできないが、威力は十分にある。

 

 「いけェェェ!!!」

 

 銃口から発射された強力なビームが核ミサイルを飲みこみ、発生した光が周囲を明るく照らし出した。

 

 その閃光は近くを進んでいた他のミサイルも巻き込み、より大きな光を生み出していく。

 

 「良し、後は!」

 

 連射の出来ないビームランチャーからライフルに持ち替え、今度は味方機の援護に回るとセリスを獲物と定めたのか数機のシグーが向ってきていた。

 

 「同盟め! いつまでも調子に乗るなよ!!」

 

 「で、でも、核ミサイルを狙撃してるみたいだけど……」

 

 「惑わされるな! 奴らも所詮はナチュラル共と同じ、敵だ!!」

 

 狙いを定め突っ込んで来たシグーの攻撃が上方からイレイズに降り注ぐ。

 

 「邪魔!!」

 

 機体を横に滑べらせ、銃弾を避けるとビームライフルの射撃が正確に敵モビルスーツを撃ち抜いていく。

 

 

 だが、その時だった。

 

 

 順調に進んでいたアドヴァンスイレイズの前に三機のゲイツが向ってきたのである。

 

 「あれは……」

 

 一見普通の機体に見えるが、良く観察すると細部や武装にも違いがある。

 

 イレイズの目の前に立ちふさがったのはエスクレド隊仕様に改修されたゲイツであった。

 

 「改修機ってことはエース級か」

 

 警戒しながら操縦桿を強く握り締めるセリス。

 

 そして相対するエスクレド隊の面々は見つけた標的に笑みを浮かべる。

 

 「あの機体のパイロット―――間違いない、マント付き!」

 

 「見つけたわよ! 今日こそこの手で!!」

 

 激昂するリアンとジェシカ。

 

 そんな二人をニーナは今まで以上に冷めた目で見つめていた。

 

 「……ここまでとはね」

 

 呆れと大きな失望を隠すことなく、ため息をつく。

 

 確かに地球軍が核ミサイルを使用してきた事は憤りを覚えはする。

 

 しかしザフトがジェネシスを二度に渡り使用し、さらに発射しようとしている事にはそれ以上の失望を隠せなかった。

 

 綺麗事を言う気はない。

 

 それでもこの有り様で進化した人類などと良く言えたものだ。

 

 やっている事は結局、散々見下していたナチュラルとどこが違うのか。

 

 「ニーナ、何が気に入らないのか知らないけど、しっかりやってもらうわよ」

 

 「……言われなくても、やるべき事はやるわ」

 

 「二人とも、言い争いは後にして。アレを落す方が先よ」

 

 リアンはマウントしていたレーザー重斬刀を握り締め、前に出る。

 

 二人もそれに合わせる様に武器を構えながらポジションを取った。

 

 「来る!」

 

 重斬刀片手に突っ込んでくる三機のゲイツに、セリスは銃口を突き付けビームを撃ち出した。

 

 「散開!」

 

 一直線に進むビームを四方に散って回避した三機は肩のビームガンで牽制しながら、イレイズ目掛けて重斬刀を振り下ろしてくる。

 

 セリスは刃の軌道を見極め、横に逃れて回避する。

 

 だが既に回り込んでいた一機が横薙ぎに斬撃を繰り出してきた。

 

 「今日こそはァァァ!!」

 

 あの日の屈辱、必ず晴らす!

 

 「貴様を落とす!!」

 

 「これってあの部隊の!?」

 

 ジェシカの殺意の籠った一撃を機体を逸らして避け、さらに追撃を掛けてきた三機目のビームライフルを盾で防いだ。

 

 「そこ!!」

 

 しかし動きを止めたその瞬間を狙って、リアンが蹴りを叩き込みイレイズを大きく吹き飛ばした。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 「お前は……隊長の手を煩わせる必要はない!! 私が落す!!」

 

 凄まじい気迫と殺意が機体の動きに現れ、イレイズを仕留めんと何度も攻撃を繰り出してくる姿にセリスは思わず戦慄した。

 

 「くっ、やっぱり三対一じゃ!?」

 

 連携した三機から繰り出される怒涛の猛連撃。

 

 後退しながらイーゲルシュテルンで牽制を行い、この状況を打開する方法を考える。

 

 敵は元々優れた技量を持っていた。

 

 それが機体性能が向上している為か、前に戦った時よりも動きが良くなっている。

 

 さらにビーム兵器を持っている事で、一撃を受けるだけでも致命傷になりかねない。

 

 「でも、ここで退く訳にはいかない!」

 

 仮に退いたとしてもこいつらはきっとどこまでも追ってくる。

 

 そして味方にも損害をもたらす筈だ。

 

 だから―――

 

 「負けない!!!」

 

 セリスはスラスターを全開にしてビームクロウを振りかぶってきたゲイツに体当たりして体勢を崩すと、ビームライフルで肩のビームガンを吹き飛ばした。

 

 「きゃあああ!」

 

 「リアン!? 貴様ァァァァ!!!」

 

 「くっ、貴方は一旦下がって!」

 

 二機はイレイズを左右から挟みこむようにレーザー重斬刀を振るった。

 

 ゲイツの光刃がすぐそこまで迫る。

 

 しかしその瞬間―――セリスはニヤリと笑みを浮かべた。

 

 「今だァァ!!!」

 

 敵の配置と絶妙のタイミング、今が勝機。

 

 繰り出された片方の斬撃をシールドとブルートガングを駆使して弾き飛ばす。

 

 同時にマウントしていたミサイルポットの一つを切り離して、狙撃する。

 

 ビームに貫かれたミサイルポッドが残っていたミサイルと一緒に爆散し、二機のゲイツを大きく吹き飛ばした。

 

 「ぐぅぅぅ!!」

 

 「きゃああ!!」

 

 セリスは狙いを定め体勢を立て直す暇を与えず一気に斬りかかる。

 

 このパイロット達は紛れもなく強い。

 

 三対一では分が悪い。

 

 だからこそ無理やりにでも一対一に持ち込む必要があったのだ。

 

 「はああああああ!!!」

 

 「何!?」

 

 ジェシカは咄嗟にレーザー重斬刀を振り抜くが、間に合わずビームサーベルによって腕が叩き斬られてしまった。

 

 「……貴様ァァァァ!!」

 

 怒りの籠ったビームクロウが襲いかかり、シールドの下半分を斬り裂かれてしまうが、セリスはそれでも止まらない。

 

 「このォォォ!!」

 

 懐に踏み込みブルートガングをゲイツの腹に向けて叩きつける。

 

 火花を散らしながら腹部を貫通した刃によってゲイツは外側に反る様にして動きを止め、完全に動かなくなってしまった。

 

 「ジェシカ!? お前ェェェェェ!!!」

 

 「リアン、待ちなさい!?」

 

 ブルートガングとビームクロウが激突し、お互い膠着状態で睨みあう。

 

 「マント付き、良くもジェシカを!! お前は私が落とす!!」

 

 「貴方達は! 今はこんな事してる場合じゃ―――本気でジェネシスを地球に向けて撃つつもりなの!?」

 

 「黙れ! 核を使ってきながら!」

 

 弾け合い二機が再び激突する。

 

 「地球に直撃すれば本当にすべて滅ぶんだよ!?」

 

 ジェネシスが地球に直撃した場合、生命体の80%以上が死滅する。

 

 データを解析した結果そう試算が出ている。

 

 コーディネイターであるならば、そんな事に気がつかない筈はない。

 

 なのに―――

 

 「私達はプラントを守る! その為には邪魔するものは排除するだけよ!」

 

 「分からず屋!」

 

 すれ違い様に横薙ぎに払った一撃が背後から振るわれた重斬刀を叩き折り、逆手に持ち替えたサーベルを頭部に突き刺しにして殴りつけた。

 

 「ぐっ、くそ、くそ! 動け、ゲイツ!! 動きなさい!!」

 

 リアンがどれだけ操縦桿を動かそうと機体は全く反応しない。

 

 ただ虚しく、音だけが響くのみ。

 

 モニターに映る白い機体を憎しみを込めて睨みつけた。

 

 「くそ、くそ、くそォォォ!!」

 

 「……これで後、一機!」

 

 セリスは中破した敵を無視し、残ったニーナ機と激突した。

 

 残った上部分で刃を止め、負けじとサーベルを叩きつける。

 

 「貴方も同じなの? 地球が滅んでもいいって!!」

 

 「くっ、それは……」

 

 「迷ってるなら、此処は退いて!」

 

 ゲイツと入れ替わる様に弾け合う。

 

 このゲイツのパイロットは迷っている。

 

 先程までの戦いも、この機体のパイロットだけは動きに若干の迷いがあった。

 

 でなければこうも簡単に二機を倒す事はできなかった筈だ。

 

 このまま退いてくれれば―――

 

 そんな風に考えていたセリスに下方から放たれた何条ものビームがイレイズに向けて一斉に襲いかかった。

 

 「新手!?」

 

 エールストライカーのスラスターを噴射させ、ビームの嵐をどうにか振り切る。

 

 そこには普通とは明らかに違う機体が佇んでいた。

 

 「何、あれは……」

 

 セリスが視線を向けた先にいたのはミーティア・コアを装着した、シグーディバイドがビーム砲の砲口を向けていた。

 

 その姿はまさに異形とでも言えばいいのか。

 

 背中に装着されている装備から複数のビーム砲と側面にはアームユニットと思われるものがついている。

 

 「……隊長」

 

 「こいつは私がやる。ニーナ、お前は地球軍の相手を頼む」

 

 見ればすぐ近くまで地球軍のストライクダガーが近づいている姿が見える。

 

 「……了解しました」

 

 ニーナは一度だけイレイズの方を見るとすぐさま地球軍の迎撃に向った。

 

 「待っていたぞ、この時を! お前の相手は私だ!」

 

 ミーティア・コアの対艦ミサイルが一斉に発射され、イレイズ目掛けて襲い掛かる。

 

 「この数、嘘でしょ!!」

 

 無数のミサイルをイーゲルシュテルンとビームライフルで迎撃するが、あまりに数が多すぎた。

 

 咄嗟に機体を引きつつ、破損したシールドで防御する。

 

 直撃したミサイルの爆発により凄まじい衝撃がコックピットを揺らした。

 

 「きゃあああ!!」

 

 意識が飛びかけるが、頭を振って正気を取り戻す。

 

 PS装甲で助かった。

 

 もしもこの機体がスルーズやフリストであれば今頃宇宙のゴミに変えられていただろう。

 

 だが安堵する間もなく、すぐ傍まで接近していたシグーディバイドが両側面に装着されているアームユニットからビームソードを振り下ろしてくる。

 

 「この!」

 

 ギリギリのタイミングで壊れかけたシールドを振るい剣閃を逸らす。

 

 同時に振るわれたもう片方の斬撃を回避する。

 

 「もうこれは使い物にならない!」

 

 原型を留めていない盾を捨て、さらに四本のビームサーベルの斬撃をブルートガングで弾き飛ばした。

 

 「そんなものには斬られない!!」

 

 「さらに腕を上げたな、ガンダム!!」

 

 アシエルは繰り出す攻撃を捌いていく歓喜の声を上げる。

 

 「ハハハ、素晴らしい! 私は今満たされている!」

 

 「遊びのつもりですか!」

 

 叩きつけられた斬撃を次々とブルートガングで弾きながらビームライフルを連射し、ビームサーベルの一つ破壊する。

 

 だが、そこから手に持ったビームライフルとビームキャノンの砲撃が再び発射された。

 

 「私は真剣だよ。今まで感じていた空虚な部分、ずっとそれを埋めるものを探していた。そしてそれが見つかった。お前と戦う、この瞬間こそ私の求めたものだ!!」

 

 「貴方のそんな勝手な都合なんかに付き合っていられないですよ!」

 

 「いや、そうはいかない。お前には最後の瞬間まで付き合ってもらうぞ!!」

 

 無数の砲撃を回避しながらビームライフルを撃ち込んでくるイレイズに今度は射出されたプリスティスビームリーマーが迫ってくる。

 

 蛇のような動きで別方向から攻撃を加えてくるプリスティスビームリーマーの攻撃から逃れる為に後退すると、ミサイルの雨が待ち構えていた。

 

 「ぐっ、このままじゃ!」

 

 セリスはビームを防ぎながら計器を確認する。

 

 バッテリーの方にあまり余裕はない。

 

 攻撃を受け続ければ遠からずエネルギー切れを起こすだろう。

 

 「ミサイルの直撃を受けすぎた?」

 

 イレイズは実体弾を無効にできるPS装甲を持った機体である。

 

 しかし実体弾を受け続ければ、それだけバッテリーも減りが早くなる。

 

 残量を考えれば、これ以上の直撃は避けたほうが賢明だろう。

 

 それに作戦も継続中なのだ。

 

 「時間をかけてはいられない!」

 

 狙い澄ました一射が、アームユニットに直撃して破壊する。

 

 だが同時にプリスティスビームリーマーのビームスパイクがイレイズの右足に喰らい付き、斬り飛ばした。

 

 「足がやられても!」

 

 「流石にやるな!」

 

 無数のビームが暗闇を照らしイレイズ、シグーディバイド双方に多数の傷を刻んでいく。

 

 

 だがその時、戦っている二人にとって―――いや、この戦場にいた大半の人間にとって予想外の出来事が起きた。

 

 

 核によって破壊されたボアズの残骸。

 

 ミラージュコロイドによって姿を隠されたそれが、ジェネシスのアンテナ部分と激突し、残骸が周辺に飛び散ったのである。

 

 「何だと!?」

 

 「一体何が!?」

 

 激突した衝撃によって飛び散った破片は戦闘宙域に広がり、当然セリス達が戦っていた宙域にも到達した。

 

 「チッ、邪魔だ!!」

 

 アシエルは苛立ちを込めて周囲の破片にビームキャノンと対艦ミサイルを一斉発射して、薙ぎ払う。

 

 その砲撃を破片の陰でやり過ごしながら、セリスはあの機体を観察する。

 

 火力も速度もある。

 

 しかしこの状況、あの巨体では動きが取れない。

 

 だからこそこうして破片を排除しているのだ。

 

 チラリとバッテリー残量を確認するとやはりこれ以上の長期戦は厳しい。

 

 「なら、これで決着をつける!」

 

 セリスは移動しながらわざとシグーディバイドが発見できるように破片の陰に飛び込む。

 

 「逃さん!」

 

 アシエルがビームで邪魔な破片を砕くと、敵の背中に装備されていたエールストライカーの姿が見えた。

 

 「そこか!!」

 

 そこにプリスティスビームリーマーを一直線に刃を突き立てた。

 

 だが―――

 

 「装備だけだと!?」

 

 プリスティスビームリーマーのビームスパイクが突き刺していたのは、切り離されたエールストライカーのみ。

 

 本体のイレイズはその後ろからビームランチャーを構えていた。

 

 「本命はこっち!!」

 

 銃口から発射されたビームがプリスティスビームリーマーごとエールストライカーを吹き飛ばし、ミーティア・コアの側面部に直撃する。

 

 「ぐあああ!!」

 

 凄まじい爆発と共にアシエルはコンソールに叩きつけられてしまう。

 

 「まだだ! 私はまだやられはしない!!」

 

 「いえ、ここまでです!!」

 

 目一杯速度を上げたイレイズが両手に握ったビームサーベルでミーティア・コアを袈裟懸けに斬り裂き、さらにもう片方のサーベルを下段から斬り上げる。

 

 そこにイーゲルシュテルンを叩き込むと、さらに凄まじい爆発が起こった。

 

 「不味い。ミーティア・コアはここまでか!!」

 

 このままでは核爆発を起こす事になる。

 

 アシエルはシグーディバイドをミーティア・コアを切り離す。

 

 だがその時を狙っていたセリスは展開したブルートガングを叩き込んだ。

 

 「はああああ!!」

 

 「くっ、ガンダムゥゥゥ!!!」

 

 アシエルもまたレーザー重斬刀を構え、正面に突き出した。

 

 

 ―――交差する光刃。

 

 

 それが互いの機体に吸い込まれ―――

 

 ブルートガングがシグーディバイドの胸部に突き刺さり、重斬刀がイレイズの左下腹部を貫通する。

 

 その瞬間に飛び退いた二機を包むように、目も眩むような閃光が生み出された。

 

 

 

 

 戦場は混迷を極め、戦況は刻一刻と変化していく。

 

 地球軍はほぼ壊滅状態となり、いつしか同盟軍対ザフトの戦いへ移行した。

 

 同盟軍オーブ所属の戦艦クサナギがヤキン・ドゥーエに突入。

 

 ジャスティスがターニングと共にドミニオンに積まれていた核ミサイルにてジェネシス破壊に向かう。

 

 戦いはすでに終局へと突き進んでいた。

 

 

 

 

 「う、ううう」

 

 セリスが目を覚ますとそこは破壊された機体の残骸とボアズの破片が散らばっていた。

 

 「戦闘は……皆はどうなった?」

 

 シグーや改修されたゲイツの姿は見えない。

 

 あの損傷で無事とは思えないし、おそらく倒した筈だ。

 

 この辺で戦闘が行われている様子は確認できない。

 

 だが未だヤキン・ドゥーエやジェネシス周辺では戦いの光が見える。

 

 「まだ皆戦ってるんだ、私も、行かないと」

 

 どうにか意識をはっきりさせようと頭を振り、自分と機体状態を確認する。

 

 体は少し痛むが怪我などはない。

 

 だが、機体状態は酷いものだ。

 

 バッテリー残量は殆どなくPS装甲が落ちてメタリックグレーに戻っていた。

 

 片足は欠損、下腹部に大きな損傷がある。

 

 武装も頭部のイーゲルシュテルン、ライフルとサーベル、ブルートガング以外はすべて失ってしまった。

 

 「ハァ、クレウス博士に無茶はするなって言われてたんだけどな」

 

 とにかく生き延びられただけでも、良しとしなければならないだろう。

 

 コンソールを弄りながら、どうにか移動しようとしたその時―――レーダーが敵影の姿を捉えた。

 

 「敵!?」

 

 それは前に退けた敵、アルドの乗る黒いゲイツであった。

 

 「見つけたぞ、ガンダムゥゥ!!」

 

 「あのゲイツは!?」

 

 色違いであり、手強い相手だったから覚えている。

 

 「まだ動けたの?」

 

 ミサイルの直撃を受け、半壊状態ではあるが健在なビームクロウを振りかぶって襲いかかってきた。

 

 セリスはどうにか機体を動かし、ブルートガングで光爪を受け止めた。

 

 「無事で嬉しいぜ、ガンダム!」

 

 「何!?」

 

 弾け飛ぶ二機だが、イレイズの方は限界に近いのか踏ん張りが利かない。

 

 「スラスターの一部が動いていない!?」

 

 「おらあああ!!」

 

 上段からの一撃が容赦なく左腕を斬り飛ばした。

 

 「ぐっ!」

 

 「どうした、もっと楽しませろ!!」

 

 「貴方は―――貴方も遊びのつもりですか!!」

 

 さらに振りかぶられた一撃を受け止めて外側へと弾く。

 

 「貴方は何の為に戦うんです?」

 

 「何言ってんだよ、楽しいからに決まってるだろうがァァ!!」

 

 「なっ!?」

 

 楽しいってこの敵は何を言っている?

 

 「俺は戦うのが好きなんだよ! ナチュラル? コーディネイター? どうでもいいね! ただ強敵と戦えれば後はどうでもいいさ!」

 

 アルドの言葉に歯をくしばり、強く操縦桿を握る。

 

 セリス自身もこれまで多くのパイロットを倒してきたし、戦い自体は否定できない。

 

 でも誰しも戦う理由はあるし、守りたいものをあるだろう。

 

 それをこの敵は一切持っていないのだ。

 

 それこそ、本当に遊び半分で戦っている。

 

 もしかしたら、ここまで怒りを覚えたのは生まれて初めてかもしれない。

 

 「これで終わりだ、ガンダム!!」

 

 光爪が突き出され、眼前に迫る。

 

 

 「貴方になんか絶対に―――負けるかァァァァ!!!」

 

 

 セリスの中で何かが弾けた。

 

 

 視界がクリアになり、ビームクロウの動きが手に取るように分かる。

 

 「このォォォ!!」

 

 機体を沈みこませ、頭部が吹き飛ばされながらも光爪をやり過ごす。

 

 同時にブルートガングを横薙ぎに叩きつけ、ゲイツの左腕を斬り飛ばした。

 

 「何ィ!」

 

 「これでェェェ!!」

 

 持っていたビームライフルを背中にゲイツに叩きつけ、ブルートガングで破壊するとゲイツを巻き込んで爆発を引き起こした。

 

 その衝撃に巻き込まれ、再びイレイズは吹き飛ばされてしまった。

 

 「ハァ、ハァ、もう駄目、機体も限界だよ」

 

 イレイズは完全に動かなくなってしまった。

 

 もはやどうしようもない。

 

 このまま敵が来ない事を祈るしかない。

 

 しかし、何と言うかどうやら自分は運が無いらしい。

 

 モニターにはあの改修されたゲイツが近づいてきているのが映っていた。

 

 「……ここまでか。アイラ様、すいません」

 

 覚悟を決め、セリスは目を閉じる。

 

 だが、何時まで経ってもその時は訪れず、それどころか通信機から声が聞こえてきた。

 

 「ガンダムのパイロット、生きている?」

 

 「貴方は……」

 

 イレイズに近づいてきたのはニーナのゲイツだった。

 

 モニターにザフトのパイロットスーツを着た女性の顔が映る。

 

 「生きてるみたいね、動ける?」

 

 「え、いや、全然動かないけど」

 

 「なら貴方の母艦まで運ぶわ」

 

 ゲイツはイレイズの腕を掴むと引っ張っていく。

 

 「え、あの、なんで?」

 

 「……戦争はもう終わったから」

 

 ニーナから言われ、周りを見る。

 

 戦闘の光は殆どない。

 

 ヤキン・ドゥーエの所々から火を噴いており、通信機から戦闘停止の放送が聞こえてきた。

 

 「ジェネシスは?」

 

 「それも破壊されたわ」

 

 という事は同盟の作戦が上手くいったという事なのだろうか―――

 

 いや、なんであれあの兵器が破壊されたなら良かった。

 

 安堵すると同時にもう一度疑問を口にする。

 

 「……もう一度聞くけど、どうして私を助けるの?」

 

 「……言ったでしょ。戦争は終わり。ならもう撃つ必要はないでしょう?」

 

 ニーナのその言葉と悲しそうな笑みを見て、セリスは何故か涙が込み上げてきた。

 

 戦争は終わったと、その実感が湧いてきたのかもしれない。

 

 様々な感情がグチャグチャに胸中を駆け廻り、セリスの涙は何時までも流れ続ける。

 

 

 

 後に『ヤキン・ドゥーエ戦役』と名付けられるこの戦争はここに終結した。




序章であるヤキン・ドゥーエ戦役編はこれで終わりです。
次回から本編に入りますのでよろしくお願いします。

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